■第7夜 捕らわれの怪盗■
石田空 |
【7038】【夜神・潤】【禁忌の存在】 |
「――以上が、怪盗捕獲のプランニングです」
生徒会。
いつものように集まって「報告」「連絡」「相談」のほうれんそうが飛び交い、会議が進行していく中、思いもよらぬ人物から、そのプランが飛び出た。
「……内容は問題ないと思うが、君はそれで大丈夫なのか?」
「何が大丈夫なのですか? 会長。怪盗は学園の規範を乱すものとして、厳しく処罰すべきだと思いますが?」
「……いや、私は君が問題ないのならそれで構わないが」
「そうですか」
生徒会室は少しだけざわりとする。
「何か、いつもと逆じゃないか?」
「ああ……変と言うか何と言うか……」
「静かに」
青桐幹人生徒会長がぴしゃりと言うと、途端に生徒会室はしん……と静まり返った。
「それで、このプランはいつ実行する予定だ?」
「来週の夜がいいかと思います。それ以降だと聖祭の準備に支障が出るかと思います」
「確かに。それ以前だと準備ができないから、それ位が妥当か。
各自、自警団参加生徒に通達を」
「はい」
そして、今回の生徒会会議は終了した。
「……本当に大丈夫か?」
「心配性ですね。いつもの会長らしくありませんよ?」
「いや……」
本当に、大丈夫か?
茜君は。
普段は平和主義で穏やかな茜三波の言葉とは思えない発案に、青桐は冷や汗をかいた。
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第7夜 捕らわれの怪盗
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午後9時10分。
夜神潤は学園の外にいた。
外灯は確かに灯っているはずなのに、何故か学園の外はいつもと比べて一際闇が濃い。
闇は彼の伴侶であり、彼自身もまた闇の眷属だ。おまけに学園内だと結界に阻まれて抑え込まれていた力が漲り、全身の神経が研ぎ澄まされるのが分かる。
潤は闇の中に溶け、オフィーリアを飛ばしていた。
いつかに少しだけ話をした青年、海棠織也。彼を今日、学園内に入れる訳には行かなかったのだから。
理事長の聖栞が今晩儀式をすると言っていたのは、確か学園内にある森の中だったはず。
やがて、オフィーリアが戻って来る。
「どうだった?」
オフィーリアを一撫でしながら潤が低い声でそう訊くと、オフィーリアは森の方を見やった。
黒い影が、学園の塀を越えようとしているのが見える。
「……オフィーリア、邪魔をしろ」
こくりと頷くと、羽ばたかせて飛んでいく。月明かりさえあれば優美な鳥が飛んでいくのが見えただろうが、闇に紛れて飛ぶと、闇に姿が溶け込んで、潤でなければ見分ける事ができない。
潤も闇に姿を溶け込ませたまま、ゆらりと学園の塀まで向かった。
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午後9時35分。
運がいいのか悪いのか。
オフィーリアに邪魔をされて塀を越える事ができない青年は、学園の塀の前にいた。
真っ黒な髪は夜に溶け、この時間に制服姿で歩いていると言うのは、違和感しかない。
その姿は海棠秋也にそっくりだが、雰囲気が違う。
双子だからそっくりではあるが、秋也はやけに落ち着いていた。それに対して織也は、苛立ちと言う物を隠しもしなかった。
「君……前にも会ったね?」
「覚えてたのか……」
オフィーリアの術が効いているのか、前は大勢の人間を眠らせていたと言うのに、今は魔法の行使すらできないようだ。
しかし隙あらばこちらを出し抜こうとしているのか、目だけは隙を探そうと動いていた。
昼間ならいざ知らず、夜で潤に勝てる人間なんて早々いないと言うのに。
しかし潤はその事は口にせず、何か話をしたそうな織也に黙って耳を傾けていた。
「何? まさか叔母上の差し金? こんな所で邪魔してさ」
「……頼まれた事には頼まれたが」
「やっぱりそうなんだ?」
織也は目を細めて笑う。
その笑顔には諦めにも似た色を帯びていて、秋也もこんな顔をするのだろうかと、少しだけ潤は考える。
しかし……。
彼は子供のようにも見えた。自分の殻に閉じ籠もってしまった子供。
彼のために、のばらは壊れてしまった。この事を本当に彼は自覚しているんだろうか?
秋也は傷付いても、それで恐らく織也を責めたりはしなかっただろう。彼自身もまた自分の殻に閉じ籠もってしまった人間だが、少なくとも外に当たらない分、彼の方がまだ大人なように感じる。
このまま強く術を使ってもいいが……。
それだとあまり意味はないか。
潤は心底「厄介だ」とは思ったが、乗りかかった船を放置しておく訳にもいかず、溜息をついてから口を開いた。
「君は、もう少しだけ視野を広げた方がいいんじゃないか?」
「え……?」
「君がどうしてそこまで理事長を嫌うのかは知らないし、君に何があったのかは、情報としてしか知らない。それでも。行動を起こすんだったらもう一度周りをよく見てから考える事だな」
「……」
織也の瞳孔が少しだけ大きくなり、左右に動く。
どうも思い当たる事があったらしい。
やれやれ。子守りと言う物は趣味じゃないんだが……。
「オフィーリア、このまま足止めしてくれ。下手な事するようだったら、魔法が使えないようにしてくれ」
肩に乗っていたオフィーリアは羽ばたくと、織也の方に乗った。
そのまま潤は闇に溶け込む。
あまり魔法を使わず済んで本当によかった。次は結界の中に入らないといけないのだから――。
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午後10時3分。
自警団の話に耳を傾けると、どうも怪盗に罠を張っていたのは体育館のダンスフロアらしい。
怪盗が捕まるとも思えないが……。
しかし、体育館に入って行っても、自警団とすれ違わない事に違和感を覚えた。
何だ? 今は副会長しかいないのか?
ダンスフロアに辿り着き、扉を開けようとした時、すすり泣く声が聴こえたので思わず手を止めた。
これは思念の声? いや違う。
泣いているのは、茜三波だ。
潤はそのままガラリと扉を開けると、自警団服姿の茜三波がペタリと座り込んでいた。
「……何をやっているんだ?」
「……先輩こそ、こんな時間に何をなさってるんですか?」
涙を拭いてどうにか立ち上がろうとする三波だが、力が抜けて立ち上がれないらしく、ひどくよろけている。
今日はこんな事ばっかりしている気がする。
潤は溜息をつくと手を差し出して三波を引っ張り上げた。
「……すみません」
「いや……そう言えば怪盗は?」
「逃げてしまいました」
「そうか」
「あまり驚かないんですね」
「怪我はしていないみたいだが……何故そんなに……」
泣いているのを訊くのは流石に憚られた。
そして、このダンスフロアに残っている思念に、潤は眉を潜めていた。
『取らないで』
『私から取らないで』
『取らないで』
『彼を取らないで』
……怪盗は無事に立ち去っていったのに、何故こんなに思念が溢れているんだ?
まさか……三波がまだ、何かを持っているんじゃあ……。
立ち上がらせた三波は、目尻をごしごし拭いていた。
<第7夜・了>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7038/夜神潤/男/200歳/禁忌の存在】
【NPC/茜三波/女/16歳/聖学園副生徒会長】
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■ ライター通信 ■
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夜神潤様へ。
こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第7夜に参加して下さり、ありがとうございます。
今回の夜神様の行動により、海棠織也に何らかの影響があったようです。
これにより、第8夜・第9夜に怪盗ロットバルトの妨害はなくなりました。
第8夜、第9夜も公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。
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