■第6夜 優雅なお茶会■
石田空 |
【7038】【夜神・潤】【禁忌の存在】 |
聖祭。
学園では何かとイベントが多いが、この祭りは学園の中で一番重きをおかれるイベントである。
芸術祭は年に2回、夏と冬に行われ、その間に、この聖祭は行われる。
芸術総合学園である聖学園では、何かとイベントを増やしては、生徒達の日頃の努力の成果を見せる場面を1つでも多くしようとするのである。
生徒会
「今回の普通科、美術科、芸術評論科のクラス展示物の予定は無事集まりました。現在は音楽科と演劇科、バレエ科の芸術ホールでの演目の調整をしてます」
「後の微調整はお茶会、だな」
「はい」
生徒会は、学園内各所から提出されるプリントで埋まっていた。
提出されたプリントは流れ作業で1次チェック、2次チェック、3次チェックが行われ、最終的には生徒会長が判を押して可否が決まる。
学園内の祭りは、生徒会役員の体力と精神力、睡眠を犠牲にして成立していると言っても過言ではない。
「頑張りましょう。お茶会まで」
「そうだな……」
普段は堅物眼鏡と言われて一般生徒の前ではどんなに暑くとも寒くとも過不足ない格好をしている青桐幹人も、今回ばかりは襟元を少し緩めて、ぐったりした顔をしていた。
隣で茜三波は、下を向き過ぎて少々乱れた髪をどうにか整え、持ち分の作業が終わったら生徒会役員達に紅茶を配った。
ことりと机に置かれた紅茶は、ほんのりとシナモンの匂いがした。
バレエ科練習場
「無理っ、無理無理無理っっ、無理ですっ! できませんっ!」
楠木えりかは涙目で首を振っていた。
隣で座っている雪下椿は目を釣り上がらせ、喜田かすみはいつものようににっこりと笑っていた。
「いいからアンタがやんの!」
「無理っ、絶対、無理っっ!」
「いいじゃない、恥かけば。皆の前で赤っ恥をかくえりかちゃんもきっと可愛いわよ〜♪」
「かすみ、アンタはちょっと黙りなさい」
「えー」
いつものトリオ漫才に苦笑しながら、先生はえりかを見た。
「……とにかく、頑張ってね、楠木さん」
「……あい」
えりかは肩を落とし、既に「はい」とはっきり返事ができないほどに、沈んでいた。
噴水前(オデット像跡)
「またさぼったの?」
「……お前は?」
「今日は今度の聖祭の演目と、配役発表だけだったから」
「……そうか」
守宮桜華は、今日もベンチの上で寝ていた海棠秋也の隣に座った。
「……もうすぐ、ちょうど4年ね」
「………」
「どうせまた行ってきた癖に。分かるんだから」
「………」
何も言わない海棠の制服を桜華は触った。
海棠の制服には、白く細い花びらが1枚付いていた。
中庭(理事長館前)
そこは、白いテーブルと椅子で埋め尽くされていた。
その中を、聖栞は歌いながら歩いていた。
テーブルの上にはスコーンを盛った白い皿に、色とりどりのジャムの小瓶、皿に合わせた白いカップ、ポットが並んでいた。
栞はそれぞれのテーブルのポットにお湯を注いで回っていた。
「今日はお茶会、今日だけは全てを忘れて楽しみましょう〜♪」
栞は優雅な雰囲気で、砂時計を逆さに回した。
砂がコポコポと落ちて行った。
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第6夜 優雅なお茶会
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午後3時10分。
最近はあちこちが騒がしかったにも関わらず、今日はのんびりとした空気で包まれている。
夜神潤は目を細めて場所を見た。
場所は中庭。確かに結界の張っている理事長館は中庭の端だが、それでも近い事には変わりはない。
嫌な場所でお茶会を開くもんだな。そう顔をしかめつつ、席に着くと。
「ん……?」
見覚えのある少女が席に着いたのが見えた。
この辺りは自分と同じくバレエ科の生徒達で固まっているらしい。座った少女も、こちらに気が付いたようだ。
「あ……こんにちは」
「こんにちは」
「あー」
と、彼女と一緒に座っていた少女達もこちらに気が付いたようだ。
確か彼の隣に座っているのは楠木えりか。以前舞踏会の予行練習に参加していたにも関わらず、何故か舞踏会には参加していなかった少女だ。そしてその友人達は、彼女の向こうに座っている。確か、雪下椿と、名字は知らないがかすみと言う少女だったはずだ。
「こんにちは、先日は変な態度取ってすみませんでしたっ」
そう言いながら頭を大きく下げる。
随分リアクションが大きい子だな……潤はそう思いながら首を振った。
「いや、別に大丈夫だから……聖祭の準備は順調か?」
「はいっ」
えりかは少し目をきょろきょろと彷徨わせながらそう答える。何だ? 地雷でも踏んだのか? そう思って観察していたら、椿がえりかをつつき始めた。
「この子、今度中等部でやる「白鳥の湖」で主役踊る事になったんですよ!」
「主役……もしかして、オデットとオディールを?」
「はっ、はい……」
えりかは椿にされるがままになりながら、目線を彷徨わせる。回ってきたお茶とお菓子にも、なかなか手を伸ばそうとしない。
確かに意外かなと、潤は思う。
「白鳥の湖」はバレエを全く知らない人間でも聞いた事はあると言う程に知名度を誇る踊りだ。
舞踏会のウィナーワルツとバレエはまた違うだろうが、前に聞いた椿とかすみの証言からだと、特にえりかはバレエが上手い訳ではないらしい。何か彼女がしないといけない事情でもできたんだろうかとも考えたが、今は関係ないので置いておく事にした。
「そうか、頑張れ」
「はいっ……ありがとうございますっ、頑張りますっ」
「そうだよ、頑張れー、私が言ったんだから、あんたちゃんと踊らないと駄目だからね」
「うん、分かってるよ……」
そう言いながらまたつつかれているえりかを眺めつつ、潤はカップに口をつける。
回ってきたのは紅茶で、スコーンも回って来たので皆適当に手に取って食べているようだった。
周りを見回す。
生徒会が固まっているテーブルには理事長も同席しているらしいが、彼女はこのお茶会の主催と言う事で、各テーブルの世話をして回っているようだ。
そしてもう一つ。茜三波はこの場にいない事が気になった。生徒会長はいるのに、副生徒会長が見当たらないと言うのは、いささかおかしい気がする。
彼女は情緒不安定な部分が見られたが、それが原因なのか?
潤はお茶を飲みながらそれらのテーブルを眺める。
このテーブルはバレエ科の生徒達がきゃっきゃと戯れているのが目立つが、特に耳障りな程でもない。
と、お茶のおかわりとして、ポットの交換をして回っている聖栞と目が合った。
「あら、夜神君ご機嫌よう。体調は大丈夫?」
「こんにちは、理事長。今の所は問題ありません」
「そう、それならよかった」
「……全部のテーブルのポットを交換するの、大変じゃありませんか? 手伝いますよ」
「そう? ありがとう」
潤はそのまま後ろのワゴンのポットを取って、他のテーブルのポットを交換して回った。
他のテーブルのポットを交換し終えた後、潤はもう一度栞に声をかけた。
「すみません、一つお話があるんですが、いいですか?」
「あら、何かしら?」
ポットを回収したワゴンを押して、中庭からやや離れた場所、美術科塔近くに立っていた。普段だったらお茶の用意は全て理事長館でしているのだから、話をすると言うのを分かっていたのだろうか。
「……以前理事長が言っていましたけど」
潤は思い出した事を言ってみる。
「……生徒会が怪盗を捕まえようとしているのを、放置しておいて大丈夫なんですか?」
「ああ、それ? 大丈夫よ」
栞はからからと笑いながら言う。
「自主的にどうにかしてくれるって言ってくれた子がいたから」
「そうですか……ならいいんですけど。でも、どうやって星野さんと守宮さんを助けるんですか?」
「……ちょっと儀式行わないと駄目なのよ。生徒会と怪盗が目を逸らしてくれているから、その間にね。時期もあの頃がちょうどいいし。
でも、もう一つ問題があるの」
「……海棠織也君ですか?」
栞は頷く。
潤はそれを目を細めて眺めた。
「もしかして、俺に手伝えと言うのは」
「……ちょっと織也の事、儀式の間、行う場所に近付かないようにしてくれる?」
……随分とアバウトな申し出だった。
おかしくなってしまったのばらの事が頭によぎる。
どう答えたものか、そう思って短く溜息をついた。
<第6夜・了>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7038/夜神潤/男/200歳/禁忌の存在】
【NPC/楠木えりか/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】
【NPC/雪下椿/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】
【NPC/喜田かすみ/女/13歳/聖学園中等部バレエ科1年】
【NPC/聖栞/女/36歳/聖学園理事長】
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■ ライター通信 ■
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夜神潤様へ。
こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第6夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回は楠木えりか、雪下椿、喜田かすみとコネクションができました。よろしければシチュエーションノベルや手紙で絡んでみて下さいませ。
理事長の頼みは引き受けてもいいですし、断っても問題ありません。
第7夜公開も公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。
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