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■とある日常風景■

三咲 都李
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
「おう、どうした?」
 いつものように草間興信所のドアを叩いて入ると、所長の草間武彦(くさま・たけひこ)は所長の机にどっかりと座っていた。
 新聞片手にタバコをくわえて、いつものように横柄な態度だ。
「いらっしゃいませ。今日は何かご用でしたか?」
 奥のキッチンからひょいと顔を出した妹の草間零(くさま・れい)はにっこりと笑う。

 さて、今日という日はいったいどういう日になるのか?
とある日常風景

− 夕暮れクッキング −
1.
「おう、どうした?」
 いつものように草間興信所のドアを叩いて入ると、所長の草間武彦(くさま・たけひこ)は所長の机にどっかりと座っていた。
 新聞片手にタバコをくわえて、いつものように横柄な態度だ。
「いらっしゃいませ。今日は何かご用でしたか?」
 奥のキッチンからひょいと顔を出した妹の草間零(くさま・れい)はにっこりと笑う。
「いや、用っていうか…まぁ、なんていうか」
 モジモジと思わず手に持っていた紙袋を後ろ手に隠す。
 しまった。またタイミングを逃した。
 工藤・勇太(くどう・ゆうた)は愛想よく笑い返してみたものの、内心焦った。
 なんかこの間も同じことやった気がする。
 俺、タイミング掴むの下手だな…なんて思いながら、勇太はじりじりと後ろに下がっていった。
「な、なんでもない。やっぱなんでもない! それじゃ、俺帰るから! またね、草間さん。零さん」
「待て! 同じ手はもう食うかよ。用があるんだろ? 男らしく言え!」
 前回と同じく逃亡しかけた勇太の頭を、草間は鷲掴みにして一喝した。
「お兄さん! 暴力はいけません!」
 零がそうたしなめたが、草間は一向に手を離そうとしない。
「これは暴力じゃない、教育的指導の一環だ」
「…っ、わかったよ。わかりましたよ。言えばいいんでしょ? …だから離してくださいよ…」
 草間が手を離すと、勇太はコキコキッと首を2〜3回左右に鳴らした。
 容赦のない草間の攻撃のおかげで、身長が少しくらい伸びたかもしれない。
「で、何しにきたんだ?」
 改めてそう聞かれて、勇太はひとつ大きく深呼吸をしてから少し草間から視線をそらせた。
「…零さんに…料理を教えて欲しいと思って…」
 語尾が段々と消えていく。それにつれて勇太の顔は赤く染まっていった。
「…料…理?」
 プッと草間が吹き出す音が聞こえた。
 この人の前で言ったらこうなるであろうことは、わかってたんだ。
「べ、別に料理くらい出来なくても…」
 そう見栄を張ろうと思ったが、勇太は少し考えてふぅっとため息をついた。
「…今まで俺さ、学校のお昼は購買のパンばっかで、家でも料理ってほとんどやらなかったんだ。でも、1人暮らしなんだし、やらなきゃと思って…最近弁当くらいなら作れるかなって、作ってみたんだけど…」
 勇太はそう言って、携帯を開くとフォルダから画像を探した。
 そして探した画像を零と草間のほうに向けた。
「…なんかさ、不味そうなんだよね」
 画像には弁当箱に入れられたご飯とおかずが整然と入れられて写っている。
 卵焼き、ソーセージ、から揚げ、肉団子。ご飯の真ん中には梅干がひとつポツンと乗っている。
「肉ばっかだな。それにこげてる」
「彩りがよくないですね。お野菜もありませんし…」
「…ってことでさ。下手なりに頑張ってみたんだけど、どうにもならなくなったんだ。零さん。料理、教えてください!!」
 勇太は深々と零に向かって頭を下げた。


2.
「そうですね…うまく教えられるか不安ですけど、やってみましょうか」
 にっこりと零が笑ったので、勇太はパァッと顔を明るくした。
「ホントですか!? やった!! あ、俺エプロン持参できたんです」
 持っていた紙袋の中からがさっと取り出したのは薄緑のシンプルなエプロン。
「…なんだ、手土産じゃなかったのか」
 残念そうに呟いた草間に、勇太はにやっと笑い「すいません」と謝った。
「材料は今興信所の冷蔵庫にあるものでかまいませんか?」
「はい。大丈夫です」
 早速キッチンに向かう2人…の後を追う草間。
 完全に蚊帳の外である。
「草間さんは味見役お願いします。…くれぐれも邪魔しないでくださいよね?」
「…なんだよ。ラブラブの2人には俺が邪魔者ってことか?」
「ちょ!? だ、誰がそんなことを! 大体俺と零さんはそんな関係じゃ…」
 そう言って口をつぐんだ勇太に、零が援護を出した。
「お兄さん、勇太さんをいじめないでください。じゃないと、今日の夕ご飯抜きにしますよ?」
 零にそういわれ、草間は渋々とオフィスに戻っていった。
「べ、別にいじめられてたわけじゃ…」
 勇太は赤くなって俯いた。
 するとふふっと零は笑って、勇太に聞こえるか聞こえないかの声で囁いた。
「わかってますよ」

 冷蔵庫の中から零は色々なものを取り出した。
 人参、卵、ほうれん草、カブの甘酢漬け、それに冷凍してあったハンバーグらしきもの。
「お弁当の基本は『五味・五法・五色』といいます。でも、正直これを全部やるのは難しいので、今日は5色だけにしますね。…あ、5色は『赤・黄・緑・白・黒または茶』なんですよ」
「5色…」
 なるほど。いわれてみればキッチンの上に出された食材はまさに5色揃っている。
「お弁当は時間との勝負でもあります。でも、ちゃんと段取りを考えれば大丈夫ですよ」
 零はまず鍋にお湯を沸かし始めた。
「では、勇太さんはその間に人参を千切りにしてもらえますか?」
「え? 千切り? こ、こう?」
「えーっと…人参をスライスしてですね、スライスし終わったらそれを細かく刻む切り方で…」
 見本にと、零は少しだけ人参の千切りを見せた。
 それはとても上手で手早く、まだまだ勇太には到達し得ない域の技だった。
「零さんにこんな特技があったなんて…」
「そ、そうですか?」
 素直に感想をのべた勇太に、零は照れくさそうに頬を染めた。


3.
 キッチンから聞こえる楽しそうな声…。
 新聞を広げてはみたものの、草間はその声が気になってとてもじゃないが新聞の内容など頭に入ってこなかった。
 チクショー。俺をないがしろにしやがって。
 草間はため息をひとつつくとダンッと立ち上がった。
 味見役なんだから、作っている今こそ俺の出番じゃないのか?
 ていうか、それくらい食わせてもらっても罰は当たらないだろ。
 ふらふらといい匂いに釣られるように、草間はキッチンへと歩き出した。

「ほうれん草は茹でたあと色を綺麗に保つ為に水にさらすのですが、栄養素が流れてしまうので色が気にならないようでしたら水にさらすのをやめてもかまいません」
「へ〜…で、これ次どうすればいいですか?」
「すりゴマとお醤油で和えます。すると…ほうれん草のおひたしの完成です! あ、お好みで砂糖を加えてもおいしいですよ」
「おぉ! 簡単だ!」
 和気あいあいと会話しながら弁当を作る2人の背後に恐ろしげな影がさす。
「楽しそうだなぁ、おい」
「うお!? びっくりした!」
 突然背後から現れた草間に、勇太はドキドキした。
「どれどれ、俺が味見を…」
 ひょいっと今出来たてのおひたしを草間がつまんで口に入れた。
「あ!?」
「ん〜…んまい。さすが零だな。上出来だ」
「ちょ、俺が作ったんだぜ!?」
 そう主張した勇太に、草間はニヤリと笑った。
「なんだ? 勇太くんは褒めて欲しいのかな〜?」
 意地悪そうな顔でこちらを眺める草間に、勇太はウッと声を詰まらせた。
「べ、別にそんな訳ないじゃん! 男に褒められたって嬉しくないね!」
 しかし、そんな勇太の強がりとは裏腹に草間のニヤニヤは消えない。
「…と、とにかく! 味見役は大人しく完成するまで待ってろよな! …絶対美味いもん作るから…」
 草間の背中を押してキッチンから締め出すと、零がニコニコと勇太に微笑んだ。
「大丈夫ですよ。勇太さん、ちゃんと美味しいものが作れています。私が保証します」
 そういわれて、勇太は「どうも」と赤くなって俯いたのだった。


4.
「ハンバーグは作りおいて冷凍しておくと朝焼くだけで済みますし、お漬物や佃煮などの保存がきくものを常備しておくと楽になります」
 人参の千切りをドレッシングで和えただけの簡単な人参サラダに、卵焼き、ほうれん草のおひたし、カブの甘酢漬け、ハンバーグとご飯を綺麗にお弁当箱の中に詰めて、零のレッスンによる勇太作のお弁当が2つ完成した。
「とっても美味しそうです。さ、お兄さんに味見をしていただきましょう」
 お茶を手早く入れて、零は2つの弁当箱をお盆に載せてはいっと勇太に手渡した。
「え? お、俺が持ってくの!?」
「自信持って、お兄さんに美味しいって言ってもらいましょう」
 にっこりと笑った零は、厳しくもあり、優しくもあり…。

「お、俺が作った弁当、食べてみてよ」
 草間の前にドンとお茶と弁当箱を置くと、草間はふむっと座り直して箸を持った。
「卵焼き、形崩れてないか?」
 文句言いながらもむしゃむしゃと箸が止まらない草間を、勇太はジーっと見つめていた。
 そして、静かに完食すると草間は箸を置いた。
「…どう、だった?」

「あぁ、美味かった。ま、見た目がもう少しよけりゃ、嫁にいけるな」

 ホッとしたのも束の間、勇太は草間の最後の言葉に引っかかった。
「なんだよ、嫁にいけるって! 俺は男だ!!」
「世の中『主夫』なんて職業もあるんだ。諦めずに弁当作り頑張れ」
「主夫になんか、ならねーし!!」
 食後の茶をすする草間に、勇太は食ってかかった。
 すると、ニコニコと佇んでいた零が、まだ中身が入っている弁当箱を勇太に差し出した。
「折角ですから勇太さんも食べてください。そろそろお夕食の時間ですし」
「え?」
 あっけにとられた勇太に、零は「どうぞ」と座るように促した。
「だって、これ、零さんの分じゃ…」
「私の分は問題ありません。これは勇太さんが食べてください」
 勇太が零の手から弁当を受け取ろうとした瞬間…
「そんなに遠慮するなら俺が食ってやるよ」
 草間がひょいっと弁当を取り上げた。
「あんた、さっき食ったじゃん!!」
「探偵は食えるときに食っとかないとダメなんだよ!」
「かーえーせーーー!!」

 その日の夜、家に帰った勇太は忘れないうちに零のレシピを冷蔵庫に貼っておいたのだった…。


■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1122 / 工藤・勇太(くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生


 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い
 

■□         ライター通信          □■
 工藤・勇太様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はPCゲームノベルへのご参加ありがとうございました。
 お弁当作り。たまに作る分だと楽しいのですが、毎日となると…。
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。