■【SS】最終決戦・中編■
朝臣あむ |
【2895】【神木・九郎】【高校生兼何でも屋】 |
※【SS】最終決戦・中編は、前編と同じく3つのオープニングより成り立ちます。
希望のオープニングを下記より選択し、プレイングを作成してください。
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(共通)
大都会東京。
煌々と夜の闇を照らすビルの頭上で、不可思議な現象が起きていた。
空を覆う黒い雲。それを吸い込むように渦を巻く一角に、複数の雷鳴が光を生み、門の様な存在が覗く。
そして門が完全に姿を現すと、地上でも何らかの影響が出始めた。
激しすぎる風が花や木を倒し、舞い上がる砂が渦を巻いて家々に激突する。その度に凄まじい音が辺りに響く。
正に、嵐が舞い降りた――そう表現できる光景が都会のど真ん中で繰り広げられていた。
(1)
赤い瞳が頭上に控える門を捉える。
あそこに行く方法は熟知している。しかし自分だけでは力が不足している。
「やっぱ幾夫ちゃんから鎌を取り戻すのが先決か」
しかし――
不知火はそう言葉を切ると1つ息を吐いた。
先程から感じる人の気配。
それに彼の目が動く。そうして赤の瞳が捉えたのは、同じ顔をした白髪の人物。
「逃がしませんよ、雪弥くん」
怪しく微笑んだその顔がいつも以上に白く青い。
その事に警戒を滲ませると、不意に違和感を覚えた。
「ッ……これはっ」
足を縛る不可思議な枷。幾重にも巻きつく鎖に動きが封じられてゆく。
完全に封じられた動きに忌わしげに目の前の人物を睨み付ける。
「さようなら、雪弥くん」
静かに掲げられた手、それに不知火はギリッと奥歯を噛み締めた。
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(2)
「冥王様のご復活、その為にも急ぎ冥界門を――‥‥?」
幾夫は肩に担いだ華子をそのままに空を見上げた。
上空に渦巻く雲、そこから覗く門は冥王と崇める人物と彼が臨んだ産物。
そこから溢れだす黒い物体――悪魔は地上に容赦なく降り注ぐ。それは想定の範囲内。
しかし何かがオカシイ。
幾夫は肩に担いだ華子を下ろすと、静かに後方を振り返った。
そこにいた人物、それを目にして彼の手に巨大仲間が姿を現す。
「マダ邪魔ヲ……邪魔者には制裁を――」
彼はそう口にすると、鋭く光る切っ先を、行く手を阻む者に向けた。
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(3)
アスファルトに落とされた体。
耳に残る声は何だろうか‥‥確か、聞き覚えのある声はこう言っていた。
――ハナは、冥王様ガ大事に育ててきた無垢ナ魂。完全復活ニ必要。
冥王様が大事育ててきた無垢な魂。
それは自分であると懐かしい声は言っていた。
それは『あの人』の為に自分の命があるということ。そして『あの人』の望みの為に自分は今生きているということ。
「……佐久弥、さん」
頬を熱い何かが伝った。
華子は軋む体を動かし空を見上げた。
空にある冥界門と呼ばれた門。そこに『あの人』がいる。
「……邪魔者には制裁を――」
見身を掠めた声に彼女の目が動いた。
大きな鎌を手に誰かと対峙するのは幾夫だ。
「パカ……どう、して……」
呟き潜めた眉。
華子は自らの手に視線を落とすと、そこを強く握り締めた。
「――……行かなきゃ」
そう呟き、彼女は物音を立てないようこの場を後にした。
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【SS】最終決戦・中編 / 神木・九郎
息を切って走る音がする。
前を見て迷うことのない足取りで走って行くのは、全身に傷を負う青年――神木・九郎だ。
彼は上空に立ち込める雲と、その中心に佇む巨大な門を時折視界に入れながら走っていた。
「ッ、ふざけるなっ!」
そう口にした彼の脳裏に浮かぶのは、体に刻まれた傷の元。彼を攻撃し、目の前で知人を攫った男の事だ。
金髪を持った強気に満ちた顔を持つ少女――星影・サリー・華子を攫った人物は、牛の面にパーカーのフードを深くかぶっていた。
そしてその手に握られた大きな鎌には覚えがある。
「あの鎌は、不知火の奴が持ってたのと同じ――……チッ、出やがったな」
ザッと踏み締めた足。
それに呼応するように目の前に現れたのは、黒く小さな存在――悪魔だ。
彼は足止めをするように現れた存在に拳を握ると、黒の瞳を眇めた。
探るように見極めるのは『経穴』。
「舐められっ放しってのは性に合わねえ」
そう口にした瞬間、彼の足が地を蹴った。
一気に縮められる距離に、悪魔が動く。しかしその手が触れる前に、ツボを見極めた九郎の手が敵を突いた。
――……ッ。
声無き悲鳴を上げて崩れ落ちる存在を視界の隅に添え、彼は次々と敵を討ってゆく。
今彼の身を襲っている傷は決して浅くはない。闘う度に軋み、痛みも相当の物が襲っている筈。
にも拘らず、動き続けるのには訳がある。
そしてその訳を思い出そうとした瞬間、彼の視界に鋭い光が走った。
「あれは――」
悪魔は全て伏した。
進むべき足を遮る物はない。しかし彼の足は動かなかった。
視界に入った鋭い光は、僅かな光が照らす鎌の輝きだ。そしてそれに対峙するように掲げられた、黒の刀身の輝きでもある。
「……来てたのか」
刀を持つ男は九郎もよく知る人物だ。
今まで何度となく共に闘った言わば仲間。そんな彼を視界に留め、九郎の目が動いた。
鎌を持つ男がここにいて、足止めを食っている。という事は、自分は目的に間に合ったという事だ。
しかし――
「馬鹿女が居ない、だと……?」
目の前で攫われた華子は、確かに鎌を持つ男――今、仲間が相手をしている男が連れ去ったはず。
だが目の前に在るのは、刀を掲げる仲間と、それを排除しようとする牛面の男だけ。
「……逃げたの、か?」
華子にはこれと言って深い傷はなかった。
それを思えば隙を見て逃げ出すことも可能だろう。しかし九郎の目は、彼女が逃げるべき方角とは別方向を捉えた。
「――否、アイツは……」
その目が捉えるのは冥界門だ。
華子が攫われる直前、牛面の男はある言葉を口にした。
そしてそれに対し、華子は反応していた。
「――無垢な魂。完全復活。つまり生贄って事だろ」
九郎の中で導き出された答えは、酷く単純なものだった。
全ての言葉、全ての行動を照らし合わせて出る物は、華子にとって歓迎すべき内容ではない。
「クソッたれ!」
舌打ちと共に吐き出した声。
それと同時に動いた足が、金色の何かを捉えた。
闇に光る幾筋もの金の光。この光には覚えがある。
九郎は動かしたばかりの足で駆け出すと、光を追いかけた。
そして目の前で角を曲がった光に、透かさず手を伸ばす。
「――ッ」
確かな手ごたえが手に残る。
しっかりと掴んだのは人の手だ。
そして角を完全に曲がりきると、そこには驚いた表情でこちらを見る少女がいた。
「捕まえたぞ、馬鹿女」
「……無神経、男……?」
僅かに切れた息の中で呟く声に、驚いたように見開かれた瞳が揺れる。
それを受けて掴んだ手に力が籠った。
「何処に行く気だ」
本来なら聞かなくても分かる。
華子が向かおうとしていた方角、そして彼女が慕う人物を思えば何処に向かおうとしていたかなど、簡単に推測できてしまう。
それでも問いかけたのは、足止めをして話をするためだ。
しかしその声に、華子の目が逸らされた。
掴まれた手を思い切り振り払い、一歩、確実な距離を取る。その仕草だけで答えは十分だった。
「冥界門に行くのか」
静かな声に華子の顔が落ちた。
「止めとけ。行ったところで状況は悪くなるだけだ」
そう、今ここで華子が冥界門に行ったところで、状況は好転どころか悪化するだろう。
牛の面を被った男が言ったこと、それが事実ならば、彼女の魂で冥王は復活する。
それは明らかな状況悪化だ。
華子だってその事は承知している筈、しかし――
「うるさいっ!」
吐き捨てるように言われた言葉に、眉が上がった。
「あたしは佐久弥さんの所に行くの! あんたなんかに、指図される覚えはないわ!」
「馬鹿女……」
目に涙を溜めて睨み付けた瞳。
吊り上がった眉や、唇を噛み締める表情に、九郎の首が横に振れる。
「向こうはお前を連れ去ろうとしたんだ。そんな中に一人で出向くなんて、捕まえて貰いに行くようなもんだろ」
今紡いでいるのは正論だ。
そしてその正論は華子も承知している。
だからこそ、彼女は自らが帯刀する刀を抜いた。
真っ直ぐに突き付けられた白銀の刃に、九郎の瞳が静かに細められる。
「誰に何と言われようと、あたしは佐久弥さんに会いに行く! 邪魔をするなら、あんただって容赦しないんだから!」
碧眼の瞳から透明の滴が零れ落ちた。
それと同時に踏み出された足に、舌打ちが零れた。
「ったく、落ち着け!」
アスファルトを深く踏み締め、拳を下げると、彼は静かな目で彼女の動きを捉えた。
「うるさい、うるさい、うるさいっ!!!」
叫ぶ声と風を切る音が虚しく響く。
九郎はその音を聞きながら、冷静で的確な動きで彼女の攻撃を避けてゆく。
「あたしは行って、佐久弥さんに……佐久弥さんに、聞かなきゃいけないことがあるの!」
一際大きな動きが風を切った。
それに合わせて九郎の動きが変わる。
「聞かなきゃいけないことったって、さっきだってお前。簡単に捕まってただろ?」
自らの上着に手を掛けながら避けた攻撃。
これに華子の鋭い視線が飛ぶ。
「アンタって、本当に無神経っ!」
ギリッと奥歯を噛み締め、華子の刀が小さく鳴った。
柄を強く握り締め、彼女の戦闘スタイルが変化したのだ。
先程までは無暗に刃を振るうだけだった攻撃。それが相手の隙を突こうと狙う、敵意を除かせる動きに変わっている。
それでも九郎は攻撃を避けることに徹していた。
その事に、華子の中で苛立ちが募る。
「アンタに……アンタなんかに……アンタなんかに、何がわかるのよっ!!!」
勢い良く地を蹴った足。
一気に詰められた間合いに漸く、九郎の足が動いた。
「わからねぇよ」
ポツリと零された声。そして視界を遮った黒い布に、彼女の動きが止まった。
次の瞬間、握っていた刀が動かなくなり、その原因が九郎の上着が巻き付いたせいだと気付く。
だが驚くのはそれだけではなかった。
動きを封じられた刀が引き寄せられ、動きを封じるように力強い腕で抱きしめられる。
これに殺気を浮かべていた瞳が見開かれた。
「聞け、馬鹿女」
耳元で絞り出した声に、抱き竦めた体が小さく跳ねる。
それを感じながら、彼はゆっくりと言葉を紡いだ。
「どうしても行くってんなら、俺も一緒に行ってやる」
静かに、そして穏やかに掛けられた声に、碧眼の瞳が再び見開かれた。
そうしてその瞳が真横にある九郎の顔を捉えると、彼は抱きしめる腕を緩めた。
「俺も行ってやる。だから、策も無しに一人で突っ込もうとするんじゃねえ」
思いも掛けない言葉だったのだろう。
マジマジと向けられた視線に、彼の口角に苦いものが浮かぶ。
「なん、で……だって、あそこは……」
華子が向かおうとしている場所――佐久弥がいる場所は、暗雲が立ち込める冥界門がある所だ。
明らかに死地でしかないその場所に一緒に行く。それは自ら死にに向かうようなものではないだろうか。
「死ぬかもしれない場所なの……だから、アンタだってあたしを止めた――」
「お前に死なれたら、コーヒーの約束が流れちまうだろ」
「コーヒー……?」
いったいいつの約束だっただろう。
思いも掛けない彼の理由に、華子の顔に困惑が浮かんだ。
「コーヒーって……そんなの……」
「コーヒー一杯だって、俺には重要だ」
言って、上着を刀からはがすと、彼はゆっくりその身を放した。
そしてこれから向かうであろう冥界門を見据える。
「お前……さっきの話、聞いてたか?」
――さっきの話。
それで思い浮かぶのは、パカこと幾夫が言っていた言葉だ。
「……『ハナは、冥王様ガ大事に育ててきた無垢ナ魂。完全復活ニ必要』……」
淡々と零された声に頷きを返す。
もし華子がこの言葉の意味を理解し、それ故に冥王と呼ばれる相手に会いに行こうとしているのなら、彼女がしようとしていることの1つは判る。
「てめえの命の使い道を、他人任せにするなよ」
「!」
心の内を詠まれた。
そう言わんばかりに目を向けた相手に、九郎の口から重いため息が漏れた。
「……てめえの命は、てめえのもんだろうが」
当然の事を言わせるな。
九郎はそう言葉を続けると、改めて彼女の目を見た。
その目には戸惑いと困惑、それに僅かな悲しみの色が取って見える。
「あたしの命は、あたしの、モノ……でも、佐久弥さんは……」
ここまで育ててくれた人で、華子の世界の中心にあった人物。
その人が自分を必要としてくれている。
それが例え、命を捧げる事でも、必要としてくれているのだ。
「……佐久弥さんに、会いたい」
再び頬を伝った涙。
これを九郎の武骨な指が拭うと、彼は彼女の頭に先程の上着を被せた。
「一緒に行ってやる。けど、命の使い方だけは間違えるな」
そう言って、上着ごと抱えるように抱いた頭は、微かに頷き、そして小さく震えたのだった。
――続く...
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 2895 / 神木・九郎 / 男 / 17歳 / 高校生兼何でも屋 】
登場NPC
【 星影・サリー・華子 / 女 / 17歳 / 女子高生・SSメンバー 】
【 空田・幾夫 / 男 / 19歳 / SS正規従業員 】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、朝臣あむです。
SSシナリオ・最終決戦・中編にご参加いただきありがとうございました。
大変お待たせしまして、申し訳ありませんでした(汗)
プロローグにエピローグが省かれておりまして、本編のみのお届けとなっております。
残り1話と言うところまで来ましたが、よろしければお付き合い頂けると幸いです。
また機会がありましたら、冒険のお手伝いをさせていただければと思います。
ご参加、本当にありがとうございました。
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