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■LOST・EDEN 聞け、盛大なカンパネラの音を■

ともやいずみ
【2895】【神木・九郎】【高校生兼何でも屋】
「うつみ……」
 2月……。東京で探すことになって2回目だ。
 まだ寒い季節の中、空を見上げる。
 探しビトは、まだ…………見つからない。
LOST・EDEN 聞け、盛大なカンパネラの音を



 ……面倒なことには関わりたくない。
 それは誰しもが思っていることだろう。まともな神経ならば、だが。
 神木九郎の視線の先には、この寒空の下、ヘソ出しスタイルの奇妙な娘の姿があった。
 彼女はあちこちへと頭を動かしている。とはいえ、九郎のほうからは後ろ姿しか見えていない。
 あの動きからして、誰かを探しているのだろう。人探しか……。
(……彼氏かなんかを探してんのか?)
 ぼんやりとそう思って観察してしまうが、彼女は通りかかった男に声をかけられて、何かを訴えている。
 男のほうは乗り気で頷いていたが、彼女はすぐに興味を失ったように男から顔を背けた。
 わかりやすい。
 男は怒ったように彼女に詰め寄るが、彼女のほうは相手にしていない。無視はしていないようだが、受け流しているようだ。
 さらに激怒する男は彼女の衣服を掴もうとするが彼女はするりとかわし、足を引っ掛けて転ばせてしまう。
 派手な転倒音がしてしまい、彼女は慌ててそこから逃げ出した。
 その背中を、九郎は追いかけて……やれやれと後頭部を掻いた。なぜ追いかけているのだろう? これは完全に自分の気紛れだ。



「あー、やっちゃったなぁ。あれじゃしばらくあそこに戻れないよ。人が多くて、見つかるかなぁって思ったのに」
 がっかりとしながら呟く少女の言葉に、九郎の足音が重なった。
 公園のベンチへと腰をおろしていた彼女が顔をあげ、九郎のほうを見てきた。
「なにしてんだ、あんた」
「…………」
 ぽかんとする彼女がまともに九郎を見てくる。
 あまりに整った造作の顔に九郎のほうが内心、仰天してしまった。モデルでもしているのかと思えるほど、彼女の肢体はバランスがとれている。
 セミロングの髪に、まるで小動物の尻尾のように少しだけ結んである奇妙な髪型。薄手のシャツ1枚を腰元で一つに括り、ヘソを出している。穿いているのはボロボロのジーンズだ。ダメージ云々というよりは、長年使い込まれてズタボロになった印象を受ける。なにせ、片膝までなくなっている状態になっているのだから。
 だが美貌でどうこう意識が動くことのない九郎は平然とした顔で見下ろし、彼女の答えを待つ。
 彼女は「ああ」と頷き、にっこり笑った。
「さっきの視線の。なるほどー」
「? 何がなるほど?」
「いやいや、視線を感じていたんだけど、別に悪意とか感じなかったから……。
 あれれ? ところでどこのどなた?」
 九郎は拍子抜けしたように肩の力を抜き、口を開く。
「俺は……通りすがりのなんでも屋」
 安物の名刺を差し出すと、彼女は受け取った。
 少女はまじまじと名刺を見ていたが、元気に立ち上がって腰に巻いているホルスターのようなものから名刺を取り出す。
「私もあげる! 名刺交換だね」
 笑顔が眩しい……。
 何も考えていないのだろうかと疑ってしまう九郎だが、受け取って半眼になった。
 堂々と、『退魔士』やら『扇都古』やら、さらには携帯電話の番号まで書いてある。メールアドレスがないのが不思議だった。
「…………」
 警戒心が、ゼロだ。
 呆れたような視線を向けると、彼女はにこにことしており、自己紹介をした。
「私、扇都古。えっと」
 視線を名刺に向けて、
「神木くん、よろしくね」
「……ああ」
 ところで。
「さっきの……人探し、か?」
 もしも九郎の推測が当たっていればそうだろう。そして都古は肯定した。
「正解ー! あのね、ウツミってひと、知らない?」
「うつみ?」
 発音からして、「内海」という字は当てはまらない。怪訝そうにする九郎を見て、都古は落胆した。
「やっぱり難しいのかなぁ……」
 なんでも屋を自称しているだけあり、九郎は生活のために色々なことをしてきた。もしや、これは儲けるチャンスではないのだろうか?
 ピンときた。この娘はウツミという者を探しているのだ。
「尋ね人も絶賛引受中だ」
 付け加えると、都古は奇妙に顔を強張らせる。
 関心がなさそうならさっさとこちらが退けばいい。だが……都古の反応は九郎が思っていたものとは違うものだったのだ。
「お、おいくら、になるのかな? その、私、手持ちとかあんまりなくて」
 紐つきのがま口の財布を、シャツの下から引っ張り出す都古の行動にぎょっとしてしまう。
 今どき、こんな財布を持ち歩く女子高校生など見たことがない!
「……マジ?」
 小さくそういう風に呟き、九郎は彼女をしげしげと眺める。
 見た目は悪くない。良すぎるくらいだ。それなのにこのギャップ……。なんなのだ、一体。
(見たところ、俺と変わらないくらいだよな……年齢訊くのって、女には失礼だよなやっぱり)
「じゃあ……三万とかでどうだ?」
「…………」
 都古が薄く笑って口元を引きつらせる。
(……こいつ、三万もないのか?)
「いや! あるのよ! あるんだけど……帰りの電車賃とか考えるとね……」
「……帰りの電車賃て、どこに住んでるんだよ?」
「えっとね、あ……」
 言いかけて、都古はハッと我に返って口を噤む。どうやら言ってはいけないことだったらしい。
「それに、一ヶ月に一回は東京に来なきゃいけなくて……経費節約っていうか……」
 情けない声で言う都古は本当に困っているようだ。
「…………じゃあ、五千円」
 破格の値段だろう。
 いくらなんでも、と自分で思ってしまう。
 しかし都古はそれさえも渋った。
「うぅー……ご、ごめんなさい!」
「…………」
「お願いしたいの山々なんだけど、本当なら安い値段でこんなこと請け負ってくれる人いないと思うんだけど……」
 出せても。
 と、都古が取り出したのは500円玉だった。
 思わず九郎が無言になる。
「私のお昼と夕飯の代金。これくらいなら出せるけど、こんな小額で請け負ってくれないし……なんかその、恥ずかしいよね」
 頬を赤く染めて都古は五百円玉硬貨を財布におさめた。
「ごめんね、神木くん。ご親切にありがとう。じゃ、またの縁があったら!」
「ちょ、ちょっと待て」
 いくらなんでもひどすぎると思って引き止める。
 都古は急いでいるようだが、律儀にもこちらを振り向いた。
「……昼飯と、夕飯代金が500円て……。パンとか牛丼なのか……?」
「まぁ、500円以内ならなんでもいいかなぁ」
 えへへと明るく笑う都古の身体をじっと眺めてしまう。どこも栄養不足なところはない。
 しなやかな肉体はあまりにもバランスがとれているし、女性としての魅力も兼ね備えている。
(ぱ、パンか牛丼って……)
 安値の牛丼チェーン店に一人で入って「なみのツクダクー!」と元気よく、はいはーい! と手を挙げている彼女がなぜか想像できてしまった。
 都古はきびすを返し、こちらを向いた。
「いや、貧乏ってわけじゃないんだよ? 神木くんに言われた金額も、払えるくらいには持ってるし。
 ただ……一ヶ月に一度のこの探索では、所持金の金額も決められてるし、色々制限があってね」
「制限? 一ヶ月に一度?」
「一ヶ月に一度だけ、自由にできる時間をもらったんだよね。その時間で、私は『ウツミ』を探してる。
 自由への対価、ってことで、あれこれと制限がついちゃってるから……。ああー!」
 都古は慌てた。
「い、いま何時!?」
「い、今は12時40分くらい……だが」
「やばーい! 急がないとあっという間に時間がなくなる!」
 都古は駆け出そうとした足を止めた。そしてこちらを肩越しに見てくる。にっこりと、笑って。
「人に害なすもの、それ妖魔と呼ぶ。もし、神木くんが困ったら、私に電話してね。助けてあげるよ」
「……金、とるんだろ」
「私、気紛れだから、仲良くなったら無料でもいいよ」
 あははと冗談めかして笑いながら、都古は公園を突っ切って行ってしまった。



 土曜の午後、自宅への帰り道……。先程の出来事を九郎は思い出していた。
 美人なのは認める。だが……圧倒的に「変な娘」だった。
(今どき……どんな貧乏なんだ)
 一ヶ月に一度の自由時間に、人探しをしているだと? おかしいんじゃないのか?
 普通なら、もっと有意義に使うべき時間を、わけのわからない人探しに使うなんて。
 本人は貧乏ではないと否定していたが、使うお金を制限されている以上……しかも昼と夜のごはん代金が合わせて500円とか……明らかに貧乏ではないのか?
「……ごひゃくえん……」
 そんな低賃金で引き受ける……? 自分が? まさか。
 だが九郎はしばし考える。考えて考えて……それでも結論は出なかった。



 日曜の朝になって、布団の中でもぞもぞと動き、やっと起きる。
 なんだか奇妙な女と会った気がする……。
 ぼんやりとそう思っていると、枕元に置いておいた携帯電話と一緒に、都古からもらった名刺があるではないか!
 昨晩、しげしげと眺めていて、そのまま眠ってしまったようだ。
 何度見ても妙な名刺だ。古めかしい紙に、必要最低限のことだけ書いてある。
 携帯電話のナンバーはいいとしても、メールアドレスは書いていない。これは、都古がメールを使わないからだろう。
(しかし、今どき電話だけって……)
 どこに所属している退魔士なのかも、まったく聞いていなかったことに気づいた。
 九郎は少なからず、この東京で都古のような不可思議な人物に会ったことが何度かある。都古を恐れなかったのもそのためだ。
 だが妖魔退治というからには……なんというか……。
(あんなに明るい人柄ってのはちょっと、というか……かなり意外というか……)
 しかも貧乏。
 東京に在住しているわけではないことは、昨日の会話の端々からわかったが……どこから来ているのだろうか?
(ウツミ、ね)
 情報が少な過ぎる。それに……提示された金額が……。
 最後に笑顔で都古が言っていたことを思い出した。鮮やかな笑顔で彼女はこう言ったのだ。
「仲良くなったら無料でもいいよ」
 ……それでいいのか。仕事じゃないのか?
 眉根を寄せる九郎は腕組みした。
「扇都古……か。変な子だった……」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2895/神木・九郎(かみき・くろう)/男/17/高校生兼何でも屋】

NPC
【扇・都古(おうぎ・みやこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、神木様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 都古との出会いはいかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。