■クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -■
藤森イズノ |
【8381】【ナナ・アンノウン】【黒猫学生・看板娘】 |
自宅に届いた一通の封筒。
差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
カードには、白いインクで、こう書かれていた。
あなたの秘密を知っています ――
不気味で意味深な一文。
けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?
ピッ ――
「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし?」
切れてしまった。
何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――
カタン ――
「 ――!! 」
軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
…… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない?
多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。
なんてことを考えつつ、振り返る。
差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――
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クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -
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自宅に届いた一通の封筒。
差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
カードには、白いインクで、こう書かれていた。
あなたの秘密を知っています ――
不気味で意味深な一文。
けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ?
そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな?
ピッ ――
「もしもし〜?」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの〜?」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え? 時狭間? 何で? 何かあったの?」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗? もしもし〜?」
切れてしまった。
何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
まさか、朝っぱらから悪戯電話? いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
ヤバイって …… 何が? まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――
カタン ――
「 ――!! 」
軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
…… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね?
にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
切迫してるとか、そんな感じ? まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃな〜い?
多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。
なんてことを考えつつ、振り返る。
差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――
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「う〜わ。相変わらずだな〜。ぬいぐるみだらけじゃん」
ケラッケラ笑いながら、窓から土足でナナの部屋に侵入してきた男。
この男 …… 前にも一度、会ったことがある。街中で急襲されたとき、あの面子の中にいた一人。
海斗にそっくりな男。何の用で来たんだろう。というか、何故、自宅 および 自室を知り得ているのだろう。
そんな疑問を抱きつつ、大量の羊のぬいぐるみ軍団の中に身を潜めているナナ。
白いモコモコの羊のぬいぐるみ、その隙間から様子を窺うナナの姿は愛くるしくも些か滑稽である。
「カード …… 送ったのも、あなたですよね?」
ポツリと小さな声で尋ねたナナ。
すると、海斗にそっくりな男は、許可もなく勝手にテーブルの上に置かれていた紅茶をゴクゴクと飲み、
すっからかんに飲み干すと、ドカッとソファに腰を下ろして 「そうだよ?」 と、悪びれる様子もなく肩を竦めて返した。
「 ………… 」
無言の要求。
どうして、こんなことをしたのか。ここに来たのか。
ナナは、無言でジトリとした視線を向けることで、男に説明を求めた。
そんな目で見るなよ。わかったわかった。ちゃんと説明するから。っつっても、話せることはある程度限られるけど。
まぁ、実際、ここに来たのはオレの勝手な単独行動であって、実は好ましいもんじゃない。
カードを送るだけに留めておけって、そうキツく言われてたからな。
ん? 誰に指示されたのかって? それは言えないけどさ。
とりあえず、名乗ることから始めよーか。お前、マジで覚えてねーみたいだから。
「オレの名前は、カージュ」
「 …… カージュ?」
そ。つか、せっかく名乗ったのに聞き返すとかヒデーな。
ま、ほんとに覚えてないんだなーって、そう実感させられる反応ではあるけど。
「覚えてないって …… どういうこと? ナナは、あなたのことなんて知りませんよ?」
「 …… あーあ。マジですっぽ抜けてんのな。ま、いーけど」
まぁ、お前からしてみれば、ちんぷんかんぷんだろうし、ちゃんと説明してほしいとこだろうとは思うけど。
残念ながら、そのあたりについては、まだ話せねーんだ。オレの口のからは特にな。
大事なとこの説明なしに、こんなこと言われてもムッとするだろーけど …… 。
とりあえず、オレが今日、ここに来た目的だけ、はっきりさせて。
っつーか、そのために来たんだし。
お前の疑問やら要望やらに答えてやれないのはもどかしいし、
自分の目的だけ果たすっつーのも自分勝手だなーとは思うけどさ。来たからには、ちゃんと伝えてーんだ。
「オレは、お前のことをよーく知ってる。例え、お前が覚えてなくても忘れてても。オレたちは、忘れない。 …… つか、忘れらんねーんだ」
ナナ。
お前はさ、、ちょっと、普通のヒトとは違うよな。
身体の一部を変化させたり、ぬいぐるみを操ったり、負ったそばから傷が治ったり。
オレは、オレ達は知ってるよ。どうして、お前がそういう類まれな能力を宿しているのか。
お前の身体は、お前だけのものじゃねーんだよな。お前の中には、異なる存在が無数に入ってる。
しかも、そのほとんどが、お前と血縁関係にあった人物。つまり、お前の姉ちゃんたちだ。あぁ、姐姐って呼んでたっけか、お前は。
お前の目の下にある数字 【Z】 が変わるのは、交代してる証だ。TからYまで、要するに長女から六女まで。
末っ子であるお前の中に、六人の姉が入ってる。ま、入ってんのは、姉ちゃんたちだけじゃねーけどな。
普段、ぽけっとしてるお前が、時々、おかしなことをやらかすのは、間違いなく、お前の中にいる姉ちゃんたちの仕業。
まぁ、仕業っつっても悪意のあるもんじゃなし、ちょっとした悪戯程度のもんが多いみたいだけど。
一番笑わせてもらったのは、セクシー事件だな。
お前だったら、絶対に何があろうとも着ないようなセクシー炸裂全開の服でオレたちのアジトに遊びにきたとき。
アレは笑ったぞ。オレ、笑い転げすぎて三日くらい腹筋つっぱったまんまだったからな。ま、トライは喜んでたけどさ。
あぁ、何か …… ちょっと話が逸れたな。ごめん。思い出したら懐かしくて楽しくて仕方ねーんだ。
まぁ …… 楽しいことばっかじゃなかったけどな。
お前が、オレたちに全てを話してくれるまで、かなり時間かかったし。
話したら話したで、すっかり塞ぎこんじまって、元に戻すのにも苦労したし。
でも、オレたちは拒まなかったよ。お前が、普通のヒトじゃないってことを知っても。
思い出したくもない、それこそ、忘れ去りたい過去だろうに、実験サンプルとして扱われた過去を暴露するなんて、
オレ達のことを信頼してくれてるからだって、だからこそ話してくれたんだって、そう思ったから。オレだけじゃなく、全員な。
「あいつら …… 海斗たちには、まだ、話してないんだろ?」
天井を見上げ、ボソリと言ったカージュ。
「言って …… ないよ」
小さな声で返したナナの声は震えていた。
恐怖とは、少し違う。声が震えた理由は、カージュの発言、その全てが真実だったから。
身体の中で、姉たちが生きていること。実験体として、あらゆる苦痛を経験したこと。
カージュが語ったそれらは、そのどれもが真実で、虚言は、どこにもなかった。
唯一、セクシーな服うんぬんに関する話だけは …… 覚えていないというか、わからなかったけれど、
そういえば、そんなことがあったような気がすると、ナナは、そんな想いを抱いていた。
どうして、知っているのだろう。
まだ、誰にも話していないのに。
話すには苦しすぎて、まだその痛みに堪えられそうもないからと、話すことを先延ばしにしているのに。
仲間である海斗たちにすら話していないことを、どうして、見ず知らずの男が知り得ているのか。
声だけじゃなく、指先までもが震える理由は、その不可解な違和感からくるものだった。
ナナは、躊躇う。
どうして知っているのと、カージュにそう尋ねるべきか否か。
尋ねることで、もしも返答があったならば。知り得ている理由の説明があったならば。
いま、胸に抱いている違和感が、恐怖に変わってしまうのではないか。そんな想いから、ナナは躊躇う。
どういうことなのか、説明してほしい気持ちが半分。説明なんてしなくていい、聞きたくないと思う気持ちが半分。
だが、ナナが躊躇っている間に、カージュは、ヒラリと身をかわすかのようにして、その場を去ってしまう。
「とりあえずさ。わかってて欲しかったんだ。オレは、オレ達は、お前の全てを知ってるってこと」
そう最後に言い残し、開け放った窓から逃げるように去ってしまうカージュ。
わかっていて欲しかったと告げたカージュの横顔は、切なさに溢れていた。
「ま、待って …… !」
駆け出し、腕を伸ばすものの、既にカージュは窓の外。
窓から飛び降りたカージュは、夜空に溶けるかのように、フッと姿を消した。
慌てて飛び出したことにより、部屋に散乱してしまった羊のぬいぐるみ。
散らばる羊のぬいぐるみの一体を拾い上げ、ナナはギュッとそれを抱きしめて蹲る。
「なぁに、これ …… 痛いよ …… 痛い …… 」
心を、過去を、想いを抉られるような痛みに眉を寄せて。
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The cast of this story
8381 / ナナ・アンノウン / 15歳 / 黒猫学生・看板娘
NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
NPC / カージュ / ??歳 / クロノハッカー
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Thank you for playing.
オーダー、ありがとうございました。
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