■xeno−起−■
蒼木裕 |
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】 |
ドッペルゲンガーが出た。
今、自分の目の前に。
同じ姿。
同じ声。
鏡合わせの様な自分と相手。
だけど。
―― 殺していいかい?
「そこの迷い子! そいつを見てはいけない!!」
くきっと首を折る様に横に倒した自分と同時に声が聞こえた。
それは『誰』のものだ。
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+ xeno−起− +
ドッペルゲンガーが出た。
今、自分の目の前に。
同じ姿。
同じ声。
鏡合わせの様な自分と相手。
だけど。
―― 殺していいかい?
「そこの迷い子(まよいご)! そいつを見てはいけない!!」
「そこの迷い子(まよいご)! そいつを見んじゃねえ!!」
くきっと首を折る様に横に倒した『自分』と同時に声が聞こえた。
それは『誰』のものだ。
此処は暗闇の空間。
自分の住む現実世界とは違う場所だと言う事はすぐに分かった。そしてこの場所に覚えが在り、自分に声を掛けてくれた人物達が見知った人間である事を知ると俺は最初こそは『自分と同じ姿をしている俺』に驚いたが、これもまた夢なのだろうと自嘲気味に笑った。
「よ。久しぶり、スガタ、カガミ」
「挨拶より先にそれを避けて――!!」
「え」
スガタが俺に対して手を伸ばす。
しかしその前に俺は『見えない何か』によって勢い良く吹き飛ばされる。壁の無いこの暗黒の世界では床と思われる場所に身体を強く擦りつけ、やがて身体中が消しゴムのように削れるのではないかと言うほどの痛みに顔を顰めると俺はぐっと息を飲みながら『力』を使い、反発を始める。
サイコキネシス。
自分ともう一人の『俺』の力がぶつかった瞬間、場に強い風が吹き、空間が歪むのを感じた。
「なあ、お前は自分が嫌いだろう? だから俺が殺してやるよ」
『俺』が嗤う。
だから俺も嗤う。
倒れた身体を起こし、俺は片手を前に翳し力を使い続けるが相手も同じ動きで圧力をかけてくる。力は均等。互いに引かず、押さず。風が巻き起こり、髪の毛が揺れる。短いくせに毛先が肌をパシパシと叩いてくるのが正直うざかった。
「で、お前らよ! コイツは一体なんなんだよ?!」
「それは貴方に殺意を持ってる者」
「それはお前に殺意を持つ者」
「んな事は最初から分かってんだよ!! なんで俺の格好してんのかとかそう言うことを聞いてんだよ」
「今は答えられない」
「今は答えない」
「「何故なら、それはまだ『工藤 勇太(くどう ゆうた)』とは関係ないものだから」」
チッと俺は舌打ちをしてから二人に向けていた視線を『それ』へと向ける。
服装は学校指定の制服。それは自分も同じだった。ドッペルゲンガーという存在が実在するというのならば俺は今すぐに死ぬのか。いや、実際殺されかけているわけだけれど。
「降りかかる火の粉は払うだけだ。相手が俺自身ならなおさら負けられねぇ」
「ぷっ、ふ、あ、ははははは!! 確かにその通り」
そう言葉を放った瞬間、『それ』は大きく口を開き高らかに笑った。まるで友人らと冗談でも言い合った時に笑う、その時のように。
やがて向こうから攻撃が緩み、次第に俺の方の力が押していく。だが次の瞬間――。
「だったら、俺がお前を殺してもいいよな?」
「なんだそれ」
「俺にとってお前こそ『振り払うべき火の粉』、だろ?」
目の前に現れ、力を発している俺の手を捕らえる『それ』。
テレポートを使って移動してきた事などすぐに把握出来た。顔一つ分離した距離にそいつは居る。視界いっぱいに自分の顔があるというのは正直どうなのか。俺は不愉快を露わにし、問いかけられた言葉に対して頷く事はしない。掴まれた手を横に勢い良く振り払い除けると俺は相手を睨みつけながら己の意思を口にした。
「――ああ、たしかに俺は死にたいと思っていた時期があった。いや、今だって俺が死ねば世の為になるなら死んだって構わないって思ってる」
『それ』は俺の言葉に狂気染みた瞳を送り返してくる。
もし俺が狂ったならこういう表情をするのだろうか――意識の隅で俺はそんな事を考える。しかし視界の端に映ったスガタとカガミの姿を確認し、二人を守るようにじりじりと相手との距離を離し盾になるために移動する。恐らくスガタとカガミにしてみたらあまり必要の無い行為かもしれないけど、俺がそうしたいのだから良いだろう。
そしてそれが決して二人にとって迷惑でない事くらい知ってる。
だって二人は笑っているのだ。
それは純粋に守られているという行為への感謝だと俺に伝わってくる。
俺はくっと手先を上へ持ち上げ、挑発のポーズを取る。
『俺』はそれを一瞬きょとんとした目で見たけれど、意味を悟ったのか可笑しそうに腹を抱えて笑った。
何故だろう。
逆にそんな『俺』を見て、俺は自分の精神がすぅっと冷えるのを感じてしまった。だからだろうか。
「生まれついて持ったこの力のせいで父は去り母は精神を病み、周囲の人間からは拒絶と迫害を受け……俺は一体何の為に生まれて来たのか。俺がいなくなる事で皆が幸せになるって言うのなら喜んで死ぬ。そう思ってた時期があったさ。……でもさ案外こういう局面に立たされると死ねないね」
己の境遇を口にし、大胆不敵に笑ってしまったのは。
スガタとカガミの声が聞こえる。
くすくすとそれは余裕のある声だったので内心ほっとしてしまう。ああ、コイツらは全然問題ない。此処はもともと二人のフィールド。俺よりも確固たる存在を得ている彼らにはきっと危害は及ばない。
事実『俺』が殺意を持っているのは自分に対してだけ。ならば俺が強い意志さえ持っていれば何も恐れる必要は無い。
「そう簡単に殺されてたまっか」
大丈夫。
俺には、生きる意思がある。
「さぁ、かかって来いよ。死にたいのなら俺がお前を殺してやる」
自嘲とも取れるかもしれない笑みを俺は浮かべた。
これから本気で戦うという意思を示すために。
だがふっと何かに惹かれるように『それ』は顔を上へと向け、それから一瞬困ったように眉根を寄せた。だが次いで吐かれた言葉に俺は驚愕する。
「――俺達のどっちが先に死ぬのか楽しみだな」
そしてしゅんっと『それ』の姿があっけなく消え去る。
危険が去る気配を感じたためか、自分がテレポートを使った時もああやって消えるのかと無駄に落ち着いて観察してしまった。
そして訪れる沈黙の時。
「関わるつもりですか?」
「関わるつもりか?」
二人が問う。
破られた静かな時間、動き出した空気に俺はゆっくりと頷いた。
「面倒事は嫌いだが売られた喧嘩は買う。そいつが危害を加えるのなら特に」
俺は決意を固め、彼らにそう告げた。
ここは口に出さずとも本来なら伝わってしまう世界。初めて彼らに出会った時、そう二人は説明してくれた。だからもう俺の考えなど口にしなくても良いのだけれど、それでも俺は――。
「俺は『自分』からは決して逃げない」
その言葉に二人は肩を竦め、それから「困った迷い子」だと笑った。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、今回は「xeno−起−」に参加有難うございました。
『自分と同じ姿をした何者か』との対峙となりましたがいかがでしょうか。工藤様からは時々過去を思い出しながらも今をしっかり突き進むプレイングを頂きますので今回もそのようなイメージで書かせて頂きました。
興味を持って頂けましたらまた宜しくお願いいたします。では。
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