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■クロノラビッツ - クロノ・ショック -■

藤森イズノ
【8381】【ナナ・アンノウン】【黒猫学生・看板娘】
「神様に祈る時間を」
「十秒、やるよ」

 険しい表情で言った梨乃の海斗。
 いつもの優しい二人は、そこにいない。
 突如、時狭間に響き渡った、不気味な鐘の音。
 いつも聞こえてくる美しい音色とは異なるその音が、二人に変化を及ぼした。
 その確証はないけれど、明らかに、二人は不気味な鐘の音が響いた後、おかしくなった。
 さっきまで、楽しくお喋りしていたのに。くだらない話をしながら、笑っていたのに。
 どうして、こんなことになっちゃうの。どうしても、戦らなきゃならないの?
 ねぇ、どうしたの。二人とも。そんな怖い顔しないでよ。
 ねぇ、聞こえてる? 声、ちゃんと、届いてる?

 何度も何度も、そうやって声をかける。
 海斗と梨乃は応じてくれない。何も答えてくれない。
 どうすればいいのか。何が起きたのか。状況を飲み込めずにいるのは確か。
 でも …… あぁ …… 悲しきかな、本能よ。いつの間にか、武器を構えていた。
 仲間の攻撃だとて、すぐさま身構えてしまう。今ばかりは、その本能が憎い。
 避けられぬ戦いであることを、心よりも身体が先に理解するなんて。
 クロノラビッツ - クロノ・ショック -

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「神様に祈る時間を」
「十秒、やるよ」
 険しい表情で言った梨乃の海斗。
 いつもの優しい二人は、そこにいない。
 突如、時狭間に響き渡った、不気味な鐘の音。
 いつも聞こえてくる美しい音色とは異なるその音が、二人に変化を及ぼした。
 その確証はないけれど、明らかに、二人は不気味な鐘の音が響いた後、おかしくなった。
 さっきまで、楽しくお喋りしていたのに。くだらない話をしながら、笑っていたのに。
 どうして、こんなことになっちゃうの。どうしても、戦らなきゃならないの?
 ねぇ、どうしたの。二人とも。そんな怖い顔しないでよ。
 ねぇ、聞こえてる? 声、ちゃんと、届いてる?
 何度も何度も、そうやって声をかける。
 海斗と梨乃は応じてくれない。何も答えてくれない。
 どうすればいいのか。何が起きたのか。状況を飲み込めずにいるのは確か。
 でも …… あぁ …… 悲しきかな、本能よ。いつの間にか、武器を構えていた。
 仲間の攻撃だとて、すぐさま身構えてしまう。今ばかりは、その本能が憎い。
 避けられぬ戦いであることを、心よりも身体が先に理解するなんて。

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「何でこんなことするんだろ …… 直接攻めてくればいいのに。やり方が陰湿だよね」
『奴等の陰湿は今に始まったことじゃないし、どうでもいい。とにかく今は、こいつらを何とかするぞ』
 サポートにあたるべく、既に実体化していたシャドウにゴモットモなことを言われ、苦笑しながら肩を竦めるナナ。
 海斗と梨乃の様子がおかしくなった、二人をおかしくさせた、その犯人の目星がついているからこそ、ナナは "陰湿" だと苛んだ。
 まぁ、わかったところで、残念ながら犯人は付近にいない。遠隔でこんなことするのもまた、陰湿極まりないやり口だと思う。
「参ったなぁ …… 傷つけたくないんだけど。無傷は無理かなぁ?」
『お前次第だ』
「ん〜 …… じゃ、とりあえず …… 」
 渋い表情を浮かべつつ、右手の人差指と左手の人差指を合わせるナナ。
 合わせた指をゆっくり離していくと、指と指を繋ぐかのように、ツーッと橙色の糸が出現する。
 そうやって、ナナが支度を進める間も、海斗と梨乃は牙を剥き、躊躇なく魔法を連発中。
 海斗の扱う炎の魔法も、梨乃が扱う水の魔法も、どちらも威力・精度ともに高いため、油断できない。
 我を忘れて牙を剥き襲いかかってくるとはいえ、海斗も梨乃も大切な仲間。
 容易く黙らせ落ち着かせることのできない二人だとわかっていても、怪我だけはさせたくない。
 深手を負わせて強引に黙らせ、後で治療して元に戻すという荒療治も出来なくはないが、
 この場をしのぐためとはいえ、一時的にでも仲間に深手を負わせるのは嫌。
 この状況でそんなこと言うなんて、甘いとか。
 そう思われても仕方ないけれど、嫌なものは嫌。
「ごめんね」
 だから、ナナは "拘束" という手段をとる。
 出現させた橙色の糸、その強靭な性質を活用し、海斗と梨乃の動きを封じる。
 次から次へと飛んでくる魔法を避けながら、ナナは、そこらじゅうに橙色の糸を張り巡らせていた。
 我を忘れてナナを追い回し魔法を連射する海斗と梨乃は、張り巡らされた糸に気付くことなく糸を絡めることになり、
 やがて、全身に絡まった強靭な糸によって、その場から一歩も動けなくなってしまう。
 とはいえ、動きを封じるだけでは、根本的な解決にはならない。
 動けなくなってもなお、海斗と梨乃は苦しそうに呻きつつ、絡まった糸を解こうとジタバタ暴れる。
 ナナが扱うこの橙色の色の強度は凄まじい。更にこれだけ大量に絡まってしまえば、まず解けない。
 そして、暴れれば暴れるほど、逆に肌に糸がめりこんでしまうため、痛みを伴う。
 ナナが、ポツリと呟いた先程の "ごめんね" は、これに対する謝罪だ。
「どうしよっかな …… このままだと、結局ケガさせちゃうんだよねぇ」
 腕を組み、う〜むと考え込むナナ。
 そんなナナに、シャドウは淡々と言い放つ。
『あれを使え』
「簡単に言ってくれるけどさぁ。あれ、すっごい痛いから嫌なんだよね …… 」
『ならば、ほかに何か良い手があると?』
「 ………… 」
 目を細め、大きな溜息を吐き落とすナナ。
 その溜息を "納得" だと聞き入れたシャドウは、実体化を解き、スッとナナの体内に戻る。
 この場を凌ぐにはそれしかないとシャドウが言う手段。ナナが痛いから嫌なんだよねと言う手段。
 "あれ" とは、すなわち ――
「今はただ、翼に抱かれて眠りなさい」
 橙色の美しい翼のこと。
 背中に意識を集中し、特別な呪文を呟くことで出現する翼。
 孔雀のように美しく広がる橙色の翼が、身動きできずもがく海斗と梨乃を包みこむ。
 その柔らかく優しい光景は、さながら、愛しい我が子をギュッと抱きしめる母のように尊い。
 確かに、尊い …… のだが。
「 …… いたたたたたた」
 付くのではなく生えるため、ナナの背中には激痛が走る。
 しばらくすれば痛みは治まるが、安定するまでは激痛が走りっぱなし。
 光景こそ美しく、我が子を抱く母の姿をも凌駕し、女神のごとく美しくあるものの、激痛を堪えることはできない。
『雰囲気もクソもないな』
 クッと笑いながら言うシャドウ。
 ナナは、大きな翼で海斗と梨乃を包みこみつつ、痛いもんは痛いの! と半泣きで反論した。

 *

 橙色の翼に包みこまれた海斗と梨乃は、間もなくして深い眠りに誘われる。
 怪我や衝撃を与えることなく、二人の意識のみを奪うことに成功したナナは、
 すぐさまポチ(犬モデルのキメラ)を呼び出して、その背中に海斗と梨乃を乗せ、いそいそとマスターのもとへ向かう。
 眠らせはしたものの、完全に救えたわけではない。目を覚ませば、再びジタバタと暴れることだろう。
 どういった類の術式で操られているのかわからないから、元に戻す手段もわからない。
 ならば、このまま二人を連れて行き、マスターに助けを乞うのが妥当。
 多分、マスターもすぐ気付くだろうけれど、目星のついている犯人のことについても伝えようと思う。
 現行犯というわけでもないから、対処は難しいと思うが、マスターが何か指示を出すならばそれに従うまでのこと。
 それにしても …… こんな陰湿なやり方で攻めてくるとは、本当、どうしようもない連中だ。
 彼等はいったい、何がしたいのだろうか。
 人を試すような真似なんかして …… 不愉快ったらありゃしない。
 この二人には何の罪もないのに。スヤスヤ眠る海斗と梨乃の頬にそっと触れ、
「これ以上、妹妹を苦しませようもんなら、イッチーたちも、黙っちゃいないよ」
 ぶすっとした表情を浮かべながらチラリと振り返り、
 誰もいない時狭間の闇に向けて、ナナはそんな警告を放った。
 ふにゃ〜とか、はにゃ〜とか、普段は、そんな間の抜けたことばかり言うナナが、
 海斗と梨乃の異変に気付き、二人を救った間、妙に落ち着き、普段と口調が異なっていた理由。
 やり方が陰湿だと口にした瞬間から、ナナの目の下の模様が 【Z】 から 【T】 に変わっていたことに、お気づきだろうか。

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 The cast of this story
 8381 / ナナ・アンノウン / 15歳 / 黒猫学生・看板娘
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。