■クロノラビッツ - 悪魔の子 -■
藤森イズノ |
【8273】【王林・慧魅璃】【学生】 |
黒い翼に黒い角。
紅い瞳に、槍のような尻尾。
どこからどう見ても人外なその子は、悪魔の子。
どうやら "アズール" という種類に該当する悪魔の子らしい。
かなり下等な悪魔で、働く悪事も些細で可愛らしいものばかり。
何もないところで転んだり、タンスの角に足をぶつけたりするのは、この悪魔の仕業。
ボーッとしていたからだと、そう認識する人が大半だが、れっきとした犯人がいるのだ。
で、どうしてまた、そんな悪魔が時狭間にいるのかというと、だ。
マスターが、知り合いに頼まれて預かるという状況に陥ったから。
何だか妙な状況の時、その理由・原因の大半は、マスターにあると思って良い。
そして、更に、ここからの展開もお約束だが。マスターは、仕事で時狭間を留守にしている。
戻ってくるのは明朝。現在時刻は、平均的なところで言うなれば、大体、午前十時頃。
つまり、これから丸一日。時狭間にいる契約者が、この悪魔の子守りをする羽目になるというわけだ。
海斗達、正規の契約者は、見た目こそヒトと同じであれど、生殖機能は持ち合わせていないため、
異性と交わることこそ可能であるものの "親" という立場になりうることは出来ない。
要するに、子守りと言われても何をすれば良いのやら、さっぱりわからないのだ。
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「うおおおお!?」
「な、泣きだしましたね」
「ど、どーすりゃいーんだよ、これ! り、梨乃!」
「ちょっと待って。いま、調べてるから」
あんまり可愛くない、というか、むしろ恐ろしい声で泣きだした悪魔の子。
お腹がすいているのか、ただぐずっているだけなのか、それとも、それとも?
何にせよ、要求がわかったところで、それに対してどう応じるべきなのか調べねばわからない。
しかも、悪魔の子だから、ヒトの子とは、些か要求もそれに対する正確な対応も異なるのではとも思う。
「メシだ! 腹減ってんだって、こいつ! 浩太、メシ持ってこい!」
「何を根拠に、そんな …… っていうか、何を食べさせればいいのかわかんないよ」
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「がー! うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
時狭間、北にある資料室。今まさに、そこは、修羅場と化している。
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クロノラビッツ - 悪魔の子 -
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黒い翼に黒い角。
紅い瞳に、槍のような尻尾。
どこからどう見ても人外なその子は、悪魔の子。
どうやら "アズール" という種類に該当する悪魔の子らしい。
かなり下等な悪魔で、働く悪事も些細で可愛らしいものばかり。
何もないところで転んだり、タンスの角に足をぶつけたりするのは、この悪魔の仕業。
ボーッとしていたからだと、そう認識する人が大半だが、れっきとした犯人がいるのだ。
で、どうしてまた、そんな悪魔が時狭間にいるのかというと、だ。
マスターが、知り合いに頼まれて預かるという状況に陥ったから。
何だか妙な状況の時、その理由・原因の大半は、マスターにあると思って良い。
そして、更に、ここからの展開もお約束だが。マスターは、仕事で時狭間を留守にしている。
戻ってくるのは明朝。現在時刻は、平均的なところで言うなれば、大体、午前十時頃。
つまり、これから丸一日。時狭間にいる契約者が、この悪魔の子守りをする羽目になるというわけだ。
海斗達、正規の契約者は、見た目こそヒトと同じであれど、生殖機能は持ち合わせていないため、
異性と交わることこそ可能であるものの "親" という立場になりうることは出来ない。
要するに、子守りと言われても何をすれば良いのやら、さっぱりわからないのだ。
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「うおおおお!?」
「な、泣きだしましたね」
「ど、どーすりゃいーんだよ、これ! り、梨乃!」
「ちょっと待って。いま、調べてるから」
あんまり可愛くない、というか、むしろ恐ろしい声で泣きだした悪魔の子。
お腹がすいているのか、ただぐずっているだけなのか、それとも、それとも?
何にせよ、要求がわかったところで、それに対してどう応じるべきなのか調べねばわからない。
しかも、悪魔の子だから、ヒトの子とは、些か要求もそれに対する正確な対応も異なるのではとも思う。
「メシだ! 腹減ってんだって、こいつ! 浩太、メシ持ってこい!」
「何を根拠に、そんな …… っていうか、何を食べさせればいいのかわかんないよ」
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「がー! うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
時狭間、北にある資料室。今まさに、そこは、修羅場と化している。
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「ちょ、梨乃、お前、女だろ! 何とかしろよ!」
「海斗。確かに梨乃ちゃんは女の子だけど、母親じゃないんだから …… 」
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「んなこと言ったって、お前、これ、うるっさくてしゃーないだろーが!」
「と、とりあえず、抱っこしてあげるのはどうかな」
「俺、ムリ! 浩太がやれよ」
「えぇっ。え、えぇと〜 …… 」
「二人とも、うるさいっ。ちょっと静かにしててっ」
異様なまでに大きな声で泣き叫び散らす悪魔の子と、その周りでオロオロするばかりの海斗と浩太。
梨乃は、書物を漁り、あれこれと調べているが、どうにもこうにも、アズールという悪魔は下等種の中でも、
更に下等な位置にある種族のようで、関連している書物が極端に少なく、困難を極めているようだ。
いつもは、シンと静まりかえり、書物の頁を捲る音すら鮮明に響き渡る時狭間の資料室だが、
今日は、何というか …… 修羅場というか、カオスというか。見るに堪えない状況である。
「賑やかですね」
そこへ、ひょっこりと姿を見せた慧魅璃。
慧魅璃は、賑やかを通り越し、騒然としている資料室の雰囲気にクスクスと笑いながら歩み寄る。
「慧魅璃!」
「慧魅璃さんっ」
「慧魅璃ちゃん!」
姿を確認するや否や、我先にと名前を呼び、慧魅璃へと駆け寄る海斗・浩太・梨乃の三人。
ドタバタと駆け寄ってくる三人の迫力に、慧魅璃は少しビクッと肩を揺らした。
「どうしたんです? 血相変えて …… 」
キョトンと首を傾げて尋ねた慧魅璃。
海斗は、苦笑しながらも、まくしたてるように説明した。
「マスターに頼まれて子守りしてんだけどさ、悪魔の子供だっつーから、もー大変で大変で」
「悪魔の子、ですか。それで、その子はどちらに?」
「あ? いるだろ、あそこに。もーさっきから、ギャンギャン泣いてうるさくてよー …… って、あれ?」
悪魔の子を指さした時のこと。海斗は、とある異変に気付く。いや、海斗だけじゃなく、梨乃や浩太も気付いた。
泣きやんでいるのだ。さっきまでの大泣きが嘘のようにピタリと止んだ。いやいや、そればかりか …… 。
「キャ、キャ」
笑ってる。
何故だ。さっきまで、あんなに泣き散らしていたのに、どうして、そんなに楽しそうに笑っているんだ。
海斗たちは、悪魔の子の変わりように驚き、そして、戸惑った。赤ちゃんって、こういうものなのか? などと考えつつ。
だが、すぐに、また気付く。あぁ、そうか。そういうことか。慧魅璃だ。慧魅璃がすぐ傍にいるからだ、きっと。
全ての悪魔を統べる悪魔嬢。その、誰にも得られぬ称号と肩書を持つ慧魅璃の存在は途方もなく大きい。
この悪魔の子には実の母親が存在しているが、慧魅璃は、その代役すら担うことができるのだ。
つまり、すぐ傍に母親がいて、自分を見守ってくれているような、そんな状況。
この状況で、安心しない赤子はいない。例え、悪魔の子であろうとも。
「大切な書物などは、どこかに移動させたほうが良いですよ。浩太、お願いできますか」
「あっ、はいはいっ。了解」
何となく事情を察した慧魅璃は、すぐさま、仲間達に指示を飛ばす。
マスターが大切にしている書物や、時兎に関する書物など、重要な書物をいそいそと移動させる浩太。
魔法を用いて、一度に大量の書物を移動させているため、処理自体はすぐに終わるであろう。
そうして、浩太が書物の移動処理を行っている最中、慧魅璃は、悪魔の子に歩み寄り、そっと優しく抱き上げる。
にこりと優しく慧魅璃が微笑めば、悪魔の子もまた、それに応じるかのごとく、嬉しそうにキャッキャと笑う。
こうも違うものなのかと感心しながら、悪魔の子をあやす慧魅璃をじーっと観察する海斗と梨乃。
慧魅璃は、そんな二人にクスクス笑いながら、闇の魔法を発動し、出現させた黒い煙で、悪魔の子を包みこんだ。
わたあめとか、マシュマロとか、非現実的な例えで言うならば雲の上に寝かされたような、そんな、フワフワの感触。
「少し、抱いていてください。その煙があれば、泣きませんから」
そう言い残し、資料室の隅へテクテク歩いていってしまう慧魅璃。
おぼつかない手つきで悪魔の子を抱く海斗は、その背中に問いかけた。
「おい、慧魅璃。どこ行くんだ?」
「ごはんを用意してきます。すぐに戻りますから」
振り返り、ニコリと微笑んでそう伝え、再び資料室の隅へと歩いて行く慧魅璃。
残された海斗と梨乃は、キョトンと首を傾げて顔を見合わせた。
だがまぁ、何にせよ、慧魅璃がこの場に来てくれたことは、非常にありがたい。
右往左往するばかりの男共(海斗と浩太)に呆れ、自分が何とかせねばと意気込んでいた梨乃の安堵感は計り知れないだろう。
食事を用意してくると言い残し、慧魅璃が隅へ移動して数分後。なかなか戻ってこない慧魅璃を思い、
海斗は、ふと、頭に浮かんだ疑問を、おもむろに口にした。
「 …… 慧魅璃って、乳出るのか? あんまし、おっきくないけど」
「ちょっ、あんた、何言い出すの。最低!」
「海斗。それ、セクハラだよ」
食事イコール母乳と決めつけている海斗のデリカシーのない発言に怪訝な表情を浮かべて非難した梨乃。
海斗のその発言と、ほぼ同時に、重要書物の移動処理を終えて戻って来た浩太も、苦笑を浮かべながら指摘した。
三人が、そんな遣り取りをしている最中、食事の支度を終えた慧魅璃が、何やら黒い鍋のようなものを持ち、戻ってくる。
「できました。梨乃、あなたは見ないほうが良いですから、背中を向けてください」
慧魅璃の指示というか忠告に、梨乃は、疑問を抱くことなくすぐさま応じ、クルリと背を向けた。
なんでって、見えていたから。鍋の蓋の隙間から、尻尾のようなものが見えていたから。おそらくあれは …… 。
「うげ! 何これ! こんなん食べるの、こいつ?」
「うわぁ …… 魔界の食べ物って、みんなこんな感じなんですか?」
「まぁ、おおよそは。見た目はあれですが、栄養価は高いんですよ。この子達にはご馳走です」
後ろから聞こえてくる遣り取り。海斗と浩太の反応から、梨乃は、思わずパッと耳を塞いでしまった。
慧魅璃が用意してきた食事。それは、ネズミやらトカゲやらヘビやらカエルやらを、
灼熱なる闇の炎で瞬時に煮たスープ。ネズミの頭やトカゲの尻尾などがゴロゴロ入っている鍋は、痛烈なインパクトを与える。
お腹が空いていたというのもあるのだろう、悪魔の子は、慧魅璃が用意してきた食事に興味深々の御様子。
慧魅璃は、優しく微笑みながら、用意したスープを、悪魔の子の口へ、スプーンとフォークでゆっくり運んでやる。
楽しい美味しいお食事タイム。だが、梨乃は、その最中、ずっと耳をギューッと塞いでいた。
ガリガリ、バリバリ、グチャグチャ。耳を塞いでも聞こえてくるその生々しい音に半泣きになりつつ。
*
「うおー! こら、アーウェン! その棚には登るなっつーの!」
バサバサバサバサァッ ――
「ぎゃー! だから言ってんのに! おい、浩太! ちょ、お前、これ片付けとけ!」
「あらららら。見事にバラバラにされちゃったねぇ。了解だよ〜」
「こるぁ、待て、アーウェン!」
子守りをする上で、何かと便利であろうということから、一時的に "アーウェン" と名付けられた悪魔の子。
名付けたのは、もちろん慧魅璃。※海斗たちは、揃いも揃ってネーミングセンスが皆無なのである
お腹もいっぱいになり、ご機嫌なアーウェンは、キャッキャと落ち着きなくはしゃぎ回る。
翼を持つ悪魔なだけあって、自由自在にブンブンと飛び回るものだから、後片付けが大変。
でも、普通の人間の子供と同じく、悪魔の子もまた、たくさん笑い、たくさん遊んだほうが良い。
と、慧魅璃が言うから、好き勝手に遊ばせているというわけだ(海斗は一緒になって遊んでるような感じだが)
資料室には、慧魅璃が闇の魔法で作った馬や竜などが、そこらじゅうに点在しており、
もはや、資料室というよりかは、ちょっとしたテーマパークのような場所に変貌を遂げている。
見るも触るも賑やかなその場所を、アーウェンは満喫しているのだ。
アーウェンが騒ぎ、散らかした物を片付けながら、慧魅璃は、クスクス笑う。
その隣で、一緒に片付けをしていた梨乃は、うん? と首を傾げた。
「どうしたの?」
「あ、いえ。少し、思い出してしまったのです」
「えっ? 何を? もしかして、慧魅璃ちゃんも小さい頃こんな感じだったとか?」
「はっきりとは覚えていないのですけれど、アルバムを見た限りでは似たようなものでしたね」
だから、だなんて、そんな自分を称えるようなつもりは全くないのだけれど、妙な確信が胸にある。
あの子、アーウェンは、将来有望な子。確かに、アズールは、下等悪魔の一種だけれど、
ごく稀に、高等悪魔にも引けを取らない実力を持って生まれる子もいる。
何となく、アーウェンには、そんな気配を感じるのだ。確証なんてない、ただの勘だけれど。
まぁ、まだ幼すぎるから今はまだアレだけど、もしかすると、将来 …… この子も自分の武器と化す日が来るかも。
魔界の言葉で、アーウェンは斧の意味合い。そのまま、すくすくと元気に育って。
そしていつか、その自由奔放な性格で、えみりさんをフォローしてくれたなら。
(先走りすぎ、ですかね)
そんなことを考えつつ、クスクス笑って片付けを続ける慧魅璃。
いつもの時狭間、いつもの資料室からは想像だにできぬ賑やかな雰囲気の中。
無邪気な小悪魔、アーウェンの子守りに全力投球することになる四人。
小悪魔が遊び疲れて眠るまで、その苛酷な子守りは続いたのだった。
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The cast of this story
8273 / 王林・慧魅璃 / 17歳 / 学生
NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
NPC / 浩太 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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Thank you for playing.
オーダー、ありがとうございました。
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