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■とある日常風景■

三咲 都李
【2778】【黒・冥月】【元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
「おう、どうした?」
 いつものように草間興信所のドアを叩いて入ると、所長の草間武彦(くさま・たけひこ)は所長の机にどっかりと座っていた。
 新聞片手にタバコをくわえて、いつものように横柄な態度だ。
「いらっしゃいませ。今日は何かご用でしたか?」
 奥のキッチンからひょいと顔を出した妹の草間零(くさま・れい)はにっこりと笑う。

 さて、今日という日はいったいどういう日になるのか?
とある日常風景
− Before The 災厄 −

1.
 秋の夕暮は大人のデートの始まりにふさわしい。
 薄暗くなった街に灯りがつき、ほのかな光は腕を組む恋人たちを照らし出す。
「この後、どうするの?」
 黒冥月(ヘイ・ミンユェ)は腕をからませて体を寄せながら、草間武彦(くさま・たけひこ)に聞いた。
「そうだなぁ…とりあえず、どこかゆっくり休める場所にでも入るか」
 そう言われて思わずポッと頬を染める冥月。
「肌寒いし、コーヒーのうまい店とかがいいなぁ」
「…あ…そ、そうね。私もコーヒーがいいわ」
「…なんだ? その妙な間は」
 怪訝な顔する草間に、冥月は「なんでもないの」と強く腕をからませた。
 私は…武彦と2人でいられればどこだっていいのに…。
 なんてことは言わない。言えない。
 惚れた弱みを見せると、武彦はすぐにつけあがる。
 …そして、私はそれをすぐに許してしまうから…。

「ちょっと、そこのお2人さん」

 ぼんやりと、その影は道の隅に潜んでいた。
 いや、ただ、そこに座って居ただけだ。
「なんだ?」
「あなたたちの未来が気になった…少しお話をさせてほしい…」
 黒いフードを目深にかぶった得体のしれない人物。
 その前には大きな水晶玉が鎮座している。
 占い師…冥月はそう判断した。
「よくある手口だな」
 街中にいる大半の占い師は偽物だ。
 人の不安を煽るだけ煽って、多額の金を要求する。
 そんな輩と何を話せというのか…?
「いきましょう、たけひ…!?」
「ほぅ。何が気になるって…?」
 なぜか楽しげに草間は占い師の前に座っている。みすみすその手の上で踊ろうというのか!?
「な、何してるの!?」
「なにって…占いやっていこうぜ」
 そう言って草間は隣の空いた椅子に冥月を呼び寄せる。

 冥月はひとつため息をつくと、その椅子に座った…。


2.
「私、全く信じてないんだけど」
「いいから♪ いいから♪」
 草間は乗り気でない冥月をよそに、占い師に質問する。
「まぁ、とりあえず…そうだな。軽く健康運とか仕事運…ぜひ金運は聞いておきたいとこだな」
 何とも当たり障りのないところを訊く草間に、占い師は水晶玉に両手をかざした。
 …何とも胡散臭さ爆発だが、占い師は静かに言った。
「健康運は煙草の吸いすぎに注意と出ているよ。せめて1日1本にできるように努力して。仕事運は…お金にならないものがよく入ってくるね。それをどう裁くかはあなた次第! 金運は先にも言ったけど、お金にならない仕事ばかり。よいとは言えないね。入ってくるお金よりも出ていくお金を少なくすることを考える方がいいかも。ラッキーアイテムは黒縁メガネだよ」
 …どこの占い本から抜粋したんだ?
 冥月は眉唾物でその答えを聞いていたが、草間は楽しげに「ほー」と感心するのみ。
 現存する証拠を積み重ねていくのが探偵のはずなのに、こんなどこにも根拠のない占いを信じていいのだろうか?
「冥月は? 何か聞いてみたいことないのか?」
 わくわくと何かを期待した目で草間が冥月を見る。
 困った。この顔に弱いのだ…。
「じゃあ、恋愛運とか…け、結婚とか…こども…とか…」
 段々と小さくなる声に、草間はにやけている。
 そんな草間に冥月は小さく肘でつついた。
 占い師は再び水晶に手をかざす。
「では………恋愛運は、悪くないよ。むしろ今の恋人があなたの運を上げているね。婚期はそう遠くない未来…子供はできるよ。可愛い女の子だね」
 占い師の口元がなぜか笑っている。
 不審に思う冥月に占い師は言葉を続ける。
「ただ…あなたたちの前に大きな受難が訪れるよ。そんなに遠くない…怖い…なんて大きな運命の力…!」
 占い師はがたがたと震えだす。
 草間も冥月もいつの間にか神妙な面持ちで、身を乗り出して占い師を見つめていた。
「…でも大丈夫。大きな力があなたたちを守ってくれる。それは突然やってくるけれど、けっして拒否しないでね。…あ、受け入れられないかもっていうなら…」
 ごそごそごそ
「今ならこの、受難の厄除けグッズをお安く提供しちゃう! たったの3000円!!」

「やっぱりそこか!!!」


3.
 セオリー通りの幸運グッズ販売がきたところで、冥月は席を立った。
「もういいでしょ? 武彦。これ以上は話を聞いても無駄だわ」
 草間もふぅっとため息をつくと「そうだな」と席を立った。
「あ、待って! まだ大切な話をしてないよ」
「3000円は払わない。ほかのもっと素直に信じてくれるお客さんに売ってあげなさい」
「違う違う! もっと大切なこと!」
 強く否定する占い師に、冥月はもう一度だけ言葉をかける。
「何を言ってないっていうの?」
 占い師は、ごくりと息をのむと覚悟を決めたように一気にまくしたてた。

「ホストクラブ設立なんて甘い話が来ても絶対に乗らないでね!? あと、体が入れ替わったりしても慌てず騒がず、絶対に目を離さないでね!? それから、商店街のおじさんが商店街の慰安旅行に誘ってきても絶対行っちゃだめだから!!」

 …なんなんだ? この具体的すぎる占いは…??
 冥月の目が点になる。草間の目も点になる。
「…ふーっふーっ…今の言葉、絶対忘れちゃだめだからね!」
 占い師はあっという間に店をたたむと、冥月たちの前から脱兎のごとく消え失せた。

「な、なんだったの?」
「よく…わからんが…占いってのはこんなもんなのか?」
「まさか。普通の占い師は人の悩みを見抜く程度の力しか持ってないはずよ。なのに…なんなの、あれ? 占いっていうより…もう予言の域よ…」
 取り残された冥月と草間はただただ、どうしていいものか悩んだ結果…
「まぁ、なるようにしかならないし、片隅にでも覚えててあげましょう」
「別に悪いことは言ってなかったしなぁ」
 腕をぎゅっと組むと、2人はまた歩き出した。
 夜の寒さがぐっと身に染みる。
 コーヒーよりはお酒の方がいいかもしれない。
「ねぇ、新しいシャンパンを買ったの。2人で飲まない?」
 冥月がそう誘うと「いいねぇ」と草間は微笑んだ。


4.
 …2人が仲良く去っていくのを見守っていた占い師は、目深にかぶったフードを上げた。
 はっきり現れたその顔は、可愛らしい少女そのものだった。
「…これくらい言っておけば、きっと注意してくれるよね」
 ダテではあったが黒縁メガネをかけた少女は、ふぅっと息をついた。
 緊張した。お父さんとは前に会ったけれど…お母さんとは初めてだ。
 お父さんはいつもお母さんのことを訊くと赤くなってボーっとして話が進まなくなってしまう。
 だから、1度でいいからお母さんに会ってみたかった。
 あたしの…お母さん…。
 少し欲望が叶うと次はもっと大きな欲望を叶えたくなる。
 ちゃんと、もっと話したいな…お母さんと…。

「そういえば、あの占い師…ずいぶん若い声をしてたわね」
 シャンパンに合うおつまみを買いながら、冥月は思い出したように言った。
「…そうか?」
「うん、まだ10代か…いっても20代前半くらいね。可愛い女の子の声だったわ」
 冥月がそういうと、草間は何かを思い出したようでふっと笑った。
「? 何か知ってるの??」
「いや、昔…いや、未来にそんな知り合いがいたなぁってな」
 草間の言葉の意味がさっぱり分からない。
「昔なの? 未来なの?? って、未来の知り合いって何?」
 だが、冥月の問いに草間は笑ったまま答えない。

「そのうちわかるさ。近い未来に…な」

 草間の笑みの理由を、後日冥月は衝撃的な形で知ることになるとは思いもよらなかった…。


■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2778 / 黒・冥月(ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒


 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間の娘 (くさまのむすめ) / 女性 / 14歳 / 中学生


■□         ライター通信          □■
 黒・冥月様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 占いネタ、お任せいただきましてありがとうございます!
 やりたいようにやらせていただいたので、冥月様にはきょとん☆な感じに仕上がってますw
 どこまでいけるのか!?
 少しでもお楽しみいただければ幸いです♪