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■「あなたのお手伝い、させてください!」■

ともやいずみ
【3179】【来生・一義】【弟の守護霊・来生家主夫】
 トラブルメーカー。迷惑を振りまく疫病神。
 などなど。
 彼女はそんなイメージを持つサンタクロース。
 宅配便を仕事にしてはいるが、世間は不況。彼女はいつも貧乏で、おなかを空かせている。
 そんな彼女とあなたの一幕――。
「来生一義さんのお手伝い、させてください!」



「来生一義さん、ですかぁ」
 そう言ってこちらを見上げてきたのは、くるくると巻いたツインテールの金髪少女だ。
 全身を真っ赤な衣装で揃えている彼女は幼く、どう見ても小学生だった。
 見かけたチラシでの「お手伝い」の文字にすがりついた来生一義は目の前の少女に深々と頭をさげた。
「はい。是非ともステラさんにお手伝いをお願いしたく……」
「はい! わたしでできることなら、ど〜んと来い! ですぅ!」
 元気いっぱいの笑顔で返され、安堵すると同時になんだか胸の奥がほんわかとあたたかくなった。やはり子供の純真な笑顔というのは癒し効果があるのだろうか?
 少し恥ずかしいのでちょっと間をおいてから、一義は頼みごとを打ち明けた。
「実は……その、私を近所のスーパーまで買い物に連れて行って頂きたいのです」
「…………はひ?」
 目をまん丸にされて、余計に恥ずかしくなる。視線が下がりがちになりつつも、一義は必死に言った。
「ステラさんはお仕事上、色々な町を回られているでしょうし、土地勘がなくても地図があれば地理も判るでしょう。
 案内をして頂けるだけで結構です。荷物は私が持ちますし、必要でしたら地図も用意します」
 早口でまくしたててしまうが、目の前の彼女の反応がない。もしかして……やはりその、いい年齢の大人が何を言っているのだとか思われていないだろうか?
「たいした仕事ではありませんが、私にとって外出は非常に覚悟のいることなのです」
「…………」
「普段は弟に連れて行ってもらうのですが、弟は仕事で不在なもので……今夜、1週間ぶりに帰ってくるのです」
「……ぁの」
「疲れて帰ってくるでしょうから、せめて温かい食事を用意してやりたいのです。たいしたお礼はできませんが、よろしければ今夜の夕食をご一緒にいかがですか? ステラさんの好物を教えて頂ければ、おかずでもデザートでも、なんでもご用意させて頂きますから」
 そこまで言ってから、ステラが困ったように眉をひそめているのに気づいた。
「ステラさん?」
「あの……あのですね、も、ものすご〜く言い難いんですけどぉ……」
「はい? なんでしょう?」
「…………わたし、あんまりその、地面を歩かないんですぅ……」
 視線を思いっきり斜め下に向けるステラの口元が引きつっていた。
 地面を歩かない? それはどういうことだろう?
 首を傾げる一義に、ステラは後頭部をかきつつ笑う。
「あのぉ、わたしが宅急便を営んでいるのはご存知なんですよね?」
「はい。あの、チラシを拝見してこうしてお願いしているわけですから」
 確か、『サンタ便』という宅急便を彼女は営んでいるのだ。
 ステラはとうとうもじもじして、頬を赤らめてしまう。どうやら恥ずかしがっているようだ。
「あの、サンタ便って名前なんですけど……わたし、サンタなんですぅ」
「……はい?」
「えと、ですから本物のサンタなんですぅ。こっちの世界のサンタクロースとはちょっと違うんですけど、おおむねイメージは覆してないっていうか」
「はぁ」
「で、ですから……その、移動は空飛ぶソリなんですぅ」
 え、えへへ……と乾いた笑いをするステラの言葉の意味をきちんと理解するまで、一義は数分かかった。
 目の前の彼女はかの有名なサンタクロースだという。
 あの、大きなプレゼント袋を持って、トナカイに空飛ぶソリをひかせて子供たちにプレゼントを配る…………アレ?
 とてもそうは見えない。似ているところといえば、赤い服だけだ。
「ば、ばびゅん! って行っちゃ……ダメですかねぇ」
 すごい引きつった笑みを浮かべられている。可愛い顔が台無しだった。
「ばびゅん、ですか」
「は、はい。行きたいスーパーまで一直線に行けますしぃ、ちょっと揺れますけど……あ、アハ」
「ではうちまでは、ソリで来られたんですか?」
「はい。途中からは歩きですけど、あの、いきなり変なものが空を飛んでると警察呼ばれちゃうんで……」
 後頭部をかいてまた俯いてしまった。なんだか嫌な思い出でもあるらしい。
「ど、どうしましょうか? 歩いて行っても大丈夫ですよ? 地図があれば辿り着けますぅ。…………たぶん」
(……いま、ちっちゃく『たぶん』って言ったような……)
 聞き間違いだろうか?
「いやいや!」
 唐突に彼女は掌をばーんとこちらに向けた。右手の。
「そうですよね。お手伝いなんですから、ズルはいけません、ズルは。ちゃんと来生さんをお目当てのスーパーまでお連れするお手伝いですもん!」
「は……? あ、はい。ですがべつにソリでも……」
 行ければ、いいかな……なんて言おうとしたのだが、ステラはぶんぶんと首を左右に振った。
「任せてください! 配送業務を営んでいる身として、必ずお連れしますぅ!」



 なぜ、なんだろう?
 横を歩く幼女の彼女は、目をなぜか細めて地図を見ている。来生の自宅で散々地図を眺めたあとだというのに。
「あの……ステラさん」
「はひっ!? いえ、あの、大丈夫ですよ?」
 なぜ物凄く汗をかいているのだろう?
「……もしや、方向音痴、では……?」
「え? 違いますよ」
 今度はさらっと言い返された。彼女は地図から顔をあげる。
「なんていうか、わかりやすいですけど、むずかしいんですぅ」
「わかりやすいけど、むずかしい?」
「こうですね、地図って、細い路地とかまでは書いていないので、だいたいの目星をつけないといけないんですぅ」
「はい、そうですね」
 そういえば彼女は空飛ぶソリに乗っているといっていた。その場合はどうやって配達しているのだろう?
「ステラさんは、空を飛ぶソリを使うんですよね?」
「そうですよ?」
「目的地までどうやって行くんですか?」
「そりゃ、地図で行きますぅ。ジェット機なみに飛べますよ!」
 うふふと変な笑いをする彼女は、また地図に視線を戻した。
「空を飛ぶときは楽なんですぅ。ほら、おっきなスーパーとか、おっきな建物を目指して、そこへ辿り着けばあとはまぁなんとかなるものなんですぅ」
「なるほど。目印が大きいから、空からのほうが目につきやすいということですか」
「はい。それに、地面だと障害物が多いので、あちこち面倒ですしね」
 思わず一義は空を見上げた。鳥が一羽、飛んでいる。
 一直線に目的地に辿り着けるというのは、一義でなくとも、魅力を感じてしまうことだろう。
 にっこりと微笑む。
「いいですね、一直線で行けるというのは」
「そう思いますぅ?」
「はい」
「うはっ」
 彼女は顔をあげ、目をきらきらと輝かせ、頬を上気させた。
「そんなに素直に言われると嬉しいですぅ!」
「そうですか?」
「はいぃ。来生さんていい人ですねぇ」
 こんなことくらいで「いい人」に認定されてしまった……。
「それにそれに! 今日のわたしへの依頼だって、弟さんへのねぎらいですよね?」
「え? はい。そうです」
 なんだか照れ臭い。彼女は一直線に言ってくるのでどうも気恥ずかしくなる。
「偉いですぅ! お兄さんの鑑ですぅ!」
「そ、そうでしょうか……?」
「うはー。帰ったらあったか〜い料理の匂いが……! 理想的ですぅ!」
「あの……よだれが……」
「うはっ! すいません。妄想してヨダレが出てしまいました」
 慌てて口元をハンカチで拭っている彼女は、こほんこほんと空咳をして誤魔化そうとしていた。
「ステラさんは普段、どんなものを食べているんですか?」
「もやし……ですね」
「もやし……?」
「うち、貧乏なので……」
 いきなり意気消沈するステラの周囲がどんよりと暗い空気になってしまう。一義は慌ててしまった。
 もしや彼女はなにか事情が? いや、こんなに幼い身なりで配達業を営んでいるのだ。なにか事情があるに決まっている!
「あの、お手伝いのお礼なのですが……なにかリクエストは……」
 並んで歩いていると、もしかして妙な風に見えているのだろうかなと一義はちょっと考えてしまった。
 いかにも西洋人の子供と、スーツの大人。………………明らかに変だ。
(意識してませんでしたが、ステラさんは目立つんですよね……)
 視線をそういえば感じる。真っ赤な衣服の可愛らしい西洋人形みたいな女の子が地図を片手に大人の男を案内していれば妙だろう。
 ちら、とステラに目を遣ると彼女は「うはぁ」と奇妙な声を発していた。
「そ、そうでした! お礼は夕飯でしたね! で、でもいいんでしょうかぁ、弟さんのお邪魔になりませんか?」
「え? そんなことはないと思いますよ?」
「ええ〜? 本当にですかぁ?」
 嬉しそうな顔で照れる彼女は「あのぉ」と続ける。
「じゃあその、お肉が食べたいですぅ」
「…………肉、ですか?」
「ハンバーグでも、トンカツでも、とりのからあげでもいいんですぅ。お肉…………食べたいですぅ」
 …………またヨダレが……。
(そこまで貧困生活なんですか……?)
 と、尋ねてみたくなった。



「はい、到着ですぅ!」
「あ、ありがとうございますステラさん」
 なんとものの見事に到着したので一義は感激してステラに何度も感謝した。
「ふっふっふっ。わたしだって、やればできるんですよ」
 得意げに胸を張る彼女は「おにく、おにく!」と一義と一緒にスーパーに入った。
 今日の夕飯の献立を考えつつ、カートを押してカゴの中に材料を入れる一義は、お肉コーナーで立ち止まった。
「わ〜! お肉ですぅ!」
「ステラさん、しゃぶしゃぶはお好きですか?」
「しゃ、しゃぶしゃぶぅ〜?」
 目が飛び出さんばかりの驚きぶりに一義は内心ちょっと笑いそうになってしまう。
「はい。みんなで食べるのは鍋と決まってますし、お肉もたくさん用意しますよ」
「わーい!」
「デザートは何がいいでしょう?」
「あ、アイスが食べたいですぅ」
 わくわくしているステラは落ち着きのない子供と同じように一義の周囲をぐるぐると歩いている。なんだか子犬のようだ。
「……ステラさんは本当に元気があっていいですね」
「ふふ。なにせ16歳のぴちぴちですからね!」
 ふっふっふ〜と笑うステラの前で少々硬直してしまったのは内緒だ。まさかこの外見で16歳だとは……本当に驚きだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【3179/来生・一義(きすぎ・かずよし)/男/23/弟の守護霊、来生家家政夫・幽霊社員】

NPC
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、初めまして来生様。ライターのともやいずみです。
 スーパーまでの道のりとお買い物、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。