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■第2夜 理事長館への訪問■

石田空
【8058】【ヴァルツェ・シュヴァル】【表:貴族、裏:一族の主】
「全く……、理事長、この現在の学園の状況を本気で放置されるおつもりですか?」
「そうねえ……」

 理事長館。
 学園の中に存在するその館には豪奢な調度品が並べられていた。
 創設時から、学園の生徒達とよりコミュニケーションを円滑に取れるようにと、代々の理事長は学園内に存在するこの館で生活をし、学園を見守っているのだ。そのせいか、この館には色んな生徒達が自由に行き来している様子が伺える。
 現理事長、聖栞はにこにこ笑いながら、生徒会長、青桐幹人の話を聞いていた。
 栞は美しい。彼女は実年齢を全く感じさせない若々しさと、若かりし頃バレエ界のエトワールとして華々しく活躍してつけた自信、そして社交界で通用する知性と気品を身につけていた。故に、彼女がこうして椅子に座っているだけで様になるのである。

「反省室は現在稼動不可能なほど生徒が収容されています。通常の学園生活を送るのが困難なほどです」
「まあ、そんなに?」
「怪盗は学園の大事な物を盗み続けています。なのに警察に話す事もせず、学園で解決する指揮も出さず……ここは貴方の学園なのでしょう?」
「………」

 栞は目を伏せた。
 睫毛は長く、その睫毛で影が差す。
 そして次の瞬間、彼女はにっこりと笑って席を立った。

「分かったわ」
「……理事長、ようやく怪盗討伐についての指揮を……」
「生徒達と話し合いをしましょう」
「……はあ?」

 栞の突拍子もない言い方に、青桐は思わず目を点にした。

「夜に学園に来た子達と話し合い。うん。それがいいわ。私が直接皆と面接をします」
「貴方は……学園に何人生徒がいると思っているのですか!? それにそれが本当に根本的な解決に……」
「なるかもしれないわよ?」

 栞はにこりと笑う。
 たおやかな笑いではなく、理知的な微笑みである。

「想いは力。想いは形。想いは魂」
「……何ですかいきなり」
「この学園の精神よ。どの子達にも皆その子達の人生が存在するの。だから一様に反省室に入れるだけが教育ではないでしょう?」
「それはそうですが……」
「だから、怪盗を見に行った動機を聞きたいの。それに」
「はい?」
「……案外その中に怪盗が存在するかもしれないわねえ」
「は? 理事長、今何と?」
「学園に掲示します。面接会を開催すると。生徒達にその事を知らせるのも貴方のお仕事でしょう?」
「……了解しました」

 青桐は釈然としない面持ちで栞に一例をすると理事長館を後にした。

「さて……」

 栞は青桐が去っていったのを窓から確認してから、アルバムを1冊取り出した。
 そのアルバムには名前がなく、学園の景色がまばらに撮られていた。

「この中に、あの子達を助けられる子は、存在するかしら……?」

 写真は何枚も何枚も存在した。
 13時の時計塔。その周りに集まった、生徒達の写真である。
第2夜 理事長館への訪問

/*/

 午後4時10分。
 放課後に入ったせいか、前に来た時はベンチでくつろげた中庭も、生徒の多さで騒々しい事になっていた。
 音楽科の生徒達が楽器の練習をしていたり、聖歌隊が発声練習をしたりしている。
 また授業が終わった生徒達が、ベンチに座って休憩していたりするから、空いているベンチがない。
 シュヴァル・ヴァルツェはそれを目を細めて見ていた。
 俺がガキだった時もこんな感じだったか。
 少しだけ懐かしくなったが、今は理事長の事が先である。
 あの女、俺が銃を持っている事に気が付いていた。
 あいつは何なんだ?
 それに、あの夜に会った白いガキも……。
 白いガキは怪盗の事を「邪魔」と言っていたが、怪盗が邪魔って言うのも変な話だ。
 シュヴァルは、とりあえずちらちらと視線を彷徨わせた。
 程よいガキはいないか……できるだけ1人で歩いていて、口が固いのがいたらいいが……。
 そう思っていたら、中庭の端っこにあるベンチに1人で座っている女子生徒がいる事に気が付いた。
 華奢な身体付きや座り方からして、バレエ科だろう。小柄だが……初等部か中等部か?膝には教科書とノートを広げているから、宿題か何かだな。
 まあ、ガキは1人でいる時は割と警戒するが、脅しか何かをかければ口は割らないだろう。
 シュヴァルはそう判断し、女子生徒の座るベンチに腰をかけた。
 女子生徒は少しびっくりしたような顔をしてこちらを向いた。

「よう」
「貴族様?」
「分かるのか?」
「学園にあんまり外部の人は来られませんし……服が高そうですもの」
「ハハハ……」

 目端はそこそこ利くか。
 シュヴァルは腹の中でそう呟くと、本題に入った。

「この間怪盗がここの時計塔に現れただろう? 俺もそこにいたんだ」
「あら……貴族様行かれたんですか? いいなあ……」
「まあ見物だな。そこで白い女に会ったんだが……身体が透けててな」

 まさか銃で撃ったら弾が通り抜けたなど、言えるはずもなく。
 女子生徒は、目を大きく見開いて、きらきらした顔で聞き入っている。

「すごーい! 貴族様、白おばけに会ったんですかぁ!?」
「声下げろ。あまり表立って言う話でもねえだろ」
「まあそうですよねぇ。普通信じませんし」

 女子生徒はへろっと声を1オクターブ低くした。

「そもそも、白おばけって何だ? たまたま耳にしたが」
「うーんと、確か初等部で流行ってる怪談ですねえ。何か夜に歩いていたら、白いチュチュを来た女の子が踊っているのに会うって」

 確か、前にいた白いガキもそうだったな。

「怪談ではどうなってるんだ?」
「貴族様って、ウィリーって知ってますか?」
「ウィリー? 知らん」
「何でもヨーロッパで未婚で死んじゃった女の子が、死んでも死に切れずに夜な夜な現れて踊って、一緒にあの世に行ってくれる男の人を踊り疲れさせて殺しちゃうそうですよー」
「……何だ、つまり道連れを夜な夜な探して歩き回っているのか?」
「最初はそんな怪談が流行ってたみたいですけどぉ、最近は何か変わっちゃったんですよぅ」
「変わった?」

 シュヴァルは、自分の主を思い浮かべた。
 まさかとは思うが、道連れに選ばれたとか、そんな事はないだろうな。

「何でも、魂を集めてるとか」
「たましい?」

 シュヴァルは、そう言えば白いガキもそんな事を言っていた事を思い出した。

『それ、どんなに大事にしてても魂1人分の足しにもならないのに』

 まさかとは思うが、魂狩りをしているとか……?
 ますます、シュヴァルはひやりとしたものを感じた。

「白いおばけに気を付けて〜♪ お前の魂取られるぞ〜♪ って、最近そんな怪談になってますね。って貴族様大丈夫ですか? 顔青いですよ?」
「……いや、まあ情報は感謝する」
「いえいえ。言ってもホラ吹きとか思われたり怖がられたりで、最後まで話した事ありませんし」

 女子生徒はそう言いながらノートの端っこを破いた。

『中等部1年バレエ科:喜田かすみ』

 そう書かれた紙切れを差し出した。

「貴族様貴族様、何か面白い話とかありましたら、いつでもお持ち下さいね♪ 怪談とか噂話って、ぜーんぜん誰も訊いてくれないからつまりませんもの」

 女子生徒改め喜田かすみはそう言ってシュヴァルに紙を押し付け、ひどく上機嫌にスキップして去っていった。
 ……前言撤回。あのガキは目端は聡いが、バカだ。
 シュヴァルはやや苦々しげに紙切れをポケットに突っ込んだ。

/*/

 午後7時。
 既に部活も終了時刻らしく、あれだけ人が多かった中庭の人影もまばらになってきた。
 シュヴァルはあれから中庭で、理事長館から面接に出てくる生徒達から理事長の話を訊いていた。

 曰く
「理事長はいい人ですよ」
 曰く
「お茶だけじゃなくお菓子も出して欲しかったです」
 曰く
「きゃつは混乱を呼び出しておる。気をつけよ……」
 曰く
 ………。

「……あの女、印象がバラバラだな」

 シュヴァルは顔をしかめた。
 さっきのガキは時計塔見物には行っていなかったみたいだから、呼び出しは受けてねえようだし。
 仕方がない。
 シュヴァルはとりあえず理事長館へと足を運んだ。
 理事長館の門を潜り、扉を先日もらった鍵で開ける。

「失礼します」

 ガチャリ、と音を立てて入った瞬間、何か違和感を覚えた。
 何だ……?
 その違和感が何か分からず首を捻っていると、制服姿の男子生徒が階段を上がっていくのが見えた。

「すまない。今日は理事長に話をしに来たんだが」
「……奥。応接室」

 随分無愛想なガキだな。
 しかし、どこかで見た事があるような……?
 社交界での付き合いでだったか? この学園の生徒って事は芸術方面だろうが……。
 シュヴァルがそう訝しがっている間に、男子生徒は黙って2階の部屋へと音もなく入っていってしまった。
 ……何なんだ。
 シュヴァルは憮然とした顔を何とか消し、できるだけポーカーフェイスを保ったまま、応接室へと足を運んだ。
 ドアを2回叩いて、扉を開く。
 栞は、応接室のテーブルを拭いていた。

「失礼します」
「ご機嫌よう、ヴァルツェさん。申し訳ありません、こんな時間になってしまって。生徒は下校時刻がございますので、できるだけ6時までに面接を済ませるとなったら、こんな時間になってしまいましたの」
「まあ、そうでしょうね。それ位になったら」
「立ち話も難ですね。そちらのソファーへとお座り下さい」
「失礼します」

 ソファーに腰を落として改めて応接室を見回す。
 本棚にはたくさんの本が詰まっており、奥にはガス台。ピアノも置いてある。
 応接室の割には、随分邪魔な物が多いな。趣味か?
 シュヴァルはそう思いながら視線を栞に移すと、彼女は紅茶をカップに注いでいた。この匂いは……キャンディか。
 栞はにこにこと笑いながら、カップをテーブルに置いた。

「1つ質問があるのですが、よろしいですか?」
「私で答えられる事なら何なりと」

 紅茶に手をつけるか、シュヴァルは少し悩みながら、形だけはカップを手に取って続けた。

「この館は何なんですか? 何か、違和感を感じます」
「変ですね、ここは普通の人には何もないはずなのですが」

 普通の人には?
 シュヴァルは胸に携帯している銃を思い浮かべた。
 あの銃は、魔力で構成された弾を使って発動する。その銃が今何の反応も示さないのだ。
 まさか。
 この館全体に、魔力無効の結界が敷かれている……?
 シュヴァルは紅茶をテーブルに置き直した。

「……貴様、何を知っている?」

 シュヴァルは、本来の口調に戻っていた。
 栞は、相変わらず笑顔でいる。

「安心なさって下さい。命の危険はありませんから。少なくとも、今は」
「今は? どう言う事だ」
「貴方は、失ったら自分の命を引き換えにしてでも取り戻したいものはありますか?」
「え……?」

 虚を突かれた。
 シュヴァルはその問いで真っ先に思い浮かべたのは、自分がただ1人守りたいと願っている相手の姿だった。

「私は、貴方の事を全て知っている訳ではありませんが、少なくとも今は、外では危険はありません。でも今後はどうなるかは、残念ながら私にも読めませんので保障できません」
「魂……」
「えっ?」
「魂1人分の価値がどうとか言っていた奴がいた。それが危険な敵なのか?」
「………」

 栞の笑顔は消え、替わりに浮かんだ表情は心底悲しそうな顔であった。

「そうでなければいいと願っています」
「ふん」

 中途半端な魔女が。
 シュヴァルはそう思ったが、少なくともこの女には敵と戦うだけの能力がない事だけは分かった。
 前に見た白おばけが何かは分からないが、あれが敵なら面白い。
 怪盗野郎を敵だと言っているのなら、怪盗を見張っていればいずれあの白おばけにも会う事だろう。
「今は」安全と言う事は、いつ主に危険が及んでもおかしくないと言う事だ。
 叩き潰すのも、面白いのではないか?

<第2夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8058/ヴァルツェ・シュヴァル/男/28歳/表:貴族、裏:一族の主】
【NPC/聖栞/女/36歳/聖学園理事長】
【NPC/喜田かすみ/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】

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■         ライター通信          ■
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シュヴァル・ヴァルツェ様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第2夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は喜田かすみとのコネクションができました。よろしければシチュエーションノベルや手紙で絡んでみて下さい。

第3夜も現在公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。