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■D・A・N 〜Fifth〜■

遊月
【7266】【鈴城・亮吾】【半分人間半分精霊の中学生】
 ――長い、夢を見ていたように思う。
 大切な人を、自分のせいで失う夢を。
 目の前で引き裂かれ、魂までをも喰らわれるのを、ただ見ているだけの、夢。
 ……そう、夢。あれが現実にあったはずはない。何故なら彼は、病死したのだから。
 だから、あれは夢なのだ。


 『対』の魂が、命が、欠けていく。
 ――もう、僅かな猶予もないのだと、誰に言われるでもなくわかっている。
 自分がすべきことも、わかっている――そのはずだったのに。

【D・A・N 〜Fifth〜】



 これまで聞いていた話ではありえないはずの、シンからケイへの変化を、鈴城亮吾はただ唖然として見つめていた。
「あ、れ……?」
 現れたケイは、どこかぼんやりした瞳で亮吾を見る。そうして僅かに首を傾げた。
「りょうご、くん?」
 どこか舌ったらずな響きで名を呼ばれる。そこでやっと、亮吾は動き出すことが出来た。
「ケイさん、…っすよね?」
 思わず確認してしまう。だって今は間違うことなき夜だ。以前聞いた説明では、夜にケイが現れることはないはずなのに。
「そ、う。……え? なんで、俺?」
 頷いたのちに、ケイは自らも戸惑うように視線を下げた。己の身体を見下ろして、確かめるように掌を握り締める。
「シン……が。違う、センが。居なくなる、……死ぬ、――死、んだ?」
 呟くケイの目が虚ろになっていく。それに危機感を抱いて、亮吾は慌ててベッドから降りた。
「ケイさん!」
 肩をつかんで、真正面から目線を合わせる。ケイの瞳は、どこか遠くを彷徨うように焦点が合っていなかった。
「っ、……ケイさん!」
 どうしてケイに変わってしまったのか。シンは今どういう状態なのか。気にはなるものの、今はそれどころじゃないと直感する。
(とにかく、落ち着かせないと)
 何故こんな状態になってしまったのかはわからないが、明らかにケイの様子は異常だ。
「……夢」
 ぽつり、とケイが呟いた。下手に刺激するのが怖くて、亮吾はただ反復する。
「夢?」
「夢、……そう、夢。俺が居て、シンが居て、センが居た、――昔の、夢」
 そうしてケイは訥々と話し始めた。今まで見ていたという『夢』の内容を――亮吾が先程シンに聞いたのと、視点の違いを除けば全く同じ話を。
 それは亮吾に話して聞かせるというよりは、ただ見た夢をなぞるだけの行為のように思えた。その行為自体に意味などなく、ケイ自身にそれを口にしているという意識があるかもわからないような。
 ケイの紡ぐ言葉を聞きながら、亮吾は戸惑いを隠せなかった。
(え、何で……シンさんは、ケイさんに知られないために眠らせたって言ってた、よな? なのにシンさんが隠してたっていう記憶を、夢で見せたのか? っていうかそもそも、これをシンさんは予測してたのか?)
 シンがどこまで先を読んでいたのかが分からない。この状況、ケイの見たという夢、尋常でないケイの様子――これらをシンが全く予想していなかったとは思えないが、だとするとシンの言動に矛盾が生じる。
(あーもう意味わかんねぇ! とりあえず後だ後!!)
 ケイを見る。未だ目の焦点は合っていない。意思の見えない、無機質な硝子玉のような瞳がそこにある。恐らく――というか確実に、亮吾のことは認識していないだろう。声は一応聞こえているみたいだが、その声が誰のものかまでは頭が回っていないに違いない。
 ケイを落ち着かせるにはどうすればいいかと考えてみるが、良い案はなかなか浮かばない。心臓の音など聞かせると落ち着くとか何かで見た気もするが、さすがにちょっと無理というかなんというか。
(だって男同士だぞ!? ……い、いやそういう場合じゃないのかもしれないけど、でもやっぱなんかさぁ?!)
 心の中で誰にともなく弁解しつつ、亮吾は更に考える。
(今のケイさんってどういう状態なのかいまいち分からないけど……でもこのままでいたって多分勝手に良くなったりしないだろうし。だったら一か八か賭けに出るしかないよな? ……俺のせいでもっとマズいことになったらって思うと、ちょっと怖いけど)
 しかし、何もしないでいるよりは、何らかの変化が見込める分マシだろう。怖がって足踏みしていても始まらない。
 それに、ケイへと変わる間際のシンの言葉がひっかかる。

『できるのなら、あいつを、支えてやってくれないか。私にはもう、できそうもないから』

 ただ亮吾にケイのことを頼むだけの台詞ではなかった気がする。どうして『できそうもない』のか――それを追求すると、認めたくない答えが出てしまいそうで、亮吾は強く首を振って、一旦その考えを頭から振り払う。
(今二人がどういう状態かは分からないけど、俺は自分が正しいと思うことをする。腹括って関わるって決めたんだ、今更怖気づいて逃げたりしない)
 ぐっと拳を握り締めて、再びケイを見る。夢の内容を語り終えてからは無言のまま、あらぬところを見つめている。
(……俺が焦ったらダメだ)
 分からないことはまだまだあるし、頼みの綱のシンは不穏な言葉を残していなくなってしまうし、ケイはこんな状態だけど、だからこそ自分は必要以上に焦ってはいけない。完全に冷静でいられるほどには二人との関わりは薄くないから、せめて焦りで目が曇ることのないように。
(だって、今頼れるのは自分だけなんだから)
 だらりと投げ出されたケイの手を掴む。思いを込めて握り締めながら、亮吾はケイに視線を合わせた。
「ケイさん。俺、逃げるのも誤魔化すのも思わせぶりなこと言うのも却下だって言ったよな。ここまで巻き込んどいて、ケイさんは説明もせずに逃げるわけ? 確かにシンさんから説明してもらったけど、全部は説明してもらってないし、ケイさんの口から聞きたいことだってあるんだよ。いくら辛いからってもう一人の相方放り出して自分だけ楽になるって、それでいいの?」
 シンとケイが口にした『縁』というものが、本当に自分とケイ達の間にあるのなら。
「シンさんも、俺に丸投げして逃げる気かよ。そんな簡単に諦めていいのか? 今のケイさんがシンさんまで失ったらとか考えないの?」
 この声が届きますように。気付いてくれますように。何かを感じてくれますように。
「俺は『セン』の代わりにはなれない」
 初めて会った時にシンが言っていた『あいつ』は、恐らくセンのことなのだろう。自分のどこがセンを思い出させたのかは、乏しい情報からは分からないけれど。
「だって、俺は俺でしかないから。俺以外になんてなれないから。……ねぇ、聞こえてるんでしょ、逃げてないでちゃんと向き合ってよ。夢じゃなくて、過去じゃなくて、今を見てよ。今、ここにいるんだよ、俺もケイさんも」
 それから数秒か、数十秒か。或いは数分だったかもしれない。
 重い沈黙の末に、ケイの瞳にふっと正気の光が戻った。ケイは一度ゆっくりと目を閉じて、深く長く息を吐き――そうして、亮吾の目を真っ直ぐに見返してきた。
「……ありがとう、亮吾くん」
 それはただの感謝の言葉ではなく、亮吾には窺いきれない様々な感情が込められているように思えた。
「それと、ごめん。また迷惑かけちゃって」
 ホントだよ、とか、そんなの今更だっての、とか、言いたいことがありすぎて、逆に言葉に詰まる。そんな亮吾に、ケイは目を伏せて問いかけてきた。
「ひとつ、確かめさせて欲しいんだけど、……俺の見た夢は、本当にあったこと、なのかな」
「……っ!」
 どうして、と反射的に思う。ケイは柔らかく、けれど哀しげに微笑んだ。
「――…その反応からすると、やっぱりそうみたいだね」
「思い出した、ワケじゃないんだよな?」
「『自分の記憶』としては、全部思い出したわけじゃないよ。ただ、元々『記憶』が揺らぐことはあったんだ。何が本当で、何が偽りか――その『記憶』を、否定してただけで」
 『隠していた』はずの記憶が表層に出ることがあったということだろうか、と亮吾は考える。しかし、何故。
「……俺の記憶を弄ったのは、シンだね?」
 問われ、亮吾は一瞬躊躇って、頷いた。「だろうね」とケイは呟く。
「こうまで完璧に術を行使できるのは、『対』ぐらいだろうしね。……だからこそ、今こうして、術に綻びができてる」
 後半の科白は、妙に乾いた声音だった。感情を押し殺そうとして、故に何も残らなかったような。
「俺は、どうすればいいんだろう……」
 途方に暮れたように、ぽつりとケイが零した。
 その言葉に、亮吾の中に燻っていた疑念――不安が、急速に膨らんでいく。
 『シンさんまで“失った”ら』――自分が口にしたことだけれど、それが本当になるのではないかと、考えるだけでも怖い。
 だけど、気付かないふりをしたって、何も変わらない。だから亮吾は、口を開いた。
「……今、シンさんは――」
「意識は、ある。でも、もう表に出て来るほどの力は……ないみたいだ」
 亮吾にみなまで言わせることなく、ケイは淡々と告げた。
「いつか、こんな日が来ると思ってた。それが怖くて、俺は――俺達は、『方法』を探してた。生きて、欲しかったから。それだけ、考えていれば良かったはずなのにね。……結局俺は、センを死なせて、シンを傷つけて――殺すだけの存在だったってわけか」
 自嘲と諦観の混じった笑みを、ケイは浮かべる。
 その顔に、亮吾は静まっていた激情が再燃するのを感じた。
(〜〜〜〜っだから! あああもう!!)
 自分の言葉を本当に聞いていたのだろうか、この人は!
 聞いてるくせに理解する気がないとかそういうのじゃないんだろうか。
 前々から感じてはいたけれど、ケイは自分勝手だ。その上馬鹿だ。三歩歩いたら忘れる鶏じゃあるまいし、もうちょっと亮吾の言ったことを留意してくれたっていいだろう。
 この期に及んで亮吾を関わらせるのに躊躇している、という可能性もあるけれど。
(そんなの、もう、今更だっての)
 そう、今更だ。とっくに手遅れだ。そうすることで安心が得られるのは、ケイだけだというのに。中途半端に関わらせる方が問題だってこと、わかっていないんだろうか。
 衝動のままに、亮吾は立ち上がり、叩きつけるように怒鳴った。
「ケイさんとシンさんの事情とか、俺はちゃんとわかんないし、多分最後には当人が解決するしかないものなんだろうって思うけど! でも、ケイさんもシンさんも数回しか会ってないけど、俺には二人とも大切なんだよ!!」
 ケイは、思ってもいなかったことを聞いたみたいに、目を丸くして亮吾を見上げた。
 やっぱり伝わってなかったんだ、と思ったら、何だか泣きたくなった。自分は精一杯伝えたつもりだったのに、ケイには届いていなかったのだ。
「俺にできることなら何でもする。だから二人ともいなくなっちゃ嫌だよ。こんなのただの我侭だって分かってる。もう魂すらない『セン』はどうにもならないけど、二人はまだここにいるでしょ。俺が何とかするから諦めないで…っ」
 言ってるうちに目頭が熱くなって、鼻の奥もつんとしてきた。感情のコントロールがうまくできない。何か色々不安定になってるのかもしれない。
 それでも意地で涙は堪える。こんな一気に色々あって、ケイはおかしくなるし、元に戻ったら戻ったでなんか自己完結して全然亮吾の気持ちわかってないし、シンは消えそうになってるし、亮吾のキャパシティ的にもいっぱいいっぱいだけど。
(シンさんは当然みたいに受け入れてるっぽかったし、ケイさんもなんか迷ってるみたいだけど、でも俺はそんなの嫌だ……!)
 二人が互いを大切に想ってるのなんか、数回しか会ってない亮吾にだってわかるのだ。そして二人が互いを想うのには敵わないかもしれなくても、亮吾にとってだって、二人は大切な存在になっている。
 このままシンが消えてジ・エンドなんて、絶対に自分は納得できない。
「最後まで諦めないでよ、足掻いてよ、まだ『いる』んだから! 二人とも生きてるだろ、過去に何があったって、どんな形だって生きてるだろ!! だったら諦めなかったら何とかなるかもしれないのに、なんで二人ともそんななんだよ! 俺が何とかしたくても、二人が諦めちゃってたら意味ないだろ!? できることだってできなくなっちゃうよそんなんじゃ!」
 言い切って、肩で息をする亮吾を、ケイは呆然と見ていた。
 今度こそちゃんと伝わった――というかわかっただろうな、と睨みつけるようにして様子を窺う亮吾の前で、ケイは一度俯いて。
「――っはは、はははっ、は、……はぁ…。…ああ、もう、」
 小さく笑って、溜息を吐いて、掠れた声で呟いた。
「亮吾くんには、敵わないなぁ……」
 上げられた顔には、泣き笑いみたいな表情が浮かんでいた。
「……正直、手遅れだって、無理だって、思う、けど、――でも、君が信じて、諦めないでくれるなら」
 その目には、先程までとは違う光が宿っている。
「最後の瞬間まで諦めないって、約束するよ。――だから、……手を、貸して」
 ……今この瞬間、何が解決したわけでもないけれど。
 報われた、と、亮吾は思った。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【7266/鈴城・亮吾(すずしろ・りょうご)/男性/14歳/中学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、鈴城様。ライターの遊月です。
 「D・A・N 〜Fifth〜」にご参加くださりありがとうございました。お久しぶりですのに、お届けが遅くなりまして申し訳ありませんでした…。

 内容としては『覚悟』と『変化』につきるかな、と。特にケイの変化は最後の科白に集約されていると思います。
 ようやくケイも腹を括ったといいますか、傷に相対できるようになったみたいです。まだまだ色々弱いですが。
 『目的』については当初は今回明かす予定だったのですが、何だか触れないままあれよあれよという間に進んでしまいました。現状で重要なのがそこじゃなかったので…。

 ご満足いただける作品に仕上がっているとよいのですが…。
 リテイクその他はご遠慮なく。
 それでは、本当にありがとうございました。