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■クロノラビッツ - 拒絶 -■

藤森イズノ
【8372】【王林・大雅】【学生】
「あなたと一緒に行きたいところがあるの」
 妖艶な笑みを浮かべ、チェルシーは、そう言った。
 わかった、いいよ。だなんて、そんな返答できるはずもない。
 クロノハッカーの誘いにホイホイ乗るだなんて、そんなマヌケな真似できるはずがない。
 当然のごとく、断った。嫌だ、行かないって、はっきりと、バッサリと拒絶してやった。
 で、今に至る。
「ついてきてくれるだけで良いのよ。危害は加えないから」
 さっきから、同じ台詞の繰り返し。何もしないから、大丈夫だからって、そればっかり。
 信じろっていうのか。その台詞を、その言葉を鵜呑みにして、まんまと罠にかかれって言うのか。
 冗談じゃない。絶対に嫌だ。信じるもんか。ついて行くもんか。応じるもんか。
 って、何度も断り続けているのに、チェルシーは退かない。
 性格面だけを取り上げて言えば、チェルシーも千華と一緒でサバサバしてる。
 しつこく言い寄ったり、何かに固執・執着したりするだなんてことは、ないはずだ。
 だから、妙だと思った。いつもと雰囲気が違うような。随分と躍起になっているような、そんな気がした。
「ねぇ、お願いよ。今日だけ、我儘をきいて」
 下手に出てるつもりなんだろうけど、その言い草は傲慢そのもの。
 今日だけ、だなんて、よくもまぁ、そんなこと言えるもんだ。今日に限らず、いつも我儘ばかりじゃないか。
 クロノハッカー連中は、いつだって自己中心的。自分勝手な人ばかりじゃないか。
「ねぇ、お願い。こんなことしてまで、あなたを追いつめたくないの」
 演技だろうけど、申し訳なさそうな表情を浮かべて言うチェルシー。
 でも、言ってることと、やってることが真逆。あのね、そういうの、矛盾って言うんだよ?
「ねぇ、聞いてる?」
 確認しながらも、光の魔法で、こちらの視力を奪ってくるチェルシー。
 確かに、攻撃の意思は感じない。目くらましの意図で光の魔法を放つばかりだから。
 危害を加えないっていうのも、あながち嘘じゃないのかもしれない。
 でも、やっぱり …… 信じるわけにはいかないんだよ。
 ごめんね。
 クロノラビッツ - 拒絶 -

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「あなたと一緒に行きたいところがあるの」
 妖艶な笑みを浮かべ、チェルシーは、そう言った。
 わかった、いいよ。だなんて、そんな返答できるはずもない。
 クロノハッカーの誘いにホイホイ乗るだなんて、そんなマヌケな真似できるはずがない。
 当然のごとく、断った。嫌だ、行かないって、はっきりと、バッサリと拒絶してやった。
 で、今に至る。
「ついてきてくれるだけで良いのよ。危害は加えないから」
 さっきから、同じ台詞の繰り返し。何もしないから、大丈夫だからって、そればっかり。
 信じろっていうのか。その台詞を、その言葉を鵜呑みにして、まんまと罠にかかれって言うのか。
 冗談じゃない。絶対に嫌だ。信じるもんか。ついて行くもんか。応じるもんか。
 って、何度も断り続けているのに、チェルシーは退かない。
 性格面だけを取り上げて言えば、チェルシーも千華と一緒でサバサバしてる。
 しつこく言い寄ったり、何かに固執・執着したりするだなんてことは、ないはずだ。
 だから、妙だと思った。いつもと雰囲気が違うような。随分と躍起になっているような、そんな気がした。
「ねぇ、お願いよ。今日だけ、我儘をきいて」
 下手に出てるつもりなんだろうけど、その言い草は傲慢そのもの。
 今日だけ、だなんて、よくもまぁ、そんなこと言えるもんだ。今日に限らず、いつも我儘ばかりじゃないか。
 クロノハッカー連中は、いつだって自己中心的。自分勝手な人ばかりじゃないか。
「ねぇ、お願い。こんなことしてまで、あなたを追いつめたくないの」
 演技だろうけど、申し訳なさそうな表情を浮かべて言うチェルシー。
 でも、言ってることと、やってることが真逆。あのね、そういうの、矛盾って言うんだよ?
「ねぇ、聞いてる?」
 確認しながらも、光の魔法で、こちらの視力を奪ってくるチェルシー。
 確かに、攻撃の意思は感じない。目くらましの意図で光の魔法を放つばかりだから。
 危害を加えないっていうのも、あながち嘘じゃないのかもしれない。
 でも、やっぱり …… 信じるわけにはいかないんだよ。
 ごめんね。

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 自宅地下にある禅室にて。
 僅かにも姿勢を崩すことなく正座し、ただ、ジッとチェルシーを見やる大雅。
 数分前までは、チェルシーが放つ光の魔法に目を細めていたが、今は平常。
 闇の霧でその身を覆えば、眩い光の魔法は届かない。確かに、闇属性に光の魔法は脅威となるが、
 裏を返せば、闇もまた、光の脅威になりうる。要するに、光と闇は、対極相殺の関係にあるということ。
 光魔法の使い手ならば、当然知り得ていることだと思うのだが …… チェルシーは、魔法の乱発を未だ止めない。
 大雅が闇の霧を張り巡らせて相殺・無効化していることに、気付いていないのだろうか。
 それとも、気付いていながら続けているのだろうか。だとすれば、少し滑稽だ。
 クロノハッカー連中が取り乱すだなんて、珍しい事例だと思うから。
( ………… )
 何度も何度も、無意味なのに光の魔法を放ち続けるチェルシー。
 大雅は、お願いだからと繰り返すチェルシーを、しばらくボンヤリと眺めていた。
 別に、やり返す必要はない。このまま放っておいて、相手の魔力が枯渇するのを待てば良いのだから。
 でも、それまで、ただボンヤリ眺めているのも退屈だ。というわけで、大雅は、白む光の向こうにいるチェルシーへ問う。
「 …… 君たちさ、あいつらに何か恨まれるようなことでもしたの?」
 あいつら、とは、妖たちのこと。大雅は、ずっと疑問を抱いていた。
 クロノハッカーと接触するようになってから、妖たちの機嫌が、すこぶる悪いのだ。
 何の気なしに、大雅がクロノハッカーのことを口にしただけで、皆、異様なまでに怒る。
 あまりにも機嫌を損ねてしまうものだから、いつしか、大雅は、クロノハッカーに関する発言を自制するようになった。
 妖やら悪魔やら、闇に生きる者なだけに、彼等は皆、基本的に気性が激しいし、口も悪い。
 でも、中には、温厚な者もいる。影虎なんかは、その代表格だ。底抜けに明るく気さく。しかも、平和主義者だったりもする。
 大雅が疑問を抱く大きな要因は、その影虎までもが、不愉快そうに眉を寄せるから、という点にある。
 まぁ、影虎は、他の妖たちのように、汚い言葉で蔑んだりはしないけれど、それでも、意味深なことは言う。
 あいつらには気をつけろ、とか。そういう感じの注意喚起。
 何にも動じない影虎が真顔でそんなことを言ってくれば、嫌でも気になるというものだ。
( …… 無視、か)
 大雅が尋ねたのにも関わらず、チェルシーは、無視。
 いや、もしかすると、聞こえていないのかも。自分の要求を前面に出すことに必死すぎて。
 質問に答えず、ただ、無意味な光の魔法を乱発するばかりのチェルシー。
 その必死さに呆れた大雅は、そこでようやく、正座を解いて立ち上がる。
 必死なのは、わかるけどさ。無視は良くないよ。
 ヤレヤレと肩を竦め、チェルシーに歩み寄る大雅。眩さをものともせず、白む光の中を真っ直ぐ歩く。
 すぐ傍。手を伸ばせば触れることができるほどの至近距離に達するまで、チェルシーは、大雅の接近に気付かなかった。
「来て、くれるの?」
 ようやく、魔法を放つことを止め、嬉しそうに笑んで言ったチェルシー。
 本来あるべきはずのディレイすら解除して乱発したものだから、額に汗が滲んでいる。
 無茶しすぎ。そんなことしてたら、魔力枯渇どころじゃ済まなかったんじゃないの?
 ハァ、と大きな溜息を吐き落とす大雅。
 勘違いされては困る。確かにすぐ傍まで歩み寄ったが、誘いに応じる気は、これっぽっちもない。
 ただ、取り乱す姿が憐れで、見るに堪えなかっただけ。
「どうして。どうして、拒むの? 何もしないわ。ただ、一緒に来てくれれば、それで良いの」
 切ない表情で、少しばかり声を荒げたチェルシー。大雅は、そんなチェルシーを見つめ、問う。
「どこに連れて行くつもり?」
 その質問に、チェルシーの表情がパッと明るくなるのは、至極当然のこと。
 応じる気になってくれたのだと、そう勘違いしても仕方ない。
 すぐに気付いた大雅は、すぐさま言い添える。
「あ、行かないけどね」
「 ………… 」
 ぬか喜びだったと、すぐに悟らされ、再びチェルシーの表情が曇る。
 大雅は、躊躇なく、冷やかな問いを更に加えた。
「何で俺なの?」
 別に、精神的に追い詰めてやろうだとか、そんな意図はない。ただ純粋に、大雅は知りたがっているだけ。
 まぁ、応じる気もないのに、情報だけ聞き出そうだなんて、ちょっと意地悪な手口かもしれないけれど。
 大雅の問いに対し、チェルシーは沈黙するばかり。この距離だ。聞こえていないはずがないと、
 懐から扇子を取り出し、パタパタと自身の前髪を風で揺らしながら、大雅は待つ。
 吸いこまれそうなほど美しい大雅の空色の瞳に、チェルシーは、目を逸らす。
 動揺を愉しむかのように淡く笑み、大雅は指摘した。
「無理にとは言わないけど。知る権利くらいあるでしょ。俺にも」
 ごもっともな意見だ。
 応じる気はなくとも、大雅は "連れて行かれる" 立場にあるのだから、
 どこに行くのか、どうして自分が連れて行かれるのか、そのあたりを知る権利がある。
 だが、それがどんなに真っ当な意見だとしても、チェルシーは応じない。目を逸らすばかりだ。
 だが、そんなチェルシーの態度に、大雅は、ふと思う。
 もしかすると、言わないのではなく、言えないのではなかろうか。
 例えば、誰かに指示されたとか。だとすれば、取り乱すのも頷ける気がする。
 本当のこと・真相を語りたくても言えないって状況ほど、もどかしいものはないだろうから。
「言えないの? それとも ―― 」
 口元に扇子をあて、一際柔らかな声で尋ねかけた大雅。
「!! ち、違うわ …… 」
 それまで沈黙を続けていたチェルシーが、尋ね終える前に返答する。
 決定的。やはり、誰かに指示されて来たんだ、この人は。
 とはいえ、それがわかったところで、どうすることもできないのが現状。
 下唇をキュッと噛み、うっかり口を滑らせたことを悔やんでいる様子のチェルシー。
 動揺から脱し、自分の非を戒めている以上、これ以上、口を割ることはないだろう。
 何を尋ねたところで、はぐらかされて終わりだ。
 でも、裏で糸を引いている人物がいることが判明したからには、もっと深く詮索したいし、その必要もある。
 どうするべきか。大雅は、無関心を装い、その裏で、あれこれと思案を張り巡らせる。
 チェルシーの身体に異変が起きたのは、その矢先のことだった。
( …… !)
 ハッとし、大雅が目を大きく見開くのと同時に、チェルシーが消える。
 刹那の出来事だったが、大雅は、その耳で確かに捉えていた。
 確かに、聞こえた。バリッ、という音。
 その音は、さながら ――
「 …… 雷鳴」

 事実、あれが、雷による音だったとすれば、頭の中に浮かぶ人物は、ただ一人。
 藤二に瓜二つな姿をしているクロノハッカー。確か、名前は …… トライ?
 確かに、あの男は、クロノハッカーの中でも、特に異端な感じがする。
 他のクロノハッカーに比べて、生気が感じられないというか。感情が欠落しているような、そんな印象。
 まだ一度しか接触していないし、直接話したこともないから、イメージでしか語れないのだけれど。
 だがまぁ、チェルシーを消したのは、トライだ。これは、ほぼ間違いない。
 消したというよりかは、遠隔操作のような感じで、自分の傍に移動させたという感じだと思うが。
 わからないのは、その先だ。
 気のせいか。いや、違う。この、もやもやする感じ。
 確かに、チェルシーを消し戻したのはトライなんだろうけれど、
 チェルシーに指示を飛ばした人物、裏で糸を引く人物は、トライじゃない。
 根拠はないが、そんな気がする。何かが足りない。何かが、圧倒的に不足しているのだ。
 クロノハッカーたちを操る存在。言うなれば、黒幕。そこに当てはめるには、トライじゃあ役不足だ。
 ならば、いったい誰が、どんな人物が …… って、考えたところで、わかるはずもないか。
 例え、誰かを当てはめたとしても、それは憶測にすぎない。ただの予想でしかない。
 何だかなぁ。結局、今回も、何にもわからないまま。
 どこに連れて行くつもりだったのかのも、聞けずじまいだし。
 悪役なら悪役らしく、悪役に徹して、自分の目的とか野望を大言すれば良いのに。
 ゲームでも漫画でも、何でも、悪役ってそういうもんでしょ? 本来、わかりやすいタイプだと思うんだよ。
 世界を制服してやる! ガハハハハ! とかさ、そんな感じで大言するの。 …… まぁ、ちょっと、この例えはガキっぽいけどね。
「 …… はぁ。面倒くさい人たちだな。ほんと」
 扇子を閉じ、懐に戻しながら、大雅は、不愉快そうに眉をひそめた。

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 The cast of this story
 8372 / 王林・大雅 / 18歳 / 学生
 NPC / チェルシー / ??歳 / クロノハッカー
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。