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■クロノラビッツ - フェイクガール -■

藤森イズノ
【8372】【王林・大雅】【学生】
 リエナ・リエールという国。
 その国を一言で説明するなれば、桃色。
 どうして、そのような説明になるのかというと、
 この国そのものが "桜" という花に覆われているから。
 途方もなく大きな桜の木があり、その幹、枝、一つ一つに集落が築かれているのだ。
 決して朽ちることのないその桜の木からは、絶えず雪のように桃色の花びらが降り舞う。
 数々の世界・国を見てきたが、その中でも、あの美しさは格別だと、ワシは思う。

 それでな。ここからが本題なんじゃが。
 ワシが、リエナ・リエールを格別だと認める理由が、もうひとつあるんじゃ。
 その理由というのが …… これじゃ。あぁ、中身は空っぽなんじゃが。
 この瓶にはのぅ、それはもう美味な酒が入っていたんじゃ。
 オウカノウタという銘柄の酒でな。淡い桃色の、目にも美味しい酒なのじゃよ。
 初めて口にした瞬間から、ワシは、すっかりこの酒の美味さの虜になってしもうた。
 じゃが、見てのとおり、空っぽじゃ。これが最後の一本だったというわけなのじゃよ。
 この酒は、リエナ・リエールでしか手に入れることができん。勿論、すぐにでも買いに行きたい。
 じゃがのぅ。あの国の王である男と、ワシは、どうもウマが合わんのだ。煙たがられてもおるでな。
 もう何となくわかったじゃろうが …… そうじゃ。
 ワシは、この酒を買ってきてくれんかと、そういう頼みごとをするつもりで、お前さんを呼んだのじゃ。

 あぁ、待て待て。まだ話の途中じゃ。
 快く引き受けてくれるのは有難いが、そのまま向かっては門前払いを食らってしまう。
 うむ …… どういうことなのかと言うとじゃな。これがまた少し滑稽な理由になるのじゃが。

「困ったことに、リエナ・リエールの国王は無類の "女好き" なのじゃよ …… 」
 クロノラビッツ - フェイクガール -

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 リエナ・リエールという国。
 その国を一言で説明するなれば、桃色。
 どうして、そのような説明になるのかというと、
 この国そのものが "桜" という花に覆われているから。
 途方もなく大きな桜の木があり、その幹、枝、一つ一つに集落が築かれているのだ。
 決して朽ちることのないその桜の木からは、絶えず雪のように桃色の花びらが降り舞う。
 数々の世界・国を見てきたが、その中でも、あの美しさは格別だと、ワシは思う。

 それでな。ここからが本題なんじゃが。
 ワシが、リエナ・リエールを格別だと認める理由が、もうひとつあるんじゃ。
 その理由というのが …… これじゃ。あぁ、中身は空っぽなんじゃが。
 この瓶にはのぅ、それはもう美味な酒が入っていたんじゃ。
 オウカノウタという銘柄の酒でな。淡い桃色の、目にも美味しい酒なのじゃよ。
 初めて口にした瞬間から、ワシは、すっかりこの酒の美味さの虜になってしもうた。
 じゃが、見てのとおり、空っぽじゃ。これが最後の一本だったというわけなのじゃよ。
 この酒は、リエナ・リエールでしか手に入れることができん。勿論、すぐにでも買いに行きたい。
 じゃがのぅ。あの国の王である男と、ワシは、どうもウマが合わんのだ。煙たがられてもおるでな。
 もう何となくわかったじゃろうが …… そうじゃ。
 ワシは、この酒を買ってきてくれんかと、そういう頼みごとをするつもりで、お前さんを呼んだのじゃ。

 あぁ、待て待て。まだ話の途中じゃ。
 快く引き受けてくれるのは有難いが、そのまま向かっては門前払いを食らってしまう。
 うむ …… どういうことなのかと言うとじゃな。これがまた少し滑稽な理由になるのじゃが。
「困ったことに、リエナ・リエールの国王は無類の "女好き" なのじゃよ …… 」

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「 ………… 」
「 ………… 」
 互いに見合って沈黙すること、三十秒。
 マスターの意図を察した大雅は、ハァ〜と大きな溜息を落とす。
 要するに、女装をしろと。そういうことね。何とな〜く、嫌な予感はしてたんだ。
 マスターが、携帯に連絡してくるなんて珍しいし、いつもよりも声が少し高いような気もしたし。
 まぁ、仕方ないと言えば仕方ない。梨乃と千華が仕事で長期間留守にしてるってことは海斗から聞かされていたから。
 でも、だからって …… 何で …… 。
「何で俺なの …… 」
「お前さんが、綺麗な顔をしとるからじゃ」
「それって、女顔だからとか、そういう意味合いだよね」
「 …… そういうことじゃな」
 気を悪くさせてはいけないと、わざわざ遠回しに言ったのに、すぐさま鋭く突っ込まれて苦笑を浮かべるマスター。
 まぁ、女装してくれと頼んでいる時点で、気を悪くさせないようにとか、そんなはからい、無駄なんだけども。
「いいよ …… わかった。で、どうすればいいの?」
 ガックリと落胆した様子ながら、引き受けてあげる旨を伝えた大雅。
 嫌なら無理にとは言わないが、とマスターは確認したのだが、大雅は、どうすればいいのか教えてとだけ返す。
 そりゃあ、女装なんて誰が好き好んでやるものか。はっきり言っておく。俺に、そっちの気はない。
 でもさ、頼まれたら断れないじゃん。普段から、マスターにはお世話になってるしさ。
 恩返しとまではいかないけど、こういうときに、ちょっとずつでもお礼していかないとねぇ。
「例の酒を、買えるだけ買ってきてほしいんじゃ」
「あぁ、うん。えぇと …… オウカノウタ、だっけ?」
「そうじゃ。まぁ、お前さんなら、何の問題もなく売ってもらえるはずじゃろうて」
「お金は?」
「不要じゃ。強いて言うなれば、お前さんがその役割を成す」
「 ……………… 」
 何だろうな。あんまり深追いするのもアレだけど、そんな言い方されると微妙な心境になる。
 いいよって言ってしまった手前、やっぱり嫌だなんて、キャンセルすることは出来ないんだけど。気分的に。
 まぁ、いいか。何とかなるでしょ。たぶん。前にも一度、こういう体験したことあるし。 …… 思い出したくないけど。

 フゥ、と息を吐き落とし、時の扉にそっと触れる大雅。
 フェイクガール。支度を終えた大雅は、こう言っちゃあ何だが、とても、男の子とは思えない可愛さを誇る。
 蝶と花があしらわれた黒い着物(どうやら、妹に借りたようだ)、爪には黒いマニキュア。
 それと、以前、千華に貰い、大切にしているハルジオンの髪飾り。
 その髪飾りは、敢えて、頭ではなく、帯に着けている。
 予想以上の可愛さに、マスターは、さきほどから笑いを堪えている様子。
 我慢しなくていいのに。ゲラゲラ笑い飛ばしてもらえたほうが、気分的にまだマシってもんだ。
「 …… じゃあ、行ってきます」
 一際大きな溜息を吐き残し、時の扉、その中へと消えていく大雅。
 よろしく頼むぞ、と見送ったマスターは、大雅の姿が見えなくなると同時に、クックと笑った。

 *

 女好きの王様というからには、何かこう …… 醜い感じなのかなと、そう思っていた。
 勝手なイメージ且つ無礼だとは思うが、肥えていて汗だくな、そう、ブタを彷彿させるような、そんな感じ。
 だが、予想に反し、リエナ・リエールの国王は、非常に爽やかな印象を与える人物だった。しかも若い。
 王様というよりかは、王子とか、そんな感じだ。まぁ、女好きな王子もどうかと思うけど。
「いやぁ、しかし実に美しい! これほどまでの美女が、この世に存在するとは、驚きだ!」
「 …… ありがとうございます」
 恥ずかしそうにモジモジしながら言う大雅。
 裏で "うざー …… " と舌を出している事実はさておき、迫真の演技だ。
 扇子を口元にあてがい、照れを隠すかのように目を泳がせる姿は、女の子そのもの。
 迂闊に触れれば壊れてしまいかねない、可憐かつミステリアスな雰囲気を放つ大雅に、王様はメロメロである。
「それにしても、珍しい服装だな」
「そうですか?」
「だが些か、窮屈そうに思えるぞ」
「え? そんなことないですよ」
「いやいや、ほら、この腰のあたりなんか、特になぁ」
 ニタニタ笑いながら、大雅の腰に触れる王様。 …… このクソエロオヤジ。
 パシン ――
「いけません」
 扇子で、軽く王様の手を叩き、これまた可愛らしく顔を背けた大雅。
 本当は、胸倉掴んでガクガク揺さぶりながら、何すんだこのやろう、触るな! って言いたい。
 でも、そんなことしたら、何もかもが無駄になってしまう。したくもない女装をしたからには、何が何でも目的を果たして帰る。
 とはいえ、王様の手を叩いてしまったのは事実。咄嗟にやってしまったこととはいえ、まずかったかもしれない。
 おそるおそる、そーっと振り返って王様の反応を確かめてみる大雅。だが、それは要らぬ心配だった。
「ふふ。初々しいな」
 王様は、更にメロっていた。
 近頃、お目にかかれないウブなタイプだから、余計にメロるのだろう。
 王様が女好きであることは、リエナ・リエール全国民が周知している事実なため、
 常日頃から、王様に気に入られようと、女性らが城にやってくる。打算を胸に登城する女性らは、みな、例外なく積極的だ。
 むしろ、逆に女性のほうから王様を誘惑したりもする。まぁ、王様は王様で、それを喜んでいたりするのだが、
 積極的な女性ばかりでは飽きが生じる。口説き落とすという楽しみ、その醍醐味を忘れつつあったのだ。
 だからこそ、大雅の反応に、王様は過敏なまでに反応し、メロる。
 どうしようもない人だ。こんな人が一国の長だなんて、世も末だな …… なんてことを思いつつも、
 この美味しいシチュエーションを利用しない手はないと、大雅は、いそいそと用件を述べる。
「あの、王様。 お願いがあるんですけど …… 」
 手土産にと持参した、茶葉を差し出しながら遠慮がちに申し出る大雅。
 黒い茶葉は、妖世界の名物。独特の渋み・苦みがクセになる、自慢の一品。
 真っ黒な茶葉なんぞ見たことのない王様は、これまた珍しいな! と食いついた。
「私にお願い? 何かな?」
「オウカノウタ、が欲しいんですが …… 」
「ほぅ。我が国が誇る美酒を知り得ているとは、感心だな」
「出来る限り、たくさん欲しいんです。駄目ですか …… ?」
「ふむ。たくさん、とな?」
「えぇ。 …… 酔い潰れたい、近頃、そんな夜が多くって …… 」
 見事と言わざるをえない。何という、色っぽい言い回し。
 もはや、目的を果たすためなら手段は選ばないだとか、そんな心意気を感じさせる。
 いや、もしかすると、やけくそになって、いかに王様を骨抜きにし、迅速に目的を果たすかという楽しみすら抱いているかも。
「う、うむ。よし、わかった。良かろう。売ってやるぞ」
 案の定、興奮した様子で、あっさりと国の宝を売る決断をした王様。
 すぐに用意させる、と城の兵士たちに指示を飛ばす王様に対し、大雅はニコリと微笑んだ。
 心の中で "ちょろいもんだぜ" 的なことを考えていたことは、言うまでもない。

 *

 仰せのとおり、御所望の美酒を持ち返りましたよ。
 どうですか、この量。すべてを飲み干すには、膨大な時間を要することでしょう。
 美酒 オウカノウタを大量に入手し、時狭間へと戻って来た大雅は、少しばかり嫌味な口調で言った。
 まさか、こんなにたくさん持ち帰ってくるとは思わなかったと驚きはしたものの、マスターは御満悦だ。
 これだけあれば、しばらく酒に困ることはない。娯楽の他、薬を作る場合などにも使えるだけに、ありがたい。
「 …… ねぇ、マスター?」
 嬉しそうに笑うマスターに歩み寄り、何やらなまめかしい声を放つ大雅。
 その声色が何を意味するか、マスターは、すぐに悟る。アレだ。おねだりだ。
 ここまでやったんだから、何かちょうだい。
 大雅は、そんな眼差しをマスターに向ける。悪ノリが抜けきらないのか、悪戯な笑みを浮かべながら。
 女装なんて、好き好んでやるものじゃない。嫌だっただろうに、我儘に応じてくれた大雅のおねだりを断る権利なんぞあるはずもない。
 ズラリと並ぶ酒樽に満足気な笑みを浮かべて、マスターは、大雅のおねだりに応じる構えをみせた。
「ふぉっふぉっふぉ。あい、わかった。聞かせておくれ。何を望む?」
「えっ、ほんとに? やったー。えぇとね …… えっと〜 …… 」
 冗談混じりで言った節があったがゆえ、応じてくれたことにちょっと驚いている様子の大雅。
 特に何か欲しいものがある! ってわけでもないもんだから、悩む。自分からおねだりしといて何だけど。
 そうして、大雅が、どうしようかなぁ、と贅沢な悩みにうなだれていたときのこと。
「おーい、マスター! 昨日の書類〜 …… って、うおおおお!? 何だこれ!」
 仕事の件で確認したいことがあったため、マスターを探して時狭間を徘徊していた海斗が、騒ぐ。
 いささか大袈裟な気もするが、さすがに、ズラッと酒樽が並ぶ光景は圧巻である。
 酒樽と酒樽の合間を縫うようにして近付き、ケラケラ笑う海斗。
 マスターが事情を説明すると、海斗は "なるほどね〜" と納得して、また笑う。
 そして、さりげなく顔を背けている大雅を見やって …… 今度は大爆笑。
「あーっははははは! 似合ってるじゃん、大雅!」
 ゲラゲラ笑いながら、大雅の周りをウロウロして観察する海斗。
 頼まれたのがオレじゃなくて良かった〜だとか、意地の悪いことを言うもんだから、ムッとくる。
 大笑いする海斗に、ピッと、閉じた扇子の先端を向け、大雅は伏せ目に警告したのだった。
「海斗。そんなに俺を怒らせたい?」
「いやん。怒んないで、大雅ちゃん。せっかくの可愛さが台無しだぞ?」
「 …… ふぅん、わかった。そこ、動かないでよ」
「んなっ! ちょ、待て。ジョーダン! ジョーダンだってば!」
「 …… 動くなってば」
「ぎゃー!!!」

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 The cast of this story
 8372 / 王林・大雅 / 18歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / マスター / ??歳 / クロノ・グランデ(時の神)
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。