■あの日あの時あの場所で……■
蒼木裕 |
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】 |
「ねえ、次の日記はカガミの番?」
「ああ、俺だな」
此処は夢の世界。
暗闇の包まれた世界に二人きりで漂っているのは少年二人。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。
さて、本日はカガミの番らしい。
両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように些か焦って綴られたような文字だ。カガミはスガタの背に己の背を寄りかからせ、それから大きな声で読み出した。
「○月○日、晴天、今日は――」
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+ あの日あの時あの場所で……【始まりの音6(番外編)】 +
抜き足、差し足、忍び足。
例の一件の後、養生の為に眠っているカガミの部屋に姿を現したのは俺、工藤 勇太(くどう ゆうた)。普段は超能力高校生なんてやってるけど、ここ三日月邸ではチビ猫獣人として遊びに来る事が多々ある。今回は遊びに来たわけじゃないけど、カガミの希望もあってチビ猫獣人の姿になっていた。
俺が昔捕らわれていた『研究所』関係にカガミを今回巻き込み、その際彼は大怪我を負ってしまったのだ。俺は起こさないように静かに歩み寄り、和室の畳の上に敷かれた布団の傍にちょこんっと座る。膝を抱え寝顔を見つめながら彼の怪我の原因――自分が自暴自棄になった際、自殺しようとしたのをカガミが止めようとした時俺を抱きしめる形を取った彼の背中を刺してしまったことを思い出す。
「……ごめんにゃ」
ぽそり。
そう擬音が付くほど小さな音はきっと今眠っているカガミには届かない。俺は自分を抱きしめる。そして膝の上にこつんっと額を乗せた。
どうしてカガミはいつも俺を守ってくれるの?
どうしていつもそんなに俺に優しくしてくれるの?
ぎゅっと己の手に力を込める。
あの時カガミは俺を抱きしめてくれた。強く強く抱きしめて、そして囁いてくれたんだ。
―― 俺がお前を掴む。
―― お前の悲鳴は俺が聞く。お前の苦痛は俺が和らげるから。
あの言葉を聞いて俺は心の底から相手がカガミでよかったと思った。
感情吐露は俺にとって恐ろしい領域だ。大事な人ほど巻き込めなくて逃げ出した俺。それでも追いかけてきてくれたカガミ。血塗れの手は彼によって掬い上げられ、そして俺の心も一緒に救われた。
カガミが自分を抱きしめてくれた感覚を思い出す。ふわりと、胸のうちが温かくなっていくのを感じ俺は目を伏せた。
ほら今思い出しても……嫌じゃない。
むしろ心地よくて……安心する……なんでかな……。
すぅすぅと規則正しい寝息を立てる彼の気配を感じながら俺は安心感に包まれる。
傍に居るだけで幸せになれる存在。
自分を包み込んでくる大事な、大事な人。あの時彼は初めて自分の事を名前で呼んでくれた。今までは「お前」だとか「<迷い子(まよいご)>」だとかしか呼んでくれなかったのに、あの時は「勇太」って言ってくれたんだ。自分を認識してくれている――それはなんて幸福な事。
それでも俺はカガミにとって<迷い子>の一人にすぎないけど、ひとつ言える事があるよ……。
高校生の姿の時じゃ恥ずかしく言えないけど今なら言える。
こくっと小さく唾を飲み込み、勇気を出す。
小さな猫獣人だから言えるのか、それとも眠っている相手だから言えるのかは分からない。でも言いたい。この胸の奥に産まれてしまったこの想いを。
「カガミ大好きにゃ」
大好きだよ。
高校生の俺じゃ恥ずかしくて本当のお前には言えないけど、今は口にするよ。子供のお前も、青年になったお前も、俺の事を真っ直ぐ見てくれてどの状況下でも俺の事を護ってくれる。カガミはぶれない。外見に戸惑わされず、ただその名が有するように「鏡」のように全てを露呈してくる存在だ。俺が怖がっていた事も、不安に思っていた事も知っていて彼は行動するから、だから――。
なんて、愛しい。
「ホントか?」
「にゃ!?」
がしっと小さな腕が青年カガミの腕に掴まれ、思わずぴんっと尻尾が立つ。
俺は焦って逃げ出そうと足掻くが、しょせんは物理的な力の差は五歳児と青年とでは一目瞭然。ずりずりとあっという間に布団の中に引き込まれてしまい、俺はじたばたと肉球のついた手でカガミを押す。
「――っい!」
だがカガミが怪我を負っている事実を思い出し、ぴたっと暴れるのを止めた。痛みに顔を顰める相手をこれ以上蹴ったり押したりなど出来ない。全ては自分が悪い。そう全面的に認めているだけあって、強気になど出れない。俺はおとなしくカガミの腕の中に納まることを決意した。
―― どうしよう。ほっとする。
青年の腕に納まった自分。
向かい合うように抱きしめられれば、俺はすっぽりとカガミの腕の中に簡単に納まってしまった。抱き枕にしたいのかな? そう考えて静かに静かに身を委ねた。
嗅覚も猫並みになっているのかカガミの香りがより強く感じられてすりすりと寄る。幸せそうな笑みを浮かべてしまうのはもう仕方ない事だ。
だがカガミはぐいっと俺を引き剥がす。布団に引きずり込んだのはカガミなのにどうして引き剥がしたのか分からず俺は疑問の視線を送った。
「おい、元の姿に戻れ」
「にゃ? いいけど」
言われ、素直にチビ猫獣人の姿から高校生の俺へと姿を戻す。衣服は高校の制服だった。
カガミはそんな俺に対して「よし」と一言呟いてから再度俺を引き込んだ。おかしい。何かが。――何かが、可笑しくないか?
かぁっと顔に熱が集まってくるのを感じ、俺は戸惑う。だって抱き枕にしたいんだろうと思っていたからカガミの腕の中に居たわけで、高校生男子の俺は抱き枕にはちょっと大きすぎるんじゃないだろうか。っていうか逆に抱き心地は悪いと思う。
なのに抱きしめられているのは、何故?
やがてごそっと言う音と共にまずブレザーが肌蹴られる。
そして次に下のシャツに手がかかり、そこからカガミの手が差し込まれた。
「え? え? えええ!?」
「ボタン引き千切っていいか? 外すの面倒なんだけど」
「何がー!?」
「いいや、えい」
「ぎゃー!!」
俺の了承なく、カガミがシャツを左右に思い切り開きボタンが飛ぶ。
畳の上を転がっていくボタンを見て「ああ、なんかごめん」と思ってしまった。ここは夢の世界で、現実世界では俺の制服は無事なんだろうけど――何か理性が邪魔をする。
体温が俺の身体をゆっくりと這う。
大事な人の手が、唇が、時々痛みを伴ってそこに痣が付く感覚がして――……。
「って……あれ? カガミ怪我は? 平気なの?」
引き攣った表情のまま俺は問う。
この先の行為に関しては拒絶はしない。しない――けど。けど、けど!!
「あー、なんなら舐めてくれるか?」
「なんかフェチっぽいんだけどー!!!」
そう言って俺を色んな意味で翻弄するカガミ。
今繋がっているのは身体でしょうか。心でしょうか。上がる息の合間に俺は自分に問いかける。そして俺の上に覆いかぶさっているカガミはと言えば着物を肌蹴させ、隙間から包帯を覗かせている。だけど妙に色っぽさを感じる俺の脳内はもはや重症だ。そんな彼は己の肌も熱の色に染め上げながら笑う。
「そりゃ、心身ともに繋がってんだよ」
やっぱり心を読む相手には叶わない。
俺は乱れる息では文句もいう事すら出来ず、ただただカガミにしがみ付きながら相手の背中に爪の痕を残す事にした。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、番外編です。
はてさて、BLに挑戦という事でどうでしょうか?
いつも以上にアレな展開なので内心どっきどきで納品させて頂きます。
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