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■とあるネットカフェの風景■

三咲 都李
【8537】【アリア・ジェラーティ】【アイス屋さん】
「面白いことないかな〜」
 パソコンのサイトを眺めながら、はぁっとため息をついた。
 ここのところ面白い情報は入ってこない。
 停滞期。
 それはどんなものにでもあるものだ。
「まぁまぁ。とりあえず飲み物でも飲んで落ち着いて?」
 ふふっと笑って影沼ヒミコ(かげぬま・ひみこ)は少女の前に飲み物を差し出した。

 と、誰かがネットカフェに入ってくる気配を感じた。
 少女達が振り向くと、見知った顔である。

「あー! どうしたの? なんか面白いことあった?」
とあるネットカフェの風景
− 氷の女王事件 −

1.
「アイス、いかがですか〜」
 ミーンミンとアブラ蝉がうるさく鳴く真夏の昼下がり。
 高い日差しが容赦なく照りつける通りには、お昼を食べ終えて食堂から出てきたらしきOLやサラリーマンの姿が大勢見える。彼らはこの夏のお得意様だ。
 アリア・ジェラーティが引くアイスの台車を見つけると、彼らはにこやかにいつも近寄ってくる。
「君の売るアイスはどれも美味しいなぁ」
「ありがとうございます」
 たまに現れるアイスの行商は夏の美味しい名物として、ちょっとした噂になっていた。
 そして、その噂はその通りにあるネットカフェの少女達の耳にも届いていた。
「…! SHIZUKUちゃん! 噂のアイス屋さんが外にいますよ」
 ネットカフェからふと外を覗いた先に影沼(かげぬま)ヒミコは少し興奮気味に友人のSHIZUKUにそう伝えた。
「マジ!? よし! ヒミコちゃん、レッツゴーだよ! あたしの分も買ってきてね♪」
 パソコン前に陣取ったままのSHIZUKUは友人である影沼ヒミコに「あたしバニラでね♪」と半ば強制的にお使いを頼んだ。
 しょうがなくネットカフェから出たヒミコはアイス屋台へと近づいた。
「えっと、すいませんがバニラアイスを2本もらえますか?」
 ヒミコがお金を渡すとアリアはそれを受け取った。
「はい、ちょっと待って…」
 ごそごそと屋台の冷凍庫を探す。1本は見つかったけれど、もう1本がなかなか見つからない。
 バニラは人気があるから、もうないのかもしれない…けどもう少し探してみよう。
 冷凍庫に頭を突っ込んだままのアリアにヒミコは心配げに見守る。
 と、「ヒミコちゃーん!!」と騒々しい声が近づいてきた。
 SHIZUKUである。
「見つけた! 『氷の女王』の噂が書き込まれた掲示板見つけたよ! 早く早く!!」
「え!? ちょっと待って…まだアイスが…!!」
「あとあと! 書き込み消されたら意味ないんだから!」
 氷の…女王?
「あ、あった」
 2つのバニラアイスを手に冷凍庫から抜け出ると、すでに2人の少女はネットカフェへと消えるところだった。
 すでに代金は受け取ってしまっていた。
 それに気になることも言っていた…。

 アリアは他の客に少し店を空けますと言い残すと、ネットカフェへと入っていった。


2.
「ね! これこれ!」
 少女2人はすぐに見つかった。
 ワイワイと騒ぐ一角に行ってみれば、2人の少女はパソコンのモニターを食い入るように見ている。
「あの…アイス…」
「え!? あ!」
 ヒミコが振り向くと「ごめんなさい!」と慌てて謝った。
「わざわざ持って来てくれたんだ…ごめんね、あたし面白いことがあるとつい目の前のことしか見えなくなっちゃうから」
 SHIZUKUもアリアに謝って、その手からアイスを受け取った。
「うわ! おいしそ〜!!」
「アイス、全然溶けてませんね…不思議…」
 2人の少女が美味しそうにアイスを食べている間、アリアは先ほどの言葉が気になった。
「…氷の女王って…」
 すると2人の少女は『ん?』という顔になり「事件について知ってるの?」とアリアに問いかけた。
「事件? …知らないです…」
 アリアがそう答えると2人はがっかりしたようだったが、すぐに笑顔になった。
「あたしたちね、今『氷の女王』が出没するっていう怪奇事件について調べてるの」
 SHIZUKUがそういうと、ヒミコはキーボードをなにやらカチカチと叩いてモニターの画面が切り替わった。
「夜に突然冷たい風が吹いてきて首や足を冷たい手で捕まれたとか、凍らされそうになったとか、『氷の女王』の声を聞いたとか…情報がまだまだ足りない状態なんです。事件があった場所は…今のところの情報を総合するとこの辺の公園が多いみたいなんですけど…」
 モニターの地図に点々と赤いマークがついている。
 どうやらそれが氷の女王を名乗るものが現れた場所らしい。
「あたしの怪奇アイドルとしての勘は…次はここにでると思う! 前回出たっていう時刻が夜9時ごろらしいからその時が狙い目かも」
 ビシッとSHIZUKUが指差したのは地図の中央に位置した少し大きな公園だった。

「ねー! アイスまだー?」

 ハッと振り向くとネットカフェの入り口にアリアのアイスを待つOLが呼びにきていた。
「あ、ごめんね! あたし達のせいで。行ってあげて」
 SHIZUKUが苦笑いして「美味しかったよ」と手を振った。
「私も美味しかったです! また買わせてくださいね」
 ヒミコもそう言うとぺこりと頭を下げた。
 アリアは少し後ろ髪引かれたものの、お客を待たせるのはいけないと足早にアイスの屋台まで戻った。

 氷の女王…その言葉がアリアの心にひっかかったまま…。


3.
 昼のかきいれ時を終えると、今度は3時のおやつの時間。子供たちがたくさんやってくる。
 それが終われば、5時。部活を終えて帰る途中の学生たちが列を成す。
 学生の次は1杯引っかけてきたサラリーマンが酔い覚ましと酒の〆にアイスを買いにやってくる。
 ふと時計を見れば時はもう夜の帳はすっかり下りて、時計の針は8時を回っていた。
 そろそろ帰ろうか…屋台を引っ張りゆっくりと歩き出す。
 思考はふんわりと揺れて、夜のイルミネーションと交じり合い夢の中のようだ。
 氷の女王…公園…地図…あの人たちは…。
 夢の中を進むうち、いつの間にか手に持っていた台車の感覚はなくなり、ゆらりゆらりと風に乗って緑の匂いがする。

「きゃーーーーーー!!! でたぁあああああ!!!!」

 その声にハッとアリアの視界がクリアになった。
 そこは小さな街灯がいくつも灯るってはいたが、深い森の広がる場所。
 足が踏むのは青い芝生。そして逃げていく少女2人の姿。
「出た出た出た出た!! 氷の女王ーーーーー!!」
 それは昼間見た少女2人。たしか、SHIZUKUとヒミコといったような…?
 では、ここは…昼間少女達が言っていた公園?
 本当に『氷の女王』が出たのだろうか?
 アリアは目を閉じて少女達が逃げてきた方向に意識を向けた。
 そして、一陣の風が吹くのを待った。

「気配が…違います…」

 そっと、アリアは歩き出した。少女達が走ってきた方向へゆっくりと。
 やがて街灯とは違う小さな明かりがアリアの瞳に映った。
 それを囲む2人の男の姿もはっきりとわかった。
「うまくいったな」
「これで俺たちまた伝説となってネットの海に流れるわけだな」
「しっかし、馬鹿だねぇ。ドライアイスと扇風機で冷たい風送っただけで怖がるとか、マジウケるんですけど!」
「コンニャク凍らせてちょっと体に触っただけで『凍らされる!』とかバッカみてぇ!」
「でも、お前よー。合成音声で『我は氷の女王じゃ』って作ってくるとか凝り過ぎ。マジアホス」
 談笑する2人の足元には扇風機と無くなりかけたドライアイス。
 そんな2人はアリアに気がついていない。
 すべては愉快犯による犯行だったのだ。
 そうわかるとなんともいえない気持ちがアリアの胸に広がっていく。
 寂しい…? 悔しい…? 楽しい…? 面白い…? 

「私…それはダメ…だと思います」

「え?」
 アリアの冷たい手が振り返ろうとした2人に触れると、たちまち2人は凍てつく氷像へと変化した。


4.
「あ、アイス屋さーん!」
 それから数日経って、アリアは聞き覚えのある声に足を止めた。
 振り返るとネットカフェから走り出てきたのはSHIZUKUとヒミコである。
「この間はホントごめんね〜? あ、今日はイチゴ味もらえるかな」
「私は…ラムネ味ありますか?」
 2人のオーダーに引いていた屋台からそれぞれのアイスを出して渡す。
「お待たせしました」
「うわ♪ 今度のもおいしそ〜♪」
「いただきます」
 2人は美味しそうにアイスを食べだすと、途切れ途切れに『氷の女王事件』について語りだした。
「あの日ね。あたしとヒミコちゃん、氷の女王探しに行ったんだよ。そしたらね! 出たの! 氷の女王!!」
 興奮するSHIZUKUにヒミコがまぁまぁとなだめつつ、続きを話した。
「結局私たち逃げちゃったんだけど…次の日にね、その公園から男の人2人が凍って発見されたんだって。本人たちはすぐに助けられたらしいんだけど、曰く『氷の女王に復讐された』って…」
「復讐…ですか?」
 少し違うと思った。あれは、偽者に対する正当な罰だったのだと。
 アリアが反復してそう言うと、SHIZUKUがこそこそと囁いた。
「ここからは推理になるんだけど…氷の女王事件って多分その2人が悪戯してたんじゃないかなって。…でもその2人が氷になっちゃったってのが、よくわからないんだけどね」
 SHIZUKUはそう言って、最後に残っていたアイスをパクッと口に含んだ。
「ふふっ。アイス屋さんのアイス、美味しいね。…そうだ。アイス屋さんって呼ぶの変だよね。名前教えてもらってもいいかな?」
 SHIZUKUの言葉に少しアリアは考えたが、特に教えない理由は見当たらなかった。
「アリア。アリア・ジェラーティ」
「あたしはSHIZUKU。こっちはヒミコちゃんだよ。よろしくね♪」

 差し出された手のひらを、少し見つめた後でアリアは握り締めた。
 ほんのりと温かい人の手。
「アリアちゃんの手は夏でも冷たいんだね。アイス屋さんが天職なのかな」
 笑ったSHIZUKUの顔が眩しく見えた。

 そんな、夏の日の出会いのお話。


■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 8537 / アリア・ジェラーティ(ありあ・じぇらーてぃ) / 女性 / 13歳 / アイス屋さん

 NPC / SHIZUKU / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル

 NPC / 影沼・ヒミコ (かげぬま・ひみこ) / 女性 / 17歳 / 神聖都学園生徒


■         ライター通信          ■
 アリア・ジェラーティ 様

 こんにちは、三咲都李です。
 とあるネットカフェの日常へのご依頼ありがとうございました。
 真面目なアイス屋さんである反面、制御できないほどの大きな力。
 今回は少しおとなしい感じで書かせていただきましたが、大丈夫だったでしょうか?
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。