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■【りあ】 Scene1・スペシャルな出会い■

朝臣あむ
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
 ガチャガチャと食器の音がする。
 音の元凶は燕尾服を無造作に着こなした青年だ。
 彼は左目に眼帯を嵌めたまま、皿を次々とトレイに乗せてゆく。
 その山頂はそろそろ崩れ落ちそうだ。そこに繊細で細く長い指が伸びてきた。
「千里。そんなにお皿を積んではダメだよ」
 慣れた手つきで皿を別のトレイに移すのは、穏やかな相貌の青年だ。
 千里と呼ばれた青年は彼を見ると、面倒そうに溜息を零した。
「なら梓、お前がやれよ。俺には性に合わねえ」
 そう言ってトレイごと梓と呼んだ青年に食器を押しつけた。
「まったく。ノルマをこなさないと怒られるのは千里なのに」
 スタスタと店の奥に下がってしまう千里に呟く。
「本当だよね〜。千里ちゃんってば、ワガママ〜」
 ひょいっと顔を覗かせて千里が押しつけたトレイを奪ったのは、水色の髪をした少女だ。
 彼女は大きな瞳を笑みの形にして、梓を見た。
「梓ちゃん。良い人なのも良いけど、好い加減にしないと千里ちゃんの仕事全部回ってきちゃうよ?」
「それはないよ。それより、葎子ちゃんは接客の方は良いの?」
「大丈夫♪ 菜々美ちゃんが変わってくれたから♪」
 笑顔で言い放った葎子に、梓の眉がピクリと動く。
 そして――。
「ひぃぃぃぃっ!! な、なんなんだ、この店はっ!!!」
 店の一角から悲痛な叫び声が聞こえた。
 目を向ければ、黒髪の少女が眼鏡を光らせてニヤリと笑っているのが見える。
「あらん、お客様? この店はお触り厳禁――知らなかったなんて言葉で片付けるなよ」
 ドスの利いた声に客は竦み上がってふるふると震えている。
 テーブルの上にはナイフが突き刺さっており、先ほどの悲鳴の理由が伺えた。
「あ? 何の騒ぎだよ」
 騒ぎに気付いて千里が戻って来た。
 既に燕尾服の燕の字もなくなった服装だが、この際それはどうでも良い。
「蜂須賀さんがお客様相手にキレたんだ」
「あのアホ、またかよ」
 チッと舌打ちを零して千里は菜々美に近付いた。
「おい、ほどほどにしとけよ」
 ポンっと肩に手を置く。その瞬間、千里の額に冷たいものが触れた。
「……菜々美、何だこりゃ」
 目を向けるまでもなく分かる。今、千里の額に添えられているのは銃だ。
 まあ、普通の銃ではことを知っているので千里は動揺しない。
 しかし客は違った。
「ひぃぃぃぃ!!! 殺されるぅぅぅ!!!!」
 わたわたと自分の上着をかき集め、脱兎の如く店を飛び出したのだ。
「あー、無銭飲食っ!」
「いや、今気にするのはそこじゃないと思うよ」
 葎子の叫びに、空かさず梓が突っ込みを入れる。
 客が去った後も、千里と菜々美の一発触発の状態は続いていのだから当然だろう。
「千里、実験体を逃がした罪は大きいぞ。黙ってあたしの実験体になれ」
 ドスの利いた声で呟く菜々美に、千里は動じた風もなく銃を指先でツイッと横に流した。
「付き合ってらんねえ」
 そう言って歩き出そうとした時だ。
――チリリン、リンッ。
 店の奥から呼び鈴が鳴った。
 その音に4人が顔を見合わせる。
「ほら、騒ぐから」
「あはは♪ オーナーにバレちゃったみたいだね?」
「……あー……メンドイ」
「実験体の確保なら、あたしが行く」
 それぞれが好き勝手呟いて、店の奥へと歩き出す。
 これより後、無銭飲食犯を逃がした4人には、その捕獲が命じられた。
Scene1・スペシャルな出会い / 工藤・勇太

 青い空に薄ら走る白い雲。
 それを眺めながら駆ける工藤・勇太の足は弾んでいる。
 その理由は彼が咥えているパンだ。
「ほのひはんはへはんははってほはっはへ♪」
 ……訳すると「この時間までパンがあって良かったぜ♪」だ。
 この時間と言うのは、昼が過ぎ、下校時刻である今を指す。本来なら昼の激戦で殆どのパンが売り切れてしまうのだが、今日はパンが残っていた。
 しかも、激戦中の激戦『メロンパン』がっ!
「まひめひうへふといいほほもはるほんは♪」
 えっと「真面目に受けると良いこともあるもんだ♪」とのこと。
 真面目に受けるとは、授業の事だ。とは言っても、彼がこうしてパンを齧る原因を作った授業は本来あるべき授業ではない。
 いわゆる『補修』と言う物を受けた結果、昼を食べる時間を無くしてしまったのだ。
 そのため下校途中に昼ご飯を食べながら走っているのだが、もし補修をサボっていたらこのパンに巡り会えなかったかもしれない。
 そう考えると今日はついている!
 弾む足をそのままに、勇太は上機嫌で目の前の角を曲がった。
 ここを曲がれば自宅まではあと少し。
 だが――
「ぬあっ!?」
「きゃっ」
 柔らかな衝撃に弾かれて、その場に尻餅を着いてしまった。
「あたた……思いっきり、尻打っ……う゛っ!?」
 腰を摩ってぼやこうとすること僅か、不意に彼の目が瞬かれる。
 何やら口に妙な違和感が。
 いや、それ以外にも感じる物はあるが、何よりそれよりまずは口だ。
「俺のメロンパン!」
 そう先程まであった筈のメロンパンがない!
 これは勇太にとって一大事だった。
「メロンパン、メロンパン、めろ……ん、ぱ?」
 必死にメロンパンを探すこと数秒。
 アスファルトを手探りで探しながら進んだ先に、何やら見覚えがあるような無いようなモノが。
「えっと……これって、もしかして、足?」
 細くて白い肌色の物体。
 それを辿る様に視線を上げて、勇太の顔が一気に赤くなった。
「うあッ!? ご、ごめん、触ってない! 触ってないから!!」
 尻餅を着いた状態で目を瞬く女の子。
 学生服の裾がちょっと捲れあがっていて見――って、ちっがーう! ここで気にするのはそこじゃない!
 勇太は思い切り頭を横に振ると、急いで立ち上がった。そして少女に向かって手を差し出す。
 女の子をいつまでも地面に座らせておく訳にはいかない。そういうつもりだったのだが、彼は再び目を瞬いた。
「……何だ、この匂い」
 呟き、鼻を啜る。
 口の違和感と目の前の存在に気を取られていたが、先程から異臭がしている気がする。
 しかもかなり匂っているか?
「どこから……って、そうじゃない。まずは女の子」
 言って視線を戻す。
 そうして気付いたのは、女の子が背を向けていると言う事だ。
 先程の柔らかな感触と、目の前に座り込む女の子。背中を向けていると言う事は、勇太の所為で転んだ訳ではないのだろうか。
「んー……よくわかんない状況だな――って、え? あれ、何なの!?」
 かなーり、気付くのが遅い。
 異臭の段階で見つけられればもう少し早く発見できたのだろうが、彼の第1はメロンパン。そして第2が目の前の女の子。
 遅れて第3がその他の事象となれば、まあ納得はいく。
 とは言え、遅かれ早かれ気付けたのだから良しとしよう。
「どう見ても人間じゃないよな。何なんだ、アレ」
 彼の目に映る人外の存在。
 餓鬼のように膨らんだ腹と黒く骨ばった体を持つそれは、腐敗したような匂いを放っている。
 最初に感じた異臭はどうやらコイツが放っているようだ。
「明らかにヤバいよな」
 どう見ても状況は最悪。
 危機感に眉を寄せる勇太だったが、そこに状況に似合わない明るい声が響いてきた。
「黒鬼ちゃんって言って、悪鬼ちゃんの一種だよ。簡単に言うと、悪い子なの♪」
「黒鬼ちゃんに、悪鬼ちゃん?」
 ちゃん付けしているが、どう見てもそんな可愛い物でもない。
 だが女の子は笑顔のまま言い放つ。
「ここは葎子に任せて、あなたは下がっててね♪」
 小首を傾げた瞬間、青のツインテールが揺れて、花のような香りがしてくる。それが今の状況とあまりに似合わず、勇太は思わず目を瞬いた。
「大丈夫って……具体的に、あんたは如何するんだ?」
 黒鬼に向き直った女の子に思わず問う。
 その声に彼女は両の手を後ろに組むと、反対側に首を傾げて見せた。
「黒鬼ちゃんを懲らしめるんだよ?」
 さも当然。
 そんな勢いで返されるものだから、勇太は目を点にさせて女の子の顔を見詰めた。
 どう見ても外見年齢は勇太より年下。
 しかもそこそこ可愛い上に小柄で、ちょっと風が吹いたら倒れそうなほど華奢な女の子だ。
 そんな女の子が黒鬼とか言う化け物を懲らしめるとは如何言う事なのか。
「馬鹿なこと言ってないで、あんたこそ後ろに――……あああああああ!!!!」
 女の子の手を掴んだ勇太が悲鳴を上げる。
 これに、手を掴まれた女の子を含め、黒鬼も驚いた様に動きを止めた。
「あの、どうしたの……?」
「俺の……俺のメロンパンが……っ!」
 愕然と膝を折った勇太。
 その目に映るのは黒鬼の足に踏みつけられた愛しきメロンパンの姿だ。
「てめー! 許さねぇ!」
 勇太は浮かんでもいない涙を拭うと、決死の覚悟で立ち上がり黒鬼に指を突き付けた。
 食べ物の恨みは子々孫々百代まで祟る!
 そんな勢いで睨み付ける彼に、黒鬼の目が光った。そして一気に間合いを詰めに飛び込んでくる。
「来やがったな、化け物!」
 勇太は腰を低くして拳を握り、そして――
「あ! あれは何だ!」
「え?」
 突然の声に、女の子と黒鬼の目が向かう。
 その間に、勇太の手が女の子の手を取った。
「今だ逃げろ!」
「え……でも、許さないって……――あ、待ってッ!」
 女の子の手を掴んだまま、問答無用で彼女を連れて駆けて行く。
 そうして必死に逃げる中で、チラリと女の子を見た。
 初めは戸惑っていたものの、今は素直に逃げる自分についてきてくれている彼女に、何処となく申し訳ない気持ちが浮かんでくる。
 逃げるのがカッコ悪いことは承知している。
 闘おうと思えば闘う事だって出来る。
 もしかしたら、闘えば逃げる選択肢とは比べ物にならないほど楽に、彼女を逃がしてあげる事が出来るかもしれない。
 それでも、それが分かっていても、勇太には闘いたくない理由があった。
「あそこの角、曲がるぞ!」
 言って駆け込んだ路地。
 記憶の中では、ここを抜ければ大通りに出れるはずだった。
 しかし――
「っ……行き止まり……」
 万事休すとはこの事。
 勇太は小さく舌打ちを零すと、無意識に女の子を背に庇う形で黒鬼の前に立った。
 前方以外の両サイドと背は壁に囲まれている。
 ここから逃げるには壁をよじ登る他ない。
「……少し、時間を稼ぐくらいなら」
 力を使わずとも時間を稼ぐことはできるかもしれない。
「俺がアイツを惹きつけてる間に、あんたは塀を登って逃げろ」
「……あなたは?」
「俺は……適当に逃げる」
 本当は逃げるあてなどない。
 それでも本とかでヒーローがヒロインを逃がす場面では、そう書いてあることが多い。よって、この場合のこの台詞は間違いないはずだ。
「ほら、早くしろ!」
 話をしている間にも、黒鬼は刻一刻と近付いて来る。
 勇太はチラチラ女の子を見ながら、壁に背を近付けて行った。そうして彼女の足が塀の上に上がるのが見えた頃、彼の目に別の物が飛び込んで来た。
「――っ!」
 頬を掠めた黒い爪。
 急ぎ間合いを取ったが、一筋の紅い線が頬を伝って顎に落ちて行く。
「マジか……ッ、ぅあッ!」
 辛うじて攻撃を避けたのも束の間。
 すぐさま身を反転させて迫る黒鬼に、勇太の目が見開かれる。
 そして黒鬼の腕が胸を貫こうとした時、彼は思いもよらぬ行動に出た。
「すごい……綺麗な槍……」
 女の子の呟きに、ハッとなる。
 咄嗟に差し出した手から伸びる槍。それが黒鬼の体を貫き、悪しき存在を土に還そうとしているではないか。
「……っ」
 しまった。
 そう顔に出しながら、急いで手を下げる。
 それでも女の子には見られてしまっただろう。
 念で作り出した槍――サイコシャベリン。これが彼の持つ能力の1つにして、隠しておきたいものの1つだ。
「えっと……驚かせて、ごめん……怪我、しなかった?」
 目を逸らしたまま問いかける声に、女の子の「大丈夫♪」と言う声が響く。
 それに次いで地面に着地する音が響くと、勇太の目が上がった。
「助けてくれて、ありがとう♪」
 言葉と共に飛び込んで来た、屈託のない笑顔に思わず口籠る。
 素直と言うか、無邪気と言うか、妙に調子が狂う。
「あー……それじゃ、俺はもう行くね……」
 能力を見られた以上、出来る事なら関わり合いたくない。
 そんなニュアンスを込めて言ったつもりだった。
 だが女の子はそんな様子を気にも留めずに、引きとめてくる。
「えっと……何?」
「葎子のアルバイト先だよ」
「アルバイト先?」
 勇太の手を取って、握らせた名刺。そこには彼女のアルバイト先の名称と地図、そして彼女の名前とメールアドレスが記載されていた。
「お店に来てくれたら、葎子を助けてくれたお礼をするね♪ もちろん、葎子が御馳走しちゃう♪」
 そう言って笑うと、彼女は踵を返した。
「それじゃ、またね♪」
「え、あ……」
 店に行くとも、名刺を受け取るとも答えていない。
 それでも手の中に名前を残して去って行った彼女に、勇太の目が落ちる。
「変な子だな……――蝶野・葎子か。なになに……執事&メイド喫茶?」
 確か彼女はアルバイト先と言っていた。ということは……。
「どう見ても俺より年下、だったよな……それで、メイド?」
 脳裏に一瞬だが危険な妄想が過るが、そこはチャットダウン。
 勇太は「ははは」と乾いた笑いを零すと、いま一度名刺を眺めて、胸ポケットにしまった。
「コンビニでパンでも買ってくかな……メロンパン。いや、焼きそばパンでも良いけど」
 そう零して歩き出す彼の足は、能力を見られたと言うのに、どことなく軽く、柔らかなものに見えた。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 1122 / 工藤・勇太 / 男 / 17歳 / 超能力高校生 】

登場NPC
【 蝶野・葎子 / 女 / 18歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは「りあ☆こい」シナリオへの参加ありがとうございました。
だいぶ自由に勇太くんを動かしてしまいましたので、訂正等がりましたら遠慮なく仰って下さい。
今回のお話がPL様のお気に召していただけることを祈りつつ、感謝の気持ちをお伝えします。
このたびは本当にありがとうございました。
また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂ければと思います。


※今回不随のアイテムは取り上げられることはありません。
また、このアイテムがある場合には他シナリオへの参加及び、
NPCメールの送信も可能になりました。