■あの日あの時あの場所で……■
蒼木裕 |
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】 |
「ねえ、次の日記はカガミの番?」
「ああ、俺だな」
此処は夢の世界。
暗闇の包まれた世界に二人きりで漂っているのは少年二人。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。
さて、本日はカガミの番らしい。
両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように些か焦って綴られたような文字だ。カガミはスガタの背に己の背を寄りかからせ、それから大きな声で読み出した。
「○月○日、晴天、今日は――」
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+ あの日あの時あの場所で……【自覚編】 +
「ねえ、次の日記はカガミの番?」
「ああ、俺だな」
此処は夢の世界。
暗闇の包まれた世界に二人きりで漂っているのは少年二人。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。
さて、本日はカガミの番らしい。
両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように些か焦って綴られたような文字だ。カガミはスガタの背に己の背を寄りかからせ、それから大きな声で読み出した。
「六月七日、晴天、今日は――」
■■■■■
それはある昼下がりの公園。
補習授業をサボっていた俺もとい工藤 勇太(くどう ゆうた)がアイスを食べていた時の事でした。っていうか面倒です。こんな良い天気の日に補習なんてやってられません。
そう、全てはこの天気が悪いのだ!
よし、責任転嫁に成功した俺は気分良く公園のベンチに座ってのんびり日向ぼっこをしていたわけですが――。
「いや、それって普通にお前が悪いと思うんだけど」
「――うおっ!? カ、カガミ!?」
「補習授業ってあれだろ。例のテストの……」
「うわー!! 大丈夫! 問題ない! ノープロブレム!」
「後で教員に怒られるに一票な」
「う、っぐ……」
自分が座っていたベンチに突如として姿を現したカガミ。
しかもその姿は青年のもの。脚を悠々と組み、その上に肘を乗せて顎を支えながら暢気に俺に声を掛けてくる相手に俺は思わず息を詰まらせた。補習授業は確かに高校生にとって大事なものだ。だけど今日だけは――。
「あ、アイス貰ーい」
「食うなよ!!」
「考え事をして溶けるよりマシだろ」
俺の腕を取り、アイスを一口分口にするカガミに俺が声を荒げる。
あーあ、俺のアイス……。でも相手がいう事ももっともで、アイスが溶ける前に俺は再びそれを食べ始めた。カガミはと言うと奪ったばかりのアイスに満足したのか口端についたそれを親指でなぞり上げ、ぺろっと舌で舐め取るという優雅さ。
しかし今日コイツが現れたのはなんでだ?
何も異常事態は起こっていないし、平和そのもの。――まさか補習をサボっている俺を怒りに来ただけとかそんなオチは。
「ねえよ」
「心の中を読んで突っ込むのホントびびるんで勘弁してください。それがお前の特殊能力だって分かってても驚くんでホント許してください」
ああ、やっぱりカガミだなぁ。
少年であっても青年であってもマイペースで、中身の変わらない存在。取りあえず補習に付いてお怒りの言葉が無いのなら俺は学校に帰る必要はないわけだ。
ふとピンッとある考えが閃く。
俺はそれからにぃっと笑みを浮かべるとカガミの方へと視線を向けた。当然その視線に気付いたカガミも俺を見る。ちなみにもうアイスは食いきったから狙われることは無い。
「なあなあ、ぶっちゃけ俺ってまだ<迷い子(まよいご)>?」
「ん? ああ」
「ふーん……そっか。まだ俺はカガミにとって<迷い子>かぁ……」
「なんだその笑みは」
「秘密」
ふふんっと俺は機嫌よく返答を受け取る。
深い部分までは現実世界では読み取れないカガミは頭に疑問符を浮かべながら首を傾げていた。<迷い子>である事が俺とカガミを結びつける。少なくとも俺はそう思っているからほんわかと心が温まる気がした。
「じゃあ、次。スガタは元気?」
「元気だと思うけど、なんで」
「ほら、例のお別れがあったからさ。アイツ、沈んでんじゃないかと思って……」
「大丈夫だろ。凹んではいるけど、体調を崩すほどじゃない」
「そっかー? でもさ。俺の事はいいからさ、今はスガタの傍にいてあげなよ」
「アイツだって一人にして貰いたい時があるんだよ。それくらいは察してやってくれ」
「なるほど」
つまりアレか。
今日は落ち込んでいるかもしれないスガタの傍を離れた理由は、スガタを一人にしてあげるためか。スガタとカガミは繋がっているらしいから完全には離別は難しいけれど、少なくとも目の前から居なくなれば少しは気が楽だろうと……そういう事か。
「カガミもアイス食うか? もう一本くらいなら買ってきても良いけど」
「ん? ああ、つまりこういう事か」
「――って、いきなり手の中にアイス出現させるとかマジで止めて下さい!!」
「だって誰も見てねぇし」
「お前……あの研究員に狙われてたんだぞ……。お、俺と一緒にいると……また怪我するかもしれねーのに」
「あー、そん時はそん時。また返り討ちにすれば良いだけの話だって」
まるで手品のようにカガミは己の手の中にアイスを二本出現させる。
その一本を俺に手渡してくれたものだからありがたく俺はそれを頂く事にする。俺の場合はサイコキネシスで現物を引き寄せる能力だけど、カガミの場合は無から有を作り出すから時々その能力の異質性に驚いてしまう。
まあ大抵はこういう風にくだらない事にしか使っていないので、今のところは問題ないわけだけど。
俺は冷えたアイスに齧り付く。
それはバニラアイスで、バニラエッセンスの香りがとても良く味も絶品だった。
「なあ、カガミ。カガミ達もあいつらみてーにいつかどっかに行っちゃったりするのか?」
「それには否定出来ねーな。俺達はアイツらみたいに固定した空間に住んでるわけじゃないから、引越しみてーな事はしないけどお前の前から姿を消す事はあるかも」
「――っ! それは、どういう意味、で?」
「お前が<迷い子>じゃなくなって、俺達を求めなくなったらそりゃあ……いわゆる自然消滅と言うかなんというか……まあ、そういう感じになるだろ」
カガミもアイスに喰らいつきながら返答する。
だが最後のほうはごにょりと言葉を濁し、視線が泳ぐ。俺はそんなカガミの態度が嫌で、アイスの方に意識を向け、出してもらったばかりのそれを勢い良く食べきってしまった。
ああ、心がもやもやする。
俺がカガミ達を求めないとかあり得ない。カガミ達というか……ちゃんと言ってしまえば――カガミを、だけど。
少年でもカガミはカガミ。青年でもカガミはカガミ。
姿形は違えど本質は同じである彼。少年でも青年でも彼が彼である事を俺はちゃんと認めているけれど――。
「な、なあ。なんで最近青年でいる事が多いんだ?」
「お前がこの姿の俺を好きだと思っているから」
「――ぶっ!!」
直撃。
クリティカル。
真っ直ぐな返答に俺は思わずアイス混じりの唾液を噴き出してしまった。ああ、汚い。超汚い。そして俺はきっと今顔が真っ赤だ。それは決して夕陽のせいではなく――――っていうか今夕方ですらないからその誤魔化し方すら無理なわけですがっ!!
あああああ、もだもだする。足が暴れ地団太を踏んで止まらない。両手で顔を覆いながらこの羞恥に耐える俺を誰か本当に救って下さい。
確かに俺は少年の姿の時より青年の時の方のカガミの方が気になる。意識する。
だって……。
『そりゃ、心身ともに繋がってんだよ』
そう言って俺の身体を撫でたのは青年カガミの掌。
カガミに翻弄されたあの日の事を思い出し、俺は一層激しく土を踏んだ。きっと後で確認したら其処だけ無駄に踏み固められている事が分かるだろう。
―― 嫌じゃなかったのがなんか悔しいっ!
ってゆーかアレは夢だ! そう! 夢の出来事!
カガミが自分のせいで怪我を負い、俺が見舞いに行ってその流れで「カガミが好きだ」と呟いた時――カガミは俺を『抱いた』。
だけどアレは夢の世界の出来事だからカウントされない。多分。そう。きっと。
でもカガミは夢の世界の住人だから、きっとカウントしてしまう。プラスマイナスでゼロの出来事になりますか。なりませんか!? っていうかなって下さい!!
「無理だって」
「だから心を読むなー!!」
「俺にとってはどっちも『現実』だからな。――ああ、でもお前が俺の事拒絶するって言うなら記憶ごと抹消してやるけど?」
「ちょっ」
それはちょっと極論ではないでしょうか。
「何故に脳内では敬語?」
「だーかーらーっ!!」
「悶えるお前って面白いからからかいがいがあるよなぁ」
「勘弁してくれぇええ!!!」
少年でも青年でもカガミは変わらない。
だけど青年のカガミの方はどこか意地悪に感じるのは何故だろう。印象のせいか? それともこの姿で俺とヤ……――うわぁぁぁぁぁぁ!!!
「心の中の悲鳴が煩いんだけど、勇太」
「じゃあ読むなよぉ……!」
最早この相手に何を言っても無駄だろう。
俺はがっくりと肩を垂れさせると溜息を吐いた。だがこっちだって攻撃されたままじゃいられない。俺にだって意見と言うものがあるわけで。
バッと顔をあげて指先を相手に突きつける。カガミはにやにやしながら俺を見ていた。もう絶対に今の俺は顔だけじゃなくて首の方まで真っ赤に染まっているんだろう。それが悔しい。
「一応言っておくけどな! あれは俺が怪我させちまったし!」
「背中からぐさりと一発な」
「だ、だから俺はお前がそうしたいって思うならと……それに……夢だし……嫌じゃなかったし……」
「俺にとっては生々しい『現実』なんだけど」
「……わー! もー! なんでもなーい!」
「はいはい、つまりこういう事だろ」
「へ?」
いうや否やカガミが俺の腕を取った。
そして突如周囲の景色が変わり、今度はある部屋のベッドに自分達二人が座っている事に気付く。そこは見慣れた俺の部屋。カガミは律儀に自分の靴を脱ぐと玄関へとそれを転移させていた。
そして――。
「ちょ、マジで!? え、展開が追いつきませんがー――!!」
「お前がアレを夢だ夢だって言うから現実にしてやるって言ってんだよ」
「いやいやいや!?」
俺に圧し掛かってくる身体は青年体。
ちゅっと言う音がして俺の唇が塞がれると、声が止まる。そして自分の抵抗が止んでしまった事に俺は驚いてしまう。ぱくぱくと唇が開いては閉じる。
どうすれば逃げられる? どうすればこの状態を打破出来る?
ああ、でも。実際問題、本気では嫌じゃないわけで。
「――や」
「や?」
「もうちょっと色んな意味で優しくして下さい……」
これが精一杯の抵抗だと分かると、カガミは愛しそうに俺を組み敷きながらまた唇にキスをくれた。
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「で、結局工藤さんは逃げる事が出来たの?」
日記を読み上げるカガミに対して呆れたようにスガタは声を掛ける。
こんな惚気、聞かされる方が疲れるというものだ。カガミは日記を閉じ、そしてにっこりと満面の笑みを浮かべて。
「アレを夢と言い張るならもう一回仕掛けに行こうと思うんだ」
「……工藤さん、頑張って」
此処にはいない<迷い子>。
その姿を少年達は思い出しながら思い思いの考えを馳せ、そして今日の発表は静かに終えた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、質問の回+自覚編という事で。
BL展開来た! と内心喜びつつ、後半はもううきうきと書かせて頂きましたv
カガミのマイペースさに工藤様が振り回されている様子が愛しくてたまりません。
本当にいつも有難うございますv
ではでは!
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