■とある仕事場の風景■
三咲 都李 |
【8622】【九乃宮・十和】【中学生・アイドル】 |
ここは東京。白王社の一角にあるアトラス編集部。
ドアを開ければ聞きなれた声で叱咤激励が飛んでくる。
「あんたたちが持ってくるべきはスクープ! そして、それを持ってこない限り休みはないと思いなさい!」
「ひぃいいいい〜」
鬼編集長・碇麗香(いかり・れいか)の声がわらわらと編集部の人間達を操り人形の様に動かしていく。
…と、1人の少年がこちらに気が付いた。
「あれ? どうしたんですか?」
編集部のアルバイトである桂(けい)だ。
「編集長なら…まぁ、わかりますよね。三下さんはあそこで原稿作ってますよ」
指差す先に三下忠雄(みのした・ただお)が必死の形相でパソコンのモニターとにらめっこをしている。
「で、今日は何かあったんですか?」
桂はにこりと微笑んだ。
|
とある仕事場の風景
− ネコ耳記者・現る −
1.
「で? このネタはあなたが撮ってきたんじゃないのね?」
パソコンに映し出された写真を碇麗香(いかり・れいか)は眉根を寄せてじっと見つめる。
その後ろからおそるおそる顔色を伺うように三下忠雄(みのした・ただお)は小さな声で言い訳をする。
「そ、それが途中から何も覚えてなくて…」
「まぁ、そうよね。あなたがこんな大物のネタ捕まえてくるなんて天地がひっくり返ってもそうそうないことだわ」
「…返す言葉もありません…」
ここは東京の片隅にある出版社・白王社が出版する雑誌『月刊アトラス』編集部である。
麗香は若いが月刊アトラスの敏腕編集長である。
そしてその碇とそんなに年齢は変わらないのにびくびくしている三下はただの一編集員である。
…と、そんな深刻そうな2人の元に…いや、正確には三下の背中に飛び乗ってきた者がいた。
「面白いネタ、持ってきたよー!」
「あ、わわわわ!?」
ネコ耳のニット帽、猫のシールがついたデジカメ。
第一印象、女の子なのか男の子なのか…?
「…あなたは?」
冷静に麗香がそう聞くと、くりんとした瞳を麗香に向けてにっこりと笑った。
「僕、九乃宮十和(くのみや・とわ)! よろしくね!」
「三下君の知り合い?」
「え!? えっと…た、多分…?」
しどろもどろに答える三下にまだ乗りかかったまま十和はぷぅっと頬を膨らませた。
「ひどいな〜。僕、あんなに一生懸命頑張ったのに…覚えてないんだ…」
「えぇ!? あ、ああっ!? もしかして…」
三下はパソコンのモニターに目を移す。
そこに映し出されているのは、行った記憶はあるものの撮った記憶のない写真ばかり。
そして、記憶は繋がった…。
2.
それは都内でもまだ新しくできたて(?)の心霊スポットだった。
外観はそれほどおどろおどろしくもない洋館。つい先日まではとある資産家の住まいだった。
それが、突然の資産家の失踪から始まり、心霊スポットの噂へとなるのに時間はかからなかった。
「何で僕が1人でこんなところに…」
噂の心霊スポットとあらば月刊アトラスは一番乗りせねばならない。
そして取材に訪れたのが三下忠雄、その人であった。
頃は宵闇、まさに幽霊さんカモーン!な時間帯である。
…とはいえ、三下は大層な怖がりである。宵闇の心霊スポットに1人ではいる勇気など到底持ち合わせてはいない。
「うわぁぁぁぁ…」
小さく呟いて震える膝を抱え込んで座り込んでしまった。
「今日もいい月が出そうだなぁ」
薄暗い道をネコ耳ニット帽をぴょこぴょこ揺らして歩くのは九乃宮十和である。
途中で面白いことないかなぁと風の吹くまま、気の向くままにお散歩中である。
「…ん?」
宵闇に、十和は道の真ん中に転がる大きなゴミを発見した。
これはいけない。誰かがきっと捨てていったんだ。
悪いことする人がいるんだなぁ…。
「えーい!」
思いっきりゴミを蹴り上げた瞬間「うわ!!!」っとゴミが飛び跳ねた。
「…びっくりしたぁ」
「びっくりしたのはこっちですよ! 何で僕が蹴られなきゃいけないんですか!?」
「えっと、ゴミだと思ったから?」
動き出したゴミ…もとい、人は眼鏡を直しながらかっくりと頭を垂れた。どうやらゴミ扱いされたことにショックを受けたようだ。
「ごめん。でも、道端で座ってるなんて危ないよ。おにーさん、具合悪いの?」
「…あ、いえ。そういうわけでは…。これ、僕の名刺です。怪しい者じゃないです」
そう言うと1枚の名刺を十和に差し出した。
そして、目の前の相手がアトラス編集部員・三下だと知ったのである。
「取材!? もしかして、もしかしなくても取材!?」
ワクワクが止まらない。
「え、えぇ。このお屋敷の取材を…って!?」
「じゃあ早く行こう! 僕もついていってあげるよ」
十和はにっこり笑って、むんずと三下の襟首を掴み、ダッシュで洋館へ!
「ちょ、ちょっと待ってくださ…心の準備がーーーー!!」
三下の悲鳴が洋館に吸い込まれて消えた…。
3.
「もっと汚いかと思った」
幽霊の取材ならもっと埃がすごくて、いかにも〜!な感じを予想していただけに、十和は洋館の中が綺麗なのに落胆した。
明かりは月明かりと三下が持ってきた懐中電灯だけである。
「な、何言ってるんですか! 人がいないだけで充分怖いですよ!」
「おにーさん、怖がりだなぁ。あ、あっち行ってみよ!」
ガクブルの三下の手首を捕まえて、隣の部屋に移動する。
そこは応接室なのか、ソファセットがそのままおいてある部屋だった。
「ソファに時計に飾り棚…何にもないね」
きょろきょろとする十和の隣で、十和に隠れるように三下も辺りを見回す。
「う、噂ですもんね…で、出ないこともありますよね…?」
1人そう納得しようとした三下の目の前をティーカップがフワフワと通り過ぎていく。
「………っ!?」
「うわー! これって…えっとなんだっけ?? まぁいいや。ユーレイの仕業だよね! 写真撮らなくていいの?」
無邪気に喜ぶ十和の横で顔面蒼白の三下。
十和は仕方なしに、三下が首からぶら下げていたデジカメとポケットに入っていたボールペンとメモ帳を勝手に取り出した。
デジカメでフワフワ浮かぶティーカップを取り出し、メモ帳に「ティーカップが飛んだよ」と書き残す。
「よし! 次行こう! ん〜…次はこっちだ!」
固まったままの三下を連れて次の部屋へ。
ここではガタガタと震えだす家具に『出て行け〜』の声が聞こえた。
「うわー! こわーい♪」
「ひぃいいいいい!!!!」
十和が進む部屋全てで怪異現象が起こる。
冷たい手で足を捕まれたり、鏡を見れば後ろに見知らぬおじさんが立っていたり、フランス人形が睨んだり。
その度に十和はカメラで撮影し、メモを取った。
「面白いね、おにーさん!」
無言の三下を振り返ると…立ったまま白目をむいていた。
「…あり? 寝ちゃった?」
寝てません。気絶してます。
「しょーがないか。お仕事忙しそうだもんね」
うんうん、と1人誤解した十和。
その月明かりに照らされた十和の影が伸びていく…。
4.
「もうちょっと見たいし…ここには置いていけないし…ちょっと重いけど持って行こうかな」
18歳の姿になった十和は三下を担ぐと、また部屋を回りだした。
「ユーレイさん♪ 出ておいで♪」
鼻歌交じりに部屋を巡れば、複数の足音がどこからともなく聞こえたり、しくしくと泣き声が聞こえたり…。
なんだか楽しくてたまらないので、何枚も写真を撮ったりメモを取ったりした。
そのうち幽霊たちも動じない十和に違和感を覚えたようで、出口に向かう頃にはめっきり何も仕掛けてこなくなった。
「あーおもしろかった! また遊ぼうね!」
後ろを振り向いて洋館の中にそう声をかけると…
『おまえ、脅かしがいがなくて面白くないわい』
と声がした。
「ちぇーっ。ケチィ!」
ぷぅっと膨れて、三下とであった洋館前まで戻る。
三下はまだ目を覚ましていないようだ。
「僕が代わりにお仕事したし、きっと少しは楽できるよね♪」
そう言って三下の首にデジカメを返し、ボールペンとメモをポケットに返した。
メモは返す前に、可愛いニコちゃんマークに『頑張ったで賞』と描かれたシールを貼っておいた。
誰かに褒められるのは嬉しいはずだ。
だって僕は嬉しいもん。
「じゃあね、おにーさん!」
背の高い十和はぶんぶんと大きく手を振ると、夜の暗闇に消えていった。
「………はっ!」
三下が意識を取り戻したのは、それから約10時間後。
空は明るさを取り戻し始めた翌朝のことであった。
もちろん、途中から何があったのかは覚えていなかった…。
5.
「僕頑張ったんだよー? あ、それ、僕の撮った写真だぁ!」
モニターに映った心霊写真を見ながら、きゃっきゃっと喜ぶ十和。
「お礼、言っておきなさいよ?」
麗香から冷たい目で見られ、三下は青ざめて十和にお礼を言った。
「その…ありがとうございました」
「ううん、僕も面白かったから。そうそう! また面白いところがあったから一緒に行こうと思って!」
その言葉に三下はさらに青ざめる。
「いいいいいい、今からですか!?」
「うん、今から♪」
屈託なく笑う十和に、救いの手を求める三下の視線が麗香に注がれる。
「…三下君よりいい仕事するわね。うちにスカウトしたいくらいだわ」
「そ、そんなぁ…」
半泣きの三下はがっくりと肩を落とした。
「ねぇ…十和君って言ったかしら? あなたもしかして…アイドルグループのMistの『ティール』君かしら?」
唐突に麗香がそう聞いた。
「ティール? 誰それ? 僕、判らない」
きょとんとした十和の瞳は、まっすぐでとても嘘をついているようには思えない。
「…そう。ごめんなさい。勘違いみたいね」
麗香はそう言って笑うと、三下に向き直った。
「それじゃ、今から十和君の情報を元に取材してらっしゃい! 今度は自力でね!!」
「は、はいいぃぃぃぃ…!!」
「あははっ! じゃあ、いってくるね!」
最高の笑顔で麗香に挨拶すると、十和はネコ耳帽子を揺らして三下と共に月刊アトラス編集部を後にした…。
■□ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
8622 / 九乃宮・十和 (くのみや・とわ) / 男性 / 12歳 / 中学生・アイドル
NPC / 碇・麗香 (いかり・れいか) / 女性 / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長
NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / 男性 / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員
■□ ライター通信 □■
九乃宮・十和 様
こんにちは、三咲都李です。
この度はご依頼ありがとうございます!
ネコ耳帽子の可愛い十和様…しかもMistのメンバー!?
犬みたいにころころした感じをがうまく出てるといいのですが…。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
|
|