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■とある日常風景■

三咲 都李
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
「おう、どうした?」
 いつものように草間興信所のドアを叩いて入ると、所長の草間武彦(くさま・たけひこ)は所長の机にどっかりと座っていた。
 新聞片手にタバコをくわえて、いつものように横柄な態度だ。
「いらっしゃいませ。今日は何かご用でしたか?」
 奥のキッチンからひょいと顔を出した妹の草間零(くさま・れい)はにっこりと笑う。

 さて、今日という日はいったいどういう日になるのか?
とある日常風景

1.
「おう、どうした?」
 いつものように草間興信所のドアを叩いて入ると、所長の草間武彦(くさま・たけひこ)は所長の机にどっかりと座っていた。
 新聞片手にタバコをくわえて、いつものように横柄な態度だ。
「いらっしゃいませ。今日は何かご用でしたか?」
 奥のキッチンからひょいと顔を出した妹の草間零(くさま・れい)はにっこりと笑う。
 工藤勇太(くどう・ゆうた)は思わず持っていた荷物2つを後ろ手に隠して、つられて笑顔を作った。
「いや、用っていうか…まぁ、なんていうか…」
 もごもごと歯切れも悪く次第に顔が赤くなっていく勇太に、草間は怪訝な顔をした。
「言いたい事があるならはっきり言えよ?」
 新聞を置いた草間に、勇太は慌てて頭を振った。
「な、なんでもない。やっぱなんでもない! それじゃ、俺帰るから! またね、草間さん。零さん」
「え!? 勇太さん!?」
 今来たばかりだというのに、くるりと踵を返して勇太は階段を駆け下りていった。
「…なんかあるな…」
「なにか…ですか?」
 小首を傾げた零と机に頬杖をついた草間は、勇太の尋常ならざる態度にふむっと頷いた。


2.
 駆け下りた階段の下で、ため息交じりにひとつ大きく息を吐いた。
 手荷物2つを地面に置いて、その片方の学校の鞄を開いた。
 折れないようにクリアファイルに入れてあった2枚の紙を、そっと取り出した。
『吹奏楽部・第25回定期演奏会 日時:2/11(土)PM5:00〜』
 はぁ〜っとまた大きなため息をひとつついて、勇太は肩を落とした。

―― 「草間さん。これ悪いけど貰ってくれないか?」
 ぷいっと赤い顔して俺は2枚のチケットを差し出す。
 草間さんはそれを受け取る。
「なんだこれ? 定期演奏会??」
 草間さんが不思議そうにチケットを眺める。零さんもそれに釣られて草間の手元を覗き込む。
「ち、チケットさばく為だから! 来てほしいとか言ってないからな! 絶対言ってないからな!」
「でも、せっかくですから是非行かせていただきますね」
 零さんがにっこりと笑ってそう言うと「そうだな」と草間さんも笑って… ――

 頭の中で何度もシミュレーションして、ここに来たはずだったのに…。 
 実際にはうまくいかないものだ。思い出すだけで恥ずかしくなる。
 2枚のチケットをクリアファイルに入れて、また鞄の中に戻す。
 公園に寄って帰ろう。アレを吹けば少しは気も紛れるかもしれない。
 勇太はとぼとぼと歩き出した。

 勇太は広めの公園に着くと、適当なベンチに陣取った。
 荷物を置いて、今度はもうひとつのケースの中から楽器を取り出した。
 金色のトランペットだ。
 ベンチを背に立ち、トランペットを待機位置にして背筋を正して息を整える。
 頬を膨らませないように、マウスピースを口に当てると勇太は奏でだした。
 曲は『sing sing sing』。ビッグバンドでもなじみの深い曲だ。
 勇太は昔からトランペットに興味があって、吹奏楽部にちょくちょく遊びに行ってトランペットを借りていた。
 それはみるみる上達し、いつの間にか部長に見込まれて今回の定期公演で助っ人をする羽目になっていた。
 しかも、ソロパートというでっかい仕事をつけて…。

 1曲分のパートを吹き終わると、勇太はベンチに腰掛けた。
 星空が綺麗に見える。練習はこれ以上無理だな。
 勇太は帰り支度を始めた。
 トランペットのつば抜きをして、はずした部品にグリセリンを塗ってまた元に戻して今度は全体を丁寧に拭く。
 楽器は丁寧に扱わないといけない。
「…ん?」
 ふと見ると、鞄のファスナーが開いていた。
 俺、さっき閉め忘れたのかな。
 周りには誰もいなかったし、何か盗られている心配はなさそうなのでそのまま鞄を閉めて勇太は帰路に着いた。
「…そうだよなぁ。そもそも俺、2人にトランペットの話したことないし…俺のシミュレーション、そもそもがダメだったんだな。ソロパートがあるなんて、余計に言いづらいし! …これでよかったのかもなぁ」
 自分に言い訳をしながら、勇太は知らぬ間にため息をついていた。

 そんな勇太が去った公園の木の陰で、ボッと突然ライターの火がつき誰かがタバコに火をつけた…。


3.
「緊張してない?」
 ポンと肩を叩かれた勇太は「あぁ、大丈夫」とにやっと笑った。
 広い舞台の上では、いくつものパイプ椅子が並べられている。
 定期演奏会、当日である。
「さすが工藤君だ、俺が見込んだだけの事はある」
 勇太の肩を叩いた部長はニカッと笑うと他の部員にも次々と声をかけていく。
 どうやらああやって部員の緊張を解していっているようだ。
 所定の位置につき、舞台の開演を待つ。
 程よい緊張感が勇太を包む。これくらい緊張してた方が、逆に気が引き締まるし心地よい。

『これより〜第25回吹奏楽部、定期演奏会を始めます』

 緞帳が静かに上がっていく。
 観客席は真っ暗だったが、盛大な拍手と共に吹奏楽部を迎えてくれた。
 指揮を務める顧問が左の舞台袖から颯爽と現れると、部員は全員起立した。
 そして深々と礼をする。さぁ、舞台の幕開けだ。
「…さーん! 勇太さーん!」
「あ、こら! 零!!」
 観客席からそんなやり取りが聞こえた。
 ザワッとした観客が振り返る方向を、勇太も目を凝らして見た。
「勇太さ…もが」
 叫ぼうとする妹を押さえつける草間武彦と、口を押さえられてなお手を振り続ける草間零の姿。
「な、なんでー!?」
 思わず口に出してしまってハッと我に返る。
「『勇太』って…工藤君のこと?」
 前に座っていた部長が振り向いたので、勇太はあわてて首を振った。
「ち、ちが、ちが…」
「顔赤いけど…大丈夫?」
 落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け!!
 何でいるんだ? どうして知ってるんだ?
 いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。
「あれはじゃがいも! あれはじゃがいも!…」
 なんとか意識を演奏に集中させないと、俺絶対間違える!
 指揮者が手を上げる。勇太もそれにならってトランペットを構えた。


4.
「よう。ソロパート上手かったじゃないか」
 定期演奏会終了後の楽屋にひょっこりと草間と零が現れたので、勇太は慌てて2人を廊下へ連れ出した。
「な、なんでいるの!? 俺教えてないし、どこから…」
「この間おまえが俺の事務所に来たときに様子が変だったから、ちょっと尾行させてもらった」
 シレっとそう言い、にやりと草間は笑った。
「鞄から何か出してため息つくし、公園でトランペットなんぞ吹き出すし…」
 全部見られてた…!? そう思うと顔から火が出そうだった。
「まぁ、そんなわけでおまえが一生懸命練習しているところを邪魔しないように、俺はお前の鞄を探ってみたわけだ」
 そういうと、草間はぴらりと定期演奏会チケットの半券を取り出した。
「で、これが出てきたのでありがたく頂戴しておいたってことだ」
 開いた口がふさがらない…とはこのことか。
 確かにあの日、鞄が開いていたのを不思議に思ったが、まさか草間にチケットを盗られていたとは…。
「人の持ち物に勝手に触るなんてアリですか!?」
「元々おまえ、これ渡す為に俺んとこに来たんじゃないのかよ?」
 はい、その通りです。…なんて、素直に言えるわけもない。
「お、俺は…べ、別に来て貰っても嬉しいとか、思ってないからね!」
 思わずそう口にして勇太はハッとした。
 草間の後ろで零がしょんぼりとした顔でこちらを窺っていた。
「勇太さん…やっぱりご迷惑でしたか…?」
 ヤバイ! そ、そんなつもりで言ったわけじゃ…!?
 アワアワする勇太を、草間はニヤニヤと意地悪そうに見つめている。
「…いえ、嬉しいです」
 勇太が観念してそう言うと、零はパァッと明るい笑顔になった。
「よかったです! 私、勇太さんの演奏聞けてとっても嬉しかったです」
 そういうと零は手にしていた紙袋を「はい」っと勇太に差し出した。
「? なんですか?」

 不思議そうに紙袋の中を覗き込むと、中には青と白の花で作られた花束が入っていた。

「俺はいらないだろって言ったんだがな。どうしても持っていくってきかないんだ」
 草間はふっと笑うと、零を見た。
 どうやら零の一存でこれを持ってきたらしい。
「プリザーブドフラワーっていうんです。私が勇太さんの為に頑張って作りました」
 プリザーブドフラワーは美しい姿で長時間保存することが出来るようにされた花のことだ。
 紙袋からガサガサっと出すと、零のアレンジらしい可愛らしい全体が見えた。
「男の人ならやっぱり青がいいかなと思って青と白で作ってみたんです」
 零が小さなウサギのピックを指差した。
「このメッセージも私が書いたんですよ」
 『For You ta』ウサギのピックにはそう書かれていた。
 どうやら零は勇太の『ゆう』を『You』と勘違いしたようだ。
「零さん…いえ、ありがとうございます」
 隣で草間が笑いをこらえている。どうやらスペルミスには前から気付いていたのかもしれない。
 だが、勇太にそれを指摘できるわけがなく、ただ草間を横目で睨むくらいの抵抗しか出来なかった。
「よかったです! 喜んでもらえて」
 何も知らない零はニコニコとただ嬉しそうに笑っていた。
 
 俺、草間さんと零さんが見に来てくれて…とても嬉しかったんだ。
 勇太は青い花束を見つめながら、にっこりと微笑んだ。


■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1122 / 工藤・勇太(くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生


 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い
 

■□         ライター通信          □■
 工藤・勇太様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度は『とある日常風景』へのご依頼ありがとうございます。
 トランペット! 吹奏楽! 意外な特技ですね♪
 部活に入ってる学生さんはなんだか青春を謳歌しているように見えます…まぶしい。
 そして零さんからのプレゼントはアイテムとしてお届けします。
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。