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■クロノラビッツ - 時の鐘 -■

藤森イズノ
【8388】【聖夜・伊歩】【星術師】
 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.

 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

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「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」

 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。

「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」

 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。

「ん〜〜〜♪」

 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。


 クロノラビッツ - 時の鐘 -

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 When you wish hard enough,
 so that even a star will crush,
 the world we live in will certainly change one day.
 Fly as high as you can, with all your might,
 since there is nothing to lose.
 CHRONO RABBITZ *** 鳴らせ 響け 時の鐘
 時を護る契約者、悪戯仕掛けるウサギさん、全てを統べる時の神 ――

「あいつだよな?」
「えぇと …… うん。間違いなく」
 手元の書類を確認しながら呟いた梨乃。
 梨乃の返答を聞いた海斗は、ニッと笑みを浮かべた。
 そのイキイキした表情に、いつもの嫌な予感を感じ取る。
「今回は、失敗が許されないんだからね。ちゃんと指示通りに …… 」
 呆れながら警告したものの。
 既に、梨乃の瞳は、遠のく海斗の背中を捉えていた。
 いつものこと。ヒトの話を聞かないのも、勝手に動き回るのも。
 今更、怒ったりはしない。無駄な体力を消費するだけだから。
「ん〜〜〜♪」
 口角を上げたまま片目を閉じ、海斗は構えた。
 不思議な形の銃。その引き金に指を掛け、狙いを定めて。

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「せーの」
 ド、パンッ ――
 躊躇うことなく、引き金を引いた海斗。
 ものすごい発砲音が辺りに響き渡ったが、聞こえているのは、海斗と梨乃のみ。
 そもそも、彼らは、その姿を視認されることがない。確かにそこに存在しているのに、理解されない、特別な存在。
 当然、海斗が、今まさに発砲したこと、後ろから撃つ、だなんて卑怯な真似をしたことも、理解されない。
 誰かに目撃されていただとか、そういった危険性は皆無。
 見えないからこそ、彼らは、こうも大胆に標的を射抜く。
 引き金を引いたことにより、海斗が持つ奇妙な形の銃、その銃口から、赤い炎が放たれる。
 形も異質なら、性能も異質だ。
 放たれた赤い炎は、真っすぐ、微塵のズレもなく、標的へヒット。
 心臓を射抜かれた少女は、そのまま、バタリと前方に倒れてしまう。
 ドサッ ――
「 …… もうちょっと、丁寧にできない?」
「うっさいなー」
「相手は女の子なんだから、ちょっとは気を遣いなさいよ」
「どーでもいーじゃん。死ぬわけじゃないんだからさー」
「そういう問題じゃないのよ。大体、あんたはいつも …… 」
「うるさーい! しつこーい! あーあー! 聞こえなーい!」
 ブルンブルンと首を振りつつ、その場に倒れてしまった少女へと歩み寄る海斗。
 そっと覗きこんで "確認" した海斗は、よし、と頷いて、銃を腰元に収めた。
 絶命したか否かを確認したわけじゃない。
 海斗が確認したのは、消滅。
 射抜いたのは、少女そのものではなく、少女の胸元に張り付いていた厄介な生物。
 まぁ、心臓を射抜かれたことに変わりはないから、かなりの衝撃は走ることになるが、
 少女は、死んでいない。少しの間、気を失っているだけ。しばらくすれば目を覚ます。
 海斗が射抜いた生物、少女の胸元に張り付いていた生物、それは "時兎" と呼ばれる存在。
 その名のとおり、ウサギさんによく似た生物。
 時兎は、適当なヒトに寄生し、記憶を喰らう厄介な存在。
 寄生された瞬間からカウントして、二十四時間以内に消滅させねば、寄生された被害者は、一切の記憶を失ってしまう。
 だが、時兎もまた、海斗らと同じく、不可視の存在。
 つまり、寄生されても、寄生された事実を、ヒトは把握できない。
 だからこそ、海斗や梨乃といった、特別な存在がある。
 彼等は、時の契約者。
 経験を重ね、成長していくヒト。彼らの記憶を護るためにある存在。
「オッケー。消えてる。帰ろうぜー」
「本当に? ちゃんと確認した?」
「したってば」
 ムッとした表情を浮かべつつ、スタスタと歩いて行く海斗。
 梨乃は、念のため、と少女をもう一度確認し、時兎が消えていることを自分自身の目で確かめてから海斗の後を追う。
 ちゃんと確認したのに、わざわざ再確認するだなんて、嫌味なヤツだなーと文句を言う海斗だが、
 海斗は、その大雑把な性格から、仕事においても粗い点が目立つ。
 もしも、きちんと消滅させることができていなかった場合、大変なことになるし、
 自分までマスターに叱られる羽目になる。だからこそ、梨乃は、再確認を怠らないのだ。

 *

 いつもなら、このまま、何事もなかったかのごとく、帰る。というか、帰れた。
 まぁ、見えない存在ゆえに、当然といえば当然。
 彼ら、時の契約者は、いつだって人知れず、こうして "ヒト" の記憶を護る。
 ちょっと待てー! だとか、いきなり何すんだー! とか、そんな風に呼び止められたことはない。一度も。
 だから、彼等は、心底驚いた。
「むぅ …… しかしまぁ、唐突じゃのう」
 背後から、ボソリと呟く声が聞こえたから。
 えっ? と思い、振り返ってみて、彼らは更にギョッとする。
 倒れているはずの、しばらくは目を覚まさないはずの少女が、平然と起き上がっているのだ。
 何やら不満気な表情を浮かべ、ブツブツ文句を言いながら、転んだ拍子に衣服についた埃をポンポンと払っているのだ。
「 …… なんで?」
「私に聞かないで」
 呟き合い、顔を見合わせる海斗と梨乃。
 理解に苦しむ状況下。二人が次にとった行動は、逃亡だった。
 意味がわからない。何で? どうして平然としてる? 起き上がれる?
 確かに、撃ち抜いたのは、少女の心臓そのものではなく、時兎だったわけだが、
 それでも、衝撃が走るのは事実。撃たれて、すぐさま、ああやって起き上がる奴なんて、見たことがない。
 遭遇したことのない状況ゆえ、海斗と梨乃の動揺はかなりの度合いだ。
 ひとまず、急いで戻ろう。時狭間へ。時の契約者が暮らす居住区へ。
 そして、マスターに、マスターに訊いてみよう。どういうことなんだ、と。
 こんなことって、あるのか、と。そう尋ねてみよう。確認してみよう。
 揃って、懐から黒い鍵を取り出す海斗と梨乃。
 二人が同時にクルリと鍵を回せば、どこからともなく、ブゥンと黒い巨大な扉が現れる。
 扉さえ抜ければ。抜けてしまえば一安心。
 この何とも言えぬ困惑状態も、ひとまずは落ち着くことだろう。
 海斗と梨乃は、そんな想いを胸に抱きつつ、扉が開くのを待った。
 ギギギと、ゆっくり開いていく扉。そわそわと落ち着かない様子の二人。
 いつもどおりなのに、じらされているような感覚。
 早く開け。何なんだよ、早く! いつもよりも遅い気がした。まるで、躊躇っているかのような。
 扉が、開くことを躊躇っているかのような。そんな気がした。
「ちょいとお待ち、お二人さん。やるだけやって、勝手に帰るのは、どうかと思うぞ」
「「!」」
 まだ完全に開ききっていない扉の前、逃がしてなるものかと立ちふさがった少女。
 不満、疑問、そして怒り。少女が、それらをぶつけていることは明らかだ。
 そして、それらは、間違いなく自分たちに向けられている。
 少女は言った。ちょっと待てと。お二人さんと。勝手に帰るのは失礼じゃないかと。
 そう、その発言はつまり ――
「見え …… てんの?」
 何度も瞬きを繰り返しつつ、おそるおそる確かめてみた海斗。
 すると少女は、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げ、こう返す。
「見えていなければ、妾はそなたらを追いかけんじゃろ」
 見えている。間違いない。少女の目には、海斗と梨乃がはっきりと映っている。
 そもそも、こうして会話が成立する時点で、それは明白な事実だ。だが、一体どうして。
 会話の成立、ヒトと会話が成立したことに、更に戸惑いが増す。ありえない状況に対する疑問。
 どうすれば、いいんだろう。体験したことのない状況に、海斗と梨乃は黙り込んでしまう。
 彼女の目に自分たちが映っている以上、逃亡は不可能だと思う。
 無理やり強引に逃げることも出来なくはないが、おそらく、また捕まってお終いだ。
 だったらどうする? 説明する? これこれこういう理由なんですって、彼女に説明する?
 いやいや。駄目だ。自分たちの正体を "ヒト" に明かすだなんて、契約違反。
 ヒトと接すること自体、禁じられているのだから。 …… って。
(ん …… ?)
 海斗が "違和感" を覚えた、その時だった。
 頭の中、海斗と梨乃、二人の頭の中に、低く、それでいて優しい声が響く。
 その落ち着いた声は、彼等の主。時狭間を統括する "マスター" という人物のもの。
 マスターは、海斗と梨乃の脳内に直接語りかけ、また、二人に指示を飛ばした。
 その子を、そのまま時狭間に連れてきなさい、事情については後でゆっくり説明するから、と。
 ヒトを時狭間に招き入れるだなんて、聞いたこともない。それこそタブーではないのか。
 海斗と梨乃は、マスターの指示に疑問を抱き、反発した。
 だが、マスターは、連れてこいの一点張り。
 状況の理解を求むならば、おとなしく従え、と二人を叱る。
「なんで …… 」
「 …… 海斗。とりあえず、言うとおりにしましょう」
 契約の締結。それがあるからこそ、存在を許されている契約者。
 存在することを許してくれた、許可してくれた、主に抗う権利なんぞ、彼等にはない。

 *

 ヒトを連れて、進む時狭間への道。
 マシュマロの上を歩いているような、ふわふわした足取り。
 最中、梨乃は、少女に尋ねた。長く沈黙が続き、気まずかった雰囲気を何とかしたいという想いもあって。
「あの …… その子たちは、あなたのペットか何かなの?」
 尋ねつつ、梨乃が見やる先には、奇妙な生物。
 いや、生物なのかもわからないが、それらは、確かに少女の傍にいる。
 下半身が魚の山羊と、下半身が馬の女の子。
 手のひらの上にちょこんと乗りそうな、ミニマムサイズのその二匹は、少女を護るように、少女の隣でフヨフヨと浮いていた。
「おっ、おお! 見えるのか! 嬉しいのぉ♪」
 梨乃の問いかけに対し、ニコリと微笑む少女。
 少女は、嬉しそうに楽しそうに笑みながら、梨乃に話す。
 いつも自分の傍にいる存在。この二匹は精霊と呼ばれる存在で、本来、見えることはない。
 だからこそ嬉しい。自分以外で、彼等をはっきりと視認できる人になんて会ったことがないからと、少女は話す。
 楽しそうに話す少女と、興味深そうに聞き入る梨乃を横目に、海斗は一人、不愉快そうな表情を浮かべていた。
 少女を時狭間に連れていくこともそうだが、それよりも何よりも、彼は気付いてしまった。
 主の発言に、誤魔化しようのない "矛盾" があったことに。
 それまで、疑問視することなど一度もなかった矛盾。
 主が嘘をついていたことに気付かせた、きっかけ。
 矛盾のカギを握る少女の名前は、聖夜・伊歩(せいや・いぶ) 。

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 The cast of this story
 8388 / 聖夜・伊歩 (せいや・いぶ) / 16歳 / 星術師
 NPC / 海斗 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
 NPC / 梨乃 / 17歳 / クロノラビッツ(時の契約者)
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。