■クロノラビッツ - お前のために -■
藤森イズノ |
【8273】【王林・慧魅璃】【学生】 |
時狭間の片隅。
白い椅子が不気味に並ぶ場所にて。
トライからの呼び出しに応じた結果が、これだ。
まぁ、何となく、こうなる予感はしていた。どうせ、そっち系の用件なんだろうなと。
でも、ここまで大っぴらに、クロノハッカーが敵意を見せるのは …… 珍しいかもしれない。
何だかんだと邪魔してきたりするものの、別段、多大な危害を加えるわけでもなし。いつもなら。
「あんなモンと一緒にするなよ。ウチのは、もっと高性能だぜ」
不敵に笑みながら言うトライは、銃口をこちらに向けている。
海斗たちが持っている、あの銃、魂銃だっけ? それにそっくりな銃を構えている。
一緒にすんなって言い返されたのは、似ている点を指摘したから。
盗んだのか? なんて、確証もなく、ついでにちょっと失礼な疑いまでかけてしまったり。
「アレは、兎しか狩れねぇだろ?」
ド、パンッ ――
「 ………… 」
ちょっと、さすがに、今のは吃驚した。
まぁ、この状況下で、撃たれて驚くなんてマヌケかもしれないけど。
どこかで、安心していたのかもしれない。威嚇の一種だと、本当に撃ちやしないだろうと。
少し妙な発砲音と、銃口の発光。気付いたとき既に、銃口は、頬を掠めていた。
初めはチクッと、次第にビリビリと、頬から全身を伝う不快な痛み。
耳に程近い患部から、ジュクジュクと、不気味な音が聞こえる。
「な?」
自慢気に、嫌みに笑んで言うトライ。
わかったよ。もう、わかった。どうしてこんなことするのか、その理由は未だに不明だけど、本気なんだね。
本気で、命を取りにきたんだね。わかった。それなら、こっちも、本気で応じるよ。その想いに。
だって、それが、礼儀ってもんでしょ。ね?
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クロノラビッツ - お前のために -
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時狭間の片隅。
白い椅子が不気味に並ぶ場所にて。
トライからの呼び出しに応じた結果が、これだ。
まぁ、何となく、こうなる予感はしていた。どうせ、そっち系の用件なんだろうなと。
でも、ここまで大っぴらに、クロノハッカーが敵意を見せるのは …… 珍しいかもしれない。
何だかんだと邪魔してきたりするものの、別段、多大な危害を加えるわけでもなし。いつもなら。
「あんなモンと一緒にするなよ。ウチのは、もっと高性能だぜ」
不敵に笑みながら言うトライは、銃口をこちらに向けている。
海斗たちが持っている、あの銃、魂銃だっけ? それにそっくりな銃を構えている。
一緒にすんなって言い返されたのは、似ている点を指摘したから。
盗んだのか? なんて、確証もなく、ついでにちょっと失礼な疑いまでかけてしまったり。
「アレは、兎しか狩れねぇだろ?」
ド、パンッ ――
「 ………… 」
ちょっと、さすがに、今のは吃驚した。
まぁ、この状況下で、撃たれて驚くなんてマヌケかもしれないけど。
どこかで、安心していたのかもしれない。威嚇の一種だと、本当に撃ちやしないだろうと。
少し妙な発砲音と、銃口の発光。気付いたとき既に、銃口は、頬を掠めていた。
初めはチクッと、次第にビリビリと、頬から全身を伝う不快な痛み。
耳に程近い患部から、ジュクジュクと、不気味な音が聞こえる。
「な?」
自慢気に、嫌みに笑んで言うトライ。
わかったよ。もう、わかった。どうしてこんなことするのか、その理由は未だに不明だけど、本気なんだね。
本気で、命を取りにきたんだね。わかった。それなら、こっちも、本気で応じるよ。その想いに。
だって、それが、礼儀ってもんでしょ。ね?
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「なるほど …… 確かに、似て非なるものですね」
頬を掠めた銃弾。負った傷に触れながら、慧魅璃は小さく呟いた。
見た目こそ、海斗たちが持つ、あの神聖な銃 "魂銃タスラム" にそっくりであるものの、性能は異なる。
確かに威力は凄まじい。だが、その性能よりも大きく異なる点が、ひとつある。それは "優しさ" だ。
海斗たちが使っている本物の魂銃は、恐怖や苦痛を彷彿させない。
あれは、ヒトを救うために存在していて、選ばれし者だけが持つことを許される神器であり "武器" ではない。
一方、トライが使う偽物の魂銃からは、優しさというか …… 柔らかさのようなものが一切感じられず、
重く、圧し掛かるような負のオーラがそこらに漂っている。その雰囲気は、呪具よりもタチの悪い "怨具" を思わせる。
「 …… 慧魅璃。大丈夫?」
そう案じながら闇の霧を出現させ、即座に慧魅璃が頬に負った傷を治療するのは、大雅。
計ってか、計らずか、トライは、兄妹が揃って時狭間へと赴いた記念すべき今日という日に奇襲を敢行した。
海斗たちがいる居住区までは、まだ距離がある。マスターがいる時の監視塔は、更に遠い。
せめて、先に連絡だけでもと思ったが、トライがそれをさせてくれそうにない。
ならば、事後報告するしかない。避けて通れぬ戦いならば、応じよう。
とっとと返り討ちにして、居住区に赴くんだ。
皆で一緒に夕飯を食べようと、海斗たちに招かれて来たのだから。
たくさん、ごちそう用意しておくからって、海斗は言ってた。楽しみにしてたんだ。
奇襲されてやられて、せっかくのごちそうがパーになるだなんて、そんなの御免だ。
『サタには及びません』
『 …… なんだ。大したことないね』
大雅の頭に、直接語りかけて報告した慧魅璃。
慧魅璃からの報告に、大雅もまた慧魅璃の頭に直接語りかけた。
慧魅璃が兄に報告を済ませると同時に、上空からスーッと下りてくる、大鎌のサタ。
地面に触れる寸前、パシッとサタの柄を掴み、慧魅璃は、即座に隙のない完璧な構えを見せる。
「女の顔に傷をつけるなんて、ほんとにクソヤロウだな」
姿形こそ似ていれど、藤二とは大違いだ。あいつは、女を傷つけるような真似、絶対にしない。
女とあらば、誰にでも優しく思わせぶりな態度を取るのはいただけないが、それでも、あいつのほうがずっとマシだ。
サタを構えながらトライをキッと睨みつける慧魅璃の両目は、深紅に染まっている。それは、紅妃が表に出ている証。
まぁ、そんなこといちいち説明せずとも、普段の慧魅璃の口調と異なっていることから、紅妃へと交代したことは明白だが。
「おい、影虎。何ボサッとしてんだ」
トライを睨みつけたまま、背後に立つ大雅に向けて冷たい口調で言い放った紅妃。
大雅は大雅で、慧魅璃が紅妃へと交代を済ませると同時に、自分も影虎へと交代を済ませていた。
「おぉ、怖。もう一人の悪魔の嬢ちゃん …… いや、姐さんが出てきとるやないか」
「無駄口叩くな。テメェはサポートに回れ。囮だ囮」
「や〜。相変わらず、人使い荒いわ〜」
いつもの調子で、ヘラヘラッと笑いながらも身構え、紅妃の言うとおりフォローへ回る影虎。
別に、逆らえないわけではないし、言いなりになっているわけでもない。
ただ、この場は大人しく従い、サポートに徹したほうが良い。
紅妃の粗暴な口調と鋭い眼差しに "怒り" を見た影虎は、柔軟に空気を読む。
「にしても、この兄妹が一緒のときに襲うなんて、大したもんやな〜」
クスクス笑いながら指先を踊らせ、漆黒の闇、その霧の濃度を更に高める影虎。
全てを無に帰す闇の凝縮。濃厚な霧は、影虎の操作によって闇の弾へと形を変える。
影虎の前方に、ズラリと一列に隙間なくビッシリと並ぶ無数の闇弾。
右から左へ、その数を確認するかのように流し見やり、影虎は小さな声で呟いた。
まぁ、うちは、さほど怒ってへんよ。怒っとるんは、うちやなくて大雅のほうや。
あいつ、いつもはボンヤリしとるけど、超がつくほどのシスコンやからねぇ。
大雅の妹、魔界を統べる悪魔嬢。そのコを傷つけた罪は重いで〜。
「そんくらい、あんたも知っとったやろうに」
フッと笑み、パチンパチンと指を鳴らしていく影虎。
その音を合図に、ズラリと並んだ闇弾が、ものすごいスピードで次々と飛んでいく。
目で見て追える速さではない。闇弾は、トライの急所を的確に狙い、鋭く飛んでいく。
「 …… そんなことも出来るようになったか」
ニヤリと笑い、風の防壁を次々と発動させ、闇弾の威力もろとも相殺していくトライ。
何やら嬉しそうに笑むトライの表情に、影虎もつられるようにしてクスリと笑む。
そら、そうや。うちらかて、いつまで〜も、あの頃のまんまっちゅうわけやないで。
こんな言い方するのはアレやけども、実際、あんたらのお陰っちゅうんもあるわな。
実際、悔しかったんやで。
大雅があんたらの手にかかり命を落とす、その瞬間を、うちらはその場で見とったんやから。
もう二度と、あんな悔しい思いをせんように。うちらの飛躍的な成長やら何やらの根底にあるんは …… ――
「自分自身への憤りや」
過去彷彿に対する不快感に混じって、確かな成長と感謝の意。
それらを頭に巡らせながら影虎はトライの動きを封じ続ける。
( …… 微妙なとこだが。まぁ、やるしかないか)
影虎が囮役となり、トライを上手く抑制している間、サタを構える紅妃は、タイミングを計っていた。
ギュッと握るサタの柄は、炎 …… いや、マグマのごとく煮えたぎっており、さすがの紅妃も、その熱に眉を寄せる。
機は熟し、いまこそ一撃を放つべき時。それは、承知している。だが、紅妃は、その完璧なタイミングの最中でさえも "微妙" だと判断した。
完璧なタイミングの渦中、拭い去れぬ不安。紅妃が抱くその不安は、サタの状態にある。
大鎌のサタは、憤怒の悪魔。
つまり、サタ自身が怒りを覚えれば覚えるほどに、その威力が増していく。
真っ黒だったサタが、深紅の鎌へと変貌を遂げたことから、その怒りが絶頂であることは明らか。
慧魅璃は、気にしなさすぎだ。家族や友人のこととなると我を忘れて突っ込むクセに、自分自身を大切にしない。
自分がどれほど愛されているか。自分という存在の大きさや価値を、いまいち楽観視しているところがある。
ほんの僅かだろうとて、慧魅璃を傷つけたのは事実。完治したとか、そんなの関係ない。
普段から不可解な言動の多いクロノハッカーが、こうして大胆に命を狙ってきたこともまた、サタの憤怒を増長させる要因のひとつだろう。
「 …… くっ。やっぱり駄目だ。制御、効かねぇ」
さすがに、今回ばかりは無理かもしれんと、紅妃は、そんな不安を抱いていた。
憤怒に燃えるサタ。ほんの一振りで、魔界の全域をも一層してしまう魔鎌。
サタは本来、圧倒的な威力を持ち合わせている。
底知れぬ憤怒により、その威力が解放されてしまった場合の扱い難さ。紅妃が抱く不安は、そこにあった。
「っくそ …… おいこら、サタ! ちょっと落ち着け!」
「お〜お〜。大暴れやな。大丈夫かいな、姐さん」
「うるせぇ! テメェは黙って囮ってろ!」
「あっはは〜。手厳しな〜」
駄々をこねる子供のように、一人勝手に暴れるサタ。
制御の効かないその力を前に、やや翻弄される紅妃は、チッと舌を打つ。
落ち着け、サタ。お前の怒りは最もだし、オレだって同じ気持ちだ。
何考えてんのか相変わらずわかんねぇけど、影虎だって同じ気持ちさ。
お前が一人勝手に暴れるだけじゃ、トライを仕留めることはできない。悔しいが、あいつの実力は確かなもんだ。
しかも、今回は、人様を真似て作った胡散臭い銃まで持ってやがるから、遠距離攻撃が可能ときてる。
落ち着け、サタ。お前が一人で暴れている限り、トライに一泡ふかすことはできない。
受け止めてやる。その全てを乗せて、討ってやるから。だから。
「お前の怒り、オレに預けろ」
紅妃が、落ち着いた声で言い放った瞬間、それまで暴走していたサタが冷静さを取り戻す。
怒りは皆同じ。一人で何とかしようとするな。一人でカッコつけるような真似、誰も許さん。
想う気持ちは皆同じ。だから、ひとつにするんだ。怒りをひとつに。そして ――
「放て」
ザシュッ ――
「 ―― !!」
影虎が出現させた濃霧に紛れ、トライの背後をとった紅妃。
トライがその気配を察するより早く、紅妃は、躊躇なくサタで薙ぎ払った。
飛び散る鮮血。影虎が放つ闇弾への対処に集中するがあまり、背中は無防備そのもの。トライが負った傷は深い。
「っ …… 」
その場に片膝をつき、悔しそうに下唇を噛むトライ。
その時だった。トライが持っていた銃、魂銃によく似たあの銃が、煙となって消える。
そうか。濃密な魔力で構成された物質。あの銃は "魔具" と呼ばれる代物だったのか。
魔力は魂のようなもの。術者の心身に異変が起これば、その均衡が崩れ、魔具は消滅する。
魂銃によく似た銃の性能や性質を理解し、紅妃と影虎は納得の上、膝をつくトライを冷たく見下ろした。
どんなに精巧に作れようとも、本物には敵わない。まがいものは、いつか滅びる。
「無様だな」
クッと笑い、サタの刃をトライの喉元にあてがう紅妃。
このまま、喉をかっ捌いてしまおう。そうすれば、こいつは絶命する。終わりだ。
積年の恨みもあってか、トライの命を絶つことに、紅妃は微塵の躊躇も抱かなかった。
だが、影虎は違う。躊躇というわけではないのだが、それを阻んだ。
「やめとき」
片手で軽々とサタを除け、苦笑しながら紅妃を宥める影虎。
影虎が、始末することを阻んだ理由は "本体" の意思。慧魅璃と大雅の意思にある。
うちらがどんなに怨もうとも、あのコら自体は、連中を深く憎もうとせぇへんし、そもそも、憎めん。
当時の記憶がそっくりそのままスッポリと抜け落ちとるもんやから、憎みようがないっちゅうんもある。
あのコらが光とするなら、うちらは影や。光を差し置いて影が出しゃばるなんて、高慢にも程があんで。
だから、やめとき。連中を始末する決定権は、あのコらが持っとる。
全てを知り、思い出し、その結果、あのコらが始末を選択するまで、うちらは黙っとかな。
「 …… チッ」
影虎の説得に、舌打ちながらも納得し、サタを引っ込めた紅妃。
そんな紅妃と影虎のやりとりに、トライはクスクスと嫌味な笑みを浮かべていた。
まるで、こうなることがわかっていたかのように。始末することはできないと、悟っていたかのように。
やがて、トライの身体が白い煙に覆われ、ゆっくりと消えていく。
撤退する最中、トライは、こんな言葉を残した。
「慧魅璃、大雅。お前たちのためなら …… 悪魔にもなるさ」
トライが残したその言葉に、紅妃と影虎は、肩を竦めて苦笑した。
どんなに精巧に作れようとも、本物には敵わない。まがいものは、いつか滅びる。
悪魔気どりが、本物の悪魔に挑むだなんて、何と滑稽な有様よ。
*
「姐さん、怪我は?」
「あるわけねぇだろ。馬鹿かテメェ」
「あっはははははははは!」
トライが去り、静寂が戻った時狭間の一角。
事が済み、他愛ないやりとりをひとつ、ふたつ交わした後、紅妃と影虎は顔を見合わせ頷いた。
一先ず、このまま。紅妃と影虎のまま、居住区へと向かおう。そして、海斗たちに事情を話そう。
慧魅璃や大雅本人では、上手く説明することができないだろうから、その役目は自分たちが担おう。
そして、事情の説明を終えたら、すぐに戻してあげよう。本体、慧魅璃と大雅自身に、心と身体を戻してあげよう。
海斗たちには、ちゃんと伝えておく。二人が元に戻った後、事情を説明したり詮索することは避けるようにと。
知らなくて良い。二人がかりでクロノハッカーに深手を負わせ、退却させただなんて、そんな事実。
だって、楽しみにしていたから。慧魅璃も大雅も、今宵の晩餐を心から楽しみにしていたから。
だから、知らなくて良い。今はまだ、知らなくて良いのだ。
「んじゃ、行こか、居住区」
「あぁ。 …… いいな。テメェ、余計なこと言うなよ」
「姐さんなぁ、せっかく綺麗な顔しとんのに、そんな口調じゃ男、寄ってけぇへんで」
「 …… 黙れ。余計なお世話だ」
「お〜 怖い怖い」
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The cast of this story
8372 / 王林・大雅 / 18歳 / 学生
8273 / 王林・慧魅璃 / 17歳 / 学生
NPC / トライ / ??歳 / クロノハッカー
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Thank you for playing.
オーダー、ありがとうございました。
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