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■ある一夜の夢■

蒼木裕
【8622】【九乃宮・十和】【中学生・アイドル】
 夢を見ている。
 夢でなければ説明が付かない。
 そうだ、これは夢だとも。


 でなければこんな変化――どうしたらいい!?
+ ある一夜の夢 +


 夢を見ている。
 夢でなければ説明が付かない。
 そうだ、これは夢だよね。


 でなければこんな変化――どうしたらいい!?



■■■■■



「おぉー? なんだこりゃー」


 そこは僕の夢。
 一夜の闇の中。今自分の身に起きた事を僕――九乃宮 十和(くのみや とわ)はとーっても棒読みで驚いてみちゃったりしている。実際そんなに驚いてないけどね。だって僕の格好はパジャマ姿だもん! きっとこれは夢なんだって頭のどこかで理解してるんだ。
 と、言うわけで。


「背中に何か羽がついててー、頭には耳? んー、あと尻尾も……って犬じゃん!」


 なんとなく突っ込みを入れつつ、肉体変化を必死に確認してみたり。
 でもやっぱり鏡も何もない場所じゃ自分が本当にどういった格好をしているのか分からないもんだね! まあ、分かるのは確実に普段の人間の姿じゃなくってちょっとしたキメラ状態になっているって事かな。
 ふーむ。しかし一体何がどうなってこうなったんだろう?


「あれ? さっきまであんなのあったっけ」


 ふと前方に視線を向ければそこにはなんと一軒屋。
 今、僕は僕だけが見える不思議な暗闇の中で一人ぽつんと居るわけだけれども、そこに突然今まで見えなかったものが現れたら、そりゃあびっくりするよね!
 でもまあ、興味がないわけじゃないし? 気になるし? っていうか僕の夢なんだからきっと僕が作り出したもんなんだろうけど、行くべき場所なんてそこしかないわけだから。


「行ってみよーっと!!」


 それはもう嬉々として駆けていく事にした。


 真っ暗な空間に一件だけ建つアンティーク調の一軒家。
 やってきたその家の扉の傍には『鏡・注意』と書いてあり、僕は首を捻る。
 しかしこの場所以外に寄れるような場所がない。ノックをすれば中から少年が一人出てきた。――って言っても僕よりかは年齢は少し上だけどね!


「こんにちは、<迷い子(まよいご)>。ご用はなんでしょう?」


 十五歳程の彼はにっこりと人好きされそうな笑顔で挨拶をしてくれた。
 よく見れば彼の瞳はオッドアイ。左目が緑で右目が黒だ。室内を見やれば壁と言う壁が全て鏡張りで構成されており目を見張る。へえ、遊園地のアトラクションみたいだ!
 そしてその部屋の中央に一人の少女が安楽イスに座っているのが確認出来る。結構可愛い感じの女の子。
 彼女は僕を見ると少しだけ嬉しそうに微笑み、片手を持ち上げた。


「初めまして、<迷い子>。己の困惑を取り除きたいなら私の元へいらっしゃい」


 招く手。
 甘く誘惑する声は僕の肉体の変化について知られている事を告げていた。此処は一体どこで、何故このような変化を起こしているのか。


「じゃあ、おっじゃましまーっす!」


 何を知るにも情報が必要だ。
 僕はひとまずそう思い、元気いっぱいの挨拶を述べてから中に入る事にした。



■■■■■



「改めて、僕なんでこんな格好?」


 鏡張りの室内は僕の今の格好を如実に映し出す。
 背中には悪魔みたいな蝙蝠羽、そして頭部には伏せた犬耳。それから臀部からはピョコンとした尻尾が生えていて、……うん! やっぱり映画とかゲームとかに良く出てくるキメラみたいな格好になってるね!


「不思議な格好になったものだね」
「本当に面白い姿よね。貴方はどうしてそうなったのか分かるかしら?」
「いや。正直、僕が聞きたいくらいなんだけどー。僕、猫派だし。悪魔の羽って……何で羽?」
「あら、知らないみたいよ。ミラー」
「こういう件は本人が知らないことも多いものさ。さあ、ケーキとお茶をどうぞ」
「わーい、お菓子ー!」


 テーブルの上には美味しそうなケーキと淹れたての紅茶が入ったカップが並べられている。
 僕は喜びを隠さず、テーブルの方へと足を進めた。尻尾がついつい喜びのあまり震えているのが分かって、どうやらこれは本当に僕の感情と直結しているらしい事がわかる。本当に犬みたいだ。椅子に座ってフォークを手に両手をあわせていただきます。もちろん挨拶はきちんとするよ!
 一口サイズに切ったケーキを口の中に運び込み、幸せー! って表情がついつい浮かんじゃう。子供みたいだって? だって僕子供だもんー!


「んむ。美味しい!」
「それは良かったです」
「で、結局なんで僕こんな格好してるの? これ僕の夢だよね」
「ええ、そうよ。ここは貴方の夢といっても良い場所だわ」
「じゃあ、普通は僕の好きなものとかに変身するんじゃないの?」
「そうだね。君が猫派だと言うのならばそういう夢を見ることもあるかもしれない」
「じゃあ、なんでー! 折角なるなら犬じゃなくって猫が良かったよー!」
「ふふ」


 少女――フィギュアと名乗った白ゴシックドレスを身に纏った子が僕と少年、ミラーさんの会話を聞いて口元に手を当ててくすくすと笑う。
 二人の自己紹介を聞いてからやっぱり此処は自分の夢なんだって自覚したけれど、やっぱり解せない。「僕は猫派なんですー!」って主張しながら拗ねちゃうぞ!


「でも周囲の人の印象は違うみたいよ」
「んむ?」
「貴方がそういう格好になったのは周囲の人の影響ね。アイドルをしているでしょう?」
「え、お姉さん僕のファンだったりするのかなー?」
「ふふ、ごめんなさいね。あたしはそこら辺ちょっと疎いから違うと言わせて貰うわ」
「なんだ、ちえー……!」
「で、話の続きなのだけれど良いかしら。ケーキを食べながらで良いから聞いてちょうだいね」
「ん!」


 僕は了解の意思を示すために頷きながら応える。
 彼女はまた楽しそうに笑いながら、事の説明を行うため口を開いた。


「貴方は周囲の人、主にメンバーの人とアイドルのMistの『ティール』のファンの影響を今受けているの」
「むぅ?」
「犬みたいに人懐っこくって、小悪魔みたいな印象……って言ったら分かるかしら。貴方はそういうイメージを周囲に見せているそうよ」
「えー、そうかなぁー?」


 僕は小首を傾げながら?マークを浮かべる。
 だってだって、僕はそんなタイプじゃないと思うしー、周囲の印象と僕が自分で抱いているものってそんなにずれてるの? ってなっちゃうよ!
 でも実際僕の背中には小悪魔の羽に、頭には犬耳、そしてお尻に尻尾まで生えていたら……うーん、そういう影響もあるって事なのかぁ。僕は口端に付いたケーキのクリームを指で舐めとりながら眉根を寄せて考えてみたり。


「でもやっぱり猫が良かったー!」
「あらあら」
「今回の夢は残念だったと思うと良い。次はもしかしたら猫耳が生えた夢が見れるかもしれないよ」
「そっちに期待しておくー! で、これって飛べるのかな?」
「あっちの広い場所で試してみるといい」
「わーい!」


 ケーキを一つぺろりと食べ終えた僕はミラーさんが指差した先へと駆けていく。
 丁度鏡があるから自分がどんな風に動いているのか一目で分かって良いね! 僕は鏡の傍に寄って背中の方へと力を込めてみる。
 ぱたぱたぱた。
 お、動く動く。あれだね! 一応手とか足みたいにそこまで意識しなくても動かせるみたい。じゃあ、飛べるかなーっと。
 ぱたぱたぱた…………。
 羽が動き、風が吹く。でも移動速度はと言うと……――。


「遅いよ! これなら僕の空飛ぶスケボーの方が速い!」
「慣れれば速くなるよ」
「えー……慣れるまで生えててくれると思う?」
「君が望むなら」
「ふーん。やっぱり夢って都合が良いんだね!」
「あら、当然よ。多少は制限が掛かるけれど、叶わない事は殆どないわ」
「夢って便利だね!」


 ぐっと親指を立てて、元気よく僕は答える。
 フィギャアさんはやっぱり小さな声で笑う。僕が一挙一動する度に笑ってくれるからなんだか可愛い。僕の行動次第で笑ってくれるのって素敵だよね! アイドル活動でもそう思うもん!


「さーって次は尻尾ー! 動かせるかな?」
「あら、ぎこちないけど動いているわよ」
「――うーん、やっぱり本物の犬よりかは動きが鈍いみたいだね!」
「それも慣れれば自然と動くようになるけど?」
「僕そうなったらこの格好のままアイドル活動しなきゃいけなくなっちゃうー!」
「でも夢だもの。現実世界には作用しないわ」
「あ、そうだった。てへっ」


 僕はちろっと舌を出して誤魔化しに掛かる。
 しかし尻尾を自分の意思で動かすにはまだ努力が足りないって事らしい。
 努力……うーん、ダンスとか歌とかは好きだから努力するけれど、流石に犬の尻尾を動かす訓練とかってどうなのって思っちゃうよ! ああ、でも一瞬だけこの格好で過ごさなきゃいけないのかと思っちゃった。それくらい今この場所で二人と喋っている事は現実に近くて、つねったりしたら痛いし、ケーキも美味しかったから間違えそうになる。
 ここは夢。
 あくまで夢なんだよね。
 なのに……なんで僕の思い通りに動いてくれないのさー!!


「それはあくまで『影響』だからだよ。君の意思ではないところで作用しているからこそ、そこまで上手く動かせないのさ。君がその姿を受け入れたなら話は別だよ」
「心の声を読まれた……――っていうかー。この格好はちょっとねー」
「印象が本人に与えるものって本当に凄いわ。貴方以外にもそういう風に周囲からの影響で変化してしまった人が居たけれど、その人もびっくりしていたし」
「本人の意思とは関係ないところが切ない話さ」
「だよねー!!」


 二人の説明を聞きながら僕はもう少し早く動けないものかと背中の羽をぱたぱた動かしてみる。でもやっぱりスノボーの方が速くてじれったくなっちゃうよ!!
 やがて飽きてきたから、僕は二人の居るテーブルへと戻りまたお茶会へと交じる。すると新しくケーキが出されて僕はうまうまと頂くわけですよ。はー、夢でも美味しいものを食べれると幸せだね!


「お茶のおかわりはいかが?」
「もらうー! でもジュースとかないのー?」
「そっちが良ければ用意するよ」
「オレンジジュースがいいー! コーラでもいい!」
「じゃあ、両方用意しよう」


 そう言ってミラーさんがぱんっと両手を叩き合わせる。
 そして次の瞬間、ぽむっと小さな煙が出たかと思えばそのまま彼の両手の中にはオレンジジュースとコーラが入った二つのグラスが握られていて。


「わお! 手品!? ねえ、それ手品!?」
「いいや、これは僕の能力。ここは夢の世界だからね。僕らに出来ない事は殆どない。出来ない事は干渉を拒む人物への能力発動だけ」
「あれー、難しい話だったりする?」
「簡単な話よ。例えばあなたがあたし達の存在を『こんな人達いない』って思ったら、あたし達は貴方と逢う事も喋る事も出来ないの。それだけよ」
「じゃあ、この家が出たのって僕が二人を望んだから?」
「正しくは貴方が迷っていたからだね。『どうしてこんな格好に?』って。だから僕らは正しい答えを案内する」
「あたし達は夢の『案内人』なの」
「へぇー。てっきり僕が作り出した都合の良い夢の住人かと思ってた!」
「それもある意味正しくて」
「でもあたし達は貴方が生まれるずーっと前から此処に居たから半分は間違っているわね」


 僕は貰ったばかりのジュースとケーキを飲み食いしつつ二人の話を聞く。
 不思議な不思議な夢の世界。
 僕が見る変な肉体変化の夢。
 鏡張りの家で美味しいものを食べて、自分のキメラみたいな格好を見て、それが何故なのか二人の夢の『案内人』に説明を受けて――これ、覚えていたらメンバーの皆に教えてあげようっかな! もしかしたら他のメンバーも見ているかもしれないし!


「そうだね、見ているかも」
「逢っているかもしれないわね」
「また心を読まれたよー!! 僕はそっちの心は読めないのにぃー!」
「それは能力の差の違い」
「どの世界にも掟はあるものだから、……ごめんなさいね」
「いや、フィギュアさんが謝ることじゃないけどさー……」


 申し訳なさそうに表情を暗められると僕がしゅんっとなっちゃうからね! ほら、耳は元々伏せ耳だけど心持ちもっと垂れちゃうから!
 だから僕は元気を出して貰うために両手を高く上げながら元気良く言うんだ。


「あのね、もし次があるなら僕今度は黒ちゃんとお揃いがいいなー!」
「ああ、君が召喚出来る不定形生物の事だね」
「知ってるの!?」
「知らないと思うかい?」
「……うーん、なんだか悔しい」
「ふふ、この世界に居るだけで貴方の事は大体分かってしまうのよ。だからあたし達は案内することが出来る」
「君が次この場所に来たいと思ったなら、その不定形生物の黒ちゃんとやらとお揃いがいいと強く念じるといいよ」
「そうしたらなる?」
「かも」
「びみょー!!」


 決して断言はしないけれど、その曖昧さがまさに夢。
 僕は今宵、ひと時の変わった夢を見る。
 二人の案内人とおしゃべりをした、それだけの他愛のないものだけど――。


「ふぅーん。明日はいっぱいいっぱい念じて寝ようっと!!」


 僕はこのやり取りを決して忘れないようにしようと、心に決めた。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8622 / 九乃宮・十和 (くのみや・とわ) / 男 / 12歳 / 中学生・アイドル】

【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、そして初めまして! 今回は参加有難う御座いました!
 不思議な一夜の夢、楽しんでいただけましたでしょうか。今回はファンなどの周囲の影響と言う事で奇妙な格好になってしまったわけですが、十和様が望めば猫耳、悪魔羽となれますので、もしまた機会が御座いましたら遊びに来てやってくださいませ。
 少しでもこの一夜の夢を楽しんでいただける事を祈りつつ……。

 ではでは!