■クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -■
藤森イズノ |
|
【8388】【聖夜・伊歩】【星術師】 |
自宅に届いた一通の封筒。
差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
カードには、白いインクで、こう書かれていた。
あなたの秘密を知っています ――
不気味で意味深な一文。
けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ？
そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな？
ピッ ――
「もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うん。どうしたの？」
『お前、今すぐこっちに来い』
「え？ 時狭間？ 何で？ 何かあったの？」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「えっ、やばいって何が …… ちょっと、海斗？ もしもし？」
切れてしまった。
何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
まさか、朝っぱらから悪戯電話？ いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
ヤバイって …… 何が？ まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――
カタン ――
「 ――！！ 」
軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
…… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね？
にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
切迫してるとか、そんな感じ？ まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない？
多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。
なんてことを考えつつ、振り返る。
差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――
|
クロノラビッツ - あなたの秘密を知っています -
-----------------------------------------------------------------------------
自宅に届いた一通の封筒。
差出人の名前はなく、中には黒いカードが一枚だけ。
カードには、白いインクで、こう書かれていた。
あなたの秘密を知っています ――
不気味で意味深な一文。
けれど、ただの悪戯だろうと受け流すには、あまりにも重く、的を射た一文だった。
一体誰が、何のためにこんなことをしているのだろう。差し出し人の目的は何だ？
そんなことを考えながら、カードを手にソファへ腰を下ろした矢先のこと。
携帯電話が鳴り響く。ディスプレイに表示されている名前は、海斗。
こんなに朝早く、どうしたんだろう。 …… あぁ、仕事かな？
ピッ ――
「はい、もしもし」
『あっ、起きてたか』
「うむ。何かあったのか？」
『お前、今すぐこっちに来い』
「時狭間に？ 随分と急じゃな」
『いーから、とにかく急いで来い。そこにいちゃ、やべぇ』
「むぅ、やばいっていうのは …… む、おい、海斗？ もしもし？」
切れてしまった。
何だって言うのか。随分と慌てていたみたいだけど …… 。
まさか、朝っぱらから悪戯電話？ いやでも、悪戯にしては、演技が巧妙すぎる。
そこにいると、ヤバイ。だから、今すぐこっちに来いって、海斗は言っていたけれど。
ヤバイって …… 何が？ まぁ、来いって言うなら行くけど。よくわかんないなぁ。
とりあえず、起きたばかりで寝癖とか酷いし、準備しなきゃ …… ――
カタン ――
「 ――！！ 」
軽くシャワーでも浴びようかと移動し始めたときのことだった。
背後から物音がした。後ろにあるものといえば、窓くらいだ。
物音だけじゃない。人の気配も …… 確かに感じる。
あぁ、そうか。なるほどね。ヤバイって、こういうことだったのか。
…… つまり、今、後ろにいる人物が、このカードの差出人ってこと、だよね？
にしても、窓から侵入してくるなんて、随分とまぁ、大胆なことをするもんだなぁ。
切迫してるとか、そんな感じ？ まぁ、目的が早々に明らかになるのは有難いけど。
っていうか、海斗 …… ヤバイって連絡よこすにしても、遅すぎじゃない？
多分、すぐに家を出ていても間に合わなかったでしょ、これ。
なんてことを考えつつ、振り返る。
差出人とご対面。秘密を知っていると豪語する、その人物の正体は ――
-----------------------------------------------------------------------------
似ている。
というか、そっくりだ。
カードの差出人であろう男を見た伊歩は、そんな感想を抱いた。
窓から侵入し、勝手にソファでくつろぎだした男は、海斗に瓜二つ。
だが、外見こそ似ているものの、纏う雰囲気は明らかに違う。
「これ …… 土足で余所様の部屋に入るでない。最近の若いもんはこれだから」
素っ気なくそう言い、魔書を読み始めた伊歩のその態度には "無関心" の感情が色濃く出ている。
まぁ、海斗から連絡を受け、危険だという喚起は受けたので、それなりに警戒はしている。
魔書を開いている状態が、その何よりの証だ。
「相変わらずだなー。そういう態度も」
ケラッと笑う男。
笑い方も、海斗にそっくりだ。
でも、何だろう。この男の場合、無邪気な中に、ドス黒いものが蠢いているような。そんな印象を受ける。
「カードの差出人は、お前さんじゃな？ どういうつもりか知らんが、イタズラにしては程度が低いのう」
肩を竦め、馬鹿にするかのように言い放つ伊歩。
すると、海斗にそっくりな謎の男は、不可解な発言を繰り返した。
そんな冷たい言い方しなくても良いじゃんとか、他人行儀だなぁとか。
男の発言は一貫して、伊歩と自分が初対面でないことをアピールするかのようなものだった。
思い返してはみるものの、まったく覚えがない。
そもそも、海斗にそっくりだけど海斗じゃないという時点で、不可解である。
「もう良い。何者であろうと。妾は、そなたに興味がない」
「うわー。酷い言われようだな」
「こんなものを送りつけて、何のつもりじゃ」
「あぁ。良かった。ちゃんと届いたんだな、それ」
「質問に答えぬか。それだけ聞かせてもろうたら、すぐに追い出すぞ」
「うひー …… 嫌われてんなぁ …… 」
「不審者を好く者などおらんよ」
冷たい笑みを浮かべつつ、黒いカードを男に向けてピッと投げ放った伊歩。
あなたの秘密を知っています。そう記された黒いカードが、男の足元に滑り落ちる。
男は、しばらくジッとカードを見つめると、何が可笑しいのか、クツクツと笑いだした。
まったくもって、不可解な男だ。加えて、不愉快にさせる要素をも兼ね備えている。
姿こそ海斗に似ているものの、中身は全く別だな。
そんなことを思いつつ、伊歩は、魔書に視線を落とした。
「！」
頭に何かが触れる感触を覚え、すぐさま顔を上げたのは、それから間もなくしてからのこと。
顔を上げて見やれば、男が、頭を撫でていた。
優しい手つき。それでいて、表情は何やら不気味。
身の危険を覚えた …… とは少し異なるが、男の行動に嫌な感覚を覚えた伊歩は、頭に触れる男の手を払おうとした。
だが、パシッと手首を掴まれてしまう。
死人のように冷たい男の手。
何だろうか、この感じ。
以前にも、こんな感覚をどこかで覚えたことがあるような …… 。
「離せ」
「 ………… 」
冷たく言い放つものの、男は、伊歩の手を離さない。
触れている部分から、パリパリと、身体が凍りついていくような嫌な感覚。
言って聞かぬのならば、強引にでも振り払うまでだ。
眉を寄せつつ、力任せに男の手を払おうとする伊歩。
だが、させまいと、男もまた、手首を握る手にグッと力をこめる。
「何だと言うのじゃ」
目を伏せ、ハァと溜息を零し呆れる伊歩。
男は、何も言わなかった。ただ、伊歩の手首を掴んだまま、その場を動かなくて。
意図が読めない。理解りたいとも思っていないが、素性の知れぬ者に触れられて良い気などするはずもない。
うっすらと目を開き、テーブルの隅を見やる伊歩の眉が、次第に寄っていく。
沈黙を続けた男が、ようやく言葉を放ったのは、それから数分が経過したときのこと。
一方的ではあるものの、確かに触れ合っているのに、遠い。
すぐそばにいるのに、まるで、遥か彼方、声も届かぬ場所にいるみたいだ。
男は、そんな言葉をポツリポツリと放ちながら、伊歩の長いまつげを見下ろしていた。
意味がわからない。何だ、その気持ちの冷めた恋人に縋りつくような台詞は。
伊歩は、そんなことを思いつつ、やれやれと肩を竦める。
男の言動に対する伊歩の反応は、一貫して "無関心" のそれだった。
男が何を言おうとも何をしようとも、伊歩が、それらに食いつくことはなかった。
だが、
男が発した、とある言葉にだけ。伊歩は、一瞬、戸惑いをみせる。
「 …… 老いを忘れた身体」
「！」
耳元で囁くように言った男。
男が発したその言葉に、伊歩は伏せていた目を見開き、硬直してしまう。
動揺とは少し異なる。頬杖だってついたままだし、バッと顔を上げることもしない。
ただ、男が発したその言葉が "事実" であることに、若干の驚きを覚えただけ。
秘密を知っている。カードに記されていたあのメッセージの意味は …… そういうことか。
だがなぜ、この男が "それ" を知り得ているのだろうか。
その事実は、伊歩自身しか知らない。海斗たちにも話していない。
時期がくれば、話さねばならぬときがきたら伝えようとは思っているが、今はまだそのときではない。
「なぜ …… 」
それまで、興味がないといった様子でしかめっ面を浮かべるばかりだった伊歩が、初めて、興味を示す。
どうして知っているのか。伊歩は、ポツリと発した呟きの一言に、その疑問を乗せた。
だが、答えてくれなかった。
どうして？ という伊歩の疑問に対し、男は返答しなかった。
ただクスクス笑いながら、ずっと掴んでいた手首を解放し、逃げるように窓の傍へ。
「む？ おい、ちょっと待て ―― 」
すぐさま席を立ち、阻もうとしたものの、既に手遅れ。
伊歩が立ち上がったとき既に、男は、窓の外。
窓の縁から飛び降りた男は、そのままフッと空に溶けて …… 消えてしまった。
夢をみていたのかと、そう錯覚してしまいそうになるが、感触が残っている。
男に掴まれていた手首が、まだ、冷たい。ひんやりと、氷のように冷たい。
「 …… 欲するなど、久しぶりじゃな」
手首に触れながら、苦笑を浮かべた伊歩。
その笑みは、自分自身に対する嘲笑だった。
確かに事実で。それを知り得ているのは伊歩だけなのだけれど。
伊歩自身も、いつしか忘れてしまったから。老うことができない身体になってから、忘れてしまったから。
自分の、本当の年齢。いつ、どこで生まれたのか。自分自身の "始まり" を思い出せない。
素性の知れぬ不可解な男に、それを尋ねようとするだなんて。私は、どうかしている。
静まりかえる部屋。
開け放たれた窓から流れ込む風が、テーブルの上に置かれた魔書を、ハラハラと踊らせる。
身を案じ、執拗に連絡してくる海斗たち、時狭間の面々。
伊歩がそれに気付いたのは、数十件の着信履歴を目にしたときだった。
-----------------------------------------------------------------------------
The cast of this story
８３８８ / 聖夜・伊歩 （せいや・いぶ） / 16歳 / 星術師
ＮＰＣ / 海斗 / １７歳 / クロノラビッツ（時の契約者）
ＮＰＣ / カージュ / ？？歳 / クロノハッカー
-----------------------------------------------------------------------------
Thank you for playing.
オーダー、ありがとうございました。
|
