■夜行の灯火■
戌井 凛音 |
【8504】【松本・太一】【会社員/魔女】 |
■摂州のとある町にて
10月にさしかかり、村や町ではハロウィン一色となり
鮮やかな電飾やかぼちゃの灯篭などで飾り付けがされていく。
「ふぅ。今日も疲れた・・・」
20代前半に見える一人の女性が、今日も仕事を終え帰り路を急ぐ。
丁度時刻は、亥の刻を少し過ぎた頃だった。
「最近、変な噂もあるし早く帰らなくちゃ」
足早に通りを抜けようとしたその時、コエが聞こえた気がした。
彼女はコエが聞こえたほうを見て、少し足を止める。
「誰か呼んだかしら?」
通りから少し離れたところにある灯りを見つけ、おもむろに彼女は歩き出す。
灯りのあるほうへ差し掛かったその時、彼女の阿鼻叫喚が辺りに響く。
「きゃあぁ!!誰か助け・・・」
その言葉を最後に、彼女の姿を見るものはいなかった。
■草間興信所
リリリ・・・リリリリン・・・リリリリン!
「誰だよ、朝っぱらから」
溜息をつきながら探偵事務所の電話にでる草間武彦の姿があった。
『・・・』
「あぁ、お前か。朝から何の用だ?」
煙草に火をつけ、受話器の向こう側の話を聞く。
「あ?資料?なんだそれ」
首をかしげていた武彦に、草間零が一つの封筒を持ってくる。
「お話中すいません。こんなものが玄関に挟まっていたので」
電話中だったため、申し訳なさそうに一枚の封筒を渡す。
「ありがとな」
武彦は礼を言い封筒を受け取ると、ビリビリ封を切り中身を確認する。
封筒には数枚の紙が入っており、失踪事件当夜についてやここ数日の目撃記録などが記載されていた。
武彦はその中でも、「猫の様な姿をした大きな影に襲われそうになった」という証言が気になった。
「わりぃ。今見た。女性が数日前に起きた失踪した事件を解決して欲しいって事だな?」
相手は二言返事をしたようで、草間は少し考えているようだった。
しばしの沈黙が続く。
「わかった。ただし、報酬はたっぷり頂くからな」
草間はめんどくさそうな顔をしながら電話を切り、また電話を掛け出す。
プ・・プ・・プ・・・
「あー俺だ。ちょっと悪いんだが仕事を頼まれてくれないか?」
『・・・・』
「昨夜起こった失踪についてだ。すぐにそっちに資料を持っていかすからよろしく頼む。」
『・・・・』
「すぐにそっちに資料を持っていかすからよろしく頼む」
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◆始まりの着信
プルルル‥プルル
「はい。松本です」
出張帰りの松本・太一(まつもと・たいち)の姿が新幹線の連結部にあった。
電話がかかってきた為慌てて移動したせいか、背広が若干乱れていた。
『‥‥』
「摂州でしたら、途中で寄れますしお引き受けします。資料はメールで‥」
『あ?メールなんて有る訳ねぇだろうが』
「あー‥どうしましょうか‥」
『零を使いに出すから暫く駅で待っててくれ』
そう言うと、草間はガチャンと電話を切る。
「草間さんの妹だったかな?」
太一は零と言う名前の女の子を思い出すが、今一顔が思い出せず暫く悩んでいたが、
出張の残務処理がある事を思い出し急いで席へと戻る。
「そうだ‥ついでに事件についても調べとくか」
ボソっと呟きパソコンのブラウザを起動させ『摂州 事件』と打ち込みページを開く。
様々な記事があり憶測だけが行き交っていた。
(ハロウィンに触発された百鬼夜行かワイルドハント?)
心の中で呟きながら、色々な角度から事件を模索する。
「何にせよ、資料を受け取らない限り分からないか」
溜息を一つ吐きながら、窓越しに移る夜景を眺める。
◆零と捜査と過去
摂州の駅に着いた太一の傍に一人の少女が駆け寄ってくる。
「ま‥松本さんですか?」
少女の手には似ても似つかない似顔絵が描かれた紙があった。
「あ‥はい」
太一は、ぬいぐるみを背負った少女を見詰る。
「草間零です。兄から書類を預かってきました」
草間・零(くさま・れい)は少し微笑み一通の封筒を太一に手渡す。
「私もお手伝いさせて下さい」
書類を確認していた太一は突然の申し出に唖然とし零の顔を見る。
「い‥否しかし草間さんに聞いてからでないと‥」
ハッと我にかえるや否や零の説得を試みるが、大丈夫の一点張りに負けてしまう。
「それじゃ、危ないと思ったら直に逃げてくださいね」
何度も念を押し、二人は捜査を行うこととなった。
「猫の様な姿というと鵺か化け猫だろうか?どちらにしても多分‥」
太一の頭の中では、もう女性は喰い殺されたのではないか?という考えと、
巻き込まれ化け物になってしまっていて生きているかも知れないという考えがぐるぐる渦を巻いていた。
「どうでしょうね。ハロウィンと言えば魔女。魔女と言えば黒猫さんでしょうか?」
難しい顔をしながら資料を読んでいた太一の呟きに零が答える。
「魔女に黒猫さんって‥あははは」
真剣な顔で答えた零を見ながら思わず太一は噴出してしまう。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
零は少しほっぺたを膨らませそっぽを向きながらブツブツ呟く。
「すいません。でも‥あはは」
王道とも言える事を真剣な顔で言うのが面白かったのかやはり太一は笑ってしまう。
と、其の時辺りに『クゥ〜』と言う音が響く。
「あ‥」
「お詫びと言いますか、クレープでも食べますか?」
太一は零に向ってニッコリ微笑むとクレープ屋さんを指差し、クレープを買いに行く。
「このクレープを一つ。後、少し伺いたいのですが‥」
太一は事件について店員に尋ねる。
「私も猫のような大きな影は見たわ。ここから一本筋を入ったところよ」
そう言って店員は斜め前にある角を指差し、クレープを差し出す。
「後、これは噂なんだけどそこには遺跡があって夜中に人を引き擦り込むとか言われてたわよ」
「有難うございます」
太一はペコリと頭を下げクレープを受け取り代金を支払い零の元へ駆けつける。
「はい、どうぞ」
太一は零にクレープを差し出す。
「あ‥ありがとう‥です」
少し俯きながらクレープを受け取る零の姿を見て少し微笑ましい気持ちになる太一だった。
一通り色々な人から話を聞いたが口を揃えたかの様に遺跡の話が出てきていた。
「女性の失踪した場所ってこの辺りですか?」
失踪現場に着いた時、既に時刻は深夜と言っていい程の時間になっており辺りは薄暗くなっていた。
太一は資料を再度確認し、辺りを見回す。
「そうですね。少し過去を覗いてみますか‥」
太一は少し零を気にしながらも、魔女の力を行使する事にした。
「我願う、事象の扉 我が前に現れんことを―」
太一の体を淡い紫色の光を包んだかと思うと、「夜宵の魔女」へと覚醒する。
覚醒した太一は、清楚な紫眼の綺麗な黒髪の女性で魔女装束を身に纏っていた。
「え‥え‥?!」
初めて見た零はさすがに戸惑っていたが直に状況を飲み込む。
「ごめんなさい。少しビックリしましたか?」
「あ‥いえいえ。一応兄から聞いてはいたのですが、あまりにもお綺麗だったので」
「有難うございます」
太一は、左手に持っていたステッキを両手に持ち直し、扉を見詰る。
「少し垣間見せていただきましょうか」
ステッキで扉をコンコンと叩くと、ソレは重い音を立てながら開く。
◆黒猫現ル
過去の事象を垣間見た太一は全てを理解した。
大きな猫の影と言うのは零の言う様に黒猫のようだった。
大好きな主人を亡くし寂しさに耽っていると突然遺跡が現れ、
黒猫がその遺跡に触れた瞬間猫ではなく異形のモノへと姿を変えていった。
女性を攫ったのは寂しさからだろう。と太一は感じた。
「私が囮になります」
太一から事象について説明を受けた零が突然囮を買って出る。
「駄目です。危なすぎますから」
「大丈夫です」
数分間の二人の会話は平行線を辿る、やがて太一が仕方が無く折れる。
「分かりました。だけど絶対に無茶はしないで下さいね」
強く念を押すと、太一は周囲と自分を同化させていく。
――
どれ程の時間が経った頃か、すっかり辺りからは人の気配がなくなっていた。
『オイデ、コッチダヨ』
突然奥の方から、コエが聞こえてくる。
零と透明状態の太一がゆっくりコエの方へと歩む。
一つの灯りが見えた其の瞬間、零の体を突然影が覆いだす。
「きゃあぁぁ」
零は抵抗と叫ぶ振りをする。
(本当に振りだよな?)
太一は心の中で呟きながら、零と影を見失わないように後を追っていると、
ボンヤリと宙に浮んだ遺跡の下に辿り着く。
◆影との格闘
遺跡の中は思っていた以上にジメジメしていた。
「一体どこまで連れて行くのですかっ」
零は相変わらず迫真の演技を続けていた。
角という角を一体どれ位曲がっただろうか‥さらに奥へと進んでいく。
と、突然明るい部屋へと到着する。
「こ‥ここから‥だ‥して‥」
奥の方からか細い声が聞こえてくる。
どうやら失踪した女性のようだ。
『イヤダ オ前 オレト ココニイル』
片言の人語で影は女性に語りかけていた其の時、
「いい加減になさい。その人はアナタの飼い主じゃない!」
透明化していた太一が黒猫だったモノを説得する為に姿を現す。
それと同時に影で縛られていた零が、短剣で影を切り裂いたかと思うと女性の元へ駆けつける。
「この人は私が」
零はそう叫ぶと、鮮やかな手際で鍵を開けて女性を救出すると、背中に翼を生やす。
どうやら近くに存在した鳥類の怨霊をチカラへと変えた様だ。
「後はお願いします」
零は太一に後を頼むと逸早く遺跡からの脱出を試みる。
『ウオォォーン オ前達 許サナイ!』
影は突然膨張し、太一の方へと迫ってくる。
「お願いです。話を聞いて下さい」
『ウルサイ ウルサイ!』
女性を奪われた事で完全に怒り心頭状態になっていた。
「仕方ないですね」
太一は深呼吸をし、術式を展開し始める。
太一の周囲が蒼白く輝き出したかと思うと、やがてステッキに集光される。
「頭を冷やしなさい!」
影に蒼白く輝く光珠を投げつけると、影は見る見る内に小さくなりやがて黒猫へと姿を変える。
『ウゥ‥寂シイダケナノニ』
黒猫の瞳からは淡い水色の滴が一滴また一滴と零れ落ちていた。
「そうですよね‥」
太一は黒猫の傍らへと駆け寄り、頭を撫でそっと抱きしめる。
黒猫は久しぶりのその感覚に戸惑いながらも嬉しそうな笑みを浮かべる。
「分かりました。何とかしてみましょう」
黒猫を抱きかかえたまま、太一は遺跡をでると事象の発端となったこの遺跡の封印を行う。
「これでもう大丈夫でしょう」
封印を終えた太一はすぐさま草間に連絡をする。
「草間さん、今回の事件についてですが‥」
『‥‥』
「あ、はい。って、零さんもうそこにいらっしゃるのですか?!」
『あー、アイツはちょっと特別だからな。それでその猫だが‥』
「遺跡も封印しましたし、寂しかっただけのようなんです」
太一は必死に草間を今回の事件について説明する。
『仕方ないな。俺の知り合いに頼んでやるから連れて帰って来い』
「え?本当ですか!有難うございます!!」
必死の説得が通った嬉しさの余り太一は思わず黒猫を放り投げてしまう。
突然の出来事に黒猫は思わず悲鳴を挙げるが、慌てて太一がぎゅーっと抱きしめられ幸せそうな顔をする。
「よかったな、お前。もうこんな事はするんじゃないぞ」
黒猫は太一にスリスリ頬ずりをすると一言「にゃぁ〜」と鳴いてみせた。
―――
依頼を終えた太一は黒猫と共に草間興信所を訪れていた。
草間が言うには失踪者の彼女はどうやら事象に関わっていた事全てを忘れているようだった。
「まぁ、そういう事で今回は特別だ」
草間はニッと笑い、太一の頭を撫でる。
「本当に良かった」
黒猫を見詰る太一の瞳はとても優しいものだった。
+++登場人物+++
整理番号 8504
松本・太一 (まつもと・たいち)
NPC 草間 武彦
草間 零
+++りね便り+++
松本様、シナリオ参加有難うございました
いかがでしたでしょうか?
今回のお話は「共存共栄」されたいという事、非殺生で書かせていただきました。
拙い文章ですが、気に入っていただけると嬉しく思います
もし、イメージが違っていたりした場合は、遠慮なく申しつけ下さい
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