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■とある日常風景■

三咲 都李
【8596】【鬼田・朱里】【人形師手伝い・アイドル】
「おう、どうした?」
 いつものように草間興信所のドアを叩いて入ると、所長の草間武彦(くさま・たけひこ)は所長の机にどっかりと座っていた。
 新聞片手にタバコをくわえて、いつものように横柄な態度だ。
「いらっしゃいませ。今日は何かご用でしたか?」
 奥のキッチンからひょいと顔を出した妹の草間零(くさま・れい)はにっこりと笑う。

 さて、今日という日はいったいどういう日になるのか?
とある日常風景
− 伝説の読モ事件 −

1.
「えっと…これは買ったし…これも買ったし…あとは…なんだったかな?」
 ぴーかん天気の夏空の下、熱射病対策の帽子と偏光グラスで夏対策をしながら鬼田朱里(きだ・しゅり)は街中のショッピングを楽しんでいた。
 夏はようやく終わろうとしていたが、店頭はすでに秋色に染まっている。
 不思議な気分でつい見入ってしまう。
 雑貨屋の紅葉のメモスタンドや、茶系の七分袖の女性物の服。
 ついニコニコと見ていたら、ふいに聞き慣れた声が聞こえた。
「だから! うちの妹はモデルなんかやらんと言ってるだろーが!」
「お兄さん、そこを何とか!」
「お前にお兄さんといわれる覚えなどない!」
 一瞬時代劇でも繰り広げられているのかと思わせる会話だったが、よくよく考えれば時代劇がこんな街中で撮影されるわけがない。
 それにこの聞き慣れた声は…
「武彦兄さん? …零ちゃんも?? 何してるんですか?」
 道を塞ぐように、妹の草間零(くさま・れい)を背中に庇いながら男と押し問答する草間武彦(くさま・たけひこ)。
「あ、朱里さん!」
 零の困ったか笑顔が、救世主の光臨を待ち望んでいたかのように明るく輝いた。
「あ、Mistのアッシュ!? お友達!?!?」
 草間と押し問答していた男が朱里の顔を見るや否や、顔色を変えて近寄った。
「よく言われるんですけど、違いますよ。ほら、よぉく見てください」
 朱里は偏光グラスと帽子を取るとにっこりと笑った。
 その顔にはペイントが施され、『Mistのアッシュ』とは全く違う…しかしそれでいてどこかエキゾチックで中世的な美しさがあった。
「…似てるんだけどなぁ…」
 男は混乱したようで、ブツブツと自問自答を繰り返す。
「で、武彦兄さんたちは何をもめてたんですか?」
 そう聞くと、草間は苦虫を潰したように言い捨てた。

「そこのバカが、零に『読者モデルになりませんか!?』ってしつこいんだ」


2.
「…それは、零ちゃんが可愛いからでは?」
「零が可愛いのは認める。だが、全国デビューなどしたらどうなる!?」
 『全国デビュー』なんて誰も言ってないと思うんだけどなー…と思ったが、それは言わないことにした。
 妹を思えばこその兄心、朱里はそう心で納得した。
 しかし…
「探偵は顔が知られたら不利なんだぞ!?」
 …なんだ。シスコンとかそういうんじゃなくて、ただの利権がらみでした。
「そこをなんとか! お兄様!」
 再び男が草間に泣きついてきた。そしてくるりと朱里に顔を向けた。
「そこのおにーさんからもぜひ説得してください! この可愛さを一般人にしておくなんてもったいないでしょ? でしょ!?」
「そ、そう言われても…」
 ちらりと草間のほうを見ると、鬼のような形相だ。
「…あ、そうだ。こうしたらどうでしょう? 零ちゃんだけでなく武彦兄さんも一緒に撮影に参加すればいいんですよ」
「なるほど!」
 ぽんと手を打って男は草間に向き直る。
「ってことでひとつ、お兄様もご一緒に!」
「誰がお兄様だ! 大体さっきも言ったが探偵が顔知られるのは不利だって…」
 草間の言葉を遮って、朱里はにこりと微笑んだ。
「探偵として載らなければいいんですよ」
 至極全うな意見に、草間はぐぅの音も出ない。
「…ということで、零ちゃんはそれでいいですか?」
 朱里がそう聞くと、零は少し考えた後こう言った。

「朱里さんもご一緒してくれるなら…。皆でやったほうがきっと楽しいですから!」

「…え?」
 思わぬ言葉に一瞬意味がわからなかった朱里。
 しかし、スカウトの男は嬉々としてその言葉を受け入れた。
「オーケーオーケー! おにーさんもお兄様もまとめて映れば皆ハッピー! そして俺もスカウト成功ハッピー!!」
 バンザイする男の横で、悔しそうな草間とニコニコと笑う零とまぁしょうがないかなと笑う朱里の姿。
 果たして、撮影はうまくいくのであろうか?


3.
「『夏の終わりに見つけた可愛い子』って企画ページなんで、そんなに固くならないでくださいね」
 場所を移動し、スカウト男に連れられて公園の噴水前でカメラとレフ板をもった撮影隊と合流した。
「あれ? Mistのアッシュ?? なんでここに??」
 撮影隊の面々がキョトンとした顔で朱里を見つめたので、朱里はまたにこりと説明した。
「よく言われるんですけど、ホントに別人なんですよ。そんなに似てますかね?」
 笑顔でそう否定されると、誰もが「そっか、思い違いか」と思ってしまう。
 そう思わせるだけの言葉の力が朱里にはあるのかもしれない。
「零さんを真ん中にしてお兄さんたち2人横に立ってもらえますか?」
 カメラマンにそう指示されて、まず零がカメラのど真ん前に立つ。
 その横に朱里はスッと寄り添った。
「…お兄様、固くなりすぎです」
 スカウト男の声に見てみれば、草間が右手と右足を同時に出しながらロボットのようにこちらに向かって歩いてくる。
「お兄さん、緊張してます」
 オロオロとする零。草間の緊張が零にまで飛び火しそうだ。

 朱里は急いで草間の元に走り寄ると、おもむろに草間のわき腹をくすぐりだした!

「…! うひゃっはひゃひゃ…って、何するんだ!」
 ひとしきり笑った草間は、朱里に向かって草間は怒鳴った。
 しかし、朱里はそんな草間ににこりと笑うとポンポンと肩を叩いた。
「その調子ですよ。いつもどおりでいいんです。クールでハードボイルドな探偵なんでしょう?」
 その言葉に、草間は毒気を抜かれたのかニヤリと笑って朱里の肩を叩いた。
「助かったよ。サンキュ」
「さ、零ちゃんが待ってますよ」
 朱里は草間と共に零の横に並んだ。
「武彦兄さんは大丈夫ですよ、零ちゃん」
 零にそう囁くと、零はにっこりと笑った。
「ありがとう、朱里さん」
 零の顔から緊張しそうなあの表情は消えていた。
「はい、こっち向いてねー!」

 そして、1枚の伝説的な写真が生まれることとなる。


4.
「だから! うちは探偵だ! ここにアイドルはいない! 以上!」
 ガシャン! と切った電話のそばからまた電話が鳴る。
「こちら草間探偵事…うちの零は、芸能界なんぞにはやらん!」
 再び、ガシャンと切られた電話。
「…一体何事ですか?」
 何時の間にきていたのか、草間興信所の扉の前に朱里が立っていた。
 草間は所長の机を離れ、電話線を引っこ抜いてからソファへと座り込んだ。
「よくわからんが、朝から電話が鳴りっぱなしなんだ。『Mistのアッシュを出せ!』だの『零たん…はぁはぁ』だの! 俺のほうがどうなってるか訊きたい!」
 朱里はその手に一冊の雑誌を持っていた。
 今日発売のファッション雑誌だ。
「多分、これのせいかなぁ…」
「ん?」
 ぺらぺら〜っとめくった朱里の指が、あるページで止まる。
 そして、そのページを草間へと差し出すと…

「なんじゃこりゃーーーーー!!!!」

 草間の絶叫が街中を震わせた気がした。
 その手にした雑誌のページには、見開きいっぱいにこう書かれていた。

『美形探偵3兄妹。この街を守るのはMistのアッシュ似のエキゾチックなお兄ちゃんと黒髪美少女の零ちゃん。いつかアナタの前にも現れるかも!?』

 フルフルと震える草間の手。
「どうかしたんですか? あ、朱里さん。いらっしゃいませ」
 ニコニコ遠くからやってきた零が朱里に挨拶するが早いか、草間が叫んだ!

「何で俺のことには一言も触れられてないんだーーー!?」

 え? 問題点そこ?
 笑顔ではてなマークを浮かばせた朱里の耳につんざく様な大音量の玄関ブザーが聞こえた。
 そして、閉められたドアの向こう側にたくさんの人の気配。
『零ちゃん、いませんかー!?』
『アッシュ似のおにーさんって、ここでしょ!?』
 興信所に緊張が走る。
 今まさに、怪奇以外でのお客が溢れようとしている。

 草間興信所、始まって以来の快挙…いや、もはやこれは伝説に等しい出来事になるであろう…。



■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男性 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル


 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
 
 NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い


■□         ライター通信          □■
 鬼田朱里 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度は『とある日常風景』へのご依頼ありがとうございました。
 アイドルということでご活躍のうえに、人形師手伝い…お忙しいのになんてにこやかな笑顔!
 草間兄妹との写真撮影が朱里様の思い出に残れば嬉しいです。
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。