コミュニティトップへ




■裁く者、裁かれる者■

藤森イズノ
【8388】【聖夜・伊歩】【星術師】
「あっ、いらっしゃいませ。二名様ですか?」
 だいぶ、仕事にも慣れてきた。自分で言うのも何だけど、笑顔も接客も中々のもの。
 けれど …… その日、来店したお客さんは、普通じゃなかった。というか "お客さん" でもなかった。
「 …… 見ない顔じゃな」
「あぁ、ほら、コイツが、あの新入りですよ、父上」
「ふむ、なるほど」
 黒い装束を纏った小柄な老人と、パッと見は爽やかな印象を与える男。
 父上ってことは …… この二人、親子か。にしても、何なんだろう、この偉そうな態度。
 人のことを、いきなりコイツ呼ばわりするし。感じ悪いんですけど。
 っていうか、後ろがつかえてるんで。早く席に案内したいんですけど。
 高慢な態度にイラつきつつも、低姿勢で席へと促そうと試みる。
 が、まったくもって相手にされない。
 老人と男は、不可解な笑みを浮かべてジロジロとこちらを見やるばかりだ。
 ああ、もう。何なのさ。この二人、ちょっとおかしいよ。どこがおかしいって、アタマが。
 仕方ない、オーナーを呼んでこよう。
 ため息交じりに、オーナールームへ向かおうと身をひるがえした、その時だった。
「その "秘め事" …… 実に興味深いのぅ。どれ、もっとよく見せておくれ」
 耳元で、老人が囁く。
 次の瞬間、意識が飛んだ。
 何が起きたのか、把握する間もなく。
 遠のく意識。その片隅で、私(俺)の名前を呼ぶカイトの声が …… 聞こえた気がした。
 裁く者、裁かれる者

 -----------------------------------------------------------------------------

「あっ、いらっしゃいませ。二名様ですか?」
 だいぶ、仕事にも慣れてきた。自分で言うのも何だけど、笑顔も接客も中々のもの。
 けれど …… その日、来店したお客さんは、普通じゃなかった。というか "お客さん" でもなかった。
「 …… 見ない顔だな」
「あぁ、ほら、コイツが、あの新入りですよ、父上」
「ふむ、なるほど」
 黒い装束を纏った小柄な老人と、パッと見は爽やかな印象を与える男。
 父上ってことは …… この二人、親子か。にしても、何なんだろう、この偉そうな態度。
 人のことを、いきなりコイツ呼ばわりするし。感じ悪いのぅ。
 っていうか、後ろがつかえてるんで。早く席に案内したいんじゃが。
 高慢な態度にイラつきつつも、低姿勢で席へと促そうと試みる。
 が、まったくもって相手にされない。
 老人と男は、不可解な笑みを浮かべてジロジロとこちらを見やるばかりだ。
 ああ、もう。何じゃ。この二人、ちょっとおかしいぞ。どこがおかしいって、そうじゃな、アタマが。
 仕方ない、オーナーを呼んでこよう。
 ため息交じりに、オーナールームへ向かおうと身をひるがえした、その時だった。
「その "秘め事" …… 実に興味深い。どれ、もっとよく見せておくれ」
 耳元で、老人が囁く。
 次の瞬間、意識が飛んだ。
 何が起きたのか、把握する間もなく。
 遠のく意識。その片隅で、私の名前を呼ぶカイトの声が …… 聞こえた気がした。

 -----------------------------------------------------------------------------

 確かにそこにいるのだけれど、認知されない、そんな存在。
 見えない鎖で繋がれている状態。二人を繋ぐその鎖を断ち切ることは誰にもできない。
 その関係は、月と星のそれに、よく似ている。断ち切れぬ関係。密接な関係。
 月の精、そのなり損ないである存在は、いついかなるときも、伊歩の傍にいる。
 星精霊とは、まったく別の存在である "彼" は、伊歩にしか見えない。
 カイトを始め、カフェ店員仲間は、伊歩の傍に、いつもフヨフヨと浮いている星精霊を視認できる。
 声までは聞こえないが、姿を認識することはできる。
 だがしかし、月の精のなり損ないである "彼" は、カイトたちにも見えない。
 その目で確認することのできない存在を理解させるのは、ものすごく大変だ。
 おそらく、話せば、そうなんだ〜とは言ってくれると思うが、納得には至らないだろう。
 見えない存在を、はっきりと理解することなんて出来ない。
 理解したと言うのなら、それはおそらく嘘だ。理解したつもりでいるだけ。
 そう思うがゆえ、伊歩は、話していない。
 星精霊の他、そういった存在も自分の傍にいる、その事実を話していない。
 話す気がないとか、そういうわけではなく、話す必要がないといった考えだ。今のところは。
 いつか、きちんと話すべきときがくるかもしれない。そのときは、躊躇わず説明しようとも思っている。
 まぁ …… その "彼" が、少々厄介な性格をしているから、というのも、なきにしもあらず。
 良く言えば素直でわかりやすい。悪く言えば単純で短気。 "彼" は、そういう性格をしているのだ。
 自分と近い性質を持つ "彼" を、伊歩は、とても大切に思っている。
 言葉や態度で示すことはなく、基本的には放任かつぶっきらぼうだが、確かな愛情がある。
 そんな伊歩の想い、愛情を知ってか知らずか "彼" は、伊歩を困らせてばかりだ。
 まぁ、些細な子供の悪戯程度で、悩みのタネとまではいかないのだが。
 伊歩自身 "彼" がどのような気持ちでいるかを理解っているつもりではいる。
 駄々をこねたり、しょうもない悪戯をしたり …… といった態度は、愛情表現の一種。
 不器用でこそあるものの "彼" も、伊歩のことを大切に思っている。
 ただ少し …… "彼" の場合、想い方が異質というか、歪んでいるところがあり、
 伊歩を悲しませたり傷付けたりする奴がいようものなら、否応なしにブッ壊す! といった、過剰な思想を備えていたりもする。
 だがまぁ、何にせよ、伊歩にとって "彼" が特別で、大切な存在であることに変わりはない。
 なり損ないの精霊に存在意義はない。ゆえに、本来ならば消されてしまうはずの存在。
 だが、伊歩は繋ぎとめている。自分と繋ぐことで "彼" の存在を繋ぎとめている。
 なぜ、そうまでして "彼" を大切に想うのか。
 それはきっと、伊歩にもわからない。

「帰れ」
「ほっほ …… 客人に対して、無礼なのではないか?」
「客じゃねーだろ、お前らは」
「何か注文しましょうか、父上」
「ふむ。そうだな。どれ、それでは、紅茶でも貰おうか」
「うるせー。いーから、とっとと帰れ!」
 老人と男を睨みつけ、大声で怒鳴りつけるカイト。
 意識を失っていた伊歩が、ゆっくりと目を開けたのは、その時だった。
 何が起きたのか、どうして気を失っていたのか、そのあたりは定かではないが、
 意識が飛び、そのまま後ろに倒れた自分を、カイトが抱きとめてくれたのは明らかだ。
「すまぬ」
 伊歩は、そう一言感謝を述べながら、軽く頭を左右に振った。
 意識は、まだ少し朦朧としているが、この老人と男が、カイトと敵対する存在であることくらいはわかる。
 どんな時も笑顔を絶やさないカイトが、ここまで不愉快そうな顔をしていれば、どんなマヌケでも気付くってものだ。
 老人と男が店に立ち入ったことにより、カフェ店内もまた、ものすごく気まずい雰囲気に包まれている。
 リノやチカやトウジ、他の店員らが何とか宥めてはいるが、お客さんたちは、みな不愉快そうな顔。
(む …… ?)
 そこで、ふと、伊歩は気付く。
 ちょっとおかしくないか? どうして、店員達が客を "宥めて" いるのだ?
 大丈夫ですから、安心してください、と落ち着かせるならまだしも。なぜ、宥めている?
 どうして、お客さんたちまで、不愉快そうな顔をしている? 老人と男を睨みつけている?
 あぁ …… そうか。なるほど。そういうことか。
 つまり、この老人と男は、カイトだけでなく、客も含め、カフェそのものの敵なのだ。
「ふぉっふぉ …… なんとも下品な視線だ」
「下衆がはびこる店は、何度来ても不快ですね、父上」 
 肩を揺らして笑う老人と、肩を竦めて笑う男。
 老人と男が親子であることはわかるが、それ以上のことは今のところわからない。
 ただ、態度・発言からして、二人がこの店を良く思っていないことくらいは、理解る。
 まぁ、当然といえば当然の態度かもしれない。この店は、罪人が集う異質な場所だから。
 働く店員も通う客も、その誰もが大なり小なり何らかの "罪" を犯している。
 正確に言うなれば、その犯した罪を胸の内に抱えているといった感じではあるが。
「不愉快なら来んな。帰れっつってんだろ」
 伊歩を背に庇うような体勢で、再び老人と男を睨みつけるカイト。
 すると、老人と男は、顔を見合わせ、こちらを小馬鹿にするかのような嘲笑を浮かべて言う。
「僕らだって、来たくて来ているわけじゃないんだ。ねぇ、父上?」
「そうだな。こちらとしても、出来うることならば、こんなところに足を運びたくはない」
「僕らは、僕らの使命を果たすため、仕方なく来ているんだ。そのあたり、わかってもらわないと」
「そうだ。我々は、裁く者。裁くことを許された特別な存在」
「貴様らのような愚か者を、ね」
 老人と男の発言に対し、カフェ全体の雰囲気が更にピンと張り詰める。
 カフェにいる客、全員の気持ちを全て背負い、それをぶつけるようにして声を荒げ、
「メーワクなんだよ!」
 背中をグイグイと押して老人と男を店の外へと追い出すカイト。
 そんなカイトの行動に、カフェにいた客は、指笛を吹いたり笑ったり。
 追い出される形で店の外に出された老人と男は、扉が閉まる間際、ふと振り返り、
 伊歩を見やると、何やら意味深な笑みを浮かべた。
 何か、口元が動いていたような、何かを呟いていたような気もするが、よくわからなかった。
 バタン ――
 扉が閉まると同時に、ワッとわく歓声。
 よくやった! とか、いいぞオーナー! とか、客に持て囃されて苦笑を浮かべるカイト。
 客から浴びせられる称賛に笑いながら、カイトはツカツカと歩き、伊歩の前でピタリと立ち止まる。
「 ………… 」
 自ら尋ねることなく、ただ黙って、けれど目は逸らさず。
 カイトは、そんな伊歩の態度にいつもの笑顔を浮かべると、
 伊歩の腕を掴み、やや強引に腕を引いてバックルームへと連れていく。
 どういうことなのか。あの老人と男の素性。それを話すため、カイトは、伊歩を連れていく。
 お前には関係ないから、なんて言う気は毛頭なかった。
 伊歩だって、もう、このお店の店員。関係者であり、仲間なのだから。 
「悪を裁く …… か。罪を犯したことのない者なぞ居ないと思うがのぉ」
 カイトに腕を引かれながら、憂いを秘めた目で呟いた伊歩。
「だよな」
 振り返ることなく、小さな声で呟き返したカイト。
 その一瞬、腕を握るカイトの手が、煮えたぎるマグマのように赤く染まったような気がした。

 -----------------------------------------------------------------------------
 The cast of this story
 8388 / 聖夜・伊歩 (せいや・いぶ) / 16歳 / 星術師
 NPC / カイト / 19歳 / クライマーズカフェ・オーナー
 NPC / ジャッジ / ??歳 / 裁者
 NPC / コウタ / 20歳 / 裁者
 -----------------------------------------------------------------------------
 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。