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■夢の檻■

紫月サクヤ
【1252】【海原・みなも】【女学生】
 天地のない闇。
 重力も何も感じられないその中に一人の黒衣の青年が立っていた。闇の中に一際輝く銀髪。そして暗闇の中だというのに黒布で覆われた両目。すらりと伸びた背筋には異空間にいる不安は感じられない。
「もう逃げられませんよ。さぁ、諦めてコチラへ」
 しかしその声に応答はない。
 そもそもその闇には何があるのか。
「そちらから出てこないのであれば、私が直に捕まえますよ。夢魔にも心音がある。私はそこに手を伸ばせばいい」
 くすっと微笑み青年はすっと暗闇に白いしなやかな指を伸ばす。
 そして何もない空間で手を握りしめる動作をすると、闇が一つの形を作り出した。
 それはゆっくりと黒い翼を持つ一人の女性の形を描きはじめる。青年の掴んだ部分から白い蒸気が立ち上った。

「捕まえた・・・」
「ぎゃぁぁぁぁっ・・・苦しいっ、離して」
「私もそれほどバカではありませんから。離して貴方が消え去るという可能性を無視できない」
「いやぁーっ」
 手足をばたつかせ必死に青年の手を振り払おうとする夢魔。しかし青年はそれを軽く交わし笑う。
「往生際が悪いですね。・・・とても美味しそうだ」
 おやつには勿体ないかもしれない、と呟いた青年に息も絶え絶えの夢魔が告げる。
「はっ、『夢狩り人の貘』と名高いアンタが随分とがっついているじゃない。アンタの側には夢魔のガキがいるでしょ。アイツを先に食べればいいっ!」
 それは無理です、と貘と呼ばれた青年は残念そうに言う。
「改心したそうで美味しくないらしいですから。私、結構美食家なんですよ」
 だから貴方の方が美味しそうだ、と貘は白い肌ゆえに目立つ赤い唇を薄く開く。
「イヤよっ!アンタに食べられるだなんてっ!」
 まさに貘が夢魔を食そうとした時、ドンッ、と強い衝撃が闇を襲う。そしてガラガラと硝子が割れるように崩れていく世界。闇に光が満ちていく。
「おかしい・・・何故・・・」
 貘の呟きは満ちる光に溶ける。
 悪夢の宿主が目覚めた事を告げる夢の世界の崩壊。貘が夢渡りをしている時に目覚めるなど普通ならあり得なかった。そしてその世界の崩壊は貘を閉じこめる檻となる。もしもの時にその檻を突破する術を持つ貘の相方は、あいにく今日は別の件で出ていて此処には居ない。貘は無惨にも檻に閉じこめられた。
「ふふふっ。私の勝ちね。夢に捕らわれ夢の中でくたばりなさいな」
 高笑いをしながら夢魔は宿主の精神に溶けていった。
夢の檻

------<囚われた魂>------------------------


 天地のない闇。
 重力も何も感じられないその中に一人の黒衣の青年が立っていた。闇の中に一際輝く銀髪。そして暗闇の中だというのに黒布で覆われた両目。すらりと伸びた背筋には異空間にいる不安は感じられない。
「もう逃げられませんよ。さぁ、諦めてコチラへ」
 しかしその声に応答はない。
 そもそもその闇には何があるのか。
「そちらから出てこないのであれば、私が直に捕まえますよ。夢魔にも心音がある。私はそこに手を伸ばせばいい」
 くすっと微笑み青年はすっと暗闇に白いしなやかな指を伸ばす。
 そして何もない空間で手を握りしめる動作をすると、闇が一つの形を作り出した。
 それはゆっくりと黒い翼を持つ一人の女性の形を描きはじめる。青年の掴んだ部分から白い蒸気が立ち上った。

「捕まえた……」
「ぎゃぁぁぁぁっ……苦しいっ、離して」
「私もそれほどバカではありませんから。離して貴方が消え去るという可能性を無視できない」
「いやぁーっ」
 手足をばたつかせ必死に青年の手を振り払おうとする夢魔。しかし青年はそれを軽く交わし笑う。
「往生際が悪いですね。……とても美味しそうだ」
 おやつには勿体ないかもしれない、と呟いた青年に息も絶え絶えの夢魔が告げる。
「はっ、『夢狩り人の貘』と名高いアンタが随分とがっついているじゃない。アンタの側には夢魔のガキがいるでしょ。アイツを先に食べればいいっ!」
 それは無理です、と貘と呼ばれた青年は残念そうに言う。
「改心したそうで美味しくないらしいですから。私、結構美食家なんですよ」
 だから貴方の方が美味しそうだ、と貘は白い肌ゆえに目立つ赤い唇を薄く開く。
「イヤよっ!アンタに食べられるだなんてっ!」
 まさに貘が夢魔を食そうとした時、ドンッ、と強い衝撃が闇を襲う。そしてガラガラと硝子が割れるように崩れていく世界。闇に光が満ちていく。
「おかしい……何故……」
 貘の呟きは満ちる光に溶ける。
 悪夢の宿主が目覚めた事を告げる夢の世界の崩壊。貘が夢渡りをしている時に目覚めるなど普通ならあり得なかった。そしてその世界の崩壊は貘を閉じこめる檻となる。もしもの時にその檻を突破する術を持つ貘の相方は、あいにく今日は別の件で出ていて此処には居ない。貘は無惨にも檻に閉じこめられた。
「ふふふっ。私の勝ちね。夢に捕らわれ夢の中でくたばりなさいな」
 高笑いをしながら夢魔は宿主の精神に溶けていった。


------<夢紡樹>------------------------

 軽やかな足取りで海原みなもは以前と変わらぬ道を行く。しばらく辿り着く事が出来なかった夢紡樹だったが、最近また現れたという噂を耳にし、みなもは白百合を手にやってきたのだった。前の百合授業のお礼に白百合を持ち、みなもの心は浮き足立っている。久々の来店となるがまだ自分の席はあるだろうか、という思いが頭の片隅をよぎり微かな不安を覚えるが、早くウエイトレスのリリィに会いたいという気持ちの方が勝って足が早まった。
 久々に辿り着いた店は変わらぬ面持ちを保っていた。みなもはにっこりと愛らしい笑みを浮かべその扉をくぐる。
「……あれ?」
 しかし、すんなりと開いたドアの向こうにみなもの待ち望んでいた光景はなかった。いつもならとびきりの笑顔を振りまきながら挨拶をしてくるリリィがいない。それに加え、穏やかな雰囲気のエドガーも、楽しそうに談笑する客もまったくいないのだ。
 みなもは首を傾げ、ドアにかけられた札を確認するが確かにそれは”OPEN”の文字だった。
「何かあったんでしょうか」
 みなもがぽつりと呟いた時、奥の方から、マスター、と貘を呼ぶリリィの悲鳴が聞こえた。みなもの足は無意識にそちらに向かう。
 店の奥は迷路のようになっていると以前聞いた事があり一人では心細く不安だったが、みなもは声と人の体内を流れる血の音を頼りに歩いて行き、見事にその場所に辿り着いた。
「あの、お久しぶりです。お店に誰もいらっしゃらなくて、ついこちらで声が聞こえたものだから……」
 ひょっこりと顔を出したみなもに気付いたリリィは、一瞬目を見開くがすぐに瞳に涙を浮かべみなもに抱きつく。
「久しぶりなのー!」
「はい、お久しぶりです。ところで今日はもうお店は終わりですか? 何かトラブルでも?」
 そうみなもが尋ねるとリリィは大きく頷きみなもを見上げた。
「あのね、マスターがね夢の中に捕らわれちゃったの」
「もしかして……貘さん、ピンチ?」
「大ピンチ! 今までマスターが夢渡りの時に宿主が起きる事なんてなかったのに……。途中で宿主の目が覚めてしまうと夢の中に居るものはその中に閉じ込められちゃうの」
 リリィの力だけじゃ中に入れても連れ戻せないし、とリリィはべそをかく。それを聞いてしばらく思案したみなもだったが、さらりとリリィの頭を撫でると声をかけた。
「……えっと、あたしが協力してもいいでしょうか」
「キミが?」
「えぇ。そうさせてください」
 みなもが安心させるようにもう一度リリィの頭を撫でながら告げると、リリィの顔にようやく笑顔が浮かぶ。
「ありがとう! すごく心強いな」
「本当ですね。あぁ、お久しぶりです、みなもさん」
 そこへやってきたのはエドガーと漣玉だった。
「まったく……だからあれほど夢渡りは一人でするな、と言っていたのに」
 普段と変わらぬ柔和な笑みを携えたエドガーだったが、呆れた口調で貘の失敗を嘆いた。そして放心状態に陥っている依頼主の女性の容態と、その隣にある椅子に腰掛けたまま意識のない貘をみている。エドガーが安堵の表情を浮かべたところをみると問題はないようで、依頼主と貘のことが気になっていたみなもは安心し、ほっと息を吐き出した。
「おぬしもそう言うでない。どれ、わらわも手伝うぞ」
 漣玉の瑞々しい手がみなもの手にあった白百合を抜き取っていく。そういえば漣玉への依頼は白百合で行う事を思い出したみなもはお礼に持ってきた白百合を漣玉に渡す事に決め、依頼人へのカウンセリングをお願いする。
「あたし、まずはその女性の心を安定させる事が必要だと思うんです。リラックスできるような環境で、心と体のバランスを保ちつつ、安眠を促す。そして夢の中に入って貘さんの救出をするというのはどうでしょうか」
「賛成!」
 一も二もなく頷くリリィに続き、エドガーと漣玉も頷く。
「それにはそちらの女性にもご協力いただかないと」
 みなもはにっこりと微笑んで依頼人の女性へと向き合った。


 かくして四人での貘救出作戦が開始されたが、まずはエドガーの出番だった。
 女性から好みの食べ物を聞き出しながら、夢魔の潜む深層を探って貰う。ちらつく夢魔の存在をエドガーは笑顔のまま探るが、すんでの所で夢魔はエドガーの思念から抜け出していく。どうやら夢魔は不安定な女性の意識をうまく使っているようだった。
「今一番食べたいものはなんですか?」
「んー、やっぱりケーキかしら。ホールまるごと食べてみたいわ。あぁ、でも太っちゃうし、また昔の私に戻る悪夢なんてみたくないし」
 女性の眉間に皺が寄り、不快感が溢れている。今まで繰り返しみた悪夢を思い出し渋い顔をしていた。それを笑うかのように夢魔がちらりと顔を覗かせた瞬間をエドガーは逃さなかった。
「捕まえた」
 くすり、と笑ったエドガーはみなもを振り返り告げる。
「夢魔も貘と同様囚われの身にしてみました」
 エドガーに伝わるのは女性の中で自由を失った夢魔の抜け出そうとする思念。
「まだ捕まえといてくださいね」
 みなもはそう言うとエドガーにケーキをホールで焼いて欲しいと告げ、キッチンへと送り出した。しかし女性は首をかたくなに振り、ケーキなんていらない、と言う。心の中でケーキを食べることを欲しているとエドガーでなくともわかる位に女性の視線はキッチンへと釘付けだった。
 その間に漣玉がカウンセリングを行い始める。
 手にした白百合を弄びながら女性の嘆きを受け止める漣玉は妖艶さを保っていた。輝くような美しさを放つ漣玉に比べ、依頼人の女性は疲れ果て実年齢よりも老けて見える。悪夢で睡眠を取る事が難しいのが原因の一つである事は容易に想像できた。
 女性の嘆きは太りやすい体質である事だった。苦労して痩せそれを保つ日々だったが、夢魔にそのことで隙を見せてしまい今に至るとのことを聞き、みなもは女性の血中コントロールを思いつく。
「あの、お話中すみません。ケーキをワンホール食べても太らなく出来るかも、って思いついたんですけど」
「本当にっ?」
 女性の食いつきは半端ないものだった。みなもの提案が相当すばらしいものに思えたのだろう。確かにお腹いっぱいにケーキを食べても太らない方法があるとしたら、それは世の中の甘党を大いに喜ばせるものだ。
「えぇ、だから今日は心ゆくまでケーキを食べて頂いてけっこうです。そしてゆっくり眠ってください」
「それは嬉しい提案」
 疲れたような女性の表情にほんの少し希望が見える。
 みなもは女性に許可を取り、体内からケリュケイオンを取り出す。流動性非金属製であるそれは杖のような形をしており、みなもの手に握られている。女性は目を瞠りそれを凝視した。
「害はありませんから」
 みなもは安心させるように笑顔でそれを告げるとケリュケイオンを霧散させ女性の体に纏わせた。ゆっくりとケリュケイオンと女性の体を混ぜていき、”水”と認識させた女性をみなもの支配下におく。そして肥満防止に歯止めをかけるように血中コントロールを始めた。医学の知識などなくても水と認識させたものに対して、みなもの力は絶大だ。食べても太らないようにするのも、体調を万全にすることも容易い。
 そのうちエドガーが綺麗に盛りつけられたケーキを運んでくると女性の目が輝いた。
「二年ぶりのホールケーキ!」
 叫んだ女性の言葉にみなもは、どうぞ心ゆくまで食べてください、とケーキを差し出した。
「本当の本当に食べても平気? 太らない?」
「えぇ、私に任せてください。太りやすい体質と共に夢魔も一緒に追い出してやりましょう」
「一石二鳥で嬉しかろう?」
「もちろん!」
 感激の余り目に涙を溜めた女性は何度も謝礼の言葉を述べ、ケーキを口にした。その瞬間、女性の顔に満面の笑みが浮かぶ。よっぽど美味しかったのか、瞬く間にケーキを食べ終えた女性は不安を取り除かれた安心感とみなもによる体力回復および体質改善により満面の笑みを湛えていた。
 もう大丈夫だろうと判断したみなもは女性には睡眠を取って貰う事にする。
 そしてみなもは管狐のみこちゃんを取り出しながら、エドガーに現在の夢魔の状態を尋ねた。女性の精神安定による憔悴があれば良いと思っていたが、みなもの考察は当たっており、先ほどエドガーに捕らえられた精神の檻の中でぐったりしているという。餌である悪夢や恐怖が女性の中から消え始めたのだから力も出ないのだろう。
「今のうちに貘さんの救出をしましょう」
 みなもは人の良い笑みを浮かべると夢の中での自衛のためみこちゃんを自分自身へと憑ける。感覚が強化され、他人の血流がいつも以上に聞こえ始めクラクラする。そしてそれがより一層みなもを落ち着かない気分にさせたが、軽く頭を振ると先ほどから心配そうに貘を見つめたまま側を離れないリリィへ近づいた。
「夢の中への案内、お願いできますか?」
「うん、早くマスターを助け出さないと夢に取り込まれちゃうから……行こう」
「では俺もご一緒します」
 みなもとエドガーとリリィが夢の中へと旅立ち、漣玉が全員を見守り外からのサポートへをすることになった。
「わらわはこちらで皆の抜け殻の見張りをしておるからな」
「漣玉さん、よろしくお願いします。いってきます」
 魅力的に映る青い髪を揺らし、リリィに導かれるままにみなもは夢の中へと潜る。力が抜け傾いていくみなもの体を支えながら漣玉は全員の無事を祈った。


------<夢の中へ>------------------------

 リリィに促されみなもは瞳を開ける。そこは真っ暗な暗闇だった。
 完全なる闇。みなもはそこに何が存在しているのかさえ分からない。聞こえるのはその場に響く声だけ。夢の中では実体を持たないため血流も聞こえない。この空間で探す術を持たないみなもは近くに居るであろうエドガーに貘の捜索を頼む。先に貘を探すよう頼んだのはエドガーが捕らえている夢魔の場所を知らぬはずがないと思ったからだった。
 暗闇の中でエドガーが貘の意識を探し出している間に、リリィは光の球体を作り出しその場を照らし出す。
 ようやく明るくなるが、急激なる光に目が慣れず、みなもは何度も瞬きを繰り返した。しかし元夢魔であるリリィは夢の中では水を得た魚のように自由がきくらしく、みなもの姿を見て、素敵素敵、と声を上げてはしゃぎ出す。その時、ようやくみなもは自分自身の姿を見て頬を赤く染めた。
「あっ……私、またしてもなんて格好を」
 以前、リリィの夢の中でした夢魔の格好と酷似していた。黒のビキニのような露出の高い格好だったが、以前と違うのはコウモリのような羽の代わりに、狐の耳と尻尾がプラスされている事だった。ふさふさの尻尾が恥じらうようにみなもの体を包み込み隠すが、それが余計にいやらしさを倍増させている事にみなもは気付いていない。太ももの辺りから胸の辺りまでのびる尻尾。その姿は刺激的だった。
 意識して耳と尻尾を隠し、服装も変えようと試みるが、落ち着きがない状態では精神を集中させる事が出来ずうまくいかない。
「もう諦めようよ。リリィとっても眼福だから、ねっ! だからこのままマスター探して、おいたをしてくれた夢魔を捕まえよう」
 もふもふー、とリリィはみなもの尻尾に顔を埋めながらぎゅうっと抱きつく。はわわわ、とみなもは宙に浮いたままの手をせわしなく上下に動かし、困ったように視線を彷徨わせた。その時、微笑ましいものをみるような様子のエドガーと目が合いみなもは動きを止める。
「ふふっ、仲が良くて良いですね。お似合いですし、そのままでいいと思いますよ。さて、うちの囚われの人物を発見しましたし、そろそろ行きますか」
「は、はいぃ」
 みなもも観念してその姿で過ごす事に決めるとエドガーの後に続く。みなもと手を繋いだリリィは楽しげに、しかし貘の事は気がかりなのか足早にその手を引いた。

 しばらく進むと白い骨のようなもので出来た牢獄に閉じ込められた貘の姿が見えてきた。
 ぼんやりと座って居たが、貘の姿には外傷もなく三人は安堵の溜息を吐く。
「お迎えに来ました」
 みなもが声をかけると貘は口角をあげ笑い、ありがとうございます、と告げる。しかしエドガーはそんな貘の姿を見てちくりと嫌味を言った。そんな仲の良いやりとりをみるとみなももようやく貘の救出が成功した事を実感する。ずっと貘の事を心配していたリリィも立ち上がり、エドガーが作った穴から貘が出てきたところへ飛びついた。
「マスター!」
「はい、心配かけてすみませんでした」
「もう本当に一人で夢渡りするのは止める事。あと、この夢に巣くう夢魔はどうするんですか?」
「そうでした、エドガーさんが捕まえていてくれてるんですけど……貘さんお腹すいてますよね」
 みなもの言葉に貘は大きく頷く。
「はい、とても。一応脱出を試みたりしていたので、ぺこぺこなんですよ」
 苦笑気味に呟く貘にみなももつられて苦笑する。
「では私も食事…といきましょうか」
 エドガーに含みのある顔を向けると、エドガーも頷き貘を連れて捕らえている夢魔の元へと向かっていった。残されたリリィはみなもの手を取り逆方向へと歩き出す。みなもは振り返り貘たちを見るが、すでにその姿は消えており、リリィに慌てて声をかけた。
「あの、貘さんたちは……」
「んー? あぁ、マスターたちはいいの。リリィたちは先に夢から戻って二人を迎えてあげないとね」
「……そういうものですか」
「うんっ」
 遠くで何かが消えていくような気配を感じたような気もしたが、弱肉強食の世界よね、とみなもはリリィと共に夢の世界から現実へと帰還した。


------<夢のあとで>------------------------

 夢魔に取り憑かれていた女性も交えて、みなもは貘たちとティータイムを楽しんでいた。
「こうしてお茶を飲める事って幸せですね」
 のほほんと笑みを浮かべたみなもが言えば、皆も頷き珈琲の香りを楽しみそれを口へと運ぶ。
「私、自分の体質と向き合いながらうまく欲求をコントロールできるように頑張りますね。もう取り憑かれないように」
 苦笑気味に女性が言うと、リリィが告げる。
「頑張りすぎてても夢魔はその隙をつこうとするから、頑張りすぎるのもNGなの」
「何事もほどほどにってことですね」
 みなもの言葉にリリィは大きく頷く。
「まぁ、今回はみなもさんのおかげで無事に解決できて良かったです」
「閉じ込められた時はどうしようかと思いましたけどね」
「自業自得です」
 ぴしゃりと言うエドガーの言葉に周りがどっと湧く。
「気をつけます」
 苦笑した貘が珈琲のおかわりを頼み、お茶会はなおも穏やかに続いていく。
 みなもの席は今も変わらずそこにある。そのことにみなもは安堵し、ゆったりとした表情で変わらぬ景色を眺めたのだった。



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■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

●1252/海原・みなも/女性 /13歳/中学生