■まだらイグニッション! そのよん。■
ともやいずみ |
【8001】【エミリア・ジェンドリン】【アウトサイダー】 |
『電脳ゲーム【CR】(ケミカル・リアクション)は現在運営を停止しております。
ダイブされる皆様には大変ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。
現在復旧の目処は立っておりませんが、原因を早期解決し、再び皆様にあいまみえますことを切に願っております』
ダイブを開始します…………。
5、4……3……2…………1…………0。
ようこそ、電脳ゲーム【CR】へ。
それでは……ゲームスタート。
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まだらイグニッション! そのよん。
閉鎖されているはずなのに、己以外のプレイヤーが存在する……?
そのプレイヤーが攻撃を仕掛けたのか、なんのためにウテナを狙っているのか……気になる。
(問題は今後、なのよねぇ)
頬杖をつきながら、目の前のディスプレイを眺める。
閉鎖した旨を伝える文面が表示されたサイトは、『CR』のものだ。
(ウテナとの絆が鍵になるにしても、残り少ない使用回数でどうにかしないといけないから、状況を把握して考えて、使いどころを見極めなくちゃ)
だがその使いどころ、というのがかなりネックになる。
ウテナの使用回数は制限されているし、敵の攻撃も、前回は偶然なんとかなっただけかもしれない。
ウテナの能力は『反転』。つまりは、毎回攻撃を相手に跳ね返している鏡のようなものなのだろう。
豊かな大地が枯れ果てるのも、彼女の能力だ。
(付き合い方も、少しはわかってきたつもりだし……焦っても、首絞めるだけだから、改めてそのへん気をつけてみよう)
やれやれ。
考えることはたくさんある。対策も練らねばならない。
(やることは山積み。それに)
ヴァーチャルの世界にばかり構ってはいられない。エミリア・ジェンドリンは『現実』を生きる存在なのだから。
*
感覚が上下逆さまになるような奇妙なこれは。
ん? と瞼を開けた刹那、目の前、というか頭上にマグマがあって衝撃を受ける。
エミリアは目を見開いたものの、生来の性格からか大慌てで叫んだり、動いたりすることがなかった。
そもそも、こんな近距離にあるのなら、マグマが空から降ってくるはずだし、高熱で火傷では済まない状態のはずだ。
(空?)
本当に空なのだろうか?
エミリアの長い髪は空に垂れている。垂れている、ということは重力は……。
(私が、下を向いているってこと!?)
逆さまなのは自分だ!
そのことに気づいたが、どう動いてもこのバランスが戻ることはない。
頭に血がのぼらないだろうか。それが心配でならない。
「ウテナ」
呼んでみると、すぅ、とウテナが真横に現れた。彼女は正しい向きで、きちんとマグマを『下に』して立っている。
彼女はエミリアを眺めている。
「ウテナのカードを使いますか?」
(口を開けばそれよね)
つまり、体勢を反転させて元に戻してくれるということだろう。
無限に回数があれば使いたいところだが、そうではない。あと4回という制限がついているのだ。
「これじゃあ、歩けないんだけど」
「ウテナのカードを使いますか?」
……だめか。
しょせん、彼女は能力カードだ。絆が低い今、彼女の親切をあてにするのは間違っているだろう。
しかし徒歩もままならないこの状況をどうすればいいのか。
「そういえば、ここはどこ?」
「ここは『火の国』です」
端的に応えるウテナの無表情は、崩れない。一ヶ月前に見たあの笑顔は、幻覚だったのかとさえ思う。
「あー、えっとね」
エミリアは言葉を考えつつ、声を出す。
「私たちを攻撃してくる、けど、ウテナを狙ってるの?」
「違います」
即答だった。
「ウテナはエミリアの所持カードです。あなたを攻撃しています」
……。
(守らなくちゃならない、とか意気込んでたんだけど……)
違っていたようだ。
視界がきちんと働いていないためか、気分が悪くなってくる。どうしよう、カードを使ったほうがいいだろうか?
(永遠にこのままってわけもありかもしれないわね。それにこんな状態で敵の攻撃を受けたら、ひとたまりもないわ)
ちら、とウテナに視線を遣る。彼女はこちらを見下ろしてくるだけで、まったく動かない。
(友情とか、ぜんぜん感じられないわよねぇ……)
傍にいてくれるだけでも、譲歩して……いや、それは彼女がエミリアの所持物だからだろう。
腕組みして考えそうになるが、少し揺れてみると毛先がマグマに埋没した。ちり、と嫌な音と、焦げ臭さが鼻をつく。
え、と思う。マグマに触れた部分が焼け焦げていた。
「ちょ!」
驚いて動揺してしまうエミリアは、認識を改めた。
(逆さまなのは、それはそれで理由があるのかもね。……ないかもだけど)
「ど、どういう世界なのよここ」
「ここは炎の支配する国」
「マグマに触れればアウトってこと、ね。でしょ?」
「…………」
ウテナにとっては珍しく会話に間があり、エミリアが怪訝そうにする。ウテナはゆっくりと瞳を伏せる。
「脱落を選択されますか?」
「え?」
ずずっ、とウテナの背後に何かが見えた気がした。巨大な、大きな黒い塊だ。
瞬きをした次の刹那には消えていたので錯覚かもしれない。
「リタイアしろってこと? 冗談じゃないわよ」
まだ何もわかっていないってのに!
エミリアの若干憤慨気味の言葉に、ウテナはぱち、と瞬きをしていつもの能面のような表情で告げた。
「エミリアは」
こ、このパターンは!
嫌な予感というのは当たる。じたばたしてもどうしようもないというのに、エミリアは身構えた。
「攻撃を受けています」
「やっぱり!」
その言葉を発したエミリアの肉体が空中に放り投げだされる。いいや、空へと引っ張り上げられたのだ。
「ぐっ、こ、この、ぉ……!」
急激に身体に負荷がかかる。右足首を乱暴に掴まれて勢いよく放り投げられたような感覚。
一気に視界が広がる。
マグマとウテナだけだった今までの世界が広がる。
そこは、本当に炎だけだった。空は夕焼けで染まり、地面はすべてマグマに覆われている。歩く場所など皆無だ。
すべてを食い尽くし、呑み尽くす世界。
オオオオオオオオオオぉぉぉぉぉ……。
怨嗟のような不気味な声が響いてくる。風の悪戯ならば良いのにと、エミリアに思わせた。
ココは、危険だ。
目の錯覚?
マグマの中で蠢いているものがあるように感じてしまう。気分が悪くなった。
ここはゲームの、ヴァーチャルの中のはずだ。
五感は頼りにはならない。
「う、わ、」
引きつった声だけが、洩れる。今度は背中に強い衝撃が襲った。叩き、落とされる――――!
この速度であのマグマに叩きつけられれば死ぬ。死ぬ、死ぬ!
「カード能力行使!」
声が聞こえた。
幼い少年の声だ。
「ミナモ、『覆え』」
「カード回数が減りましたわ」
女性の声も聞こえた。
肉体を何かが包んだ。冷たいそれは、水だ。
一気に落下速度が落ち、そしてエミリアはその身体能力をもって、声のした方向を素早く定めた。
水でできた円盤のようなものの上に誰かが立っている。中学生くらいの少年は、どこにでもいそうな平凡な顔立ちの人間だ。傍には髪をツインテールにした妖艶な衣装の二十代の女性が居る。
(他のプレイヤー?)
こんなことは、今までなかった。
「カードを使う!」
少年はさらに叫んだ。エミリアは、ざわっと、悪寒が走る。
「やめ……っ!」
本能的に叫んだが遅かった。
少年のカードが使用されたのはわかった。けれども、エミリアを襲った『見えざる敵』のほうが早かったのだ。
よくて、相討ちだったのかもしれない。
少年ははたき落とされるような動きをして、円盤から……『落ちた』。
エミリアの場所からは遠すぎる。
落ちていく少年には、エミリアの手は届かない。
悲鳴が世界に響いた。
少年の悲鳴。そして、彼は救いをカードに求めた。
タスケロ、と。
命じた。
けれども。
ミナモと呼ばれた能力カードは姿が、ノイズが走ったようにざざっ、とブレて……消えた。
それは死刑宣告のようなものだった。
少年はマグマに飲み込まれてしまう。あっという間の出来事だった。
同時にエミリアの肉体も落下を開始した。プレイヤーである少年が消えたからだろう。
見えない敵は攻撃してこない。少年が倒したのかもしれない。あの少年には他のプレイヤーが見え、そして姿を見せることができたのかもしれない。あの能力カードの力で。
(なに、よ)
なんなのよ!
助けてくれたのかもしれない。気まぐれなのかもしれない。
落下を続けるエミリアは、ウテナの名を呼ぶ。
「ウテナ!」
「ここに」
「助けて」
試しに言ってみるが、カードは反応しない。そう、つまりはそうなのだ。
能力カードには『情』が存在しない。能力しか使えない。
窮地に陥ったエミリアは驚愕する。
この世界は、カード能力を使わせることを前提としている。使わなければ待っているのは、先ほどの少年と同じような最期だ。
この世界で死ねばどうなるのか。そして、パソコンの前の自分はどうなるのか。意識は? 魂は?
「カードを」
使うわ、と言おうとしたエミリアにはマグマが迫りつつある。激突する直前で、ウテナがなにか呟いた。
早口に唇が動いて、閉じられる。
(え? なに?)
なんて、言った?
「次のステージの鍵が手に入りました」
そうだ。
いつ?
いつ、手に……。
ぞっとした悪寒は、手の中の冷たい感触が原因だ。
いつの間に。
これは。
驚愕と絶望の瞳をウテナに向ける。
鍵は、『2つ』。
この数に怖気が走った。ウテナを凝視する。
ウテナはまた笑った。うっすらと。
***
耳に残る悲鳴。
ハッとして起き上がったエミリアは、目の前の液晶画面を見つめる。
このゲームには何かある。
なぞが、ある。
画面には、やはり鎖に縛られたウテナのカードが表示されている。
エミリアは先ほどのことをゆっくりと、深呼吸をしてから思い出す。
(あの『影』は何)
何、なんだろう?
まるで死神のようだった。物語に登場する死神をそのまま形にしたような。
ウテナの背後にあったように見えた、マボロシ。
エミリアはぼんやりとした瞳に力を込めて、ゆっくりと掌を開く。そこには、なにも、ない。
ないけれど、あの感触だけが残っている。
鍵の数は二つだった。それは。
(予感が、予想が、当たっていれば)
あの少年と、敵?
鍵が手に入ったから、エミリアは助かった。では。では?
冷汗が流れていく。
閉鎖されたゲームには、エミリアのように招かれているプレイヤーたちが複数いる。そして互いに姿が見えない。はず、だ。
はず……だ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【8001/エミリア・ジェンドリン(エミリア・ジェンドリン)/女/19/アウトサイダー】
NPC
【ウテナ(うてな)/無性別/?/電脳ゲーム「CR」の能力カード】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、ジェンドリン様。ライターのともやいずみです。
ますます謎が深まっていきますが、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
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