■第2夜 理事長館への訪問■
石田空 |
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】 |
「全く……、理事長、この現在の学園の状況を本気で放置されるおつもりですか?」
「そうねえ……」
理事長館。
学園の中に存在するその館には豪奢な調度品が並べられていた。
創設時から、学園の生徒達とよりコミュニケーションを円滑に取れるようにと、代々の理事長は学園内に存在するこの館で生活をし、学園を見守っているのだ。そのせいか、この館には色んな生徒達が自由に行き来している様子が伺える。
現理事長、聖栞はにこにこ笑いながら、生徒会長、青桐幹人の話を聞いていた。
栞は美しい。彼女は実年齢を全く感じさせない若々しさと、若かりし頃バレエ界のエトワールとして華々しく活躍してつけた自信、そして社交界で通用する知性と気品を身につけていた。故に、彼女がこうして椅子に座っているだけで様になるのである。
「反省室は現在稼動不可能なほど生徒が収容されています。通常の学園生活を送るのが困難なほどです」
「まあ、そんなに?」
「怪盗は学園の大事な物を盗み続けています。なのに警察に話す事もせず、学園で解決する指揮も出さず……ここは貴方の学園なのでしょう?」
「………」
栞は目を伏せた。
睫毛は長く、その睫毛で影が差す。
そして次の瞬間、彼女はにっこりと笑って席を立った。
「分かったわ」
「……理事長、ようやく怪盗討伐についての指揮を……」
「生徒達と話し合いをしましょう」
「……はあ?」
栞の突拍子もない言い方に、青桐は思わず目を点にした。
「夜に学園に来た子達と話し合い。うん。それがいいわ。私が直接皆と面接をします」
「貴方は……学園に何人生徒がいると思っているのですか!? それにそれが本当に根本的な解決に……」
「なるかもしれないわよ?」
栞はにこりと笑う。
たおやかな笑いではなく、理知的な微笑みである。
「想いは力。想いは形。想いは魂」
「……何ですかいきなり」
「この学園の精神よ。どの子達にも皆その子達の人生が存在するの。だから一様に反省室に入れるだけが教育ではないでしょう?」
「それはそうですが……」
「だから、怪盗を見に行った動機を聞きたいの。それに」
「はい?」
「……案外その中に怪盗が存在するかもしれないわねえ」
「は? 理事長、今何と?」
「学園に掲示します。面接会を開催すると。生徒達にその事を知らせるのも貴方のお仕事でしょう?」
「……了解しました」
青桐は釈然としない面持ちで栞に一例をすると理事長館を後にした。
「さて……」
栞は青桐が去っていったのを窓から確認してから、アルバムを1冊取り出した。
そのアルバムには名前がなく、学園の景色がまばらに撮られていた。
「この中に、あの子達を助けられる子は、存在するかしら……?」
写真は何枚も何枚も存在した。
13時の時計塔。その周りに集まった、生徒達の写真である。
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第2夜 理事長館への訪問
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午後3時10分。
本来なら生徒達はまだ授業中であり、その中うろうろしているのは大学部以上の生徒だろうが、どこにでも特例と言うものは存在する。
新聞部は、今日も手が真っ黒になるまで原稿を書いていた。
先日の怪盗騒ぎは、格好の原稿のネタであった。ちなみに新聞部の活動は公休扱いになり、それ目当てで入る生徒もいるが、四六時中原稿を書き続ける事に嫌気が差して辞めてしまう者も後を絶たない。
それでも構わない生徒だけが、新聞部に所属するのである。
……もっとも、例外と言うものもまた、存在するものだが。
「はーい、工藤先輩―、ここ修正お願いしますー」
「えっ、ここも!?」
「はい、そうです」
工藤勇太は、自分より小さい先輩、小山連太にこき使われて、慣れない新聞の改稿作業に追われていた。
パソコンを使えば比較的楽に行われる改稿作業も、伝統的作業により(と言うより、新聞を印刷する機械の関係で)、手をインクで真っ黒に、時折真っ赤に染めて行っていた。
1度タイプしたものを赤ペンで修正、修正した後写植を施す。
おかげで新聞部はインクの匂いで充満していた。
「はいっ、お疲れ様です!」
「おっ、終わった〜」
原稿は無事、印刷室へと届けられた。
ヘロヘロになって座り込む勇太。
何でこうなったのか。
思えばうっかり小山君とぶつかって原稿撒き散らしちゃったから……。
でもなあ……。
そう文句は出て来ても、同時にわくわくしている自分がいる事に気付く。
あれどうやったんだろう。13時の時計の仕掛け。
それにさっき校正作業しながら今日の新聞読んだけど、何で変な物を盗んだんだろう。
盗まれた物が、オデット像なんて大きなものを盗んだかと思えば、写真部の写真が盗まれたなんて言うのは、随分珍妙なものだ。
もしかすると、盗んでいるものは高価、以外にも意味があるんじゃないかなあ。
そう考えると、学園内が妙に浮き足立っているのも分かると言うものだ。
ふと時計を見上げると、もうそろそろ最後の授業が終わるチャイムが鳴りそうな時間だった。
「そう言えば、俺理事長館に来いって呼び出し食らっちゃったんだけど」
「あれ、工藤先輩もっすか?」
「えー、小山君も?」
「はい。あー、何でばれたんだろう……」
「ははは……」
あれだけ自警団が騒いでたんだから、そりゃ顔割れてても仕方ないよなあと思う。
でも変だなあ。
迷子になる位広いのに、何であの日様子を見に行ってた生徒を全員呼び出せるんだろう?
うーん……。
まあ、呼び出された以上、それを蹴るのもなあ。
「あのさ、理事長館ってどこ?」
「ああ。理事長館は、中庭にあるんですよ」
「その中庭って、どっち側に進めばあるの?」
「ここからだったら近いですよー。ここを出て、時計塔を背にして真っ直ぐ道を進んだら、すぐ芝生地帯に出ますから。そこにある白い建物が理事長館です」
「ありがとうー。じゃあちょっと行ってくるよ」
「行ってらっしゃーい」
連太にひらひらと手を振られて、ギシギシと床を軋ませて新聞部を後にした。
新聞部が部室に使っているのは旧校舎。レンガ造りの塔と呼ばれるほどに高い他の校舎とは違い、床がいずれ外れるんじゃないかと言う位ボロボロな建物であり、唯一の彩りと呼べるものは、壁を伝う血の色をした蔦バラ位である。
今は新聞部の部室以外は機能してはいない。
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午後3時35分。
新聞部を出た所で、こっそりと時計塔にテレポートをした。
「うーん……」
もうそろそろ下校時刻に入るので、時計盤までは跳ぶ事はできなかったが、時計塔の麓までは誰にも見つからずに跳ぶ事ができた。
勇太は目を閉じて、時計塔を触る。
昨日の出来事で残留思念が残っていないかの確認に来たのだ。
勇太が目を閉じると、確かにあちこちに強い思念が転がっているのが分かる。
自警団の声や、厳しい声が聴こえる。これは石頭って聞いてる生徒会長の、かな?
その中で不可解な声が残っているのに気が付いた。
『ありがとう』
『ありがとう』
『ありがとう』
『帰れる。あの頃に』
『また、やっていけるよね』
「……ん?」
勇太は首を捻った。
この残留思念の声は、明らかに人ではないのだ。
しかも何で感謝なんかしてるんだ?
「まさか怪盗は、この声を探し回ってるの……かな?」
うーん? とやっぱり首を捻るが、そろそろ面接時間だ。そろそろ新聞部に戻らないとなあ。
まだ道覚えてないし、人がいるかもしれないからむやみに覚えてない場所にテレポートはできないし。
折角面白くなりそうなのに、また転校は嫌だなあ。
そう思いつつ、跳んだ。
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午後3時40分。
連太に教えられた通りの道を辿ると、確かに見えてきた。
あー、覚えたし今度からテレポートでショートカットできるなあ、まあ見つからないようにこっそりと、だけど。
そう呑気に思いつつ、白い建物を探そうとしたが、探す間もなくそれはすぐに見つかった。
「でっか……」
白い建物って言うから、てっきりもっとこじんまりとしたものだと思ってたけど。
思ってるよりでかい建物に、少しだけ驚く勇太。
誰でも入れるようにと言う配慮か、門は開け放たれているから入ってはいいみたいだけれど。
とりあえず門を潜り、ベルを鳴らす。
ほどなくして、扉は開いた。
「いらっしゃい。えーっと……あなたが工藤勇太君かしら?」
「はい……」
「初めまして、理事長の聖栞です。最近転校してきたと訊いたけど、ここでの生活は慣れた?」
「えっと、まあ。はい」
「うふふ……まあ立ち話も難だから、どうぞ奥へ」
「はい。お邪魔します」
思ってるより若っけー。
出てきた瞬間にこにこと笑う栞を見て、そう感想を持つが。
同時に「怖ぇなあ」とも感想が出る。
中に入ると、螺旋階段があり、その階段の奥に部屋が見えた。階段の上がプライベートルームで、奥の部屋が応接室とかかな?
きょろきょろと辺りを見回していたら、そのまま応接室へと通された。
本棚にピアノ。ソファーにテーブル。奥には冷蔵庫とガス台が備えてあった。
「じゃあそこに座ってくれる?」
「あっ、はーい」
「転校草々、どうして怪盗見に行ったの?」
「あー……やっぱり自警団とか、新聞部の事怒ってるんですか?」
「あら、もう部活に入ったの」
「あれ?」
会話が微妙にずれてる? と勇太は首を傾げた。
てっきり自警団にこの前追いかけ回された事が原因で顔が割れたのかと思っていたけど、違うのか?
栞は勇太が席に着く間、飲み物の用意をしていた。冷蔵庫に入れてあった赤く透き通った飲み物をグラスに入れ、それをガムシロップを添えて持ってきた。
その間、ちらりと勇太は栞の心を覗けないかなと試みた。
何かが流れてくる。
同じ顔の自分と同い年位の男子が2人、きれいな女子が1人、そして3人より明らかに幼い少女が見えた。そして……。
『あんまりその力、使っちゃ駄目よ?』
『あっ……あれ?』
ドキリと心臓が跳ね、勇太は栞の顔を見た。
栞はにこりと笑いながら飲み物をテーブルに並べていた。別に自分が心を読んだ事を
しゃべっては……いないよな?
勇太は冷や汗を掻いた。
「ハイビスカスティー出すわね。酸っぱかったらそのガムシロップ使って」
「はあ……ありがとうございます」
「? どうかした?」
「いや、その……」
まさか心読んだ事気付いたんじゃないよな? また転校は嫌だ〜。
勇太はダラダラと冷や汗を掻きながら、冷やされたハイビスカスティーを飲むが、焦っているせいか味が分からなかった。
「もっ、もしですね、もし」
「なあに?」
「不思議な力を使った人がいたら、その……どうしますか?」
「そうねえ」
何言ってるんだ自分。
そう思うが、栞は首を傾げて言葉を探しているのを凝視する。
「力の使い方次第だと思うけど……。まあプライベートを暴いたり、禁術を使ったりするのは感心しないわねえ。それ以外でいい事に使うのなら、まあ放っておこうかしら?」
「はあ……」
「私だから別にいいけど、それ女の子に使ったら嫌われるわよ? 気をつけてね」
「ひっ……はい」
やっぱりばれてた……。
つうかこの人何だよ、何でテレパシー使ってるの分かるんだよ……。
そう思っていたが、栞はのんびりとテーブルに何かを置いた。
「これ何ですか?」
「これ? ここの鍵。何か相談とかあったらここに来てね。まあここには自由に来てもいいから」
「はあ……」
テーブルの上に置かれた鍵を、まじまじと見た。
何に使えばいいんだろう、これ。そう思いつつ。
<第2夜・了>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1122/工藤勇太/男/17歳/超能力高校生】
【NPC/小山連太/男/13歳/聖学園新聞部員】
【NPC/聖栞/女/36歳/聖学園理事長】
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■ ライター通信 ■
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工藤勇太様へ。
こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第2夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は楠木えりか、聖栞とのコネクションができました。よろしければシチュエーションノベルや手紙で絡んでみて下さい。
また、アイテムを入手しましたのでアイテム欄をご確認下さいませ。
第3夜公開も現在公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。
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