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■あの日あの時あの場所で……■

蒼木裕
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
「ねえ、次の日記はカガミの番?」
「ああ、俺だな」


 此処は夢の世界。
 暗闇の包まれた世界に二人きりで漂っているのは少年二人。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
 ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。


 さて、本日はカガミの番らしい。
 両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
 開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように些か焦って綴られたような文字だ。カガミはスガタの背に己の背を寄りかからせ、それから大きな声で読み出した。


「○月○日、晴天、今日は――」
+ あの日あの時あの場所で……【回帰・10】 +



「悪いね、僕らの分まで奢ってもらっちゃって」
「い、いや……約束したしな!」
「でも工藤さんってば良い人ですね。まさか追加注文した物まで奢って下さるなんて」
「たまには、ほら、年上ぶりたい年頃なんだよ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね。ほら、フィギュアも」
「……えっと、有難うございました?」
「疑問系で返さないで! 俺、悲しくなっちゃう!」


 さてさて次の日。
 無事ミラー達から情報を貰った俺もとい全員で旅館をチェックアウトをしたのだが、駅に向かうミニバスの前でミラーにそれはもう丁寧な文章でお礼を言われてしまった。
 はっきり言って寒い。
 どうしよう。
 すっごく、寒い。
 だってスガタとカガミも……フィギュアですらミラーの笑顔にどう対応するか迷っているのが俺でも良く分かる。ミラーの外見は十五歳ほど。対して俺はれっきとした高校生もとい十七歳。傍目から見て年下の男の子に世話を焼くお兄さんポジション……は、良いんだけど。
 やっぱり相手の中身を知っている分寒い。やばい、心の中にブリザードが吹き荒れてる!!


 車椅子を折り畳んでフィギュアはミラーに抱かれながらミニバスへと乗り込む。
 運転手のお兄さんはその慣れた動作に感心の息を吐きながら、スガタにも乗るように指示をする。カガミが俺に肩ぽんしてくれたので、なんとか凍った身体を動かしながら俺はそれが旅館を出る時になんとか手を振って見送る事が出来た。


「工藤様達も乗って行かなくて良かったんですか?」
「あ、俺達は神社へと行こうと思うんです。確かここに有名な神社があるって聞いたんで」
「ああ、高千穂神社の事ですね」
「旅行雑誌に載ってる限りではなにやらパワースポットだとか」
「ええ、ええ。それはもう有名な神社でございますよ」


 旅館に着いた初日から丁寧に案内してくれる女将さんに話を聞けば、親切丁寧に色々と教えてくれた。ここからの経路はもちろん、神社本殿は平成十六年に国の重要文化財になった事とか、「秩父杉」という杉が高千穂町指定文化財であり大変見ものである事とか、時期はずれてしまったものの、十一月には高千穂夜神楽まつりが行われる事など有り難く拝聴させてもらった。
 客を退屈させず、かといって要領を得ない話をだらだらと喋るわけでもない。
 きちんと整理されすっきりとした口調で述べられる神社の説明は正直雑誌で書かれている旅行者向けの文章よりすっと頭に入ってきて嬉しい。


 やがて話を聞き終えた俺達は深々と頭を下げた女将さんに見送られつつ、旅館を後にすることにした。
 バス停までの道程は昨日行ったばかりなので迷わず行ける。出る時間もそれに合わせたから待つ時間も短くて済むというものだ。


「あのさ、カガミ」
「ん?」
「出る前に俺さ。再度サイコメトリーしてみたんだけど、旅館には母さんの縁は無かったんだ」
「縁以外では何か見つかったか」
「いいや。……何も見つからなかった。あの場所は母さんにとってどんな場所だったんだろう。引き取ってくれた人達と一緒に過ごしてたら、少しは名残惜しい念とか残って居そうなのに……」


 俺は一度振り返り、旅館を見る。
 そこにはご親切にも自分達へとまだ手を振ってくれている女将さんの姿が在った。客を出迎えるのも心からなら、送り出す時にも心から、という事なんだろう。多分曲がり角で俺達の姿が見えなくなるまで見てくれてると思う。そんな風に振舞ってくれる人がいる旅館だからこそ俺は母さんがあの旅館になんの思いも残さなかったのが不思議でたまらない。
 だけどカガミは俺の言葉に対して意外な言葉を返してきた。


「『残せなかった』んだろ」
「どういう意味?」
「お前の母親と父親は駆け落ちをするくらいの人間だ。想いを残していけば『心残り』になる。決断した人間が前に進む為に今まで培ってきた感情を一切合財切り捨てる事は少なくはない。帰らない覚悟であの旅館を出たなら尚更お前に感じ取らせてしまう程の念は残さないだろな」
「そっか……真剣だったんだな。母さん」


 やがて角を曲がり、後はバス停まで一直線。
 カガミの話を聞いて俺はしんみりとした気分になってしまう。哀愁……とはちょっと違う。駆け落ちをしたという俺の母さんと父さん。その後連絡を入れずに、家族同然に暮らしてくれた人々を「切る」というのは苦渋の選択だったに違いないのに。
 俺は落とさぬよう持っていたお守りを取り出して掌の中に握り込む。
 これは旅立ちの時に借りてきて持っていた母さんの高千穂神社のお守り。旅館の女将さんが母さんに渡した安産祈願のものだ。確かに此処からはあの人の念を感じる。それは言葉じゃなくてとても温かい……子供を包み込むような優しい熱だ。
 これが思考まで読み取れたらあの女将さんの思いや受け取った母さんの願いとかきっと分かったんだろうなと、少しだけ読み取れない事を勿体無く思う。


 それに可能性の一つとして。
 ……本当に可能性の一つにしか過ぎないけど――父さんが触れていたなら彼の思念も封じられているかもしれない。この掌から伝わる熱の中に父さんの思いもあるなら、もっと俺は『家族』を身近に感じられるだろうに。


 バス停までやってくると俺はお守りの紐を掴み、太陽に掲げてみる。
 これは母さんと共に生きたお守り。二十年近く傍にあったこれでは駄目かと考えたけどそれなら旅館に居た時にミラー達が教えてくれると、思う。多分だけど。
 やがてやってきたバスに二人して旅行鞄と共に乗り込む。
 チェックアウトの後だから昼近くになっており、乗っている人は少ない。後ろの方の席を取り鞄を足元に下ろしながらカガミと共に腰を下ろした。バスがアナウンスを響かせてから発車する。ここから神社の最寄まではバスで暫し時間が掛かる。


 ちらっと俺はカガミを見る。
 通路側のカガミはふぁっと欠伸を漏らしながら俺の方へと視線を向けた。


「あのさ、カガミ。言わなくてももう分ると思うけど……」
「じゃあ言うな」
「いやいやいや! 言わせろって」
「聞きたくない」
「……でも言うからな。――俺、神社で行き詰ったら深層エーテル界に行ってみようと思う。もちろん神社で記憶を取り戻す事が出来たならそれで良いよ。でもそれが困難だって俺スガタに聞いちゃったんだ。だから――」
「聞きたくないって」
「聞けよ、カガミ!」
「知ってるんだよ。お前が何を言いたいのか。スガタが何を言ったのか全部知ってんだって、俺は」
「――え」
「……俺とスガタは運命共同体……は言い過ぎだけど繋がってるからな。スガタが意識的に俺を追い出さない限り俺達は繋がっていられる。プライバシーが欲しいなら当然俺とスガタは繋がらないようにしてるけどな。だから俺達は個別で居られる」
「……え、え、ちょっと待てカガミ」
「だから、聞きたくない」


 カガミは己の両の手を自分の耳にくっつけ、拒絶の姿勢をとる。
 昨夜の出来事を全て知っていると彼は口外した。そして改めてスガタとカガミは繋がっているとも――――つまり、スガタと話していた時眠っていてもその精神状態は――。


「待て、待てよ。ちょっと考えを纏めるから待て」
「そのまま口を塞いでしまえ」
「昨日のことを知ってるって事は――」


―― その後の事も、です、か?


「ギャー! どこまで知ってる!? あの後のアレも!?」
「バスん中で騒ぐな。喚くな。他の客の迷惑になる」
「マジでカガミどこまで知ってる、教えろってばー!!」
「その後のアレまで」
「ぎゃー!!」
「煩いっ! 黙れ、勇太!」
「もごっ!?」


 不意に俺の後頭部にカガミの手が回されそのまま引き寄せられる。そしてぶつかると思った瞬間に唇に触れる柔らかくて温かい何か。――っていうか、近い。超、近い。
 何がって。
 アレだ。
 カガミの顔が。
 ぼやけるほどに――……!!!


「っ――!?」
「おっと、悲鳴はあげるなよ」
「……」
「睨んでも駄目」


 触れたそれはすぐに離れたから、他の客から見ればカガミが俺の口を素早く手で塞いだように見えている……と、思う。いや、そう思わせてください。マジで。
 ぷしゅううっと顔から熱が出る勢いで俺はそのままぐったりとバスの背もたれに自分の身体を預け倒れ込んだ。


―― ……ホント、カガミには敵わない。


 悔しい。
 どこまで敗者でいればいいのか分からない。むしろ勝てた気分になった事の方が少ない。


―― カガミがこんな風に俺の事を恋人みたいに扱ってくれるから……。
    って、恋人!?
    いやいやいや、そう言えば俺達の関係ってそれなの!?
    いや、でも俺はカガミが好きで、好きだから色々しちゃってて。
    カガミは遊び人っぽくないし……乱暴だけど優しいし、俺の事ちゃんと見てくれるし、それになんだかんだと一緒に居てくれるし俺にとっては「大事な人」だし……うわ、うわ、うわぁああああ!!!


「勇太、顔真っ赤。ついでに思考と同時にじたばたと暴れるの止めてくれ」
「っ! だ、だってっ!」


―― 無理無理無理!
    俺ばっかりカガミの事好きで、カガミは俺の事そうじゃないだなんて嫌で。
    でもカガミもきっと俺のこと好きだって思えるんだ。


 だって隣に座るカガミの顔はそっぽ向けられて見えないけれど、少しだけ見える耳がほんのり赤く色づいている。
 きっと俺のこの心も読み取っているんだろう。むしろ感情の昂りによって感応能力がある能力者なら望まなくても感知しちゃってるかもしれない。
 俺は今にもまた地団太を踏み出しかねない足を必死に押し留めながら、「昨日の夜の悪戯」まで知っているというカガミに叫ばないよう耐える。


 顔の紅潮具合で言うなら俺の方が酷いんだろうけど、カガミが赤面する方が面白い。


―― くそ。……やっぱり好きだなぁ。


 だから、眠ったふりをして相手に寄りかかる。
 ぶつかったふりをして、人気が少ない事を良いことにカガミの手を掴んで繋ごうと試みてみたりする。――その手が指の合間を縫うようにしっかりといわゆる恋人繋ぎで応じられるから……他愛ない幸せを貰ってしまうんだ。


 この瞬間が幸せ。
 バスを降りたらまた母親の記憶探しに出るけれど、今この時だけは二人だけの時間だと……そう願うだけ。











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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、十話目です。
 とうとう二桁となった旅路! 今回はいちゃらぶでいいという事でしたので本当に色々させて頂きました。有難うございます。書いた本人がNPCの動きに恥ずかしいです(笑)
 さりげなく最初の方のミラーの猫かぶりが楽しかったとかも付け加えておきます。

 ではでは失礼致します!