■【SS】最終決戦・前編■
朝臣あむ |
【6408】【月代・慎】【退魔師・タレント】 |
※【SS】最終決戦・前編は、3つのオープニングより成り立ちます。
希望のオープニングを下記より選択し、プレイングを作成してください。
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(共通)
大都会東京。
煌々と夜の闇を照らすビルの頭上で、不可思議な現象が起きていた。
空を覆う黒い雲。それを吸い込むように渦を巻く一角に、複数の雷鳴が光を生み、門の様な存在が覗く。
そして門が完全に姿を現すと、地上でも何らかの影響が出始めた。
激しすぎる風が花や木を倒し、舞い上がる砂が渦を巻いて家々に激突する。その度に凄まじい音が辺りに響く。
正に、嵐が舞い降りた――そう表現できる光景が都会のど真ん中で繰り広げられていた。
(1)
高層ビルの屋上から、門の出現を見止めた不知火は、端正な眉を潜めて息を吐いた。
「……あの野郎、マジか」
黒い雲の間に浮かぶ門は、不知火の記憶にも新しい。
「冥界門なんてもん、引っ張り出しやがって」
不知火はギリッと歯を噛みしめると、手にしていた刀を握りしめた。
そして足を動かし、ビルを後にしようとした。
しかしその足が直前で止まる。
「……どういう風の吹き回しだ?」
赤い目が眇められる。
その目が捉えるのは、白髪をなびかせる穏やかな相貌の人物――月代・佐久弥だ。
彼は冥界門を見止めた後に不知火を見ると、ゆったりと微笑んで見せた。
「雪弥くん。そろそろお休みの時間じゃありませんか?」
スッと伸ばされた手。
そこに黒々とした光が集まってゆく。
「オイオイ……何で、アンタ自らこんなとこに来てるだ」
冷たい汗が不知火の頬を零れ落ちて行った。
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(2)
冥界門の裏手で、牛の被り物をした男が佇んでいる。
その後ろに控えるのは無数の黒い物体だ。
「時は満ちた」
低く聞き取り辛い声が響く。
その声に彼の背後に控える物体は、思い思いに轟きをあげる。それを聞いて手した鎌が掲げられた。
「冥王様のタメに――」
クツリ。
嫌な笑いが洩れ、鎌が振り下ろされた。
――直後、門が重い音を立てて開かれる。
「さあ、行け!」
黒い物体が門に群がり――落ちてゆく。
その姿を眺め、牛の被り物が外された。
そこにあるのは濁った瞳。
彼は一度冥界を振り返ると、鎌を手に姿を消した。
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(3)
門から溢れだす、黒く奇妙な物体。
それらは悪魔のような姿をして人々を襲っている。次々と地面に倒れる人の合間に、金色の光が差した。
直後、人々に群がっていた黒い物体が弾け飛ぶ。
「……」
碧眼が瞬かれ、幼さを残す少女の顔が頭上を向く。その先にあるのは冥界へと続く門だ。
「――……行かなきゃ」
ぽつりと呟きだされた声。
それに反応するように、仲間を失った黒い物体が襲いかかって来た。
しかしそれは、銀の光によって砕かれる。そして門を捉えていた瞳が群がる化け物に向かった。
「あんたたち、邪魔」
感情を含まない声が音となって放たれ、彼女の身が化け物の中へと消えた。
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【SS】最終決戦・前編 / 月代・慎
テレビモニターに映し出される巨大な門。
その周囲に吹き荒れる風と、舞い散る砂。周辺に人の姿は見えず、ただ荒れ狂う風景が映し出されている。
『この異常気象と上空に現れた門は何らかの繋がりがあり、門の物理的排除がこの気象を改善するのではとの見方も――』
別の場所から映像と音声を繋いでいるのだろう。僅かにノイズの混じる声がテレビから漏れると、整った指先がモニターの電源を切った。
「……本当、嫌になるくらい仕事熱心な人たちだね」
呟きながら金色の瞳が窓の外を眺める。
その瞳が捉えるのは、先ほどモニターに映っていたのと同じ門だ。
「あの門が原因なのは確実。それに門を生んだ人も『あの人』で間違いない」
月代・慎はそう呟いて目を伏せた。
脳裏に浮かぶ白髪の男の姿。向けられた力は強く、今の自分では購い切れる自信はない。
手に浮かんだ汗も、思い出せば今でも溢れるのではないかと思えてくる。
慎は自らの手を握りしめると、ゆっくりと瞼をあげた。
「そう。おじさんが……」
見上げれば、彼を守護する2匹の蝶「永世姫」と「常世姫」が浮遊している。その身を翻しながら慎へと訴えかける姿に、彼は僅かに眉を潜めた。
「常世姫はおじさんの所へ。永世姫は僕を案内してくれるかな?」
慎の声に互いの蝶が飛来しそれぞれの役割に動く。
慎はそんな蝶たちの姿を見てから、今一度窓の外を見た。
「……何で、今さら」
口にした所で疑問は消えない。
慎は気持ちを締める意味で唇を引き結ぶと、部屋の出入口へと導いて行く蝶の後を追った。
***
永世姫に導かれ慎がやって来たのは、高層ビルの直ぐ傍だった。
「さっきテレビで見た場所だ」
見上げた先には巨大な門。
そして吹き荒れる風は尋常なものではない。けれど風は慎を避けるように周囲へと流れてゆく。
これは彼を守護する永世姫のお陰だ。
彼は小さく息を吸い込むと、先へ行こうと促す永世姫に頷いた。
非常階段を駆け上がり、徐々に高くなる視界の隅に黒いものがよぎる。それに目を向ければ、開いた門から舞い落ちる黒い点の様な物が見えた。
「あれは……」
パッと見はゴミにも見えるが、目を凝らせばすぐにわかる。羽を生やし空から舞い落ちるのは、本からそのまま抜け出してきたような悪魔のような生き物だ。
次から次へ地上に落ちる姿にゾッとする。
「一般人は避難してるけど、あれじゃいつ危険に晒されるか……」
背筋を寒いものが駆け巡り、慎の階段を駆ける足が止まる。
高層ビルを見上げ、そして舞い落ちる悪魔を見つめる。どちらも気にはなるが、両方を援護することはできない。
「どうすれば――」
ドオオオオンッ!
悩む慎の耳と体に、重い振動が走った。
咄嗟に動いた顔が屋上を見る。そこで目に入った土煙に、慎の行動は決まった。
急いで階段を駆け上がり、屋上への扉を開け放つ。
「おじさんっ!」
慎はすぐさま土埃が上がるその場所へ向かおうとした。
だがそれが黒い光によって遮られる。
目の前を通り過ぎた黒い光は、迷うことなく土埃を巻き込んで駆けてゆく。その先は慎が向かおうとした場所だ。
目を凝らすとそこに人の姿がある。
ぐったりと項垂れたまま身動きをしない緑銀髪の青年――不知火だ。
「月の子!」
慎は透かさず叫んで自らの契約相手を召還した。
眩い光と共に不知火の前に現れる壁に、落ちていた不知火の瞼が上がる。
「……コイツは……」
目の前で黒い光を受け止める存在に、彼の目が飛ぶ。そして慎の姿を捉えると、彼の口角に僅かな笑みが乗った。
「……坊主か」
「おじさん、大丈夫?」
光が完全に消滅するのを待って駆け寄った慎に、不知火の血に汚れた手が上がる。
たぶん大丈夫だと言いたいのだろうが、負った傷から判断するに大丈夫とは言い切れない筈だ。
「何だってこんな」
「……まあ、大体の想像はつく」
苦いものを含んで呟く不知火には、自分が狙われる理由がわかっているのだろう。
僅かに首を傾げた慎に、不知火の赤い目が向かった。
「坊主は危ねぇ。退いてな……」
痛みを押して起きあがると、不知火は慎の前に出て自身に視線を注ぐ相手を見た。
そこにいるのは不知火に良く似た容姿の男――月代・佐久弥だ。
「邪魔はしてはいけません。と言ったはずですが、聞く気はない――と言うことでしょうか?」
穏やかな声に慎の金色に光る瞳が向かう。
微笑みを絶やさず首を傾げる仕草は、いつだったか、時の止まった世界で会った時と変わらない。
だが纏う雰囲気が全然違う。
あのときは包み込む温かさがあったはずなのに、今は冷たい空気しか纏っていない。
そんな彼を見据えながら慎は、僅かに首を竦めて見せた。
「弱い者いじめなんてしたらダメだよ。おじさんはそれでなくても弱ってるのにさ」
ニコリともせずに言葉を放つ慎に、佐久弥は少しだけ笑みを深める。そしてゆったり右手を掲げると、その手に黒い光を集約し始めた。
「雪弥くんは邪魔なんです。今度は封印などではなく、消えて頂きたいんですよ」
何処までも穏やかで、何処までも優しい声音で話す相手に、慎は顎を下げるとスッと瞳を細めた。
「おじさん、あの人ヤバすぎ」
不知火を背にして立った慎が、佐久弥と同じように右手を掲げた。
「坊主、ヤバいのは同感だが、お前の手でもアイツの攻撃は防げねえぞ。頭の良いお前なら、んなこたわかってるだろ?」
慎のことを心配して言葉を発した不知火に、彼の不機嫌そうな視線が向かう。
「誰がいつもの力を使うなんて言ったのさ。それより、立てるならさっさと退いてくれるかな。闘い辛いんだけど」
金色に輝く瞳。
普段はコンタクトで隠されている右目の模様が、くっきりと浮かび上がっている。それを目にした不知火の眉が潜められた。
「坊主、お前……」
「おじさんが狙われる理由、その1を教えてよ」
慎の目は既に不知火にはない。
ただ問いかけだけが不知火に向いている。
「狙われる理由、わかってるんでしょ。だったら、1つくらい教えてよ。他はあの人から聞くからさ」
こうしている間にも佐久弥の手に黒い光が集まってゆく。それを慎の右目が容赦なく見つめていた。
「……あの門への行き方を知ってる」
「門……それって、あの空にある?」
「ああ」
慎は「ふぅん」と呟くと、少し考えるように息を吐いた。
そして……。
「おじさんは、もう逃げて良いよ」
「あん?」
「僕があの人を足止めするから、おじさん先に行ってよ。俺もあの門に行ってみたい」
さっき見た無数の悪魔。
それが溢れ出る門は明らかに危険だ。そこに行く方法があるのなら、それを実行して門を閉めるべきだ。
慎は佐久弥に向ける右手はそのままに、左手を返すと、先に不知火の守護に着いていた常世姫を呼んだ。
「引き続き、おじさんの守護をお願いね。僕は後から追いかけるから」
慎の声に常世姫が大きく飛来して、不知火の元へと向かう。それを見てから彼の胸が大きく上下した。
吸い込んだ息を全身に行き渡らせて意識を集中する。
「坊主、すまねぇ」
「ほら、さっさと行ってよ!」
急かす声に、ようやく背後で動く気配がする。
それに佐久弥が反応した。
「雪弥くん、逃げることは許しませんよ」
穏やかだが冷たい気配を纏う声に、足音が一瞬止まった。しかしそれが直ぐに動き出す。
「おじさんは貴方に興味がないって。だから、僕と少しだけ遊ぼうよ」
先に感じた恐怖心は消えていない。それでも不敵に笑ってみせる慎に、佐久弥から表情が消えた。
「本当に、雪弥くんの選択肢は間違っていなかったようですね。邪魔ですよ、邪魔すぎます」
抑揚の無い声に、感情の籠らない瞳を向けられ、慎の眉間に皺が寄る。
背筋を流れる寒い感覚に身震いさえしてしまいそうだ。
だが、引く訳にはいかない。
慎はそれらの感情を隠すように言葉を繰り出した。
「不思議なんだけど、何で今さらおじさんを狙うの? おじさんは今じゃ普通の人間と同じ。狙う価値なんてないじゃない」
「君が知る必要はありません」
そう言葉を切ると、佐久弥の手から黒い光が放たれた。
そしてそれが慎に向かう。
「門への行き方を知ってるからってだけじゃ無さそうなんだけどな」
そう呟きながら彼の瞳が光った。
掲げていた右手に力が集約してゆく。それは黒く闇を集約したような光だ。
「それはっ……」
佐久弥の息を飲む音が聞こえた気がした。
そして、次の瞬間。
――パンッ!
風船が弾けるような音が響き、目の前で光が弾ける。
「俺の能力は何も物体や空間を切るだけじゃない。少し甘く見すぎじゃない?」
肩を竦めて呟いた慎に、佐久弥が苦笑を零す。
「本当に……君は邪魔ですね」
再び彼の手に光が集約される。
先ほどと同じ黒い光が、倍以上の威力を持って集まってゆく。そしてそれが放たれると、慎も同じように光を集約させて同じだけの光を放った。
――パンッ! パンッ、パンパンッ!
次々と繰り返される光の相殺。
慎も佐久弥もその場からは一歩も動いていない。
現段階で、2人の力は互角。その事に先に根をあげたのは、意外にも佐久弥だった。
「やはりこの姿では限界がありますか」
愁い気に視線を落とした佐久弥に、慎の眉が動く。
――この姿では限界が。
「それってもしかして……貴方がおじさんを狙う理由が、そこにあるってこと?」
同じ顔をした不知火と佐久弥。佐久弥が不知火を狙う理由が姿にあるとしたら……。
慎の疑問を直ぐに読みとったのだろう。
佐久弥は不思議そうに目を瞬くと、直ぐに見覚えのある笑みを覗かせた。
「まさか。彼の魂を吸収した所で何の意味もありません。寧ろ全く別の、純粋で真っ直ぐな心を持つ魂であれば、私を元の姿に戻してくれるでしょう」
「純粋で真っ直ぐな心を持つ魂?」
いったい誰のことを言っているのか。
思案気に呟く慎に、再び黒い光が迫る。
しかしそれも同じ力で相殺すると、今度は慎が先に手に光を集め始めた。
「じゃあ、貴方がおじさんを狙う理由って何? おじさんじゃ貴方の邪魔にもならないでしょ」
答えてくれるかは分からない。それでも問いを投げかけるのは僅かでも時間を稼ぐためだ。
その声に佐久弥の口角がクッと上がった。
「知っているんですよ」
「え?」
何を――そう、問おうとした時、佐久弥の手に今まで以上の光が集まり始めた。
それに慎の目が見開かれる。
「月の子!」
咄嗟に呼んだ声に、月の子が眩い光を持って周囲を包み込む。
「っ!」
視界を奪うような光に、佐久弥が怯んだ。
それを見て慎の足が動く。
「永世姫、常世姫の元へ案内して」
慎の側を浮遊する銀色の蝶へと声をかける。
蝶は彼の声に応えるように羽を舞わすと、慎はチラリと佐久弥を見た。
「……残念だけど、これ以上は無理だね」
今度同じ力を放っても、慎の力が押されるのは明白だ。
彼は悔しげに眉を潜めると、一瞬だけ佐久弥を睨みこの場を後にした。
――続く...
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 6408 / 月代・慎 / 男 / 11歳 / 退魔師・タレント 】
登場NPC
【 不知火・雪弥 / 男 / 29歳 / ソウルハンター 】
【 月代・佐久弥 / 男 / 29歳 / SSオーナー 】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、朝臣あむです。
SSシナリオ・最終決戦・前編にご参加いただきありがとうございました。
大変お待たせしまして、申し訳ありませんでした(汗)
今回は次に続くと言う事で、エピローグを最終的にカットしてしまいました。
次回ご参加頂ける際には、プロローグの中で不知火と合流すると思います。
あと残り2話ですが、 読んでいろいろ想像して、少しでも楽しんで頂ければうれしいです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。
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