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■クロノラビッツ - vite -■

藤森イズノ
【8381】【ナナ・アンノウン】【黒猫学生・看板娘】
「何なんだよ、これ! どーなってんの、マジでっ!」
「私だってわかんないわよ。文句言ってるヒマあるなら、動いて」
 言い争う海斗と梨乃。いつもの光景 …… にしては、随分と切迫しているようだ。
 二人は今、アスペルタイトという国に来ている。そこは、広大な森の中に築かれた美しい国。
 観光目的ではなく、マスターに要請されて、二人はこの国にやって来た。
 何とかしてこいとマスターに言われた、その内容は "時兎の討伐"
 いつもやっていることではないか、切迫する要素なんてないではないかと思うだろうが、今回は異例。
 何と、アスペルタイト国民の九割が、時兎に寄生されてしまっているという緊急事態なのだ。
 アスペルタイトは小さな国だが、国民の九割となると、その数は三十万人を優に超える。
 いわゆる、大量寄生。過去にも数回このような事例はあったが、ここまで大規模なものは初めてである。
 アスペルタイトに入国して、既に十二時間が経過。急がねばならぬことは承知しているが、数が多すぎる。
 タスラム(魂銃)を用いて必死に時兎を次々と消していく海斗と梨乃に、疲労の色も垣間見えてきた。
 藤二・千華・浩太は、他の仕事で忙しいため、すぐには現場に来れない。
 こっちの仕事が終わったらすぐに駆けつけるという連絡は受けたが、いつになるやらさっぱりわからない。
「むあぁぁぁぁぁぁーっ! うぜぇぇぇぇぇ! 多すぎー!」
「はぁ、はぁ、はぁ …… だから、文句言ってるヒマあるなら、動いてってば!」
 必死に討伐しているものの、まったく終わりが見えてこない現状。
 もしかすると、全員を救うことは出来ないかもしれない。
 その不安が、徐々に大きくなっていく様に、梨乃はキュッと下唇を噛んだ。
 クロノラビッツ - vite -

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「何なんだよ、これ! どーなってんの、マジでっ!」
「私だってわかんないわよ。文句言ってるヒマあるなら、動いて」
 言い争う海斗と梨乃。いつもの光景 …… にしては、随分と切迫しているようだ。
 二人は今、アスペルタイトという国に来ている。そこは、広大な森の中に築かれた美しい国。
 観光目的ではなく、マスターに要請されて、二人はこの国にやって来た。
 何とかしてこいとマスターに言われた、その内容は "時兎の討伐"
 いつもやっていることではないか、切迫する要素なんてないではないかと思うだろうが、今回は異例。
 何と、アスペルタイト国民の九割が、時兎に寄生されてしまっているという緊急事態なのだ。
 アスペルタイトは小さな国だが、国民の九割となると、その数は三十万人を優に超える。
 いわゆる、大量寄生。過去にも数回このような事例はあったが、ここまで大規模なものは初めてである。
 アスペルタイトに入国して、既に十二時間が経過。急がねばならぬことは承知しているが、数が多すぎる。
 タスラム(魂銃)を用いて必死に時兎を次々と消していく海斗と梨乃に、疲労の色も垣間見えてきた。
 藤二・千華・浩太は、他の仕事で忙しいため、すぐには現場に来れない。
 こっちの仕事が終わったらすぐに駆けつけるという連絡は受けたが、いつになるやらさっぱりわからない。
「むあぁぁぁぁぁぁーっ! うぜぇぇぇぇぇ! 多すぎー!」
「はぁ、はぁ、はぁ …… だから、文句言ってるヒマあるなら、動いてってば!」
 必死に討伐しているものの、まったく終わりが見えてこない現状。
 もしかすると、全員を救うことは出来ないかもしれない。
 その不安が、徐々に大きくなっていく様に、梨乃はキュッと下唇を噛んだ。

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「あ〜らららららっ♪ 確かにコレは、ひっどい有様ねぇん」
「えっ …… ?」
「んあっ?」
 聞き覚えのある声に、同時に手を止めた海斗と梨乃。
 声のした上方をバッと見やれば、大樹の枝に座り、ウフフと楽しそうに笑っているナナの姿。
 だが、いつものナナと明らかに雰囲気が違う。そもそも、ナナは "ウフフ" なんて笑い方しない。
 それに、服装もいつもと違う。いつもは、ちょっと大きめサイズの可愛い猫パーカーを羽織っているのに。
 今日のナナの服装は、黒い蝶の刺繍が美しい深紅のチャイナドレス。
 スリットなんかもう、かなりギリギリのところ。つまり、ものすごくセクシーな服装をしている。
 いつもと違うナナに、始めのうちこそ戸惑った海斗と梨乃だが、すぐに悟った。
 ナナだけど、ナナじゃない。
 ナナの中に、いくつもの人格が入っていることを、ナナから直接聞かされていた二人は、すぐに "それ" だと気付いた。
 海斗と梨乃が察したとおり、現在、表に出ているのは、ナナの中で生きている "アール" という存在で、彼女は、ナナの実姉でもある。
「ナナちゃんにお願いされて助けにきたのん♪ よろしくねぇ」
 ピョンと枝から飛び降り、海斗と梨乃にズィッと顔を近づけて挨拶するナナ。
 いつもと明らかに雰囲気が異なることに、些か違和感を覚えるようだが、ここで助っ人の加入は非常に有難く心強い。
「っていうか、あなたが梨乃ねぇん? ナナちゃんから聞いてるわ。いや〜ん、ほんっと、お肌スベスベ! かぁわいい〜♪」
「えっ、あ、あの …… 」
 ペタペタと梨乃の頬に触りながら、嬉しそうに笑うナナ。
 過度なスキンシップに、相手は女の子とはいえ、梨乃は少し焦っているようだ。
「うぉい! そんなん後でいーから! とりあえず、こいつら何とかすんのが先っ!」
 嬉しそうなナナ、戸惑う梨乃を横目に、大きな声で現状のマズさを示唆した海斗。
 海斗の発言に、ナナは 「何よぉ、ノリの悪いコねぇ〜」 などと口を尖らせたが、マズい状況なのは確か。
 アールは、時兎やら討伐やらに関する事柄も、全てナナに聞かされており把握している。
 だからこそ、この大量寄生が危険な状況であることも理解済み。
 海斗と梨乃、二人が必死に頑張った成果として、百五十匹ほどの時兎は既に討伐されたようだが、
 アスペルタイト国民は三十万を超え、その九割となると …… 百五十匹なんて、ほんの僅かだ。
 寄生から半日が経過していることもまた、マズさに拍車をかけている。
 遺された猶予は、あと半日。
 半日で残りの何十万もの時兎を討伐せねばならないとなると、もはや過酷なんて言葉じゃ済まない。
 というより、まず無理だ。どんなに躍起になったところで、全ての時兎を討伐することはできないだろう。
 だからこそ、海斗と梨乃は焦っていた。担う使命を果たせぬのではないかと。
 異例とはいえ、寄生は寄生。契約者である以上、時兎を討伐する使命は変わらず課せられる。
「マジでまいった。どーすりゃいい …… これ」
 額の汗を拭いつつ、珍しく神妙な面持ちで呟く海斗。
 討伐を再開してみたものの、やはり終わりが見えない。
 疲労から、梨乃は、肩を揺らしフラつきながらも討伐を続けている。
 で、ナナは何をやっているのかというと。
(うふ …… )
 笑っていた。
 躍起になる海斗と梨乃を見やって、何ともいえぬ笑みを浮かべていた。
 必死な姿、どうにかできないかと足掻く姿。ナナ …… いや、アールは、そんな二人の姿に高揚を覚えていたのだ。
 だがまぁ、ナナに頼まれて来た以上、いつまでもウフフウフフと笑っているわけにもいかない。
 正直、もうちょっと、海斗と梨乃が足掻く姿を愉しんでいたいという気持ちはあるのだが。
「ふふ。ちょぉ〜っと、二人とも後ろに下がっててくれるぅ?」
 ようやく立ち上がり、海斗と梨乃を後ろに下げさせたナナ。
 何か良い案でもあるのか? と食いつく海斗と、呼吸を整えながら首を傾げる梨乃。
 ナナは、胸元に手を突っ込みながら、クスクス笑って言う。
「ようするにぃ、兎ちゃんをまとめてババーンと処理できちゃえばいいってことでしょ〜?」
 いや、確かにそうなのだが。
 それが出来ないから困り果てていたわけで。
「お前、フザけてんの?」
 ムッとした表情でナナを睨みつける海斗。
 背中に突き刺さるその視線に、また高揚を覚えつつ、ナナは笑んだ。
 そして、胸元から数本の黒いナイフを取り出し、それらを空に向けて投げ放つ。
 海斗も梨乃も、咄嗟に空を見上げたが、あまりにも早くて、ナナが何を投げたのかわからなかった。
 だが、数秒後、ナナが空に投げ放ったものがナイフだったことを、二人はその目で理解する。
 見上げた空の青が、みるみる黒くなっていったのだ。
 雲 …… かと思ったが、違う。それは、何百、何千、何万ものナイフが集結して成す "黒" だった。
 空中で、ガシャリとひと塊りに纏まったナイフは、その形状を維持したまま、地上へ降りてくる。
 すぐ真上、頭上で危うく揺れるナイフの塊にポカンと口を開ける海斗と梨乃の姿は、ちょっとマヌケ。
「んじゃ、始めよっかぁ〜♪ 二人はそのまま、動かないでねん。怪我しちゃうからん♪」
 クスクス笑って、奇妙なステップを踏み始めるナナ。
 ステップに併せて鳴る足音は軽快で、妙に気分を高鳴らせる。
 ナナのステップ、舞いに合わせるかのようにして、ナイフもまた踊り出す。
 ひと塊りに纏まったナイフは、ひとつ、またひとつとその塊から飛び出し、時兎へと向かっていく。
 ナナのステップが激しく熱気を帯びゆくに連れ、ナイフらの動きもまた激しくなって。
 何とも気持ちよさそうに、汗を散らしながらステップを踏むナナ。
 そのステップに応じるかのように、ヒュンヒュンと飛んでいく黒いナイフ。
 最終的に、ナナのステップは何ともエロ …… いや、妖艶なものになり、黒いナイフは、放射線のようにザァァァッと飛んでいく。
 海斗と梨乃は、その光景を、ただボンヤリと見やっていた。
 いや、見惚れていたと言うべきか。

 華麗かつ妖艶なステップによりナナが放った黒いナイフは、
 見事に次々と時兎を仕留め、仕留め終えるとすぐさまナナの傍へと戻っていった。
 時間にして、わずか三十分。ナナは、海斗と梨乃が手を焼いていたマズい状況を、あっさりと片してしまった。
 まぁ、あっさりとは言え、三十分もの間、魂のこもった熱いステップを踏み続けたがゆえ、ナナは汗だくだが。
「はぁ〜い、おしまいっ♪ ふふ …… ど〜お? 一気にババーンと片付いちゃったでしょお? うふふふん」
 汗を拭いながら笑うナナ。
 辺りは、時兎を仕留め終えて戻ってきた黒いナイフで埋めつくされている。
 いや、それにしても …… 色っぽい。際どいスリットから露出している太ももに滲む汗から、何とも言えぬエロさ。
 普段、ナナを見て "エロっ!" だとか、そういう色っぽさを感じたことなんて今まで一度もなかったのに。
 何だ、このエロさは。何だ、この気持ちは。何だかこう、このままこう、ガバッと …… ――
 バシッ ――
「あ、痛っ!」
「ありがとう、ナナちゃん。 …… でも、何か、ごめんね。私達が何とかしなきゃいけないことだったのに …… 」
 妖艶なステップと熱気にあてられ、おかしなことを考えてしまっていた海斗の頭を叩いてから、お礼を述べた梨乃。
 いきなり何すんだ! と横でキーキー文句を言ってるあたり、おかしなことを考えていた自覚が海斗にはないようだ。
「ふふ。気にしな〜いで♪ ナナちゃんに頼まれて来ただけなんだからぁ〜」
 クスリと笑い、海斗と梨乃の鼻頭をツツンと突くと、
 ナナ …… いや、表に出ていたアールは、こう言い残して裏へ戻っていった。
「お礼なら、ナナちゃんに。ねっ♪ んじゃ、再見♪」
 アールが裏に戻る、ということは、普段のナナに戻るということであり。
 それまで、裏でぐっすりと昼寝をしていたナナは、強制的に表に戻されてしまったということになる。
 寝起きなだけあって、焦点が定まらないナナ。
 ナナは、ぽやーっとした表情で、ぼんやりと視界に映る海斗と梨乃を確認すると、
「あれ …… ? 海斗と梨乃だ …… んぅ …… ? アール姉は …… 」
 そう言いながら、コシコシと目を擦った …… のだが。
「はわっ!」
 すぐさまバチッと目を見開き、逃げるようにガサガサッと茂みへと身を隠した。
 寝起きのナナが驚いたのは、自身の服装にある。普段なら絶対に着ないセクシーなチャイナ服。
 先程まで表に出ていたアールが、激しくステップを踏んでいたこともあって、ちょっと不快な汗ばみもある。
 長時間交代した後は、必ず着替えてから戻ってねって言ってあるのに、これだ。
 ちょっとした悪戯のつもりなのだろうが、肌の露出を極端に恥ずかしがるナナにとっては、大迷惑なこと。
 それまでと明らかに異なる態度・反応から、元のナナに戻ったことを把握した海斗と梨乃は、
 改めて、協力してくれたことに感謝を述べようと、茂みに隠れるナナに歩み寄った。
「おーい、ナナ」
「ナナちゃん?」
「ち、ちょっと待って! い、今、着替えるからっ …… 」
 茂みの中、しどろもどろになりながら叫んだナナ。
 海斗と梨乃がナナの焦りに満ちた大きな声を聞いたのは、この日が初めてのことだった。

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 The cast of this story
 8381 / ナナ・アンノウン / 15歳 / 黒猫学生・看板娘
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。