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■クロノラビッツ - 仮契約 -■

藤森イズノ
【8372】【王林・大雅】【学生】
「ちょっと、いいですか?」

 散歩中、声を掛けられた。
 この丁寧な口調と柔らかな声には、聞き覚えがある。
 振り返るとそこには、やっぱり浩太。 …… だけじゃなく、海斗と藤二もいた。
 あれれ …… ? 何だかちょっと珍しい組み合わせだなぁ …… 。
 なんて思いながら、ペコリと頭を下げて用件を聞いてみる。
 まぁ、わざわざ、彼等から接触してきたということは、
 それなりの用件なのだろうとは思ったけれど。

「え …… ?」

 さすがに、目を丸くしてしまう。
 彼等の用件。それが、あまりにも突飛なものだったから。
 戦えと言うのだ。これから、時狭間のとある場所へ案内するから、
 そこで、海斗と戦ってくれないかと言うのだ。
 何で? どうして? 何の為に?
 当然の疑問。もちろん、それらをすぐにぶつけた。
 でも、彼等は答えてくれない。その疑問を解消してくれない。

「いーから、とっととやろーぜ」

 ダルそうに欠伸しながら言った海斗。
 やるだなんて、一言も言ってない。っていうか面倒なら、やらなきゃいいのに。
 …… うん? 面倒くさそう …… ってことは、もしかして、海斗も、巻き添え食らった?
 さほど長い付き合いってわけでもないけれど、好きな物事にしか興味を示さない、
 海斗のそういう性格は、もう嫌になるくらい把握している。間違いない。
 ということは、この用件は、つまり …… 。

「ごめんね、急に」
「じゃあ、移動しましょうか」

 ニコリと微笑んで言った藤二と、懐から黒い鍵を取り出しながら言った浩太。
 つまり、この用件は、この二人 …… 浩太と藤二の用件ということか。
 いや、っていうか、ちょっと。だから、やるだなんて一言も …… 。
 クロノラビッツ - 仮契約 -

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「ちょっと、いいですか?」
 散歩中、声を掛けられた。
 この丁寧な口調と柔らかな声には、聞き覚えがある。
 振り返るとそこには、やっぱり浩太。 …… だけじゃなく、海斗と藤二もいた。
 あれれ …… ? 何だかちょっと珍しい組み合わせだなぁ …… 。
 なんて思いながら、ペコリと頭を下げて用件を聞いてみる。
 まぁ、わざわざ、彼等から接触してきたということは、
 それなりの用件なのだろうとは思ったけれど。
「え …… ?」
 さすがに、目を丸くしてしまう。
 彼等の用件。それが、あまりにも突飛なものだったから。
 戦えと言うのだ。これから、時狭間のとある場所へ案内するから、
 そこで、海斗と戦ってくれないかと言うのだ。
 何で? どうして? 何の為に?
 当然の疑問。もちろん、それらをすぐにぶつけた。
 でも、彼等は答えてくれない。その疑問を解消してくれない。
「いーから、とっととやろーぜ」
 ダルそうに欠伸しながら言った海斗。
 やるだなんて、一言も言ってない。っていうか面倒なら、やらなきゃいいのに。
 …… うん? 面倒くさそう …… ってことは、もしかして、海斗も、巻き添え食らった?
 さほど長い付き合いってわけでもないけれど、好きな物事にしか興味を示さない、
 海斗のそういう性格は、もう嫌になるくらい把握している。間違いない。
 ということは、この用件は、つまり …… 。
「ごめんね、急に」
「じゃあ、移動しましょうか」
 ニコリと微笑んで言った藤二と、懐から黒い鍵を取り出しながら言った浩太。
 つまり、この用件は、この二人 …… 浩太と藤二の用件ということか?
 いや、っていうか、ちょっと。だから、やるだなんて一言も …… 。

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 正直、面倒くさい。
 何よりも面倒だと思わせる、その要因は、寝起きだという実状。
 夜中にふと目が覚めて、なかなか再眠できずにいたものだから、気分転換にと散歩に出た矢先でコレだ。
 いま、何時だと思ってるの。こんな時間に尋ねてくるだなんて非常識だよ、ヒトとして。※まぁ、実際、海斗達は "ヒト" じゃないけど
 そんなことを思いつつも、大雅は、コシコシと目を擦り、海斗たちの要求に応じてあげる。
「まぁ、いいけどさ …… 」
 どうせ、まだ眠れないだろうし。
 いつものことなんだ。満月の夜に目が覚めると、朝まで寝付けない。
 どうせ眠れないのなら、時間つぶしに付き合ってあげる。朝までには終わるよね?
 でも、何で、海斗と戦わなきゃならないんだろう。まぁ、藤二と浩太の様子から察するに、何らかの調査だろうとは思うけど。
 あんまり好きじゃないんだよね。試されるとか、そういうの。でもまぁ、やれって言うなら、やるけど。中途半端は、もっと嫌いだから、俺。
「準備できたら、いつでもどーぞ」
 何だかんだで、時狭間まで連れてこられた。
 辺りに瓦礫が散乱している場所。詳しい位置はわからないけど …… こんな場所も、あったんだ。
 大雅は、そんなことを考えながら、ひととおり、グルリと辺りを見回す。
 手元に出現させた剣にボッと炎を灯し、その剣を曲芸のように弄びながら準備の催促をした海斗。
 浩太と藤二は、いそいそと移動し、少し離れた位置に腰を下ろし、二人並んで胡坐をかく。
 腰を下ろして早々、浩太は、持っていた大きな鞄から大量の書類らしきものを取り出してズラリと並べる。
 やっぱり、思ったとおり。これは、何らかの調査だ。ま、抜き打ちテストみたいなもんだと考えれば良いかな?
「剣、か …… 」
 溜息混じりに、ポツリと呟く大雅。
 ちょっと意外な気もした。てっきり、遠距離攻撃が可能な、あの銃を使うもんだと思っていたから。
 でも、大雅はすぐに気付く。あぁ、そういえば、あの銃は、対時兎専用だったっけ …… と。
 さて、どうしたもんかな。相手が剣を用いるとなると、こちらも接近戦が可能な武器のほうが良さそうだけど。
 前髪を指先でチョイチョイと弄りながら考える大雅。すると、突然、上空から何者かの気配が。
( ………… )
 顔を上げてすぐ、大雅は、その気配が "誰" によるものなのかを把握する。
 時狭間における漆黒の空。その闇に紛れるように、スーッと落ちてきたのは、黒い番傘。
 サクリと地面に突き刺さったその番傘を見つめ、大雅は、ゆっくりと引き抜きながら呟いた。
「 …… あまめ、いいの?」
 すると、その問いかけに応じるかのごとく、黒い番傘が淡い光を放つ。
 番傘、あまめの意思を確認した大雅は、フゥと息を吐き落とすと、鞄からガラス製のボトルを取り出す。
 ボトルの中に入っているのは、水。そう、何の変哲もない唯の水だ。だがしかし、この水は …… 。
「じゃあ、よろしく」
 いつもどおり、無表情で言い放ちながら、傘の石突き、その先端に開いた穴へ、水を注ぎ入れる大雅。
 石突きから中棒を伝い、玉留へと到達した清水。大雅がギュッと握る傘の手元に、ひんやりと冷たい感触が宿る。
 番傘が放つ異様な雰囲気に、海斗はすぐさま反応し、ババッと身構えた。
 何やら怪訝な表情を浮かべている海斗を確認した浩太と藤二もまた、すぐに悟る。
「呪具か?」
 眼鏡をツイと上げながら呟いた藤二。
「いえ。違いますね。でも、それに近しい物だと思います」
「あれま〜 …… そいつは不憫だな。大丈夫か、あいつ」
「まぁ、苦戦してもらえたほうが、調査的には助かりますけどね」
「ぶはは。お前、その台詞、何か悪役っぽいぞ」
 ケラケラ笑いながら煙草に火をつける藤二と、その隣で苦笑しながら書類に何かを書き留める浩太。
 準備を終え、番傘をクルクルと手元で回す大雅は、薄く開いた瞳の淵に、浩太と藤二の遣り取りを捉えていた。
 厳密には理解らない。どうして、こんなことをさせるのか。でも、試されている状況であることは確か。
 何でこんなことさせるのって、やる前に訊くのもアリだとは思うけれど、別に後回しでも良い。
 寧ろ逆に、やることやって、要望に応じてあげてから訊いたほうが、より多くの情報を聞き出せたりもする。
 そうだ。急いちゃいけない。何度も、何度も教えられたことだ。いかなるときも、急いてはならぬと。
「火には水。 …… って考え、甘いかな」
 傘の先端をピッと海斗に向け、少しばかり首を傾げて言った大雅。
 すると、海斗は、何とも言えぬ笑みをヘラッと浮かべて、
「いや。いーと思うぜ?」
 そう言いながら、グッと踏みこみ、そのまま高く跳躍。
 滞空中に剣をグルグルと回し、増幅された炎の威力を、その勢いのまま振り下ろす。
「うぉぉぉらァァァァァッ!」
 上空から襲いかかってくる海斗の目と、叫び声に宿る "圧" からは、微塵の躊躇も感じない。
 殺す気でやれ、とか、おそらく、そういう指示が浩太と藤二から飛んでいるのだろう。
 ならば、こちらもそれに応じるまで。殺すつもりで、迎えうつ。
「 ………… 」
 無言で目を細め、傘の先端で空中に "印" を描く大雅。
 その描画に併せて、先ほど傘に注いだ清水が、石突きの先端から生き物のようにうねり出る。
 描いた印を、最後にクルリと円で囲めば、水呪の儀は完了。
 円を描き仕上げると、大雅は、傘をすぐさま引っ込め、その先端を地面にあてる。
 素早く、コツ、コツ、と二回。傘の先端で地面を叩けば、瞬時に発動する水呪の操儀。
 描いた印から、大量の水がザザザと音を上げながら飛び出してくる。
「っ …… ん、にゃろ!」
 瞬時に身を捩り、襲いかかる水を避けて、そのまま大雅に斬りかかる海斗。
 大雅は、その攻撃を番傘で受け止め、ガキンと弾き返す。
 水と炎。決して相容れぬ属性同士がぶつかりあう光景は、非常に見応えのあるものだ。
 大雅と海斗の、水と炎の遣り取りを見物する浩太と藤二は、満足気な笑みを浮かべている。
「いい勝負ですね」
「あぁ、まぁな。でも、あいつ、飛ばしすぎだろ」
「そうですねぇ …… まぁ、海斗は、ペース配分とかしませんから」
「しない、じゃなくて、できないんだろ。典型的な特攻タイプなんだよなぁ」
 浩太と藤二が、笑いながらそんな遣り取りをしていた最中、海斗が、突如、ピタリと動きを止める。
 いつものことだが、飛ばしすぎて疲れたらしい。藤二の言うとおり、海斗は一気に攻めるタイプだから、
 長期戦に持ち込まれると、体力が持たず、途中で果ててしまう。
 だからこそ、海斗は、先手とばかりに "とっておき" を放とうとする。残る魔力全てを投じた、渾身の一撃。
 それまでの雰囲気から一変。研ぎ澄まされていく海斗の精神。
 それを感じ取った大雅もまた、その攻撃に応じるべく、傘の先端で巨大な印を描く。
 守り・防御じゃない。大雅が描く印から、確かな攻撃性を感じ取った海斗は、少し嬉しそうに笑んだ。
 攻撃に対して防御じゃなく、攻撃に対して攻撃で反撃してくる、そんな大雅の姿勢が、海斗の心を躍らせたのだ。
 剣の原型なんぞ留めぬ有様。海斗が持つ武器は、もはや、剣ではなく、ただの炎の塊。
 激しく燃える炎によって、普段ではありえない明るさとなる時狭間。
 その一角にて、成り行きバトルの勝敗が、いま、明確になる。
「っっおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 自身の何十倍あろうかというほどの巨大な炎塊を手に、叫びながら大雅に迫る海斗。
 だが、大雅は、目前に迫る、その巨大な炎塊に動じることなく、いつもどおりの無表情で、地面を叩く。
 コツ、コツ、コツ、と素早く三回。三度の合図は、水竜召喚の儀式。主の意思に沿い、印は水の竜と化す。
 ザババババババババァッ ――
「!! …… うがぶぶぶぶぶっぶぶ」
 印から出現した美しい水の竜が、海斗と炎塊を丸ごと飲み込む。
 勢い留まらず、付近一帯が水辺と化す様は、さながら、大海原を思わせた。
 瞬時に結界を張り、水没を免れた浩太と藤二は、水竜の中でジタバタもがく海斗の姿に、終演を悟る。
「終わり、ですね」
「だな」

 *

「お疲れ様でした」
 ニコリと微笑み、背後から大雅に歩み寄る浩太。
 妖狐を出現させ、その狐火で、ズブ濡れになった海斗を乾燥させていた大雅。
 すぐ傍には、番傘に姿を変えていた "あまめ" という浴衣姿の少女も、フワフワと浮いている。
 ゆっくりと振り返り、満足気な笑みを浮かべる浩太に少しばかり肩を竦めて、すぐにまた視線を海斗に戻した大雅。
 水没、要するに溺れた海斗は、しばらく目を覚まさない。風邪まで引かせちゃあ、あんまりだからと、
 狐火による熱風で乾燥させているのだが、その光景は、些か滑稽だ。
「情けねぇなぁ」
 クックッと笑いつつ、気絶している海斗の傍にしゃがみ、ペシペシと海斗の額を叩く藤二。
 乾燥を終えた大雅は、指先をクルクル回して妖狐を在るべき場所へ帰し、すぐさま浩太と藤二をジッと見やった。
 その眼差しだけで十分。言葉なんて要らない。
 大雅の要求を察した浩太は、クスクス笑いながら、一枚の書類を差し出した。
 思わず受け取ってしまったが。何だろう。何て書いてあるのか、さっぱりわからない。変な文字だ。
 かろうじて読めるのは、書類の一番下に赤いペンで殴り書かれた英数字だけ。Mst.col 3587889 と書かれている。
 大雅は、すぐさま、尋ねた。これは、何? 何かを示す数値なの? と。 
 浩太は、その数字こそが、今回、海斗との疑似バトルを御願いした何よりの理由だと言った。
 何でも、この数字は、ここ、時狭間に充満している "クロノミスト" という成分に、大雅の能力を乗算したものらしく、
 全ての数値が、規定値を大幅に上回っているのだそうだ。だから何? それがどうした? って話になるが、
 浩太たちは、そもそも、自らの意思で、大雅に今回の疑似バトルを御願いしたわけではない。
 疑似バトル、もっと言えば、この数値の調査を浩太たちに頼んだ、実際の依頼主は、時の神。マスターである。
 また、マスターは、数値が規定値を超えていた場合、大事な話をしたいから、
 大雅を、すぐに自分のところへ連れてきてくれとも言っていた。
「 …… 大事な話?」
「えぇ。仮契約の話ですね」
 根本的なところから話すと、
 時狭間は、あらゆる世界・そこに流れる時間が交錯している場所だ。
 時の神や時の契約者以外の存在、つまり "ヒト" は、この空間で平常を保つことが難しい。
 異なる世界に、同時に存在しているような状態になるわけだから、頭がおかしくなってしまうのだ。
 遠い国へ旅行に行った際、出発国との時差で頭や身体が思うように働かなくなる、あの状態のようなもの。
 それが、時狭間にいる間、ずっと持続するわけだから、ヒトがこの空間に留まるのは、色んな意味で危険。
 だが、大雅は常に平常。いつ来ても、どれだけ滞在しても、身体の不調を訴えたことは一度もない。
 もしかすると、ヒトでありながら、時狭間で暮らす存在同様に "リデル" が体内に備わっているのかもしれない。
 あぁ、リデルというのは、時の神、および時の契約者が体内に備えている臓器のひとつ。
 場所的には …… ヒトでいうなら、心臓がある辺りに、心臓の代わりとして、その臓器がある。
 だが、このリデルという臓器は、心臓としての働きよりも、
 時間の交錯に接触しても平然としていられる "抵抗力" を司っている役割のほうが大きい。
 当然、異なる世界・空間に流れる時間に一度に触れることなんてない "人間" には、この臓器は存在しない。
 先程、浩太が見せた書類に書かれていた数値が "規定値を上回る" ことは、
 時間に対する抵抗力が高いということを意味する。つまり、リデルが体内に備わっている証にもなる。
 ヒトの体内にリデルが備わっているだなんて、聞いたことがない。
 でも、もしも、もしも、万が一。
 大雅の体内に、その可能性があるとするならば、頼んでみる価値はあるのではないかと、マスターは考えた。
 時間に対する抵抗力が高いという事実は、あらゆる世界・空間に赴くことができるという結論にも繋がる。
 つまり、時狭間を経由して、あらゆる場所でヒトの記憶を蝕む時兎を退治することが可能だということ。
 リデルを体内に備えていない者では、別世界へ赴くまでの移動中、
 その時圧(時間の圧力)に耐えきれず、途中で絶命してしまうから。
 要するに、
 ヒトでありながら、時の契約者と同じ契約をマスターと締結し、
 時兎を退治する権限と手段、その使命を担う資格が、大雅にはあるということ。
 マスターが望む、真の目的とは、大雅との "仮契約" にあるということだ。
 だが、これはあくまでも、マスターの要望にすぎない。
 大雅が、そんなのやりたくないですと言えば、それまでの話 ――
「わかった。いいよ」
 それまでの話 …… なのだが。
 大雅は、あっさりと受け入れた。マスターの要望を、何の躊躇いもなく。
 有難いといえばそれまでだが、そんなにあっさり承諾されると、逆に不安になる。
 本当に良いのか、後になって、やっぱり嫌ですなんて言ったところで通用しないよ?
 契約者って、実はかなり面倒な立場にあるんだ。マスターに何かを頼まれたら断れないし、
 時兎の討伐以外にも、何だかんだと頼まれるよ。危険なことは勿論、ただの雑用まがいなことだって。
 あっさりと申し出を受諾した大雅に向け、浩太は、遠回しに脅すかのような発言を繰り返し、確認を続ける。
 大雅は、ただジッと、黙ってそれを聞いていた。
「本当に、良いんですか?」
 最終確認。浩太が尋ねる。
 大雅は、真顔で尋ねる浩太、その後ろで笑む藤二、そのまた後ろで気絶している海斗を順に見やると、
 少しばかり俯き、目を伏せて、小さな声で呟くように、こう言った。
「 …… いいよって言わせるのが、君たちの仕事なんじゃないの?」
 確かに、そうだ。浩太の執拗な確認は、断らせようと仕向けているかのように思えてしまう。
 肩を竦めて溜息を吐き落とし、スタスタと、一人、先に歩いていってしまう大雅。
「あっ、大雅くん。ちょっと待って。どこに ―― 」
「マスターのところ。行くんでしょ?」
「 …… あ、う、うん」
 淡々と、微塵の動揺もなく、歩いて行く大雅。
 浩太は、そんな大雅の態度に翻弄されながらも、慌てて後を追う。
 気絶した海斗を背負い、その後をゆっくり追っていく藤二は、大雅の足取りに、とある確信を抱いた。
 あぁ、確かに。あの背中。迷いなき、あの足取り。間違いないね。さすがだよ、マスター。

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 The cast of this story
 8372 / 王林・大雅 / 18歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 浩太 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 藤二 / 24歳 / クロノラビッツ(時の契約者)

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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。