コミュニティトップへ




■クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -■

藤森イズノ
【8372】【王林・大雅】【学生】
 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 あなたの秘密を知っています ――

 不気味で意味深な一文。
 けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
 一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
 そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
 携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
 こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?

 ピッ ――

「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし?」

 切れてしまった。
 何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
 まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
 そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
 ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
 とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――

 カタン ――

「 ――!! 」

 軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
 背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
 物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
 あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
 …… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
 にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
 切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
 っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
 多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。

 なんてことを考えつつ、振り返る。
 差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――
 クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -

 -----------------------------------------------------------------------------

 自宅に届いた一通の封筒。
 差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
 カードには、白いインクで、こう書かれていた。

 あなたの秘密を知っています ――

 不気味で意味深な一文。
 けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
 一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
 そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
 携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
 こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?
 ピッ ――
「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。何?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? …… 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ねぇ、ちょっと、海斗? もしもし?」
 切れてしまった。
 何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
 まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
 そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
 ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
 とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――
 カタン ――
「 ――!! 」
 軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
 背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
 物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
 あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
 …… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
 にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
 切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
 っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
 多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。
 なんてことを考えつつ、振り返る。
 差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――

 -----------------------------------------------------------------------------

「靴を、脱いでください」
 読んでいた本をパタンと閉じ、静かに指摘した大雅。
 大雅が暮らす屋敷は、アンティークなインテリアで統一された洋館だが、
 大雅の部屋だけは特殊で、和室の造りとなっている。そのため、土足は厳禁。というか、勘弁して頂きたい。
 突如、窓から入室してきた不審者。その姿は、海斗に酷似していた。服装も髪型も、そっくりそのまま。
 だが、大雅は、チラリと見やっただけで、それが海斗ではないことを見抜いた。
 さっきまで電話で話してたからとか、そういうんじゃなく。雰囲気が明らかに異なるのだ。
 姿形こそ似ているものの、纏っている雰囲気は、まるっきり別人。
 こう言っちゃあ何だが、海斗よりも、この人物のほうが、遥かに賢そうな雰囲気を放っている。
「ん? あぁ、そっか。悪い悪い」
 大雅の指摘に対し、海斗にそっくりな人物は、すぐさま謝罪し応じる。
 いそいそと脱いだ靴を窓の縁にボソッと置く、その一連の動作を、大雅は、ジッと見つめていた。
「でさ。さっそく、本題なんだけど。お前、オレのこと覚えてる?」
「 ………… 」
 いきなり、何を言い出すのか、この人物は。
 覚えてるも何も、初対面。海斗に似てるけど海斗じゃない人物。あなたに会うのは、今日が初めてです。
 大雅は、目を伏せて、少し棘のある口調でそう返した。それに対し、海斗にそっくりな人物は、苦笑を浮かべる。
「やっぱそうか。ま、仕方ないっちゃあ、仕方ないよな」
「誰かと、勘違いしてませんか」
「いや。してない」
「 …… 即答ですね」
「オレ達が、お前を他人と間違えるはずねぇじゃん」
 ヘラヘラッと笑って言う、海斗にそっくりな男。
 笑ったときの雰囲気は …… 海斗と同じだ。無邪気な感じ。
 だが、たかだか、笑顔が無邪気というだけでは、警戒を解く理由にはならない。
 それに、この男 …… 今、妙なことを言った。オレ達。オレ達が、と言った。
 どうして、この男が自分のことを知り得ているのかは理解らないが、この男には、仲間がいる。
 どういうことだろう。この男は、いったい何者なのだ。いったい何の目的でここへ?
「あ、カード。届いたみたいだな。良かった」
 テーブルの上、携帯電話と一緒に置かれたカードを見やり笑う男。
 大雅は、男から目を逸らすまいと、ジッと、男の目を見据えながら返す。
「やっぱり、差出人は、あなたですか」
「うん。まぁ、正確には、オレ達からって感じなんだけど」
「 …… あなたの、名前は?」
 探るように、慎重に尋ねてみる。
 すると海斗にそっくりな男は、少しばかり目を見開いて、こう返した。
「ん、あ、あぁ …… オレは、カージュ。つか、やっぱ完全に忘れてんのな。わかってたけど、ショックだ」
「 …… カージュ」
 やはり、聞き覚えのない名前。
 でも、何故だろう。胸の奥がチクッと痛むような。不思議な感覚を、大雅は覚える。
 とはいえ、覚えたその不思議な感覚について、この男 …… カージュに質問するような真似はしない。
 初対面かつ無礼かつ不可解な人物に対して "何か今、不思議な気持ちなんですけど" だなんて、
 そんな質問飛ばしちゃあ、こっちまで "頭のネジが飛んでる人" の仲間入りをしてしまう。
 大雅は、フルフルと首を振って、更に尋ねる。今度は、核心をつく目的で。
「カージュの目的は、何?」
「おっ。敬語じゃなくなったな!」
「えっ? あっ、あぁ、すみません」
「あ、何だよー。止めろよな。今更、敬語なんてさ」
「 ………… 」
 今更とか言われても、困る。
 ついさっき会ったばかりなのに、今更とか言われても。
 やっぱり、この人、変だ。おかしい。なんてことを思いつつ、ジッと見つめる大雅。
 疑心に満ちたその眼差しに苦笑しながらも、カージュは肩を竦めて、ようやく、先程の質問に答える。
 正直なところ、まだ、もう少しだけ、大雅と話をしていたかったんだけれど。どうやら、そうもいかないらしい。
 カージュは、しばし、寂しそうな表情を浮かべた後、大雅の胸元を指さして告げた。
「うん。まぁ、そだな。じゃ …… ちょっと、裏と替わってもらえるか?」
 自分に言い聞かせるようにして頼んだカージュ。
 カージュの用件、真なる目的こそが、大雅の秘密。
 表と裏。表裏一体として存在する二つの人格、存在。
 大雅が表ならば、その存在は、裏の存在。カージュは、その存在を知っていた。
 どうして、そのことを知ってるんだろう。この人が、知ってるんだろう。
 大雅が、そう疑問を抱いた矢先のことだ。
 その疑問に蓋をし、覆い隠すかのように、裏の存在が表を支配する。
「 …… よいしょ〜。あ、御指名、ど〜も」
「やっほー。久しぶりだな。影虎」
「ホンマにな〜。いや〜。君、相変わらず、お肌ツルッツルやね」
「まぁ …… 老わねーからな。オレ達も …… 」
「あはははっ。そうやったね」
 表情豊かに、明るく気さくに笑う大雅。
 普段の無表情な大雅からは想像できない姿。
 その理由は、表と裏の入れ換わり。対をなす、もうひとりの大雅といえる別人格が外に出ていることにある。
 瞳の色も変色している。気さくに話す、この人物こそが、大雅の秘密。もうひとりの大雅。名を、影虎。
 それにしても、この男、カージュは、なぜ、この秘密を知り得ているのだろうか。
 影虎と、随分親しげに話している点も、気がかりである。
「ほんで、用って?」
 ニコリと笑い、カージュに尋ねた影虎。
 すると、カージュは、テーブルの上に置かれているカードを見やり、こう言う。
「そのカード、失くさないように持ってろ」
 一方的に送り付けたカード。
 不可解なメッセージが一文だけ記されたそのカードを、失くすな、とカージュは言う。
 影虎は、それだけ? と悪戯に笑んでみせた。それは、大雅本人に言うべきなんじゃないの? と。
 意地悪なその反応に、カージュは肩を竦める。わかってて言ってんだろ。オレだって、ほんとはそうしたい。
 でも、無理だから。大雅にそう頼んだところで怪訝な顔をされ、最悪の場合、破棄されてしまいかねないから。
 だから、お前に頼んだんだ。ちょっと嫌な言い方をすれば、不満だし、不服だけど。お前に言うしかないから。
 何ともいえぬ表情を浮かべながら、そう言い、脱いだ靴を履き直して窓の縁に飛び乗るカージュ。
 用が済んだら、すぐサヨナラだなんて、愛想のない奴だなぁ、と影虎は苦笑しながら言ったが、
 カージュはそれに対し何の言葉も返さず、無言のまま、バンと扉を開け放つ。
 一気になだれ込み、壁を反って室内を旋回する強風。
 バサバサと乱れる髪を押さえながら、影虎は、ポツリと呟いた。
「ええの? まだ、わかった、なんて返事してへんけど」
 その呟きに対し、カージュは、背中を向けたまま、振り返ることはせず、
「返事なんて必要ない。これは、命令だから」
 そう言い残し、バッと窓から飛び降りて去っていく。
 闇夜の中、音もなく、フッと消えるカージュ。
「 …… ははっ。相変わらずすぎて、逆に調子狂うわ」
 影虎は、先程までカージュがいた場所をしばらく見つめた後、
 ケラケラッと笑い、窓を閉め、テーブルの上に置いてあった携帯を取り、海斗に連絡を入れる。
 普段、大雅が、どんな物と、どういう人と関わっているのか把握している影虎は、携帯の扱いも手慣れたものだ。
 まぁ、着信履歴を開いてコールしなおせば良いだけだから、誰にでも出来るっちゃあ、出来るんだけど。
「あ〜。もしもし。海斗?」
『大雅! お前、何やってんだよ! 早く来いって …… あれ? お前、誰だ?』
 電話の向こう、てっきり大雅からの連絡だと思い(そりゃあまぁ、大雅の番号からかかってきてるし)、声を荒げた海斗は驚いた。
 聞いたことのない、柔らかくも軽快な声が聞こえてきたからだ。
 影虎は、ケラケラ笑いながら、海斗に告げた。
 もう手遅れだったこと、招かれざる客と既に対面したこと。
 特に何か危害を加えられたわけでもないが、また来る気配をプンプン漂わせながら去って行ったこと。
 それらをいっぺんに聞かされた海斗は少しばかり困惑したが、一先ず手遅れだったという点だけ理解すれば良さそうだと判断し、
 申し訳なさそうな声で、謝罪した。ごめん、遅かった、もっと早く連絡するべきだった、オレのミスだ、と。
 影虎は、素直に謝った海斗に少し驚く。大雅の意識下では、もっと強情な人物なのだろう。
「ま、えぇや。とりあえず、そっちに向かうわ」
『あ、おぅ。つか、お前、誰なんだよ』
「それも、そっちで説明する」
『 …… ふーん。わかった』
「あ、海斗」
『ん?』
「詫びなら、和菓子にしてな」
『はっ? 何それ。おい、ちょっ …… 』
 プツッ ――
 喚く海斗に笑いながら通話を一方的に終え、携帯電話を懐にしまう影虎。
 その流れのまま、テーブルの上に置かれていた、あのカードも、棚の中へ保管。
 さて、と姿勢を正した後、影虎は、どうしようかなとしばし考える。
 表 …… 大雅に戻って向かうべきか。それとも、このまま向かうべきか。
 まぁ、説明するとか何とか言っちゃったから、このまま向かったほうが楽かな?
 それに、短時間のうちにコロコロと入れ換わると、大雅の精神的負担も大きくなるし。
 よし、と決心した影虎は、軽やかな足取りで、サクサクと歩き始める。
 普段の大雅からは想像できないその軽快かつ陽気な様に、間違いなく、海斗は違和感を覚えることだろう。

 -----------------------------------------------------------------------------
 The cast of this story
 8372 / 王林・大雅 / 18歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / カージュ / ??歳 / クロノハッカー

 -----------------------------------------------------------------------------
 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。