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■クロノラビッツ - ウルシュリエ -■

藤森イズノ
【8381】【ナナ・アンノウン】【黒猫学生・看板娘】
 食事に誘われてた。
 マスターが知り合いから珍しい食材を貰ってきたらしくて、
 その食材を使って、梨乃と藤二が、とっておきの料理を作ってくれるんだって。
 梨乃と藤二が、料理上手なことは知ってる。そこに、珍しい食材とくれば …… ワクワクしないはずがない。
 どうせなら、お腹いっぱいご馳走になっちゃおうと思って、お昼ごはんも、三時のおやつも抜いてきた。
 ちょっと、気合い入れすぎかな〜とは思うけど、それだけ楽しみにしてたってこと。
 そう。楽しみに …… してたんだ。ワクワクしてたんだよ。すごく。
 それなのに、こんなのって …… 。
「あんまりだよ …… 」
 溜息混じりにポツリと呟けば、
 してやったりと言わんばかりに、ニコルが笑う。
 クスクス笑うニコルの傍には、口から黒い炎を吐きだす巨大な鳥。
 不気味なその鳥の姿には、見覚えがあった。資料室で何の気なしに手にとった、とある書物。
 そこに掲載されていたイラストと、今目の前にいる不気味な鳥の姿が、ぴったりと一致する。
 魔界の番鳥 "ウルシュリエ" 書物には、確かそう記述されていた。
 何でまた、魔界の番鳥なんて、そんな大層なものを、ニコルが連れているのかはわからないけれど、
 ニコルが、どうして行く手を阻むのか、ウルシュリエを連れて来たのか、その理由は嫌でもわかる。
「遊んであげて下さいよ。どうせ大した用でもないでしょう?」
 笑いながら、ウルシュリエの背中を撫でるニコル。
 ゴウゴウと黒い炎を口から吐き出すウルシュリエの様は "急かし" そのもの。
 遊んであげてって …… そんな気持ち悪い鳥と、何をどうして遊べっていうのさ?
 大した用じゃないって …… だから、すごく楽しみにしてたんだってば。勝手に決めないでよ。
「はぁ …… 」
 ワザとらしく、大きな溜息をひとつ。
 おかしいなとは、思ったんだ。進めど進めど、一向に居住区が見えてこないんだもの。
 クロノラビッツ - ウルシュリエ -

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 食事に誘われてた。
 マスターが知り合いから珍しい食材を貰ってきたらしくて、
 その食材を使って、梨乃と藤二が、とっておきの料理を作ってくれるんだって。
 梨乃と藤二が、料理上手なことは知ってる。そこに、珍しい食材とくれば …… ワクワクしないはずがない。
 どうせなら、お腹いっぱいご馳走になっちゃおうと思って、お昼ごはんも、三時のおやつも抜いてきた。
 ちょっと、気合い入れすぎかな〜とは思うけど、それだけ楽しみにしてたってこと。
 そう。楽しみに …… してたんだ。ワクワクしてたんだよ。すごく。
 それなのに、こんなのって …… 。
「あんまりだよ …… 」
 溜息混じりにポツリと呟けば、
 してやったりと言わんばかりに、ニコルが笑う。
 クスクス笑うニコルの傍には、口から黒い炎を吐きだす巨大な鳥。
 不気味なその鳥の姿には、見覚えがあった。資料室で何の気なしに手にとった、とある書物。
 そこに掲載されていたイラストと、今目の前にいる不気味な鳥の姿が、ぴったりと一致する。
 魔界の番鳥 "ウルシュリエ" 書物には、確かそう記述されていた。
 何でまた、魔界の番鳥なんて、そんな大層なものを、ニコルが連れているのかはわからないけれど、
 ニコルが、どうして行く手を阻むのか、ウルシュリエを連れて来たのか、その理由は嫌でもわかる。
「遊んであげて下さいよ。どうせ大した用でもないでしょう?」
 笑いながら、ウルシュリエの背中を撫でるニコル。
 ゴウゴウと黒い炎を口から吐き出すウルシュリエの様は "急かし" そのもの。
 遊んであげてって …… そんな気持ち悪い鳥と、何をどうして遊べっていうのさ?
 大した用じゃないって …… だから、すごく楽しみにしてたんだってば。勝手に決めないでよ。
「はぁ …… 」
 ワザとらしく、大きな溜息をひとつ。
 おかしいなとは、思ったんだ。進めど進めど、一向に居住区が見えてこないんだもの。

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「 …… 飼えるかなぁ?」
 炎を剥くウルシュリエを見上げるナナがポツリと呟いたそれは、好奇心による望みだった。
 実は、気になっていた。資料室で目にした資料、そこに描かれていた姿を見たその瞬間から。
 吐き出す炎と同じ色、綺麗な赤い瞳。その赤をこの上なく映えさせている漆黒の翼。
 あぁ、こんなにも綺麗な鳥が存在するんだ。
 飼ってみたい。というよりかは、傍に置いておきたい。
 傍に置いて、好きなときに好きなだけ愛でたい。
 コレクション願望に似たその願望を、ナナは、資料に目を通した瞬間からずっと胸に抱いていた。
 死やら絶望を象徴するとされている魔界の番鳥ウルシュリエ。
 不気味なその姿に "綺麗" だなんて感想を抱くあたり、ナナの感性はどこかしらズレている。
『お前はまた突拍子もないことを …… 無理に決まってるだろ』
 やれやれといった様子で、ウルシュリエを見上げるナナを諭すのは、シャドウ。
 魔界の番鳥として闇の世界を駆けるウルシュリエを愛で、ましてやペットにするだなんて、無理な話。
 だいたい、こんなデカい鳥をどこにかくまうつもりだ。生き物である以上、食事(餌)も必要になるだろうし。
 好奇心旺盛なのは結構なことだが、お前は、些か勝手すぎる。
 よく言うだろう? 飼える環境でもないくせにペットを欲するなんて無責任なことだと。
 そもそも、ニコルのやつが連れている時点で、この鳥は奴のものだ。
 まぁ …… 何故こいつがこんな大層な鳥を連れているのかはわからないが。
「そっかぁ …… 残念」
 シャドウに諭され、ウルシュリエが既に他人のものであることを理解したナナは、少し寂しそうに呟いた。
 ナナがそう呟くと同時に、ニコルがパチンと指を弾く。
 攻撃を許可する合図だ。
 いつまで待たせる気だ、早く攻撃の許可をくれ。
 欲していた合図をようやく受け取ることができ、ウルシュリエは御満悦。
 やはり、綺麗だなんてとんでもない。この鳥は、間違いなく魔鳥。魔界に生ける凶悪な存在なのだ。
 炎を剥きながら飛びかかってくるウルシュリエ。襲いかかる圧の中、ナナは小さな溜息を吐き落とす。
 その溜息は、諦めによるもの。同時に、あるものに対して完全に興味を失った証でもある。
 自分のものにできない、手に入らないとわかったら、途端にどうでもよくなる。
 それまで欲していた気持ちが、嘘のようにサッと冷める。
 だから、ナナは交代した。
「 …… ほぅ? これはまた愉快なペットじゃな」
 ナナの頬に刻まれている数字が 【Z】 から 【V】 に変化。
 瞬時に表に出たのは、三番目の姉 "ミト" という人格そのもの。
「まぁ、この子の可愛さには及ばぬ。ナナは、本当に欲張りさんじゃのぅ」
 クスクス笑いながら高く飛び跳ね、ウルシュリエの頭部にストンと着地するナナ。
 ナナの傍には、いつの間にやら、翼を持つ白い虎 "タマ" が出現している。
 お世辞にも可愛いとは言えない姿なのに、タマ。そもそも虎なのに、タマ。 
 不釣り合い且つ珍妙な名前からわかるように、この虎の名付け親は、ナナだ。
 タマは、二年ほど前、訳あってナナに保護され、そのままナナに飼われているペットである。
 虎なのに翼を持っているというあたり、ただの虎でないことは明らかだが、
 ここでタマの生態やら過去を語る余裕はない為、今回は割愛しよう。
「ゲェッ! ゲェェェッ!」
 攻撃を避けられたこともそうだが、何より、頭の上に軽々と乗られてしまったことが不愉快なのだろう、
 ウルシュリエは、不気味に鳴き散らしながら身体を揺らし、ナナを振り落とそうとする。
「おぅおぅ、気性の荒さはこの子に引けをとらぬな」
 そう言いながら笑うナナ。
 ウルシュリエがどんなに身体を揺らそうとも、ナナが振り落とされることはない。
 なぜならば、護られているから。タマの翼に抱かれるようにして、ナナは宙に浮いているから。
 だが、ウルシュリエは "頭の上に何かが乗っている" という感覚を拭えずにバタバタと身体を揺らす。
 何も誰も乗っていないのに、勝手にジタバタ暴れる姿は、傍から見ると滑稽だ。
「殺すのは惜しいのぅ …… 」
 ウルシュリエの視界に入らぬよう、死角へ死角へと回り込みながら呟くナナ。
 欲張りさんだ、と言ったが、ナナがこれを欲した気持ち、わからなくもない。
 ナナの感性は独特ゆえ、私はこれを綺麗だとは思えぬが …… 愛でる以外にも色々と用途がありそうだ。
 なんて、物のように扱うことを言うとナナは怒るじゃろうが、使い勝手が良さそうなのは確か。
 これだけ大きければ、多数の者を背に乗せて運べるじゃろうし。
 ナナの友人、海斗やら梨乃やらを連れて空の散歩なんぞ洒落こめば、そこそこ楽しめそうな気もする。
 まぁ、ナナのことだから、もしも自分のものにできれば、何にせよ、間違いなく友人らに紹介しただろうとは思うが。
 そうやって愉しむ以外にも、用途は様々思いつく。
 次々と浮かぶ用途は、いわば、可能性じゃ。
 だからこそ、惜しい。
「 ………… 」
 チラリと、ニコルを見やったナナ。
 ニコルはニコルで、満足気な笑みを浮かべながらナナを見やっている。
 先程、指を弾いて合図を飛ばし、ウルシュリエがそれに応じて攻撃を開始したことから、
 間違いなく、何らかの方法でニコルは、この鳥、ウルシュリエを操っている。
 どんな手法なのか、どうやってこの魔鳥を手に入れたのか。
 気にならないと言えばウソになる。
 だが、訊くことはしないし、そもそも、訊いたところでニコルは、笑ってはぐらかすだけだろう。
 ウルシュリエという魔鳥に魅力を覚えるのは確かな事実だが、既にこれがニコルのものであることもまた事実。
 諦め、半ば拗ねるような形で交代したからこそ、何とかしてやれぬものかと思ったが、どうやら無理そうだ。
 ニコルのモノとしてでなく、そこらでバッタリと遭遇できていれば、手中に収める手段もあっただろうに。
「 …… まぁ、仕方ないのぅ」
 一際大きな溜息を吐き落とし、指を踊らせるナナ。
 名残惜しそうな、残念そうな表情で素早く十字を切るように指を踊らせれば、
 何とも呆気なく、ウルシュリエは、音もなくバラバラになる。
 細く細かく刻まれて、パサパサと地面に落ちていくウルシュリエは、まるで、切り刻まれた紙屑のよう。
 惜しい、もったいないとは言いつつも、自らに牙と炎を剥く "敵" である以上、トドメは確実に、そして残酷に。

「これで満足かの?」
 タマの翼に覆われながら、スーッと降りてくるナナ。
 ナナがストンと靴を鳴らして着地すると同時に、ニコルは肩を竦め、また、パチンと指を弾く。
 逃げ出さぬようにと張り巡らせていた結界も消え、晴れて自由の身となったナナ。
 どうぞ? といわんばかりに道を開けるニコル。
 その表情からして、決して満足したわけではなさそうだが、
 もう少し遊んで欲しかったなと駄々をこねる様子も、ニコル自らが襲いかかってくるような気配もない。
 まぁ、どうやって手に入れたのかはわからないが、せっかく連れてきた魔界の番鳥を、
 こうもあっさりと始末されてしまっては、駄々を捏ねる気も、躍起になって襲いかかる気も失せてしまうか?
「では、失礼する。ナナは …… 拗ねているが、私はそれなりに楽しめた。礼を言うぞ」
 クスリと笑い、ニコルの肩にポンと手を置いてその場を去ろうとしたナナ。
 その瞬間、ニコルは、咄嗟にギュッとナナの手首を掴んだ。
 引き止める気なんて、なかったはずなのに。
「 ………… 」
 咄嗟に自分がとってしまった行動に、些か驚いているのだろう。
 ニコルは何も言わず、沈黙を続けた。どうすればいいのかわからない、といった様子だ。
 そんなニコルに笑い、ナナは、腕を掴むニコルの手を優しく解くと、
「妾らはなにも変わっちゃおらんよ。そなたらが妾らのことを知ろうとしなかっただけ。アールの姉上が呪を施した意味、さっさと気づけ」
 落ち着いた柔らかな声でそう言い残し、その場を立ち去った。
 去り行くナナの背中を見送るニコル。
 また腕を掴んで、ちょっと待ってくれと引き止めたい気持ちは確かにあったが、
 そうやって引き止めたところで、その次、引き止めた後に放つべき言葉がわからない。
 姿が見えなくなってもなお、ずっと、そんなことを考えながらナナを目で追っていたニコル。
 だが、しばらくして、ニコルの視線は、ナナから、ナナによって紙屑と化してしまったウルシュリエに移る。
「 …… まだまだ。こんなんじゃ、役にたたないね」
 ポツリと呟いたニコルだが、その横顔には、いつもの悪戯な笑みではなく、憂いが満ちていた。
 まるで、必要な感情を不必要なものだと、そう自分に言い聞かせ押し殺すかのような。

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 The cast of this story
 8381 / ナナ・アンノウン / 15歳 / 黒猫学生・看板娘
 NPC / ニコル / ??歳 / クロノハッカー
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。