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■輪廻■

藤森イズノ
【8388】【聖夜・伊歩】【星術師】
 いつから務めているのか。
 本人さえそれが曖昧なほど、長期間働いているリノやチカやトウジと異なるがゆえ、質問攻めに遭うのは当然のこと。
「ねぇねぇ、彼氏(彼女)はいるの? 教えて、教えて!」
 チカは、恋愛に関する質問を次から次へと飛ばしてくるし、
「御家族といいますか、御兄弟とかはいらっしゃるんですか?」
 リノは、育ってきた環境に関する質問を次から次へと飛ばしてくるし、
「俺達の第一印象ってどんな感じだった? 今と違ってたりするかい?」
 トウジは、自分を含めた他の仲間の印象に関する質問を飛ばしてくるし …… 。
 まぁ、気持ちはわからなくもない。仲間のことを知りたいと思うのは自然な欲求だ。
 だがしかし、いくらなんでも、訊きすぎというか。そんなにいっぺんに訊かれちゃ困るだろう。
「おーい、お前ら。別に止めはしねーけどさ、せめて、もーちょいゆっくり質問してやれー」
 店のオーナーであるカイトは、そう言いながら、伝票整理をしている。
 輪廻

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 いつから務めているのか。
 本人さえそれが曖昧なほど、長期間働いているリノやチカやトウジと異なるがゆえ、質問攻めに遭うのは当然のこと。
「ねぇねぇ、彼氏(彼女)はいるの? 教えて、教えて!」
 チカは、恋愛に関する質問を次から次へと飛ばしてくるし、
「御家族といいますか、御兄弟とかはいらっしゃるんですか?」
 リノは、育ってきた環境に関する質問を次から次へと飛ばしてくるし、
「俺達の第一印象ってどんな感じだった? 今と違ってたりするかい?」
 トウジは、自分を含めた他の仲間の印象に関する質問を飛ばしてくるし …… 。
 まぁ、気持ちはわからなくもない。仲間のことを知りたいと思うのは自然な欲求だ。
 だがしかし、いくらなんでも、訊きすぎというか。そんなにいっぺんに訊かれちゃ困るだろう。
「おーい、お前ら。別に止めはしねーけどさ、せめて、もーちょいゆっくり質問してやれー」
 店のオーナーであるカイトは、そう言いながら、伝票整理をしている。

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 そうじゃな。ゆっくり、ひとつずつ答えていくとしよう。
 えぇと? まずは …… チカの質問からいこうかの。恋愛か。恋愛のぅ …… 。
 要は、想い人ってことじゃな、それは? ふむ …… そういうことならば、残念ながら、おらぬ。
 一度もないのか、と尋ねられれば、そりゃあまぁ、それなりに生きておるし、まったくないわけではないがな。
 色々と厄介というか面倒なんじゃ。妾の傍というか、周りにいる存在は、どうにも、こう …… 欲張りな奴が多くてのぅ。
 うん? 独占欲? あぁ、そうじゃな、そんな感じで、大体合ってる。
 先程、一度もないわけじゃない、と言ったじゃろ?
 それがのぅ、妾に想い人がいると知った途端、連中が大騒ぎして大変だったのじゃ。
 チカのように、あれこれ聞いてくるなら、まだ可愛げもあるんじゃがな。連中の場合、それじゃ収まりが効かぬ。
 というより、面白くないんじゃろうな。こぞって、妾を諭したり、当時、妾が密かに想いを寄せていた人物に悪戯をしたり。
 とにかく、勝手な真似をするのじゃ。妨害? うむ …… そう言うと聞こえが悪いことこの上ないが、実際そんな感じじゃったのぅ。
 あぁ、いや、それそのものに関しては良いのじゃ。邪魔してくれおって! なんて思いはないぞ。
 むしろ、それだけ大切に想われておるのじゃろうと、嬉しく思ったくらいじゃ。
「へぇ〜 …… 伊歩ちゃんって、もしかして …… 」
「む?」
「束縛されると幸せを感じちゃうタイプなのかしらね?」
「むぅ …… いや、よくわからぬが。嫌な気は、さほどせぬのぅ」
「やーだ、かーわいいー! 女の子☆って感じじゃな〜い。私は駄目ね、そういうの」
「ほぅ、そうなのか?」
「嫌よ。自由でありたいもの。常に」
「ふむ〜 …… 人それぞれじゃな。興味深い」
「伊歩さん …… 私の質問にも答えてください」
 むっ。おお、そうじゃな。えぇと、リノの質問は、何じゃったか。
 えぇと? あぁ、そうそう、家族に関することじゃったな。家族。ふむ、家族か …… 。
 妾の場合、長く生きすぎておるがゆえ、肉親の殆どが既にこの世を去っておるのじゃが。
 常人とは少し異なるとはいえ、妾も人の子。正式な両親はおったぞ。とても仲の良い夫婦じゃった。
 父に甘える母を羨ましく思っていたし、母に頼る父を可愛らしいとも思っておった。
 両親は、今もあれじゃな。理想の夫婦というか。妾も、ああいった夫婦になりたいと思っておる。相手はおらぬが。
 あとは、そうじゃな。兄と姉が三人ずついた。多い? そうじゃな、賑やかな家庭じゃったよ。
 末っ子だからというのもあってか、妾は、いつも可愛がられておった。
 自分で言うのも何じゃが、確かな愛情を感じておってな。とても心地が良かったし、幸せじゃった。
 まぁ、今となっては、全員、記憶の中にしかおらぬが、家族であった事実は変わらぬ。
 両親がいて、兄がいて、姉がいて。今の妾があるのは、彼らのおかげだと、そう思っている。
「今 …… 家族と言える存在といえば、そうじゃなぁ …… 男嫌いの妹分と、犬みたいな男じゃの」
「ふぅん …… 男の人が嫌いなんだ。私と同じね」
「ふふ。そうじゃな。リノとは気が合うかもしれぬぞ」
「 …… 犬みたいな人って、どういうことだろ。従順なの?」
「あははは! まぁ、そうとも言えるのぅ。ちょいと面倒な奴じゃが、面白いぞ」
「ふぅん …… 楽しそう。会ってみたいな」
「そうじゃな。今度、連れて来よう。む …… しかし、連れてきたとしても …… 」
「なに?」
「あぁ、いや、何でもない」
「伊〜歩ちゃん。俺の質問はどうなった?」
 む。そうか。トウジな。トウジの質問は、えぇと? みんなの印象か。
 印象 …… そうじゃなぁ …… リノは、見たとおりじゃったな。第一印象そのままじゃ。
 冷静でクールで、そして、男嫌いで。他人に対して、一線を引くというかの。
 妾も、そういったところがないわけじゃないゆえに、親近感がわいた。今もそうじゃ。
 読書が趣味というのも、親近感がわく要因の一つ。機会があれば、夜通しでも色々な本の話をしてみたいと思っておる。
 チカは、そうじゃなぁ、取っつきにくい印象じゃったな。こう、何というか、気位が高そうというか。
 麗しい外見ゆえに、少しキツい印象を与えていたというか。
 じゃが、実際は、面倒見が良くサバサバしていて、ちょっと意外じゃった。
 頼もしいというか、何というか。あぁ、そうじゃ、兄や姉を彷彿させるところがあるのぅ。
 トウジは …… あれじゃ。第一印象とその後の差が一番激しかったぞ。
 パッと見た感じじゃと、堅そうというか真面目な印象じゃからな。まさか、ここまで軽いとは。
 女癖の悪さもそうじゃし。まぁ、だからといって呆れたとかはないぞ。むしろ、面白い。
 良い意味で裏切ってくれた、といった感じじゃな。

「やぁだ、ちょっと聞いた? 麗しいですって。さすがだわ。わかってるわ〜」
「はは。第一印象だろ。実際はそうでもなかったって言ってるじゃねェか」
「そんなこと言ってないわよ。ねぇ?」
「本の話 …… 私も、したいなって思ってた …… 」
 質問に答えた伊歩に対し、それぞれ好き勝手な発言を飛ばす三人。
 そんな三人の反応にクスクス笑いながら、今度は、伊歩が三人に対して質問を飛ばす。
 妾の印象は? 皆からみた妾の印象は、どうじゃった? どのように映ったのじゃろうか?
 自分がどのように思われていたか。誰でも気になるところだ。とはいえ、こんな機会でもなければ聞けない。
 伊歩からの質問返しに対し、三人は、しばらく考えたあと、素直な気持ちを述べた。
「私は、そうねぇ …… 大人びた子だなーって思ったわ」
「私も …… でも何となく、寂しそうにも思えた」
「俺は、ズバッと見抜いたよ。こりゃあ美人になるなって。あ、今でもじゅうぶん美人だけどね?」
 トウジの返答だけ …… 何かズレてるような気がするが。
 まぁ、思ったとおりの反応だ。やはり、そんな感じに映るか。
 やっぱりね、と返すかのように肩を揺らしてクスクス笑う伊歩。
「カイトは? カイトの伊歩ちゃんに対する第一印象は? お前、面接したんだろ?」
 ふと、カイトのほうを見やって尋ねたトウジ。
 すると、カイトは、口元に笑みを浮かべて平然と伝票整理を続けながらポツリと呟く。
「背負ってんなー、って感じ」
 カイトの返答に対し、リノ・チカ・トウジの三名は 「はぁ?」 と首を傾げた。
 だが、伊歩は。伊歩だけは、笑った。さっきよりも朗らかに、吹き出すように笑った。
「伊歩ちゃん? どした?」
「何か …… 面白いこと言った?」
「まさかぁ? カイトのギャグセンスは最悪よ?」
 首を傾げる三人。
 伊歩は、そんな三人に淡いを微笑みを向けながら立ち上がると、
 それまで話をしながらも、せっせと作っていた木彫り人形を持ち、完成したそれを、カイトの目の前にコトリと置いた。
 先日から、カフェ店内の一角で販売を開始した伊歩の手作り木彫り人形。
 カイトの思惑どおり、売れ行きは好調だ。特に、十二星座を模った人形の売れ行きが良い。
 自分の星座と同じ人形を、記念に買って帰る客がたくさんいるのだ。
 この日、特に売れ行きが良く完売してしまった、蟹座と魚座の木彫り人形を作った伊歩は、
 明日の販売用に、とカイトに完成したそれを渡したのである。
「おー。ありがと」
「いいや。こちらこそ」
「帰んのか? 送る?」
「いや、大丈夫じゃ」
 ペコリと一礼し、そそくさと帰り仕度を始める伊歩。
 何だか怪しいというか、引っかかる遣り取りというか。
 伊歩とカイトの遣り取りに妙な疑問を覚えた三人は、こぞってカイトに詰め寄った。
 今の何? なんか変じゃない? お前、伊歩ちゃんに何かしたんじゃねェだろうな?
 ギャアギャアと詰め寄ってくる三人に対し、蠅を払うかのような仕草をみせるカイト。
「質問に答えなさいよ」
「 …… あやしい」
「吐け、吐きさらせ。言わないと、くすぐりの刑だぞ、てめェ」
 四人の遣り取りに、またクスクス笑いながら、支度を済ませた伊歩が、裏口の扉に手をかける。
「あー! うるせー! お前らも、とっとと部屋行け、部屋! 伊歩、オツカレさん」
「うむ。また明日の」
 ニコリと微笑み、扉を開けて帰路につく伊歩。
 リノ・チカ・トウジのカイトに対する尋問は、その後もしばらく続く。
 賑やかな四人の遣り取りを背に、微笑む伊歩の胸の内には、不思議な安堵感があった。

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 The cast of this story
 8388 / 聖夜・伊歩 (せいや・いぶ) / 16歳 / 星術師
 NPC / カイト / 19歳 / クライマーズカフェ・オーナー
 NPC / リノ / 18歳 / クライマーズカフェ・店員
 NPC / トウジ / 23歳 / クライマーズカフェ・店員
 NPC / チカ / 22歳 / クライマーズカフェ・店員
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 Thank you for playing.
 オーダー、ありがとうございました。