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■合わせ鏡の迷宮楼■

蒼木裕
【8600】【魚・凪津姫】【媛巫女】
『こんにちは、初めまして。さて、君はどうして此処にいるのかな?』
『こんにちは、初めましてだな。で、お前はどうして此処にいるんだ?』


 それが彼らからの最初の一言だった。


 夢の中で貴方は何を思うのか。
 目を閉じて暗闇の中に身を投じて、息を吐き、瞼を開くでしょう。
 心の中で何かが生じた時、貴方はこの世界でまた生まれる。
 漂っているばかりの人、歩くだけの人、夢の中でも惰眠を貪る人。


 そして、迷ってしまった貴方がこの世界で出逢うのは……。


―――― さあ、今日も貴方は夢を見る。


 この空間の住人は面立ちそっくりの少年二人。彼らを分けているのは口調と髪の分け目、そしてまるで合わせ鏡のような黒と蒼のヘテロクロミア。


 彼らは兄弟でしょうか。
 それとも双子でしょうか?


 いいえ、そうではない。彼らの関係を決めるのは貴方のお心次第。彼らが映し出されるのは貴方の心の鏡、そのものだと言っても良いのです。
+ 合わせ鏡の迷宮楼 +



「こんにちは、初めまして。さて、君はどうして此処にいるのかな?」
「こんにちは、初めましてだな。で、お前はどうして此処にいるんだ?」


 それが彼らからの最初の一言だった。


 夢の中で貴方は何を思うのか。
 目を閉じて暗闇の中に身を投じて、息を吐き、瞼を開くでしょう。
 心の中で何かが生じた時、貴方はこの世界でまた生まれる。
 漂っているばかりの人、歩くだけの人、夢の中でも惰眠を貪る人。


 そして、迷ってしまった貴方がこの世界で出逢うのは……。


―――― さあ、今日も貴方は夢を見る。


 この空間の住人は面立ちそっくりの少年二人。彼らを分けているのは口調と髪の分け目、そしてまるで合わせ鏡のような黒と蒼のヘテロクロミア。


 彼らは兄弟でしょうか。
 それとも双子でしょうか?


 いいえ、そうではない。彼らの関係を決めるのは貴方のお心次第。彼らが映し出されるのは貴方の心の鏡、そのものだと言っても良いのです。



■■■■■



 夢の中、彼女は――魚 凪津姫(うお なつき)は波打つ黒髪に深海を思わせる深い青の瞳で二人を見つめる。白地に波紋柄の浴衣の浴衣を着てこの不思議な世界に立っていた。
 直に彼女にはこれが夢だという事が判った。だって周りには何も無い。
 建物も自然物も何も……あるのは黒い空間。光すらあるのかわからないのに、お互いだけを何故か認知出来る不思議なこの場所は夢としか思えなかった。
 どうして私は此処にいるの?
 疑問が彼女の中に浮かぶ。浴衣の袖を握りながら彼女は二人の少年を見やった。不思議と……怖くは無かった。


「こんにちは。……不思議ね、貴方達はとても対照的」
「よく言われます」
「よく言われてるな」
「でも二人同じ何かを感じるわ。ねぇ、貴方達はヒト? それとも……」

「「 その問いの答えは『ヒトではないモノ』 」」


 やっぱり、という言葉が彼女の胸を満たす。
 なぜならヒトであればもっと恐怖心が湧くからだ。
 彼女の正体は日本の人魚。彼女の一族の肉を食べると不老不死になるという噂が絶えず、古き時代より人間に捕えられ、現在の数は百をきっている。その為彼女の母も人間に捕らえられ、今はもうどうしている事か……。
 更に彼女は媛巫女という特別な巫女。水を司る龍神や蛇神に仕える一族の中で位の高い巫女を総じてこう呼ばれる。主な仕事は神託や奉納だが、世が荒れる時、神への供物となる者もいるらしい。その例として曾祖母は蛇神の供物となった過去を持つ。
 普段は海の中にある、とある祠で媛巫女として仕えている彼女だが一つだけ不安があった。


 それは自身の将来について――。


 夢は示唆する。
 彼らを具現化させ、彼女に夢と言う形としてその先を教えるために。信託とはまた違う形で彼女は彼らと接触し、この夢――正しくは異界にて<迷い子(まよいご)>として彼女を呼んだ。


「僕らの役割は『案内』」
「お前が迷うものに対して行くべき道を示すモノ」
「僕らがヒトである必要はなく、けれどヒトのふりをする必要があるならしましょう」
「でもお前はヒトに怯えるもの。ならば俺達はヒトではないとはっきり断言しておく」


 彼女は彼らの言葉に珍しく恐怖心が薄い自分に気付く。
 確かにヒトにしか見えない彼らだが、ヒトではない存在だとこうもはっきり言い切られてしまえば逆に安心感さえ浮いてしまう。凪津姫は自分の胸元に両手を当て、ほうっと息を吐き出す。捕らえられない――ただそれだけが彼女を幸せにしてくれた。


「貴方は今迷っていらっしゃる。自分の未来について」
「お前は今迷っている。自分がこれから先どんな未来を歩むのか」
「媛巫女として、来たる禍を鎮める為に龍神様方の贄となるのかと不安に思い」
「その一方で人魚ではなく、人に成代り幸せな人生を歩むのか、とな。そしてそれとも……とも思う」
「選択肢が二つしかない訳ではない、貴方はそう信じたがっている」
「また別の未来が用意されているのだとお前はそう信じたがっている」

「「 だがそれは『願望』 」」


 どうして、と口に出そうとして言葉にならなかった。
 彼女は一言も自分の置かれている状態に付いて話していない。自分が媛巫女である事も、自身の正体が人魚である事も……だ。だけど彼らはまるで彼女を見るだけで、「魚 凪津姫」の情報を的確に読み取ってしまった。
 ヒトではないモノと彼らは言っていた……ならばもしかして。


「貴方達は神様、なの?」
「「 否 」」
「じゃあ、私の未来がどうして視えるのですか?」
「「 それが自分達の特性だから 」」
「私は――」


 ごくりと唾を飲む音が響く。
 その先の音を紡ぐのが恐ろしく感じ、けれど彼女は知りたかった。自分でも視れない先を見ている存在に、問いかけたくて。


「私は……どんな未来を歩めるのですか?」


 まるで神様を相手にしているかのように――彼女は祈るような気持ちで二人に問うた。


「不安と人への恐怖に駆られながら巫女をしている現状のままでは貴方は救われないでしょう」
「怯え暮らしている状態で何が変わると思う? 今のお前達一族はただ時代が伝承を忘れるのをただ待っているだけに過ぎない」
「そして貪欲なる人々は忘れない――不死なる方法を」
「だからお前の未来は今のままでは」
「――もう止めて下さいっ!!」


 彼女は叫んだ。
 そしてしゃがみ込み、二人の言葉をこれ以上入れないために両手で耳を塞いだ。涙が溢れ出そうになり、ぎゅっと瞼を瞑る。
 救われない。
 このままでは彼女は母や曾祖母が辿った道を歩むと決定付けられた……。悲しくて悲しくて、絶望という感情が凪津姫を包み込む。


―― どうしてそっとしておいてくれないのですか。
    どうして私達の一族を追い詰めるのですか。
    私達はただ、皆と同じように幸せに生きていたいだけなのに――!


 凪津姫の心の叫びは二人の少年にも伝わり、彼らは再び口を開いた。


「未来は未知数です。僕らが視たのはあくまで今の貴方から伸ばされている一本の糸」
「その先は枝分かれし、お前は多くの選択の時を迎える」
「貴方が救われたいなら選択を間違えない事」
「お前にはまだ固定された未来はない――ただし嘆くだけの人生を選ぶならそれもまたお前の選択」

「「 どうか良い選択を 」」


 少年達がそれをどんな気持ちで告げたのか、顔を伏せていた凪津姫には良く分からない。
 けれど世界は確かに変わっていく。
 黒だった世界は白へ。
 それは夢から現実へと引き戻される感覚。


 そして、彼女は目覚めた――。


「私、……何のために生きてるの?」


 頬に伝う涙は何故溢れたのか、彼女には理解出来なかった。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8600 / 魚・凪津姫 (うお・なつき) / 女 / 17歳 / 媛巫女】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして!
 今回はPCゲームノベルへの参加真に有難うございました。

 救われない結果を、という事でNPCより突きつける数々の言葉……さぞかし痛かったでしょう。これにより何か変わっていくのか、それとも変わらずに運命を受け入れてしまうのか。

 また機会がございましたら宜しくお願い致します。
 ではでは!