■xeno−番外−■
蒼木裕 |
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】 |
思い返そう。
同じ顔をした『自分』の事を。
これは振り返った小さな<回想―思い出―>。
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+ xeno−番外− +
「あの事件」から数日後。
俺、工藤勇太は相変わらず超能力少年として日々平和に学園生活を堪能中。
困った人は見捨てられない性分、ひっそりこっそりちょっとした困りごとを秘密裏に解決しては人の笑顔に癒される毎日を送っている。こう言ってみるとちょっとしたヒーローっぽいけど、実際はこそこそ行なっているもんだから格好良くなんてないんだけど、でもそれが「良い」。
日常の中に俺が存在出来る――それがどれだけ大事な『毎日』なのか俺は身に染みて知っているから。
さて、今日は一人で屋上のさらに上にある給水塔の上で弁当を広げた俺様。
此処は外だから寒いけど空を見上げれば綺麗な青色が見れるし、人気はないし、逆に見下ろせば生徒達がグラウンドで遊んでいる姿を見れたりする――そんなちょっとした心の休息には丁度いい場所なのだ。
だがそこに現れたる闖入者。
しかし空中からふわりと姿を現した『彼ら』にはもう今更俺は驚いたりはしない。
夢の住人だと先日まで思っていた姿あわせの少年――スガタとカガミだ。彼らは今俺が座っているその前で浮いているが、そのままゆっくりと隣へ移動するとその足先を給水塔へと下ろした。流石に浮遊している少年を見られてはゴシップになってしまう。
彼らが何か喋りだす前に俺は顔を持ち上げ視線を交えるとにぃっと唇を持ち上げた。
「よ。そろそろ来る頃かなーって思ってた」
「現実世界では貴方の心は読みにくいので、その意味を伺っても?」
「この世界じゃお前の心は読みにくいんだから、ちゃんと意味を教えろって」
「カガミ、お前は相変わらず口が悪いな」
彼らは外見だけは十二、三歳の少年だが『人間』ではない。
黒と蒼のヘテロクロミアに映る小さな俺を何気なく見上げつつ、俺は自分の隣をぽふぽふ叩く。ここに座れという意味だ。彼らはそれを汲み取ってくれたらしく、俺の右隣にスガタ、そのまた隣にカガミが腰を下ろして三人並ぶ。高校には相応しくない二人だが、この場所なら誰も気にしないだろう。
「最近なんだかぐっすり良く眠れてしまって夢も見ないのでお前らの世界に行けないんだよ。なのでお前らに会えるようずっとお前らの事思ってた」
俺は弁当の包みをごそりを漁り、その中からある物を二つ取り出す。
「ほらよ」
橙色をした香りの良いそれを俺は放り投げる。
緩やかなカーブを描いて二人の元へと落ちていくそれはとても香りの良い蜜柑だった。
「糖度十五のみかんだぜ? 高かったんだからな」
ニヤリ。
それは大胆不敵な笑み。
これは以前、こいつらとその仲間達とで遊んだかくれんぼで俺が所望したものだ。実際問題これが売っているところを見かけた時は本気で目を疑った。しかしその分の値段が半端無く高い。どれくらいかと言うと高校生の財布事情を圧迫しまくってくれたと言えば良いだろうか。それはもうその蜜柑の前で腕を組みながら唸っている俺を見て周囲の人間がどんな目で見ていたか……ああ、考えたくない!
でも予感がしたんだ。
そろそろ二人が俺に逢いに来るってさ。
悩む事数十分――俺はそれをレジへと持っていった。財布からお札が消えるあの瞬間は本当に溜息が零れ出てしまう。
俺の隣で興味津々で二人は渡したばかりの蜜柑を眺め見る。
綺麗な色合いをしたそれを空に向けたり、匂いを嗅いだりと彼らはそれなりに楽しそうで与えた俺としてはなんだか心がほっこりした。やがてカガミが爪先を食い込ませ、開き始める。
中身自体は普通の蜜柑と変わりない。だけど口に含んでみればそれはもう――。
「凄く甘いですね」
「すっげ、甘っ!」
「だろ、だろ、マジ感動もんだろ!」
ほら、それは皆を幸せにする味。
一口一口を大事にして口に入れるスガタ、逆に欲のままに口の中に放り込んでいくのがカガミ。姿は良く似ているくせにこういう性格面は全く違う。でも吐き出してくる言葉なんかは同じ系統のもので、そこが余計に彼らの雰囲気を常人ではないと知らしめているわけだけど。
そんな風にはしゃぐ彼らを横目に俺は開いておいた弁当を膝の上に乗せながら再び食事を開始する。
「あのさ、俺『アイツ』の事あれからちょっと考えたんだ」
卵焼きを口に含み、咀嚼しながら語る。
休日ならともかく、高校生の休み時間を考えるとゆっくりとしてはいられない。購買で買った飲み物で喉を潤し、食べ物を飲み込みながら語るのは心情。俺の中の『アイツ』について。
「『アイツ』は……俺の代弁者だったんだな。ずっと抑えてきた感情や行動をアイツがやってくれた……自分で言うものなんだけど俺、子供らしい子供時代を送った記憶があんまりないからなぁ」
言葉に出した瞬間、胸がざわついた。
押さえ込むように箸を持っていない左手を胸元に当て、目を伏せて深呼吸を繰り返す。大丈夫。大丈夫。そう心の中で『アイツら』に言い聞かせながら。
スガタとカガミは俺へと顔を向け、真剣な表情で言葉を聞いてくれている。この世界は彼らの存在するフィールドではない。だから俺が彼ら二人を認識している事――それが基盤となって彼らは『存在』してくれている。二人が此処にいると俺が知っているから、互いに認知する事が出来るのだ。
故に、この世界は簡単には通じ合えない。
俺みたいな特殊能力でも持っていない限り、心の中を覗くなんて出来やしない。
だから言葉を紡ごう。
思い出を紡ごう。
「かと言って今が大人っぽいかと言えばそうでもないんだけどな」
少し気恥ずかしくなりつつも俺は笑う。
箸を落とさぬよう弁当の傍へと横たえ、俺は自分の両手を組んで前にぐーっと伸ばす。筋が伸びて気持ち良い。
「当たり前です。貴方はまだまだ子供なんですから」
「当たり前だろ。貴方はまだまだこの世界じゃ子供の分類に入ってんだから」
「だけど毎日を過ごして」
「色んなふれあいを経験して」
「幸せを感じて」
「悲しさを感じて」
「喜びを分かち合って」
「不幸だって吹き飛ばせるように頑張って生きて」
「「 どんな『過去』も『現在』も『未来』に繋がって迷い子(まよいご)のままでも大人になっていくのが人生 」」
蜜柑の皮を丁寧に剥きどこに捨てようか迷っているスガタ。
逆に力任せに剥いたのかボロボロの状態の皮を折り曲げ、汁を飛ばして遊ぶカガミ。
当たり前の日常の中に紛れ込んでいる彼らとの逢瀬は『非日常』。
だけど同じ毎日の繰り返しじゃ面白くないし、人外にだって色んな奴がいて――例を挙げるとこの二人みたいに友人みたいに会話してくれるのが良い。
俺を俺のまま受け入れてくれて拒絶しない。
ありのままの俺を絶対的な言霊で「工藤 勇太」だと定義付けてくれる彼らの存在に俺は笑うしかない。
「とりゃ」
「ぃっ、ぎゃかあー!! ちょ、おまっ、なにすんだよ!?」
「必殺、蜜柑で目潰し!! ――で、これがお前が作った弁当?」
「俺の悲鳴を聞けー!」
スガタの膝の上で猫のように身体を伸ばし、俺の方へと折った蜜柑の皮で攻撃してくるカガミ。その攻撃があまりにも見事過ぎて思わず感傷に浸っていた俺は不意打ちを喰らってしまう。知っているか。蜜柑の汁ってあぶり出しに使用するだけが使用方法じゃねーんだぜ。こんな風に攻撃するのも有りといえば有りで――くっ、思わず目から涙が出るほど痛ぇ!
「うーん、この卵焼きはちょっと焦げすぎじゃないでしょうか……」
「つーか塩分多い。塩控えろよ」
「あ、でもこっちのは中々」
「えー、俺はもうちょっと辛さがある方が好きだな」
「――…………お前ら、なぁ」
人が蜜柑の汁に苦しめられている間中、それはもう楽しげに人の弁当をつまみ食いしている二人。
それを涙で滲んだ視界越しで睨みつけるが、正直情けない。それは俺を見る彼らの笑顔からもわかる。スガタは変わらずおっとりとしているが目の奥ではからかいの意味を含んだものが潜んでいるし、カガミはむしろ正々堂々と悪戯成功の子供の表情を浮かべている。
ああ、楽しいよ。
こんな風に生きていける――その毎日が。
キーンコーンカーンコーン。
やがて聞こえてきたじゃれあい終了の合図。
弁当に色々指導が入ったけれど、俺は自分の好みで作っているのだからコレでいいと思って――……いや、でも塩控えめにした方が確かに健康には良いのか。
「今度は美味しいお弁当を期待してますね」
「今度は俺好みの弁当にして欲しいもんだ」
「今度っていつ逢えんだよ」
「それは貴方の心のままに」
「それはお前の心が呼ぶままに」
「「 僕(俺)達が此処にいる――そう願うだけの簡単なお仕事をしてくれるなら 」」
これは俺とスガタとカガミで過ごしたまったりな時間。
空中に溶け消えていく彼らを俺は見やりながら自分もまた教室に戻るために屋上から移動を始める。残された蜜柑の皮を途中ゴミ箱の中に捨てるのも忘れない。
実際、子供らしい子供とか大人らしい大人とかは分からない。
目標としている人はいても、それが正しい姿か問われれば否だ。
だから俺は俺のまま行こう。
「迷い子だって構わない。生きてさえいれば俺は頑張れる、そうだろ? 『俺』」
俺は自信に満ち溢れながらそう自問し、返ってくる言葉のない心《おれ》を撫でるように左胸を無意識の内に撫でていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、今回は「xeno−番外−」発注有難うございました。
あの後の話を頂けると嬉しいですねv
番外に関しては幾らでも発注して頂いて大丈夫ですので、またスガタ&カガミと遊んで頂けると嬉しいなと、こっそり。
工藤様と遊ぶ二人はそれはそれは生き生きとした「子供」です。
それは彼らの存在意義である「相手次第で行動する」という部分から、結論づいた事なのですが、二人は工藤様の事が気に入ってしまったようで度々遊びに来てしまいそうです(笑)
ではまた逢える日を楽しみにしつつ。
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