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■まだらイグニッション! そのに。■

ともやいずみ
【8001】【エミリア・ジェンドリン】【アウトサイダー】
『電脳ゲーム【CR】(ケミカル・リアクション)は現在運営を停止しております。
 ダイブされる皆様には大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。
 現在復旧の目処は立っておりませんが、原因を早期解決し、再び皆様にあいまみえますことを切に願っております』

 ダイブを開始します…………。
 5、4……3……2…………1…………0。
 ようこそ、電脳ゲーム【CR】へ。
 それでは……ゲームスタート。
まだらイグニッション! そのに。



 参加者を、確認。ゲームをスタートしますか?



 エミリア・ジェンドリンはぱち、と瞼を押し上げる。
「…………」
 なんだろう。この無性に嫌な予感は。
 周囲はすべて金だ。建物も金。地面も金色のレンガでできている。木々も草も、すべてが金で、気持ち悪い。
 なんだこの世界は?
(やれやれ)
 内心、嘆息してしまう。
(また見慣れないところに来ちゃったわね……)
 この無臭の世界と、この奇妙な違和感が合致する場所を、エミリアは一つだけ知っている。
 電脳ゲーム『CR』の中だ。
 前回から約一ヶ月ほど経過しているわけだが、どうやらこの世界は独自のルールがあり、ある特殊なフィールドとなっているようだ。
(前と違う場所ね……)
 以前はジャングルのような場所だった。
 今回はわりと町規模まで進化している場所だ。しかしひと気はない。
<前回のデータを引き継ぎます。それでは、あなたの旅に加護があらんことを>
 言うだけ言って、わけのわからない『天の声』は消え去った。
 代わりにすぐそばにウテナが出現する。以前とまったく変わらない姿と表情だ。
 とにかくこの世界では、エミリアはウテナに頼らなくてはならないようだ。自らの力でなんとかするようにはできていないようだ。下手をすれば排除されてしまうかもしれない。
 一ヶ月前に、アマジーグを召還しようにもできず、挙句にその行為に対してペナルティが発生しそうになった。
 ここでは慎重に行動しなければならないようだ。
 それにしては情報量が少ない。わかっていることといえば、ウテナとの「絆」が鍵のようだということだけだ。
 この不可思議な出来事を解決に導けるなら、二人で協力して乗り切ってやろう。
 ちら、とエミリアはウテナを見る。ウテナはこちらを見ようとはしない。
「よろしく、ウテナ」
「…………」
 無言だ。
 エミリアはちょっと困ってしまう。
 今後この世界で相棒をするとなると、持ちつ持たれつの関係になるわけだから、もっとコミュニケーションをとりたいのだが。
「挨拶をしたら、きちんと挨拶をしないと。ウテナ」
 つい、こどもに説教をするように言ってしまう。とはいえ、どこか茶化すような口調で柔らかく、だが。
 ウテナはこちらを見もしない。やはり無反応だ。
「…………」
 どうしよう。
「ここはどこかしら? 周りが金ぴかで、目が痛いわね」
「この世界は金の世界。水の世界の隣に存在しています」
「水の世界? 前回の場所?」
「そうです」
「へえ……」
 まともに会話したのは初めてかもしれない。
 エミリアが歩き出すと、ウテナも歩く。距離を詰めたりしないところからすると、そういう設定らしい。
「ステータスは?」
「ステータスを表示」
 歩きながらのウテナの真横に、光る文字がずらっと上から下に並んで表示される。
 やはり戦闘能力はほぼ皆無。防御もだ。絆の部分だけが真っ赤に明滅しているのも変わらない。
「絆か……」
 ぼんやりと呟き、エミリアは振り向きつつウテナに言う。
「ま、せっかくだから悪いようにはしないし、協力も惜しまないから、その力、頼りにさせてもらうわよ」
 そう言ってみるが、ウテナは無反応だ。むしろ絆の部分が赤く明滅し、エラー音が鳴り始める。
「えっ、えっ!?」
 驚愕して足を止めるエミリアに、ウテナも倣って立ち止まった。彼女は口を開いた。
「ウテナに対しての認識が改変されました。絆のパラメーターを再表示」
 マイナスになった……。
 衝撃に硬直しているエミリアは、続いてウテナが口にしたことに唖然とするしかない。
「ペナルティが発生。ウテナを使用できる回数が1、減りました」
「えええー! どうしてそうなるの?」
 わけがわからない!
 エミリアは説明を求めた。
「どうして? あたし、なにかした?」
 したのだろう。ウテナの表示がマイナス2、となっていることから、赤ではなく黒に点滅している。
 せっかくこの世界を面白く感じかけていたのに! また!?
 ぴちち、と鳥の鳴き声がする。振り返ると、ちょうど青い鳥が目の前の道を横切っていくところだった。その後を、金色の子供たちが追いかけている。
「わー」
 なんだかやけに作り物ちっくな声をあげて追いかける子供たちの不自然さに不気味になった。
「あれはなに?」
「エラー。拒否されました」
「……自分で確かめろってことね」
 半眼になりつつ、エミリアは駆け出す。ウテナはその場から動かない。
 ウテナを置いていくわけにはいかないが、この金だけの世界で、あの鳥だけが「青」というのは気になった。
 数人の子供が前を走っている。すぐさま追いついたエミリアは子供たちに訊いてみることにした。
 どの子供も彫像のように造作や体躯が整っており、目玉も肌も、髪も衣服も金色だった。
「なにを追いかけているの?」
 優しく問いかけると、子供たちは振り向きもせずに両手を鳥へと伸ばしながら口々に言う。
「幸せの青い鳥だよ」
「幸せの青い鳥さん。こっちだよ」
「こっちだよ。こっちにおいでよ」
「幸せにさせてよ」
「青い鳥やーい」
 一斉に喋りだしたかと思ったら、今度はぴたりと止まる。
 異常な光景にエミリアは子供たちと鳥を見比べた。
(えーっと……鳥を捕まえたら何かが変わるのかしら?)
 それは、おそらく当たらずとも遠からず、ではないのだろうか?
 青い鳥。そういえば、童話にもあった。裕福な国が、なんだかこの場所に類似している気がする。
(ウテナは……)
 視線を背後に向けたらそこにウテナが立っていていた。一体いつの間に。
(あ、そうか、ウテナは『人』じゃないんだ……。所持品と同じなのか)
 だから持ち主のエミリアが移動すればそこにやって来る。いや、一緒に移動しているのだ。姿が見えないだけで。
(背後霊……?)
 ふいにじっとウテナを見るが、彼女は無表情のままだ。いつか笑ってくれたりするのだろうか?
(絆があがれば笑ってくれる、かも)
「攻撃を」
「ん?」
 ふいに、ウテナが口を開いた。
 こちらに視線を遣ってくる。
「攻撃を受けています」
「へっ?」
 目を丸くするエミリアは周囲を見回す。しかし、なにか攻撃を受けている様子はない。
「ウテナ?」
「攻撃を受けています。ウテナのカードを使いますか?」
 この問いかけは……。
 エミリアは用心深く辺りを見渡した。ちちち、と鳴き声をさせて飛び回る青い鳥と、群がる子供たちの姿。
「使いますか?」
「……使わない」
 ついさっき、使用回数が1回減ったのだ。下手に使うよりはいいだろう。
 エミリアの判断にウテナは従うようにしたようだ。黙ってそのままの視線で青い鳥を見つめている。
 徐々に。
 徐々に子供たちの姿が増えている。頭上を舞っている青い鳥を、我先にと取り合いがはじまった。
 それは次第に激化し、子供たちは互いに蹴ったり殴ったりしている。
「ちょ、ちょっとやめなさい!」
 引き剥がしにかかるエミリアを、背後から突き飛ばす子供もいる。
 子供相手に乱暴なこともできないので、手加減をするしかない。エミリアは力を抑えて止めにかかるが、容易にはいかない。
「わ、あ!」
 気づけばもみくちゃにされて、喧騒から追い出されてしまった。
 呆然と背後を見遣ると、そこはさらにひどい状態だ。髪の毛を引っ張ったり、頬を叩いたり……。見ていられない。
(まさかこれが……?)
 しかしこれはエミリアへの直接攻撃ではない。
「ウテナ、ここはどういう国なの? どういう場所なの?」
「ここは金の国。貧富の世界です」
「貧富」
 それは強い差別と、渇望のある場所に違いない。
 青い鳥は飛び回っているが、誰にも捕まらない。いっそ、その存在すら忘れられているようだ。
 エミリアは鳥をなんとか捕まえようと手を伸ばす。けれど鳥がまるで喧嘩を起こしているかのように、中心部の上を飛んでいるため手が届かない。
 困ってしまったエミリアは、傍に控えているウテナを見遣る。
「ウテナ、どうにかできる?」
「願いの範囲が広すぎます。狭めてください」
 どうにかして、なんて……確かに広範囲すぎる。
「あの子供の集団を静かにさせて。落ち着かせて」
「ウテナのカードを使いますか?」
「…………」
 こんなことにもカードの使用が必要なのか。ええい、面倒だ!
「使う!」
 そう言った途端、周囲ががらりと景色が変わった。
 目の前にいる裕福な子供たちが、腹の出た餓鬼どもに変化する。空を飛ぶ青い鳥の取り合いをしているのではなく、互いの、少ない食料を奪い合っている図だったのだ。
 なんだろう、これは。
 ユメ?
 困惑しているエミリアは、ウテナのほうを見る。ウテナはなんの反応も示さない。
 周囲のきらびやかな建物も、一切消え去っている。辺りは荒野で、草木一本はえていない。
「逆転させました。エミリアのターンは終了しています」
 ウテナはそう呟くと、今度こそ黙りこくってしまった。
 逆転?
 でもこれは。
 これが『真実』ならば?
 呆然とするエミリアは、枯れた木にとまっている青い鳥に手を伸ばす。鳥はちっちっ、と鳴きながらエミリアの腕へと飛んできて、とまった。
「アイテムを手に入れました。エミリアは次のエリアへ行くことができます」
「アイテム?」
「ブルーのキーです」
 ウテナの言葉と同時に、鳥が姿を変えて鍵になる。青色の宝石でてきたようなものだった。



 エミリアは目を覚ました。
 笑い声だけが耳についている。
 あの子供たちは結局なんだったのか?
 童話と同じならば……あの国の真の姿はもっと恐ろしく、醜悪なものではないのか?
 目の前の液晶画面では、あのゲームの画面が開かれている。強制終了されました、という小さなウィンドウが出ていた。
 映し出されている絵柄のカードはやはりウテナだ。瞼をしっかりと閉じて、鎖にがんじがらめになっている図。
 囚人のようないでたちのカード。
「…………」
 ログイン画面をクリックしてみるが、無反応だ。
 エミリアは眉根を寄せる。どうして、どうやって、いつの間にこのオンラインゲームを開始しているのか……。
 そのあたりが曖昧なのだ。
 すべての謎は、まだまだ解明の兆しをみせない――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【8001/エミリア・ジェンドリン(エミリア・ジェンドリン)/女/19/アウトサイダー】

NPC
【ウテナ(うてな)/無性別/?/電脳ゲーム「CR」の能力カード】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、ジェンドリン様。ライターのともやいずみです。
 進展いていないのか、どうなのか……。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。