■とあるネットカフェの風景■
三咲 都李 |
【8622】【九乃宮・十和】【中学生・アイドル】 |
「面白いことないかな〜」
パソコンのサイトを眺めながら、はぁっとため息をついた。
ここのところ面白い情報は入ってこない。
停滞期。
それはどんなものにでもあるものだ。
「まぁまぁ。とりあえず飲み物でも飲んで落ち着いて?」
ふふっと笑って影沼ヒミコ(かげぬま・ひみこ)は少女の前に飲み物を差し出した。
と、誰かがネットカフェに入ってくる気配を感じた。
少女達が振り向くと、見知った顔である。
「あー! どうしたの? なんか面白いことあった?」
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とあるネットカフェの風景
− 猫耳記者・今日も行く! −
1.
11月の空は高い。
見上げれば雲一つない快晴。こんな日はじっとしていられない。
「今日も取材日和だね♪」
猫耳帽子にで猫耳シールつきのデジカメをぶら下げて、九乃宮十和(くのみや・とわ)はぶらりと街に繰り出した。
風はなく、ポカポカとまるで春のように暖かい。
でも、風の吹くまま気の向くまま、足の向くまま、思うまま。
十和はあちこち歩いて思うままに写真を撮ったり、猫に話しかけたり。
「『面白いネタは歩いて探せ』ってへんしゅーちょーのおねーさん言ってた」
どこかに面白いことがきっとあるはず。
だって犬も歩けば棒にあたるんだから、ボクが歩いたらきっとネタに会えるんだ。
足取り軽く道を行けば、聞こえてきたのは噂話。
「ねぇ、知ってる? 大通りの3つ並んだ公衆電話の話…」
ぴくぴくっと耳をそばだてて聞いてみると、ちょっとオカルトチックな噂のようだ。
でも、ここからじゃうまく聞き取れない。
「…! そうだ! 今から行ってみればいいんだ」
ナイスアイデアだね、僕♪
大通りはここからそう遠くない。
スキップしながら十和は向かう。落ち葉の通りは秋模様。
楽しい♪ 嬉しい♪
今日は何が待っているのかな?
2.
大通り…3つ並んだ…公衆電話?
公衆電話って…なんだろう??
大通りまで来たはいいが、大きな疑問に足が止まった。
携帯電話全盛に生まれた12歳・九乃宮十和。
公衆電話がよくわかってませんでした!
「えっと…あ! あのおねーさんに聞いてみよう!」
デジカメを持った可愛らしい少女が目に付いた。
十和はためらうことなく少女に話しかけた。
「おねーさん、おねーさん!」
「…ん? なに? あたし??」
少女が振り向くと、何となく見覚えのある顔のような気がした。
「うん、ちょっと教えてほしいんだ! あのね、『こーしゅーでんわ』って何?」
「…えっと、あそこのあれのことだよ?」
少女は少し行った先の大きな箱を指差した。
箱はガラス張りで、言われてみれば確かに中に電話の受話器のようなものが見て取れる。
そして、指差されたそれはきっちり3つ並んでいた。
「!? そっか、あれだったのか。噂のこーしゅーでんわ!」
その十和の言葉に少女がピクリと反応した。
「噂の…? きみ、もしかして公衆電話に掛かってくる幽霊電話の噂を知ってるの?」
「!? おねーさんもそのネタ、追ってるの?」
少女の言葉に今度は十和が驚いた。
シーッと少女は十和に静かにするように口に人差し指を当てた。
「あんまり目立ちたくないの…あ、あたしSHIZUKUっていうの。これでもアイドルやってるんだよ♪」
にっこりと笑ったSHIZUKUと名乗った少女は、ひそひそと声を潜めた。
「高校の方でも怪奇探検クラブっていうのやってて…で、今回はこれを追ってるってわけ」
何となく先を越されていたような気がして、十和はぷぅっとふくれっ面になった。
「むー……おねーさんには負けないもん」
「あ、ちょっと!!」
突然十和は走り出すとバタンと公衆電話の扉を開けて、中に入り込む。
「ちょっとぉ! あたしの方が先なのにぃ…!」
むくれっ面のSHIZUKUは放っておいて、十和はガチャガチャと電話をいじり始めた。
しかし、ほぼ掴んだ情報皆無の十和には、何をどうしていいかわからない。
ちょこっといじって、十和は諦めて外に出た。
「もういいの?」
「使い方、わからない」
「…しょうがないなぁ」
SHIZUKUは公衆電話の扉を開けると十和を手招きした。
「いい? ここにね、10円玉を入れる。そしたら…今回は幽霊電話の噂の番号へっと…」
ぴっ…ぽっ…ぱっ…
呼び出し音が鳴る間、SHIZUKUはここの他にも幽霊電話がかかるという噂のある場所を教えてくれた。
「…ん〜…今日はダメなのかなぁ…」
SHIZUKUがそういって振り向いた時、十和は既にいなかった。
「絶対、絶対ボクがネタ探すもん!」
密かにアイドル同士のプライドが激突していた。
3.
幽霊電話の噂をもっともっと集めた結果、SHIZUKUが教えてくれた場所以外にもまだまだあることが分かった。
やった! ボクの勝ちだ!
「おねーさんに勝ったもんね♪」
ツーステップで目的地に到着すると…そこには既にSHIZUKUがいた。
「あれ? この間の…」
「なんでここにいるのー!?」
「だ、だって、調べたらここも幽霊電話の噂があったから…」
「…(かくっ)」
うなだれた十和にSHIZUKUは「大丈夫?」と声をかける。
「大丈夫。それよりおねーさん。ボクと手を組もう! そうしたらきっとこのネタをつかめると思うんだ!」
思わぬ十和の言葉にSHIZUKUは少し驚いたようだ。
だが、すぐに笑顔になった。
「よし! きみとならあたしもやれる気がする! …あ、そういえば名前まだ聞いてなかったね。名前教えてもらってもいいかな?」
「九乃宮十和だよ! よろしくね」
「よし、じゃあ十和くん。あたしと十和くんは今からチームだよ!」
差し出されたSHIZUKUの手。それを十和はにっこりとつかんだ。
「ふふっ。じゃあ、あたしの知ってる情報、全部教えちゃおう♪」
SHIZUKUは学生鞄から手帳を取り出すと、十和に見せた。
そこにはびっしりと書かれたオカルトの噂話に関する情報。
いったいどこをどうしたらこんなにたくさんの情報が集まるのか?
「すごいね〜」
十和が目を丸くしていると、SHIZUKUは事細かに情報の詳細を語りだした。
十和が集めたよりもっともっと詳しくて、大量の情報だ。
「幽霊電話の噂は結構前からあってね。でもまだ全然全貌が見えてこないんだよね…」
話を続けるSHIZUKUの顔はとっても充実していて、楽しそうだ。
プライドが少しだけまぁるくなって、勝ちとか、負けとかそういうんじゃないんだなって思えた。
僕も…こうやって楽しいことを楽しく探したい!
「それ、おねーさんに譲る。僕はもっと面白いネタを探しに行くよ」
十和はそう言った。
「えっ!? 今チーム組んだばっかり…」
「うん、何か情報見つけたらおねーさんに教えるけど、このネタはおねーさんのほうが先だし…僕もおねーさんみたいに頑張りたいんだ!」
少しびっくりしたような顔をしたSHIZUKUだったが、すぐに笑顔になった。
「そっか…じゃ、お互いいいネタ掴もうね!」
「うん!」
こつんっと拳と拳をぶつけて、SHIZUKUと十和はその場で別れた。
そうだ! やっぱネタ探すならあのおにーさんを連れて行かなくっちゃ!
そうして十和は、白王社へと…月刊アトラス編集部へと足を運ぶのであった。
4.
「SHIZUKUちゃん。今日の番組のリポートは今人気急上昇、花丸チェック中のアイドル『Mist』のメンバー、ティールくんと一緒よ! あの子可愛いのよねぇ♪」
「へぇ…Mistかぁ…。アイドルもオカルト系の番組なんて出るんだね〜」
放送局の控室で、SHIZUKUは化粧をしながらマネージャーとそんな会話を交わす。
…自分もアイドルなのを棚に上げて…。
こんこんっ
「はーい! どうぞ」
控室の扉がノックされて、まずディレクターが挨拶に入ってきた。
「やぁ、SHIZUKUちゃん。ご機嫌いかがかな〜?」
「おはようございます。あたし、機嫌が悪いことなんてないですよ〜」
そんな大人の会話をしつつ、ディレクターの後ろに少年がいるのを発見した。
「ディレクター、その後ろの子…」
SHIZUKUがそう訊くと「あぁ、この子?」とディレクターは少年を前に出した。
「今日、共演してもらう『Mist』のティールくんだよ。初対面だと思って挨拶に来たんだよ」
金色の柔らかそうな猫っ毛。前髪をたくさんのピンでとめ、どこか可愛らしくて男の子だといわれて初めてそう気づく。
「…どこかで会ったことないかな?」
思わずSHIZUKUはそう口に出して聞いていた。
どこか…どこかで会ったような…??
「ううん。初めまして、ティールだよ。よろしくね。SHIZUKUさん」
にっこりと笑ったティールの笑顔は優しくて、それでいてどこか挑戦的だった。
これは…怪奇系アイドルの座にライバル現るっ…て感じかな?
そうそうこの座は渡さないよ〜?
「こちらこそ、よろしくね。ティールくん」
SHIZUKUはにっこりと笑ってそう言うと、ティールとしっかり握手したのだった…。
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
8622 / 九乃宮・十和 (くのみや・とわ) / 男性 / 12歳 / 中学生・アイドル
NPC / SHIZUKU (しずく) / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル
■ ライター通信 ■
九乃宮・十和様
こんにちは、三咲都李です。
ご依頼ありがとうございます。
SHIZUKUと初対面! オカルト系アイドル対決ですね!(どきどき
この先が楽しみです♪ どうなっていくんでしょう…(はらはら
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
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