■【SOl】語られざるヒーローの一日■
西東慶三 |
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】 |
眠らない街・東京。
そこに人々の暮らしがある限り、ヒーローに休息の時はない。
24/7/365。
悪の魔の手が迫るとき、助けを呼ぶ声が響くとき。
ヒーローは、どこからともなく現れるのだ。
……まあ、実際駆けつけてくるのが誰になるかはその時までわからないし、それで事件が丸く収まるかはまた別の問題だが……。
−−−−−
ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
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【SOl】Fate of the Hero
工藤勇太(くどう・ゆうた)は、一人午後の街を歩いていた。
春の日差しが心地よい、平和な午後。
ただ、この季節の、この時間帯の、この場所にしては、妙に人通りが少ないのが少しだけ気になった。
その平和は、突然に破られた。
前方の交差点、曲がり角を曲がった奥辺りで、爆発音のようなものが聞こえたのだ。
いかに人気がないとはいえ、街中で爆発などそうそうあっていいことではない。
間違いなく、何か大変なことが起きている。
そう考えて、勇太は急いでそちらへと向かった。
〜〜〜〜〜
角を曲がった先にいたのは、対峙する二人の人物だった。
勇太に背を向ける恰好になっているのは金髪の女性。
そして、二人の正面に立っているのは――明らかに通常の人間とは思えない「何者か」だった。
その「何者か」は、異様なまでに発達した腕を持ち、さらにその手にはなぜかペンとメモ帳があった。
一体これはどういう状況で、何がどうなっているのか?
勇太が状況を完全に把握するよりも早く、「何者か」が動く。
その相手は、手にしたメモ帳に素早く何かを書きなぐると、そのページを引きちぎって乱暴に丸め。
それを、目の前に立つ女性ではなく、勇太の方に向かって投げつけてきた。
ちぎられたメモ帳のページなど、ぶつけられても別に痛くも痒くもない。
だが、それはもしそのメモ帳のページがそのまま飛んでくれば、の話で。
投げつけられたメモ帳のページが、途中で火がついた爆弾に変化したのであれば、話は別だ。
「危ないっ!!」
相手の狙いに気づいた女性が、とっさにその射線に割って入る。
次の瞬間、爆弾が爆発し――その爆風で吹き飛ばされるようにして、彼女が勇太の方に飛ばされてきた。
その彼女を受け止めようと、勇太はとっさに手を伸ばした。
そう大柄ともいえない女性一人くらいなら、彼の「能力」を使わずとも十分受け止められる。
そのはずだったのだが、飛ばされてきた女性はその見た目からは想像しがたいほど重く、勇太はそのまま押しつぶされる形になってしまった。
「……っ!? す、すみません、大丈夫ですか!?」
慌てて飛び起きた彼女に、勇太はこう答えた。
「ええ、なんとか……けど、案外重いんですね」
その言葉に反応して、彼女は拳を振るい――倒れたままの勇太の頭のすぐ横、アスファルトの道路に、文字通り「拳がめり込んだ」音が聞こえた。
「あんまり女性相手にそういうこと言っちゃダメですよ?」
怒りと笑いが入り交じったような表情の彼女に、勇太は反射的に何度も頷く。
それで少し気持ちが落ち着いたのか、彼女は目の前の「敵」に向き直りながら、声だけでこう尋ねてきた。
「それはそうと、どうして入ってきちゃったんですか?
ちょっと危険そうな相手だったから、人払いの結界を張っておいたのに」
「結界? 俺は何も気づきませんでしたけど」
言われてみれば、確かにこの近辺の人の少なさは異常である。
おそらく、彼女が張った結界によって「普通の人は」この近辺には立ち入れないのだろう。
けれども、勇太は「力を持っている」ため、その結界を無意識に踏み越えてしまった、というところだろうか。
「それより、あいつは何なんですか?」
今度は、逆に勇太の方から質問する。
「『虚無の境界』のテロリストです。
異常身体能力に加え、メモ帳に書いたものを実体化させる能力があるようですね」
なるほど、これで先ほどの攻撃の正体もはっきりした。
きっと、あの時のメモ帳には「爆弾」とか、それに類することが書かれていたのだろう。
「もちろんそれにも限界はあるようですけど、結構キツい相手です。
人一人かばいながら戦える相手じゃありませんから、すぐに退避してください」
「虚無の境界」と戦っているということは、彼女はIO2やそれに類する組織の関係者だろう。
そして、彼女はまだ勇太が「戦える」ことに気づいていない。
だとすれば、厄介事を避けるためには、おとなしく彼女の言葉に従うのが得策だろう。
だが、彼女も言っていたように、敵は容易ならざる相手である。
このまま彼女を見捨てて、また、テロリストを野放しにしたまま行けるだろうか?
もちろん、勇太の答えは「ノー」だった。
「手伝います。俺もそこそこは戦えますから」
退くのではなく、一歩前に出て彼女の隣に立つ。
彼女は驚いたような顔をしたが、すぐに勇太の覚悟を見て取ったのか、にこりと笑ってこう言った。
「感謝します。一応救援は呼んでるんですが、正直ちょっと厳しい感じでしたから」
さて、そんな二人のやり取りの間、敵はただ黙って見ていたのだろうか?
もちろんその答えはノーであるが、ならば敵が何をしていたのか、と言うと。
「ヒャッハァ!!」
奇声とともに、敵がメモ帳のページをちぎって投げる。
そのページは姿を変え、拡散し――「銃弾の雨」となって二人を襲う。
「そのくらい!!」
勇太が右手を突き出し、得意のサイコキネシスの応用で壁を作り、その全てを受け止めた。
だが、その時にはすでに敵は次の手を打ち終わっている――先ほどの時間を利用して「書きだめ」をしていたからだ。
同時に左右に投げられた二枚のページは、地面に触れる直前で漆黒の「魔獣」に姿を変じ、両側から二人に襲いかかる。
「させません!」
霊子レーザーライフルの光が、左から来た魔獣を貫く。
そして右から来た魔獣は、勇太がサイコキネシスで動きを封じた。
けれども、敵の攻撃はこれで終わりではない。
二人が足元に気をとられている間に、空に舞い上がった紙飛行機。
それが二人の頭上に辿り着いたとき、それは「16t」と書かれた巨大な重りへと姿を変えた。
「そんなベタな……っ!!」
とっさに勇太がそちらに意識を向け、重りをギリギリで受け止める。
その間に、女性はもう一匹の魔獣を撃ち抜くと、敵に向かって一気に間合いを詰めた。
が。
「えっ!?」
目の前に不意に出現した巨大な障害物に、彼女は哀れにも真っ正面からぶち当たってしまった。
敵が最後に呼び出したのは「壁」。それも容易には破れないことが一目でわかるシロモノである。
もしこの連続攻撃がしのがれるほどの相手であれば、勝ち目が薄いと判断して逃げようと最初から決めていたのだろう。
しかし、ここであの敵を逃がせば、きっとまたテロ活動を続けるに違いない。
それでは、何の解決にもならないではないか。
先ほどの魔獣が消えた辺りに残る、破れたメモ帳の切れ端。
勇太はそれを拾い上げると、サイコメトリーの応用でその持ち主の位置を探った。
思った通り、まだそう遠くへは行っていないことを確かめ、その前方にテレポートで転移する。
「壁」の召喚で逃げ切ったと思っていた敵にしてみれば、目の前に勇太が現れたのは全くの想定外だったのだろう。
それでも、敵はすぐに気を取り直し、再びペンを構え――。
次の瞬間、銃声が辺りに響いた。
バラバラになったペンの破片が、辺りの道路に散らばる。
それと同時に、敵の両腕が本来あるべき姿に戻り――後に残ったのは、放心したように立ち尽くす小柄な中年の男だった。
「ペン一本吹っ飛ばすには、過ぎたシロモノなんだがな」
横道から、銃を構えたままの男が姿を現す。
「『SOl』の鷺沼だ。協力感謝する」
そう言いながら、鷺沼と名乗った男はテロリストに手錠をかけると、勇太の方を向いて一度軽く頭を下げた。
そこへ、あの壁を力ずくでぶち破ったらしい先ほどの女性が合流してくる。
「副長!?」
「おう、MINA。ご苦労さん」
どうやら、彼女も「SOl」の一員だったらしい。
「SOl」の噂は勇太も聞いていたのだが、実際に見かけたのはこれが初めてだった。
「ヒーローとしてのイメージアップ」を掲げる組織だけに、多少派手な立ち回りなどをやることもあるそうだが、さすがに今回は相手が相手だけに、犠牲者を出さずに事件を解決することを優先せざるを得なかったのだろうか。
「悪い、まさか『不幸の手紙』程度に虚無の境界が絡んでるとは思わなかった。
ともあれ無事で何よりだ。そしてそっちの青年も、改めて協力感謝する」
鷺沼のその言葉に、MINAと呼ばれた女性も慌てて頭を下げる。
「いえ」
そう軽く答えて、勇太はその場を後にしようとした。
ややこしいことになりそうなので、その前に――という思いだったのだが、残念ながら手遅れだった。
「で、一応聞くが。俺たちと契約してヒーローにならないか?」
冗談めかした様子で、鷺沼がそう尋ねてくる。
「せっかくですが、お断りします。俺はなるべく普通に生きていきたいんで」
勇太がそう答えると、鷺沼は小さく笑ってこう言った。
「だろうな、そういう目をしてる。それが一番いいさ」
鷺沼があっさり諦めたことに、そばで勇太の戦いぶりを見ていたMINAが不満そうな顔をするが、鷺沼はそれを手で制する。
「それじゃ、さっきの言葉は取り消す。
あいつを食い止めたのはMINAで、『ここには他に誰もいなかった』。そうだろ?」
つまり、勇太がこの事件に関わったこと自体を記録から抹消する、ということらしい。
勇太にとっては厄介事に巻き込まれる理由が一つ減り、「SOl」やMINAにとっても手柄を独り占めできるのだから悪くない話であろう。
「ええ。犯人の他には『あなたたち二人しかいませんでした』」
勇太の返事に、鷺沼は一度小さく頷く。
「いい判断だ」
そして、勇太の方に歩み寄ってくると――勇太にだけ聞こえるくらいの声で、ぽつりとこう言った。
「……ただな、これだけは覚えとけ。
あいにく『運命』ってヤツは、お前が思ってるより数段しつこくて鼻が利く」
その言葉は、強い実感を伴って勇太に突き刺さった。
平穏な暮らしを手に入れたと思ったことが、そしてそれが打ち砕かれたことが、これまでに何度あっただろうか。
「……ご忠告感謝します」
どうにか、それだけ言葉を絞り出す。
「ああ。それじゃ、『またな』」
そう言い残して、鷺沼はくるりと背を向けた。
〜〜〜〜〜
そうして、鷺沼とMINAが犯人を伴って去ってほどなく。
MINAが張った結界が解除されたのか、急に人通りが増え始めた。
先ほどの戦いの痕跡を残すものは、今は何の力もないただの紙くずとなったメモ帳の切れ端と、道路に残された拳大の穴一つくらいしかない。
春の日差しが心地よい、平和な午後。
これが日常。これが平穏。
ここが自分のいるべき場所。ここが自分がいたいと思う場所。
いつかは鷺沼が言ったように、「運命」が追いついてくる日があるのかもしれない。
けれども、今からそれを恐れても仕方ないし、そもそもそれはもう何度もあったことだ。
そう思い直して、勇太はまた歩き出した。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1122 / 工藤・勇太 / 男性 / 17 / 超能力高校生
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■ ライター通信 ■
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はじめまして、西東慶三です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
また、納品の方が少々遅れてしまいまして申し訳ございませんでした。
さて、今回のノベルですが、こんな感じでいかがでしたでしょうか。
ギャグあり+戦闘中心ということで、こんな話になりました。
最後の展開は勇太さんの過去設定等から考えさせていただきました。
MINAは冷静にこういうこと言えるキャラではないので、リクエスト外ですがここは鷺沼が登場する形にさせていただいております。
それでは、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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