■【珈琲亭】Amber■
蒼木裕 |
【7134】【三島・玲奈】【FC:ファイティングキャリアー/航空戦艦】 |
寂れた雑居ビルが建ち並ぶ一画。
昼でも薄暗い路地裏に瞬く街灯。
まるで闇夜で灯りを見付けた蟲の如く。
ふらりと一歩。
……また一歩。
『なんぞさがしものかえ?』
突然響いた女性の声に辺りを見回すと、仄かな光。
ある雑居ビルの地下一階。其処に掲げられている看板。
【珈琲亭】Amber
ぎ・ぎ・ぎ・ぎ・・ぎ・・・・。
重い年代物のドアを開けると……。
「あら、いらっしゃぁい。マスタ、お客さんよ!」
「…………」
「ったく! マスタってば挨拶くらいしなさいよ! ふふ、無愛想な店主でごめんなさぁい。あ、ちなみにメニューはこ、ち、ら♪ でも大抵のモノは作れちゃうからメニューに載って無くても気軽に相談オッケーよ!」
「……それで、お前さんは飲みに来たのか。食べに来たのか」
「HAHAHA、それとも例の人形の作製依頼かねぇ?」
「ちょっと藪医者! あたしのセリフ取らないでよ! ……ねー、マスタ。こいつ入店禁止にしようよ〜、ね、ね!」
「はっはっは、cuteな顔が台無しだぜぇ、お嬢ちゃん。藪医者なんかじゃなくってniceな腕前を持つ俺様を入店禁止にしたら、お嬢ちゃんの身体改造してやんないよぉ?」
「っ〜! いらないわよ、バカっ!」
「――お前達、少し口を塞げ。客が喋れない」
元気一杯の声で迎えてくれたのは女子高校生らしきくるくるパーマが良く似合うポロシャツにミニスカを履いた女の子。
カウンターにて食器の手入れをしているのが前髪を後ろに撫で付けた灰髪のウルフカットに右に梵字入りの眼帯を付けた茶の瞳を持つ三十代後半の店主。
最後に常連客と見られるベリーショートの金髪碧眼を持つ四十代ほどの男は、店員である女の子の台詞を奪い軽快な笑い声を上げた。
店主に諭されやっと二人は声を止める。
やっと自分に喋る順番が回ってきたと安堵の息を付き、此処に来た用件を伝えようとする人物。
だがその瞬間その耳に届いたのは――。
『なんぞ、さがしものかえ?』
カウンターの上に乗っている黒髪の美しい少女型日本人形が今まで伏せていた瞼を持ち上げ、意思を持った瞳で客に微笑んだ。
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+ 【珈琲亭】Amber +
寂れた雑居ビルが建ち並ぶ一画。
昼でも薄暗い路地裏に瞬く街灯。
まるで闇夜で灯りを見付けた蟲の如く。
ふらりと一歩。
……また一歩。
『なんぞさがしものかえ?』
突然響いた女性の声に辺りを見回すと、仄かな光。
ある雑居ビルの地下一階。其処に掲げられている看板。
【珈琲亭】Amber
ぎ・ぎ・ぎ・ぎ・・ぎ・・・・。
重い年代物のドアを開けると……。
「あら、いらっしゃぁい。マスタ、お客さんよ!」
「…………」
「ったく! マスタってば挨拶くらいしなさいよ! ふふ、無愛想な店主でごめんなさぁい。あ、ちなみにメニューはこ、ち、ら♪ でも大抵のモノは作れちゃうからメニューに載って無くても気軽に相談オッケーよ!」
「……それで、お前さんは飲みに来たのか。食べに来たのか」
「HAHAHA、それとも例の人形の作製依頼かねぇ?」
「ちょっと藪医者! あたしのセリフ取らないでよ! ……ねー、マスタ。こいつ入店禁止にしようよ〜、ね、ね!」
「はっはっは、cuteな顔が台無しだぜぇ、お嬢ちゃん。藪医者なんかじゃなくってniceな腕前を持つ俺様を入店禁止にしたら、お嬢ちゃんの身体改造してやんないよぉ?」
「っ〜! いらないわよ、バカっ!」
「――お前達、少し口を塞げ。客が喋れない」
元気一杯の声で迎えてくれたのは女子高校生らしきくるくるパーマが良く似合うポロシャツにミニスカを履いた女の子。
カウンターにて食器の手入れをしているのが前髪を後ろに撫で付けた灰髪のウルフカットに右に梵字入りの眼帯を付けた茶の瞳を持つ三十代後半の店主。
最後に常連客と見られるベリーショートの金髪碧眼を持つ四十代ほどの男は、店員である女の子の台詞を奪い軽快な笑い声を上げた。
店主に諭されやっと二人は声を止める。
やっと自分に喋る順番が回ってきたと安堵の息を付き、此処に来た用件を伝えようとする人物。
だがその瞬間その耳に届いたのは――。
『なんぞ、さがしものかえ?』
カウンターの上に乗っている黒髪の美しい少女型日本人形が今まで伏せていた瞼を持ち上げ、意思を持った瞳で客に微笑んだ。
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「猶予が無いのです。私は母を討たねばなりません!」
彼女が店に入ってきて開口一番発した言葉がそれだった。
黒髪に紫の左目と黒の右目を持つ少女――三島 玲奈(みしま れいな)と名乗った彼女はカウンターにバンッと手を付き、必死の形相でそこにいる住人達に訴えかける。それは日本人形であるゆつに対しても同じ事だった。
彼女は一見どこにでもいる女子高生に見えるが、実は和蘭国戦略創造軍准将という立派な軍人である。
「まあまあ、お嬢ちゃんよぉ。気持ちは分かるが、落ち着いたらどうだい?」
「これが落ち着いてなどいられません!! 良いですか、現状、キューバは虚無の配下にあり、私を産んだ母は……恐らく『虚無の境界』の神官、霧絵の手で魍魎化され……彼女は大量虐殺担当の参謀格となっています」
「『虚無の境界』、だと……?」
「――ええ、情報に関わる者なら知らないとは言わせません!!」
店主であるジルは「虚無」の言葉に眉根を顰める。それから視線を玲奈へと送ると先を続けるよう指示した。ウェイトレスの朔はそれでも己の業務を全うしようと彼女へと氷の入った冷たい水を差し出す。それを受け取りながら、玲奈は言葉を続けた。
「まず、臨月で末期癌に侵されたあたしの母は娘産みたさの余り虚無の境界に関わりました。その為あたしは殺戮兵器として生を受け、母が繰り出す各種霊的兵器の練習台にされています」
「話が壮大になってきたわねぇ。あたしはここにいない方が良いかしら、マスタ」
「……そうだな。サマエルと上にでも上がってろ」
「やだー!! それくらいなら自宅に戻る!」
「HAHAHA! 診療所に来ればお嬢ちゃんに良いテク、教えてやるぜぇ?」
「やめろ、変態藪医者!!」
わきわきと手を動かしながら店に居た医者、サマエルと不本意ながら朔は一緒にビルの階段を駆け上がる。これで話を聞くものはジルとゆつのみ。
玲奈は止められていた話を今度こそ最後まで伝えるために唇を開いた。
「話を続けます。――まず、あたしが民を護る事が母に利するのです。だけど、敵地本土に乗込もうにも母は親娘の想い出を悪用した虚影を仕掛け、想いを捕える罠を配置しました」
「……想い、か」
『それはまた、いやぁな戦法できたのう……』
「あたしは今、養殖された母の魂達を嗅ぎ分け本体を叩く方法を探してます」
『ほう、ほんたいとはまた』
「……最悪、あたしは開闢爆弾を使う覚悟です」
「待て、それは冗談にしても相当まずい……」
「冗談ではありません!!」
玲奈の言葉に口を差し込んだ瞬間、彼女の瞳がジルへと強く向けられる。
その圧倒的な強さにジルは気圧され、言葉をつぐんだ。ゆつが僅かにその様子を可笑しげに見ていたが、少女が発した言葉が決して良いものではない事は明らか。すぐに着物の袖で口元を覆うと声を押さえた。
「あたしは『必ず』相手を召喚する超強力呪文で、地球開闢時まで遡って被験者を探し捲ります。その覚悟が出来ずに何が冗談で開闢爆弾と口に出来ますか!」
「分かった、話の続きを聞こう……」
「もし、架空の名を呼べば悪用された呪文は停まらずカリブは溶岩地獄と化すでしょう。故に開闢爆弾です。ですが犠牲が膨大なので避けたいし、結局あたしも母と同じ虐殺の轍を踏むのです。八方手を尽くして此方に伺いました。――どうか、どうかあたしに母を討たせて下さい!!」
両手を組み、神に祈りを捧げる様な格好を取る玲奈。
その必死の形相は真剣そのもの。実際問題、彼女の名はジルの耳にも届いており、その戦歴も数多く情報として流れてきている。そんな彼女が今自分達の目の前に存在しており、そして助けを求めている。
全ては自分の母――魍魎と化した敵を討つために。
ジルはゆつの方へとちらっと視線を下げる。
ゆつはその作り物の瞳でジルを見上げていた。そしてその口からはまるで生き物のように息らしきものを吐く。
『少々きぼが大きすぎるゆえ、わらわ達にはいますぐ玲奈殿の求める者のばしょはとくていできぬ』
「そんなっ!! ……ああ、やはり開闢爆弾を使うしかないのですね……」
「いや、私達に手が負えないだけで、少しツテがある。彼らに頼もう」
「彼ら、とは?」
「呼べば来る――ああ、ほら。もう来た」
そういってジルは玲奈の後ろを指差す。
其処には十二歳程度の少年二人がふわりと宙を浮きながら立っており、彼らは玲奈を見ると片手を一つずつ差し出した。
「こんにちは、僕はスガタ」
「それともこんばんはか、俺はカガミ」
「あ、貴方達は!?」
「僕らは案内人。ジルさんに望まれて貴方を導くためにここにいます」
「俺達は案内人。ジルやゆつにはお前が望む場所を特定する事は出来ない。特に『虚無の境界』が関わっているなら彼らには範囲が広すぎて手が届かないんだろ」
「では貴方達ならば私の母の本体を確実に分かるのですか!?」
玲奈は少年達が差し出す手を見やりながら、信頼に値する人物かどうか見定めている。その様子を見て少年達はくすくすと笑う。それから差し出した手とは反対の手をゆるりと持ち上げ人差し指を相手へと向けた。
「貴方の本来の姿はそれではなかった」
「お前は以前、『虚無の境界』に拉致された」
「そこで生体宇宙戦艦レナに改造された過去を持っていらっしゃる」
「現在はオランダ王立戦略創造軍所属。准将待遇。対人用の依代――つまり今俺達の目の前にいる『お前』を軌道上から操っている……これで良いか?」
「――っ!! まさか一瞬でそこまで分かるなんて」
玲奈は察した。
彼らならば――と。
「お願いです! あたしに母を討たせてください!! その為ならどんな代償だって払ってみせます!」
「代償は要りませんよ。こうしている間にも被害は増え続けている。貴方はそれを止めてくれさえすれば良いんです」
「俺達の異界にも死んで尚彷徨い続ける<迷い子(まよいご)>達が一気に流れ込んできてなー。それを止めてくれれば良いわけ。分かる?」
「じゃあ!」
「「 必ず案内を務めてみせよう。その後、貴方は貴方の母を止めて 」」
ああ、信じられる。
玲奈の心はもう決まった。差し出された手をとり、彼女は行く。ぐにゃりと歪む空間。転送されるあの感覚。後ろを振り向けばジルとゆつが優しく微笑んで三人を見送ってくれていた。玲奈はこの場所から消える最後の瞬間、彼らに対して一言だけ放った。
「ありがとう」――と。
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「で、その後見事母の本体を見つけた彼女は涙をボロボロ零しながらも、その魂を討ち取った、と。ひゅー、お偉い軍人様もとい力の強ぇcuteな少女のする事とは思えないねぇ」
「ジルさん、僕はアップルジュースが飲みたいです」
「ジルー、俺オレンジジュースな」
「……」
『それでもひがいが最小限におさえられたなら、いいことじゃの』
数日後、【珈琲亭】Amberにて玲奈を案内し終えたスガタとカガミはカウンター席に座りながら依頼の結果を報告する。ジルは無言で報告を聞きながら二人のためにジュースを注いでやりながら、何気なくラジオを付けた。
そこから聞こえてくるのは他愛の無い日常のニュース。けれど時々その平穏に紛れた闇の情報も耳に入ってくる。
「……母と、子、か。辛い選択だっただろうに」
ジルは小さく呟いた後、あの時の少女の表情を思い出しながらスガタ達にジュースを差し出した。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7134 / 三島・玲奈 (みしま・れいな) / 女 / 16歳 / 和蘭国戦略創造軍准将:メイドサーバント】
【共有化NPC / ジル / 男 / 32歳 / 珈琲亭・亭主,人形師】
【共有化NPC / 下闇・朔 (しもくら・さく) / 女 / 17歳 / ただの(?)女子高生.珈琲亭「アンバー」のアルバイト】
【共有化NPC / ゆつ / 女 / ?? / 日本人形】
【共有化NPC / サマエル・グロツキー / 男 / 40歳 / 開業医】
【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、お久しぶりです!
非常に訴えの強い発注文でびっくり致しました^^
今回は規模と範囲が広すぎてAmberメンバーでは対応出来ず、案内人二人に登場して頂く形を取らせて頂きました。
どうか少しでも気に入っていただけますように。ではでは!
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