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■クロノラビッツ - 悪魔の子 -■

藤森イズノ
【8372】【王林・大雅】【学生】
 黒い翼に黒い角。
 紅い瞳に、槍のような尻尾。
 どこからどう見ても人外なその子は、悪魔の子。
 どうやら "アズール" という種類に該当する悪魔の子らしい。
 かなり下等な悪魔で、働く悪事も些細で可愛らしいものばかり。
 何もないところで転んだり、タンスの角に足をぶつけたりするのは、この悪魔の仕業。
 ボーッとしていたからだと、そう認識する人が大半だが、れっきとした犯人がいるのだ。
 で、どうしてまた、そんな悪魔が時狭間にいるのかというと、だ。
 マスターが、知り合いに頼まれて預かるという状況に陥ったから。
 何だか妙な状況の時、その理由・原因の大半は、マスターにあると思って良い。
 そして、更に、ここからの展開もお約束だが。マスターは、仕事で時狭間を留守にしている。
 戻ってくるのは明朝。現在時刻は、平均的なところで言うなれば、大体、午前十時頃。
 つまり、これから丸一日。時狭間にいる契約者が、この悪魔の子守りをする羽目になるというわけだ。
 海斗達、正規の契約者は、見た目こそヒトと同じであれど、生殖機能は持ち合わせていないため、
 異性と交わることこそ可能であるものの "親" という立場になりうることは出来ない。
 要するに、子守りと言われても何をすれば良いのやら、さっぱりわからないのだ。
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「うおおおお!?」
「な、泣きだしましたね」
「ど、どーすりゃいーんだよ、これ! り、梨乃!」
「ちょっと待って。いま、調べてるから」
 あんまり可愛くない、というか、むしろ恐ろしい声で泣きだした悪魔の子。
 お腹がすいているのか、ただぐずっているだけなのか、それとも、それとも?
 何にせよ、要求がわかったところで、それに対してどう応じるべきなのか調べねばわからない。
 しかも、悪魔の子だから、ヒトの子とは、些か要求もそれに対する正確な対応も異なるのではとも思う。
「メシだ! 腹減ってんだって、こいつ! 浩太、メシ持ってこい!」
「何を根拠に、そんな …… っていうか、何を食べさせればいいのかわかんないよ」
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「がー! うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 時狭間、北にある資料室。今まさに、そこは、修羅場と化している。
 クロノラビッツ - 悪魔の子 -

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 黒い翼に黒い角。
 紅い瞳に、槍のような尻尾。
 どこからどう見ても人外なその子は、悪魔の子。
 どうやら "アズール" という種類に該当する悪魔の子らしい。
 かなり下等な悪魔で、働く悪事も些細で可愛らしいものばかり。
 何もないところで転んだり、タンスの角に足をぶつけたりするのは、この悪魔の仕業。
 ボーッとしていたからだと、そう認識する人が大半だが、れっきとした犯人がいるのだ。
 で、どうしてまた、そんな悪魔が時狭間にいるのかというと、だ。
 マスターが、知り合いに頼まれて預かるという状況に陥ったから。
 何だか妙な状況の時、その理由・原因の大半は、マスターにあると思って良い。
 そして、更に、ここからの展開もお約束だが。マスターは、仕事で時狭間を留守にしている。
 戻ってくるのは明朝。現在時刻は、平均的なところで言うなれば、大体、午前十時頃。
 つまり、これから丸一日。時狭間にいる契約者が、この悪魔の子守りをする羽目になるというわけだ。
 海斗達、正規の契約者は、見た目こそヒトと同じであれど、生殖機能は持ち合わせていないため、
 異性と交わることこそ可能であるものの "親" という立場になりうることは出来ない。
 要するに、子守りと言われても何をすれば良いのやら、さっぱりわからないのだ。
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「うおおおお!?」
「な、泣きだしましたね」
「ど、どーすりゃいーんだよ、これ! り、梨乃!」
「ちょっと待って。いま、調べてるから」
 あんまり可愛くない、というか、むしろ恐ろしい声で泣きだした悪魔の子。
 お腹がすいているのか、ただぐずっているだけなのか、それとも、それとも?
 何にせよ、要求がわかったところで、それに対してどう応じるべきなのか調べねばわからない。
 しかも、悪魔の子だから、ヒトの子とは、些か要求もそれに対する正確な対応も異なるのではとも思う。
「メシだ! 腹減ってんだって、こいつ! 浩太、メシ持ってこい!」
「何を根拠に、そんな …… っていうか、何を食べさせればいいのかわかんないよ」
「ギャァァァァン! ギャァァァァン!」
「がー! うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 時狭間、北にある資料室。今まさに、そこは、修羅場と化している。
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「 …… 賑やかだね」
 資料室に踏み入って早々、ポツリと呟いた大雅。
 大雅の姿を見るや否や、悪魔の子守りに奮闘していた海斗・梨乃・浩太の三人は、ホッと安堵の表情を浮かべた。
「大雅ぁぁぁ! こいつ! こいつ何とかしてくれー!」
 捕まえた悪魔の子が暴れぬように、グッと抱え込みながら助けを乞う海斗。
 どうやら、かなり暴れたようだ。海斗の腕や頬には、悪魔の子に引っ掻かれたであろう痕が幾つもある。
 どれほど手を焼いていたのか、海斗の傷痕を見て瞬時に悟った大雅は、いつもどおりの無表情で、こう言った。
「そのまま、抱っこしてて。ご飯 …… 作ってくるから」
「抱っこって! 違うだろ、これは抱っこじゃなくて、もはや拘束だぞ!」
「うん …… まぁ、何でもいいから。そのまま、おとなしくさせておいて」
「おとなしくって! それができりゃー苦労しねーんだっつーの! おいこら! 大雅ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ギャァァァァァァァァンッ」
「うああああ! うるせー! つか、痛ぇ! 噛むな!」
 海斗のほうが、よっぽど五月蠅い …… などと思いつつ、いそいそと資料室の隅へと移動する大雅。
 でもまぁ、確かに、大暴れしている悪魔の子を、海斗たちだけで何とかするのは至難の業だ。
 大雅は、助っ人要因として、双子の鬼を呼び、悪魔の子の子守りにあてる。
 五歳ほどの女の子。双子の鬼の子は、大雅が普段、世話になっている妖の愛娘たちでもある。
「あの賑やかなお兄さんの手助けをしてあげてくれるかな。ほんの数分で構わないから」
 海斗を見やりながら、双子の鬼へお願いした大雅。
 双子の鬼は、ニコリと笑い 「お任せください。御主人さま」 と言って、大雅の指示に従う。
 悪魔 …… とは少し異なり、鬼は "妖" に分類される存在ではあるが、悪魔と妖は密接な立場にあり、関係も良好である。
 半ば、同族とも言える存在同士なだけに、双子の鬼の子守りは手慣れたものだった。
 まぁ、幼い双子の鬼が、いとも容易く悪魔の子を上手にあやすものだから、海斗は立つ瀬なく渋い顔をしているようだが …… 。
「大雅くん、ありがとう。困ってたの。本当に助かる」
 何か参考になるものはないだろうかと、それまで資料を漁っていた梨乃が、トテトテと大雅に歩み寄ってお礼を述べる。
 すると大雅は、どこからか大きな黒い鍋を出現させ、食事の支度を整えながら、梨乃にこう伝えた。
「あの子たちの親に頼まれたんだ。俺も」
 時狭間で、君の仲間がアズールの子守りに手を焼いているようだ、って。
 出来うることならば、君もその場へ赴き、彼らの手助けをしてやってはくれないだろうか、って。
 あの双子の鬼の親である妖はね、さっきも少し言ったけど、俺、普段からよくお世話になってる妖なんだ。
 だから、ちょっと手伝いにきた。アズールっていう悪魔が、やんちゃで手を焼くタイプだってことも知ってたしね。
「そうなんだ。わざわざ、ありがとう」
「別にいいよ。暇だったし。それより、梨乃 …… 」
「うん?」
「見ないほうがいいと思うよ。俺は見慣れてるから平気だけど。君は …… 多分、無理だと思う」
 鍋の蓋をそーっと開けながら警告した大雅。
 梨乃は、何が? といった様子でキョトンとしていたのだが、
 そこへ、ピンチヒッターのごとく浩太が現れ、後ろから梨乃の両目をバッと覆い隠した。
「きゃ! な、何? 浩太?」
「食事の支度は大雅くんに任せて。梨乃ちゃんも子守りに協力しようね」
 目を覆い隠したまま、少々強引に梨乃を大雅から引き離して連れて行く浩太。
 苦笑しながら 「どうぞ」 と言わんばかりの合図を送った浩太に、大雅は淡く笑みながら頷いた。
 解き放たれる、鍋の蓋。と言うと何だか大袈裟に聞こえるかもしれないが、鍋の中は …… 既に地獄絵図。
 飛び散る鮮血を彷彿させる真っ赤なスープ。その中には、爪やら牙やら目玉やら蛇やら蛙やらが、ごっそり入っている。
 この真っ赤な煮物は "幻菓(げんか)" と呼ばれるもので、魔界および妖界で、ポピュラーな離乳食のひとつである。
 離乳食にしてはパンチが効きすぎている感があるような気もするが …… まぁ、悪魔や妖からすれば何のことはない。

 美味しそうに幻菓を頬張る悪魔の子。
 スプーンもフォークも使わず、ガシガシと手掴みで平らげていく。
 その光景を微笑ましく見守っていたのは、大雅と双子の鬼だけで、海斗は、眉間にシワを寄せていた。
 梨乃は、もちろん …… 食事が終わるまでずっと、浩太に目隠しをされたまま。
 ガッと鍋を持ち上げ、ズズズと赤い煮汁まで飲み干して完全に食事を平らげた悪魔の子。
 目に毒な料理が全て跡形もなく消えたことを確認して、ようやく浩太は梨乃の目隠しを解いた。
 視界は遮られていようとも、バリバリとか、グチャグチャとか、身ぶるいさせられる音は聞こえていただけに、
 どうして目隠しされたの? だとか、何をしていたの? だとか、梨乃がそういう質問をすることはなかった。
 まぁ、聞けば確実に吐き気をもよおしたであろうから、その判断は概ね正しいものだったと言えよう。
 どうやら、悪魔の子は空腹だったようで、大雅が作り与えた幻菓を平らげてからは、すっかり機嫌が良くなった。
 甲高い声で鳴き叫びぐずることもなくなり、キャッキャと楽しそうにそこらを飛び回っている。
 狙ってやってるのか、そうじゃないかのかはわからないが、
 悪魔の子は、マスターが大切にしている資料ばかりを本棚から引きずり出して、次々と床に落としていく。
 やめろと言っても叱っても聞きやしない。海斗は、ギャーギャー文句を言いながら、悪魔の子が散らかした資料を片付けていた。
 梨乃と浩太も、つい先程までは海斗と一緒に資料の片付けをしていたのだが、今は、大雅と一緒にソファでのんびりくつろいでいる。
 キリがない。片付けても片付けても散らかすのなら、もう放っておくしかない。疲れて眠るまで、好きにさせておけば良い。
 何も資料を引き裂いて読めなくしてしまうとかそういう悪事を働くわけじゃなし、ただ床に落として楽しんでいるだけだし、と。
「大雅くん。何読んでるの?」
 覗きこみ、首を傾げながら梨乃が尋ねる。
 大雅が読み耽っていたのは、魔界に関することが記された本。
 今さら調べずとも、魔界やら妖界のことは熟知しているのだが、ふとその本が目に入ったので読み耽ってしまった。
 読んでいた本をパタリと閉じ、大雅は、そこらを元気に飛び回る悪魔の子を見やってポツリと呟く。
「アズールは …… 可能性を秘めた種族なんだよね」
 今まさに、目の前を元気に飛び回っている悪魔の子。
 アズールという種族に該当するその証は、黒く美しい翼。
 今はまだ小さく頼りないその翼も、あとひと月もすれば、立派な翼になる。
 悪魔にしろ、妖にしろ、彼等が成熟するまでの期間は非常に短く、一ヵ月から一ヵ月半で大人になり、そこで成長が一旦止まる。
 今はまだ笑ったり泣いたりすることでしか自分の意思や想いを伝えることができないけれど、ひと月後には言葉を巧みに操るようになる。
 ひと月そこらで悠長に喋る様には、少し驚かされ、違和感も覚えるが、それは人間の子も同様。
 そこに至るまでの期間が人間の子の場合、少しばかり長い程度で、基本的に成長過程は同じだ。
 だが、アズールという種族は、ごく稀に、常軌を逸した成長を遂げるケースが確認されている。
 種族だけで言えば、確かにアズールは下等悪魔に属し、その中でも更に下位な位置に属する種族であるが、潜在知能は、高位悪魔に引けを取らない。
 その潜在知能が覚醒した場合に限り、アズールは、飛躍的な成長を遂げる。
 まぁ、何かキッカケでもない限り、その潜在知能が覚醒することはなく、やはり下等悪魔のまま生きることになるのだが。
「ついこの間 "あいつ" の武器になった奴もアズールの女の子だったしね …… 」
 本を棚に戻しながら、小さな声で呟いた大雅。
 元気に飛び回っていた悪魔の子をようやく捕まえた海斗は、その呟きに反応したのだが ――
「んぁ? あいつ? あいつって誰 ――」
「キャッキャッ」
「あ゛っ、痛ぇ! 噛むなっつってんだろーが、このやろっ!」
「キャーッキャキャキャッ」
「あっ! 待てこら! オレの帽子っ! 返せこのやろ!」
 すぐさま悪魔の子に会話を阻まれ、挙句、大切な帽子まで奪われてしまった。
 再び、ギャーギャー騒ぎながら悪魔の子を追いかけ回す海斗。やれやれ。これじゃあ、どっちが子供だかわからない。
 そんなことを思いつつ、大雅はうっすらと苦笑を浮かべて、ゆっくりとソファに腰を下ろした。
「黒姫 …… とか、どうだろうね」
 誰に提案するわけでもなく、大雅が呟いたそれは、
 もしも、この元気なアズールの子に自分が名前をつけるとしたら、というちょっとした遊び心だった。
 だが、何の気なしに、興味本位で呟いた大雅のその言葉、その名前に、悪魔の子は意外な反応を見せる。
「キャウ、キャウ!」
 海斗の帽子を頭に乗せたまま大雅の傍に飛んできて、頷くような仕草を見せたのだ。
 すぐに海斗が追いかけてきて、悪魔の子は再び飛んでいってしまったが、
 大雅は、悪魔の子が見せたその反応と仕草に "可能性" を見出した。
 まだ、言葉なんぞ覚えていないであろうに、理解するのか。
 悪魔や妖の名称・個別たる特別な名前は、主によって決められる。
 主が名付けたその名を拒否する権利を、悪魔や妖は持ち合わせていない。
 つまり、その名を受け入れるということは、名付けた者を主と定めて生涯尽くすということ。
 与名と受諾。確固たる絆を結ぶその妖儀を、幼いながら、この子は、本能で理解するのか、と。
「うん …… 有望だね …… 」
「えっ? 何が?」
「大雅くん?」
 何やら嬉しそうに微笑む大雅に、梨乃と浩太は揃って首を傾げたのだった。

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 The cast of this story
 8372 / 王林・大雅 / 18歳 / 学生
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 浩太 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。