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■限界勝負inドリーム■

ピコかめ
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。
限界勝負inドリーム



 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。


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 ゆっくりと意識が覚醒する。
 アリーナにいたのはその男と、自分……工藤勇太のみ。
 酷く懐かしい雰囲気のあるその戦場に、勇太は嫌な既視感を覚える。
「この感じ……」
 グリと胸をえぐるような吐き気。
 自分の望む『普通』とはかけ離れた場所によって呼び起こされる記憶は、相当昔の物。
「くそっ……マジかよ」
 ああ、確かにこんな感覚を味わった事がある。
 これは……あの研究所での出来事と一緒じゃないか。

 幼少の頃、勇太自身の持つ『能力』故に、とある研究所へと隔離されていた。
 その時の事は出来れば思い出したくもない過去。一種のトラウマですらある。
 それ故にこの吐き気、気分の悪さ、自分の夢だとは理解しているが、それでもこの感覚には慣れない。
「チクショウ、何だって言うんだよ……! あんた! あんたは何物なんだ!?」
 目の前に立っている人影、未だに輪郭もぼんやりしているが、どうやら長身の男性の様だが、彼は何も答えない。
 声が聞こえていないはずは無い。しかし、彼はただブラリと立っているだけで、その場から動こうとしない。
「さっきの声、あんたなんだろ!? だったら答えろよ!」
 きっぱりと『殺す』と言ったあの声、聞き覚えのあるようなその声は、しかし答えない。
 代わりに、男は極々自然な動作で懐からタバコを取り出し、それを咥えてライターで火をつけた。
「余裕って事かよ……。だったら……っ!!」
 あまり得意ではないが、勇太は自身の能力の一つ、テレパシーを行使する。
 他人の頭に干渉して、その思考を読み取る能力。
 勇太の持つ能力でも、自身があまり得意としていない一つだが、それでもこの際知った事か。
「頭ん中、覗かせてもら……うっ!?」
 普段使い慣れないテレパシーに手間取っていると、男が吹いたタバコの煙が勇太の周りを取り巻いた。
 何か攻撃か、と警戒していると、その内無形だった煙は幾つかの個体を形成し始める。
 獣、四足の犬のような獣。
 その獣が見える限りで六匹。勇太を囲むようにして唸っている。
「ああ、もぅ、どこまでも『アレ』っぽいな!」
 またも胸がえぐられる感覚。
 このピリピリとした戦闘風景も研究所での記憶にある。
 それは確か、シミュレーターの中で経験した戦闘訓練。
 その記憶を引っ張り出された時、勇太の感覚は不思議と研ぎ澄まされた。
 深呼吸を一つすると、身体中から枷が取り外されていく様な錯覚を覚える。
 意識が指先にまで深く深く浸透し、自身が戦闘態勢に入った事を自覚する。
「思い出してきたぞ、あの感覚。思い出したくもなかったけど」
 自嘲気味に苦笑し、周りを見回す。
 勇太を取り囲んでいるのは六匹の煙の獣。
 機を窺っているのか、まだ飛び掛ってくるような気配は無い。
「これがシミュレーターの焼き増しなら……これから、どうするんだっけ……」
 記憶の糸を手繰り、その時の最善手を思い起こす。
 相手が思考するならば、まずは初手。
 勇太は先程手間取っていたテレパスをいとも容易く成功させる。
 薄いテレパスの幕を、自分の周りに絨毯のように広げ、獣一匹一匹をその上に乗せる。
 瞬間、うっすらとだが、獣の感覚が読み取れた。
 力の入る後ろ足、威嚇の為に鳴らす喉、勇太を凝視する瞳。
 六匹分の感覚を共有すると、多少頭痛を覚えるが、しかし、生き残るためなら我慢しよう。
「ふぅ……よし」
 獣との意識が繋がる。
 これで、相手が何をしようと、先が読める。
「さぁ、来なよ。俺を殺せるもんなら、殺してみろ」
 勇太の言葉に弾かれたように、獣が地面を蹴る。

 右後方から、獣が飛び掛ってくる。
 振り向かなくてもテレパスのフィールド内ならば、それは感じ取る事ができる。
 だが、勇太は動かない。
 このままでは獣の爪が届く、というところで、次の手。
 テレパスの応用、相手の脳に強く干渉し、相手の思考にノイズを発生させる。
 イメージとしては頭の中に手を突っ込んで、グチャグチャにかき回してやる感じ。
 獣はそのノイズを受け、器用にも空中で苦しみもがき、そのまま舌をたらして地面にダイブした。
 それとほぼ同時、前方から二匹、同時に攻めかかってくる。
 しかし、何匹来ようが一緒だ。テレパスのフィールド内にいるなら、その思考は既に勇太の物。
 強く念じてやれば、その二匹の脳にもノイズを送る事は容易である。
 前方の二匹もノイズに襲われて意識を失い、そのまま地面を転がるように伏せた。
「何も問題なく使える……これならっ!!」
 全身に力を込める。
 これから使うのは大技。しかも使用するのはちょっと久々なので、それなりの覚悟がいる。
 そう、明確に『他者を傷つける』と言う覚悟が。
 自分が傷つくのは良い、だが獣とは言え、他者を傷つける。
 それが、自分にとって許しがたい事ではある。
 ……だったはずなのだが。
「喰らえッ!!」
 未だもだえ伏す獣たちの上に、不可視ながら空気を歪ませる程度の強力なサイコキネシスが発生する。
 その形は槍。
 騎士が持つ『突撃槍』と呼ばれる二メートルはあろう長大な槍。
 それを模ったサイコキネシスの塊が、獣の上に
「……やれ!」
 ――降る。

 血しぶきなんて物はない。何せ、相手は煙の獣。
 単に靄が晴れるように霧散しただけ。
 だが、勇太の手に残るのは他の殺害と言う感覚。
 シミュレーションの中で何度も味わった、懐かしい感覚。
 先程は嫌悪感を覚えた物だが、今は既に、そこに何の躊躇も無かった。
「今の俺なら……やれる」
 勇太は自分の拳を見つめ、少し口元を上げた。
 それを見てたじろぐ残りの獣三匹。
 すっかり戦意を削がれてしまったのか、唸り声も弱々しい。
 ならば、そこを見逃す手は無い。
 勇太は獣が動き出す前に、自分から距離を詰める。
 自らの持つ最後の超能力、テレポート。
 最低でも五キロ程度の瞬間移動は可能と言う能力だ。
 十メートル程度しか開いていない獣との間合いを詰めるのなんて、なんて事は無い。
 獣は、いきなり目の前に現れた勇太に驚き、大した反応も出来ていないようだった。
 間髪いれず、勇太はサイコキネシスを操る。
 強力なサイコキネシスは相手を傷つける事もある。
 先程の槍のような事象ではなく、『モノを移動させる』と言うその能力だけで、それは攻撃力を持つのだ。
 即ち、身体の一部分だけ吹き飛ばす、なんて事も可能なわけだ。
 勇太がサイコキネシスを発した途端、目の前にいた獣の頭はどこかへ吹き飛び、そのまま身体は霧散する。
「次ぃ!」
 完全に調子が良くなって来た勇太は、そのまま連続でテレポートし、残りの二匹の身体をサイコキネシスで吹き飛ばす。
 あっけないほどに消えていった煙の獣たち。
 そこに残ったのは勇太と、獣たちの形作っていたタバコの残り香、そして始めに立っていた男だけ。
「さて、最後はあんただ」
 肩慣らしは終わった。
 最後は本命である、あの男を殺す。
 それでこの夢も終わりだ。
 しかし、そんな状況でも男はたじろぎすらしない。
「最後まで余裕って事か。それとも、動けないって事か?」
 勇太の問いにも答えない。
 それは予想していた事なので、勇太の方も特に構う事もない。
 着々と、男を殺すための準備を整える。
 再びサイコキネシスを全力で練り、その手に巨大な槍を作り出す。
 普通ならば勇太には持てないような大きさだが、サイコキネシスに質量はない。
 勇太は槍の切っ先を男に向け、構える。
「じゃあそのまま――」
 そして地面を蹴ると見せかけ、テレポートで一気に間合いをつめる。
「――動くこともなく死んでいけッ!!」
 一瞬で勇太の間合いに収まる男。
 勇太が手に持つ槍が、その男に突き刺さろうとした瞬間、男の顔がチラリと見える。
 ここまで近付いて、初めてわかるその顔。
 タバコをくゆらすそのシルエットに、どうして気付けなかったのか。
 その男は勇太の良く知る――
「えっ!?」
 気付くと、サイコキネシスの槍はどこかへ消えてしまい、代わりに勇太の眉間に銃口が突きつけられていた。
 夢の最後に見た光景は、その引き金が何の躊躇も無く

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「……ッ!?」
 バッと起き上がると、ベッドの上だった。
 寝汗が酷い。寝巻きがべたついて気持ち悪かった。
「あ……うん? なんか、夢を見てたような?」
 気持ちの悪い夢だったような気がするが、その夢の事が全く思い出せない。
 最後の最後に知り合いを見たような気がしたのだが、気のせいだっただろうか?
「……うーん、思い出せないし、とりあえずシャワーでも浴びよう……」
 勇太は伸びをした後、着替えを持ってシャワールームへと足を向ける。
 きっと汗を落とせば、この気分の悪さも取っ払われるだろう。
 思い出せない夢、と言う事はそれほど面白くもない夢だったのだ。
 後味も悪いばかりだし、無理して思い出す事もあるまい。
「……あぁ、今日は草間さんの所に仕事の話をしに行くんだっけ……早めに準備しないとなぁ」
 高校は休日。それを利用して小遣い稼ぎに某興信所へと赴くのも、既に日常と化している。
 何せ一人暮らしは世知辛いのだ。貧乏興信所からでも小遣いがもらえるなら貰っておくべきなのである。
 ならば悪い夢の事はさっさと忘れて、いつもの日常へと帰ろう。
 勇太はそんな風に頭を切り替えて、いつも通り、部屋のドアを開けていった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生】





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■         ライター通信          ■

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 工藤勇太様、ご依頼ありがとうございます! 『槍といえば突撃槍』ピコかめです。
 直槍もいいけど、やっぱり突撃槍だよね。

 多対一から一対一の戦闘の連戦、初戦は快勝、二戦目は予期せぬ落とし穴により敗北と言う感じでしたがいかがなもんでしょう。
 勝手に筆が乗った結果、獣が煙で出来上がっちまいましたが、そんな輩の思考が読めるのも『夢の成せる業』としてご容赦下さいw
 何でも出来るって設定がこのゲーノベのコンセプトですからねっ!
 それでは、気が向きましたら、またよろしくどうぞ〜。