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■ある一夜の夢■

蒼木裕
【8573】【レイリア・ゼノン】【高位サキュバス】
 夢を見ている。
 夢でなければ説明が付かない。
 そうだ、これは夢だとも。


 でなければこんな変化――どうしたらいい!?
+ ある一夜の夢 ―悪夢の体重増加!― +



 夢を見ている。
 夢でなければ説明が付かない。
 そうだ、これは夢だとも。


 でなければこんな変化――どうしたらいいの!?


「いやぁああ! 何で、何で私の身体がこんな風にぶっくぶくに太り始めてるのぉぉ!?」


 全身はち切れそうにむっちりとした肉付きでバストは1mを余裕で超える超爆乳の持ち主、レイリア・ゼノンがある暗闇の世界で泣き叫ぶ。彼女の身体は普段、怜悧でクールビューティーなナイスバディ。誰もがその巨乳に目をむけ、そして美しい美貌を持つ彼女に目を惹く。そんな視線を受けることが彼女は愉しく、常ならば凛とした表情を保ち続けているのだが――。
 だが今の彼女は何故か突然己の意思関係なく体重増加し始めるという女性にとって恐ろしい事態に巻き込まれている。自身の力である「肉体操作能力」を使用し、必死に抑えているが進行こそ遅くなれど止まる気配は全く無い。
 誰も居ない事を良い事に彼女は本来の姿であるサキュバスの姿に戻る。飛翔可能な悪魔の翼と尾、角が現れ、銀髪が膝まで伸び――それはもういつもならば誰もが羨む妖艶な美女なのだが……。


「いや、うそっ、私の力が及ばないなんて嘘よぅ! いや、いや、いやぁあ! こんな醜い姿は嫌よっ!」


 服装変化に気を使う余裕すら皆無になり、サキュバス特有の露出度の高いボンテージがギッチギチと音を鳴らす。ひぃっと喉の奥で悲鳴が零れる。サキュバスとはいえ心は女性。体重増加なんて恐ろしい事実を認めたくないと心が叫ぶ。
 必死に翼を羽ばたかせるが重さが増えていく身体を支えきれず、彼女はへろへろとある一軒の家の前へと墜落してしまう。その頃には限界を超えたボンテージがビリっと音を立て弾け飛ぶ始末。
 真っ暗な空間に一件だけ建つアンティーク調の一軒家。
 あれはなんだろうか。扉の傍には『鏡・注意』と書いてあり、首を捻る。
 しかしこの場所以外に寄れるような場所がない。仕方ないと諦め非常に重たい身体を持ち上げ、そして破けた部分を必死に隠しながら扉をノックをすれば中から少年が一人出てきた。


「こんにちは、<迷い子>。ご用はなんでしょう?」


 彼はにっこりと人好きされそうな笑顔で挨拶をしてくれる。
 よく見れば彼の瞳はオッドアイ。左目が緑で右目が黒だ。室内を見やれば壁と言う壁が全て鏡張りで構成されており目を見張る。
 そしてその部屋の中央に一人の少女が安楽イスに座っているのが確認出来た。
 彼女は自分を見ると少しだけ嬉しそうに微笑み、片手を持ち上げる。


「初めまして、<迷い子>。己の困惑を取り除きたいなら私の元へいらっしゃい」


 招く手。
 甘く誘惑する声は己の肉体の変化について知られている事を告げていた。此処は一体どこで、 何故このような変化を起こしているのか。
 何を知るにも情報が必要だ。そう思い、中に入る事にした。



■■■■■



「うそ……」
「嘘じゃないわ。貴方のその姿は今まで趣味で太らせていじめた女の子の怨念が溜まりにたまって逆流した結果起こったものよ」
「そんなぁ! ――は、これは夢、夢に決まってる。そうに決まってるんだわぁー!」
「そうね。此処は夢かもしれない。貴方がそう思うならこの屋敷も夢の産物よ」
「だが、貴方が今太っているという……失礼。太り続けているという事実は避けられない事。よく見て御覧よ。貴方の姿はなんて醜い」


 少年の名はミラー。椅子に腰掛けた少女の名はフィギュアと教えてもらった。
 だが彼らがレイリアに突きつけてきた現実は非常に残酷なもの。ミラーは周囲の壁を指差し、そこに写る彼女の姿を嘲笑う。ぶくぶくと太っていく女性の姿はもはやレイリア本来の面影を残していない。まるで豚の様だとレイリアも鏡に映った自分を見て思う。そしてぞっと背筋に寒気が走るのを感じながら首を強く左右に振った。
 全方向から見せ付けられる己の今の体型。
 なんて醜い。そこにはあのナイスプロポーションなど一切無く、ただの肉の塊と化して行くレイリアの姿が現在進行で映されている。肉体的にも……もちろん精神的にも多大なるダメージが彼女を襲う。


「こんな身体いやよぅ! いや、いやぁ!」
「自業自得だわ」
「女性はとかく恐ろしいもの。特に体型に関しては貴女も今悲鳴を上げていらっしゃるように、被害にあった方々は苦痛だったでしょうね。その反動が貴女を襲っている……それなら貴女は今の状態を受け入れるべきです」
「何よ! 人の気持ちなんて分からないくせにぃ〜!」
「同じ女性としてなら分かるわ。ミラー、もしあたしがあんな風に肉体操作をされて太らされたらあたしは凄く嫌だと思うの。間違っているかしら?」
「いいや、フィギュア。君のその感覚は一切間違っていないね。もしそんな事が君の身に起こったなら――その相手を僕は容赦なく叩き込めすと思うよ。それはもう心から反省してくれるまで……ね」


 二人はあくまでレイリアの事を自業自得だと、これは罰なのだと訴えてくる。
 解決方法を一切見出せず、レイリアはただただ太り続ける自分を嫌でも目にしなければいけなかった。そして精神ダメージがあまりにも堪った結果、彼女が必死に抑えてきた能力が緩み、ドンッと一気に身体が膨らんだ。それはまるで風船に息を吹き込んだかのような勢い。そして服すらもただの布切れと化し、なんの魅力も無い裸体が顕わになった。
 フィギュアは「あら」と一つ声をあげ、哀れみの視線を送る。
 ミシミシと家の床が軋み、鳴り始める。ミラーがやれやれと額に手を当て心底呆れたように息を漏らす。このままでは床を突き抜けてしまうことは容易に想像出来る。だがレイリアは一向に反省の気配を見せない。やがて一トンはあろうかと言う肉の塊になったレイリアは天井に向かって叫んだ。


「何よ何よ、サキュバスが女の子食べてなにが悪いのよぅ〜!!」


 心からの謝罪をすれば収まると言うのに、なんて身勝手な。
 ミラーもフィギュアも彼女の肉に押し出され、避難を始めた。足の悪いフィギュアを姫抱きにし移動するミラーの姿を視界の端で見つけると彼女はキッ! と睨み付ける。本来の姿なら自分があんなふうにちやほやされる立場だというのに、今の自分はなんて、なんて――。


「いやぁああああ!! 誰か、私を元に戻してぇえ!!」


 ミシィッ!!
 彼女が叫んだ瞬間、板張りの床に亀裂が走る。むしろよく此処まで持ったものだと家の強度を褒め称えたいほどだ。すでに一人では自由に動けなくなった彼女はその物音に恐怖を覚え、身体を硬直させる。
 嘘だ。
 こんなの悪夢だ。
 夢だ、夢なんだ。
 朝には目を覚ますただの夢。
 なのに何故こんなにもこの夢は彼女を追い詰めるのか。
 そして肉の重さに耐え切れなくなった床は裂け、彼女はそのまま亀裂へと落ちていく。しかし肉が途中で引っかかり、ぶよんぶよんっとまだまだ膨れ上がる。そして空いた穴を更に広げようと細胞分裂を繰り返す。尖った板の先が肉を抉り、痛みも半端なものではない。
 その上助けを求めてもここの住人達はそしらぬ顔。
 解決策は示した。
 情報も与えた。
 ただ彼女の最後のプライドが邪魔して実行出来ないだけ。胴体の肉に埋もれていくのは顔。それを映し出す鏡はなんて綺麗に彼女の現実を反射するのか。


 壊れる。
 壊れてしまう。
 だけど彼女のプライドが、種の本能が言葉を発す事を拒む。すでに肉に囲まれ窪んでしまった目元からじわりと涙を浮き上がらせる。


「う、う……うぅ……!」


 これはなんて酷い悪夢。
 これはなんて酷い怨念。
 女性ならば誰しもが苦痛に思うことを彼女は「身に染みて」――。
 ごめんなさい。
 そのたった一言を呟く時、彼女の精神は崩壊寸前まで落とされ、その肉体が体重増加を止めた時には……口にするにも恐ろしい超々々肉塊状態だったと言う。


「かくも女の執念は恐ろしいものだね、フィギュア」
「そんなの当然だわ」


 非情にも、案内人の二人はふふっと嗤うだけ。











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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8573 / レイリア・ゼノン / 女 / 20歳 / サキュバス】


【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして。
 今回はゲーノベへの参加まことに有難うございましたv
 肉体変化、それもぶっくぶくに太るというシチュエーションに一瞬目が点になりつつ、愉しく書かせて頂きました。想像すると……女性にとっては厳しい話ですね(涙)
 それではまたお逢い出来る事を楽しみにしつつ失礼致します。