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■あの日あの時あの場所で……■

蒼木裕
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
「ねえ、次の日記はカガミの番?」
「ああ、俺だな」


 此処は夢の世界。
 暗闇の包まれた世界に二人きりで漂っているのは少年二人。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
 ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。


 さて、本日はカガミの番らしい。
 両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
 開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように些か焦って綴られたような文字だ。カガミはスガタの背に己の背を寄りかからせ、それから大きな声で読み出した。


「○月○日、晴天、今日は――」
+ あの日あの時あの場所で……【回帰・後日談3】 +



「にゃにゃーん♪ 今日も今日とてチビ猫獣人、工藤 勇太(くどう ゆうた)様の登場にゃーん! ――と、言うわけで、こんにちはーにゃ!!」


 ばーんっと勢い良くアンティーク調一軒屋の扉を開けば、そこにはいつものメンバーであるスガタにカガミ、そしてミラーにフィギュアの姿が在る。カガミには先に勇太が先日の旅行のお土産を持っていくと話を通しておいたので彼らは突然の訪問には驚かない。むしろやっと来たかというように手招きをするばかり。当然手招かれれば勇太は即彼らの元へと駆け寄り、そして真っ先に今は少年姿のカガミにぽふんっと抱きついた。


「カガミー。数時間ぶりにゃー!」
「はいはい。それで、ちゃんとお土産を引き摺って来たのか」
「ひきずってにゃいにゃー!」
「身長足りてるか?」
「が……がんばって伸ばしてきた、にゃ……」


 ふるふるふると足先を伸ばして心持ち身長を高めながら勇太は手に持っていた紙袋をミラーの方へと差し出す。
 その紙袋を遠慮なく受け取ったミラーはその底が僅かに薄汚れているのを見て、くすっと小さく笑ってしまう。やっぱり引き摺ってきたのだと分かると、他の面々も現在五歳児のチビ猫獣人にほのかに微笑むばかり。だが、ふっとフィギュアが顔を扉の方へと向け、それに続くように他の面々も顔を戸へと向けた。勇太も乗り遅れたものの、そっとそちらへと顔を向ける。すると――。


「たのもーである!!」
「たのもーだ!!」
「ここを開けると良いのだー!」
「だー!」


 何やら激しく戸を叩く音と共に訪問者の叫びが聞こえ、ミラーがゆっくりとそちらの方へと足を運ぶ。
 勇太は一瞬「この声に聞き覚えがあるような……」と首を傾げるが、確証がないためミラーが客人と対面するのをじっと待っていた。そして開かれた扉の先には五歳児ほどの少年が二人立っており、えっへんと胸を張っていた。


「よし、ここに案内人がおるであろう」
「であろう」
「黒と蒼の色違いの目をした黒髪の青年の案内人だ」
「案内人だ」
「先日の一件にて知人となった我らはわざわざ思念を追いかけて遊びに来たのだ。感謝しろ!」
「感謝しろ!」
「――で、これはどっちのお客様なんだい? 説明してもらおうか、スガタにカガミ」


 ミラーが後方を振り返り、該当する容姿を持つ少年二人を見やる。
 するとスガタの方がぴっとカガミに指先を突きつけ、カガミはカガミで静かに挙手をした。その流れを見ていた少年二人が視線を向けるとその腕には当然チビ猫獣人の勇太がいるわけで、うずりと己の中の本能が擽られそのままミラーの脇を通り抜け走っていく。しかもその目は獲物を見つけ輝いており、攻撃の視線を保って……。


「猫発見だー!」
「だー!」
「ぎにゃぁぁ!?」
「喰らえ、我の力!」
「くらえー!」
「――とりあえず踏んでおこう」
「ぷぎゅ!?」
「ぶ!!」
「にゃー!! カガミが子供二人を踏んだにゃー!!」
「人聞きが悪いぞ、勇太。両手が塞がっているから仕方ないだろ。大体先にこいつらが手出ししてきたんだから正当防衛だ」
「ちょ、ちょっとカガミ。やりすぎだってば!」


 さらりと言い切るカガミは至ってマイペースで、突然の訪問者である子供達をやんわりと踏んで攻撃を止めた。流石にそれに関してはスガタの方が慌てて止めに入り、倒れ込んでしまった子供達を起こしに掛かる。


「君たち大丈夫?」
「ぶ、無礼者過ぎるぞ!! この男!」
「うわーん!」
「あーあ、泣かないの。泣かないの。で、君達は狛犬のようだけどどうしたの」
「うむ、真面目に話を聞いてくれる奴がいてよかったのだ」
「のだ!」
「にゃ、にゃんでお前らが此処にいるにゃ……」
「――あ、お前。この前の案内人と一緒にいた深層エーテル界侵入者か」


 ぎくっと勇太の身体が強張る。
 少年達二人の姿をきちんと確認すると彼らは先日の旅行で出逢ったとある神社の狛犬達である事に気付いたのだ。そこで色々と怒られ、かつ迷惑をかけ、尻拭いをさせられて……ある意味もう関わりたくない存在であったのだが、出会ってしまった今となってはもう遅い。
 勇太は唇を尖らせ拗ねる。


「その名称、変にゃ」
「じゃあ、ずぶ濡れ馬鹿」
「ずぶぬればかー」
「にゃー! そりゃあ、あの時うっかりしてたけど、したけどにゃー!!」
「大体なんだ、その姿は。お前もっと大人だっただろう!?」
「だっただろう!?」
「ここに来るとにゃんだか変化してしまうにゃ」


 ごろごろごろ、と既に思考が五歳児程度の勇太はカガミに思い切り甘え抱きつく。この姿の時の勇太は普段の羞恥心などなく、思う存分本能のままに甘えられるので幸せであった。
 だがその姿にぷっと兄弟達はぷっと息を噴出し、にやにやと笑い出した。


「やっぱり馬鹿は馬鹿だった」
「ばかだったー!」
「にゃー!!」
「と、言うわけで遊びに来たから遊んでくれ」
「くれ!」
「は……俺も皆にお土産と土産話をしに来たのにゃ! そして馬鹿っていうにゃー!」
「馬鹿」
「ばか」
「ううううううう……!」


 じたじたと手足を動かしながら唸る勇太をカガミはどうにか宥めようとするも、悔しさは払拭出来なかったらしく暫く腕の中で暴れる事となる。
 その隙に狛犬と呼ばれた子供達は「こっちにおいで」とミラーに手招かれ、すたたたたーっとテーブルの方へと駆けて行ってしまった。しかしちらっちらっと視線がたまに勇太へと注がれる。それにぞくりと悪寒が走るようなものを感じると勇太は耳をぴるぴるさせながらカガミにしっかりとしがみ付く事にした。


「さて、我の名は羅意(らい)! えらいんだぞ!」
「われの名はるい! えらいんだぞ!」
「そうだね、君達は高千穂神社の狛犬だったはずだけど一体どうして此処へ?」
「ふむ、我の話を聞くが良い」
「きくがいい!」
「紅茶は子供用にして……ケーキもあるよ。あと頂いたお土産も――おや、日向夏のクッキーと和菓子だね。折角だし今出させてもらおうかな」
「まあ、今日のお茶会は大人数ね」
「フィギュアが楽しそうならそれでいいよ」
「ミラーが準備に困らない程度の人数なら追い出さなくてすむもの」
「追い出し、だと!?」
「だと!?」
「ふふ、貴方達は今自由の身なのね。旅はどう? 順調かしら」


 黒く長い髪を持つ白ゴシックドレスに身を包んだ少女、フィギュアが狛犬の兄弟達へと話しかける。すると彼らは話を聞いてくれるという意思を彼らに見出し、目を輝かせた。


「うむ! 話をちゃんと聞くが良い!」
「きくがいい!」
「そこのずぶぬれ馬鹿が去った後、我らが仕えていた神より『修行をしてこい』と命を受け、一時的に我らは深層エーテル界の門番の任を解かれ、現在兄弟で風来坊の身である」
「がんばってるんだぞ!」
「だが、そう言われてもすぐに行く場所など思い当たらなかったのだ」
「思い当たらなかったのだ」
「だからとりあえずこの前知り合った案内のところにでも行くかという話となり、その男の念を辿ってきたら此処に来たわけである」
「なにかもんだいあるか!」
「――お前ら、本当に遊びに来ただけだったか。あとそろそろ勇太の事名前で呼んでやれ」
「遊びに来たと言っただろうに!!」
「むきー!」
「大体な、馬鹿は馬鹿でよい!」
「ばかだからな!」
「勇太、落ち込むな。へこむな。面倒だから」
「耳ぺったーんにゃ……」


 狛犬兄弟達の簡単な自己紹介と経緯を聞いた皆は――特にカガミは呆れ、勇太はというと「ずぶぬれ馬鹿」という不名誉なあだ名を付けられて思い切り落ち込み始めてしまう。
 神の眷属という事で、彼らに対して一応は不躾な態度は取らないもののそれでも外見がただの子供ゆえに出てくる菓子や紅茶は彼らの舌に合いそうなものばかり。
 ミラーは一瞬狛犬と言う事で緑茶でも出そうかと迷ったが、土産のクッキーの事を考えあえていつも通り紅茶を出す事にした。それにテーブル前の椅子へと円状に囲むように座った彼らは遠慮なく手を付け、幸せそうに表情を綻ばせる。


「なんだ、この茶は! 美味いぞ!」
「はじめてのあじだ!」
「緑茶とはまた違う味わいなのだな!」
「うまいうまい!」
「そこの男、ミラーと言ったか。少し尊敬してしまったぞ」
「おかわりー!」
「気に入ってもらえて何より。おかわりも遠慮なくどうぞ。でも飲みすぎには注意してね」
「――まあ、大丈夫だ」
「だいじょーぶだ!」
「……間が気になったけど、良いかな」
「ふふ、ミラーのお茶を褒められるとあたしも嬉しいわ」


 初めて飲んだ紅茶の味に狛犬兄弟はキラキラと目を輝かせ、尊敬の眼差しをミラーへと向ける。フィギュアもそんな彼らの様子を微笑ましく見守りながら、次いでケーキもどうぞ、と皿を差し出した。これにも兄弟たちは大喜びで食べ、口元にクリームが付くのもお構いなしで食べ始める。
 一方、カガミの膝の上を陣取った勇太もまた慣れた仕草で出されたケーキと紅茶を飲み食べしつつ旅行の話を皆にし始める。その最中にどうしてこの兄弟に出会い、……不本意ながらも「ずぶ濡れ馬鹿」と言われるきっかけとなった出来事も説明した。
 緊急事態という事で雨の中、傘も持たずにテレポートで飛び出したのがそれ。
 狛犬兄弟に一応声を掛けられたにも関わらず……やってしまった事を思い出し、勇太はぺしょーんっとテーブルの上に顎を乗せ凹んでしまった。


「ううう……お前らがあの時必死だったから必死に応えただけにゃのに〜……」
「だからといって傘も持たずに飛び出すから雨避けの力でも持っているのかと思ったぞ!」
「思ったぞ!」
「だが、なかったらしいな! 馬鹿だ!」
「ばかだー!!」
「……にゃ、にゃきたい……」
「大体猫の姿をしおって! 弄らせんかー!!」
「とつげきー!」
「にゃにゃー!!??」
「――だから、暴れんなって」
「いだだだだー!!」
「いだー!」
「頬、頬をつねるな! 我は神の眷属であるぞ!? 無礼者!」
「ぶれいものー!」
「へぇ、一般人を襲う神の眷属か。主が泣くな」
「カガミ、離してあげなよ。ほら、こっちにおいで」


 カガミは冷ややかな表情を浮かべながら狛犬達の頬を強く抓っていた指先を離す。
 スガタはというとそんな彼らの赤くなった頬をそっと手で撫で、ゆっくりと治療の念を込めて手当てをする。言うほどの痛みではないが撫でられた事により、狛犬兄弟達はスガタの方へと意識を向けた。


「お前、顔は同じなのに優しいな!」
「やさしい!」
「そっちの男とは大違いだ!」
「いたかったのだ!」
「まあ、カガミは工藤さん寄りだからね。性格も対面した君達に合わせて変わるし……っと、これで赤みは引いたね」
「ふむ。褒めてつかわす」
「つかわす」
「そう? 痛くなくなって良かったよ」
「よし、我を膝に乗せろ!」
「のせろー!」
「え、二人も乗らないと思う」
「根性を出せば乗る!」
「のるのだ!」
「片足ずつでいいかな。……足痺れそう」


 狛犬兄弟は庇ってくれたスガタに心を許し、両手を伸ばして抱きあげをねだる。
 それに対して十二歳ほどの外見を持つスガタは己の身体を一度見下ろしてから、自身の面積を考えつつ二人を膝の上へと案内することにした。これに満足した狛犬兄弟は鼻歌を歌いながらまたもテーブルの上に並べられている和菓子へと手を伸ばし、嬉しそうに食べ始める。二人が落ちないようスガタはしっかりと彼らの腰に両手を回して固定すると、物が食べられない事に気付いた兄弟が気を使い彼に対してクッキーや一口サイズに切った和菓子を運び始めた。
 すっかり狛犬兄弟に懐かれてしまったスガタはそれでも楽しそうに笑いながら彼らが運んでくる菓子をぱくりと食べて。


「すっかり馴染んでやんの」
「にゃー……『ずぶ濡れ馬鹿』はいやにゃー。それにこの姿だと二人に弄られるにゃー」
「まあ、そうだろうな。俺達は別になんとも思わないけどよ」
「なんだ、お前。そんなこと気にしていたのか!」
「気にしていたのか!」
「ずぶ濡れ馬鹿は猫ゆえに弄りたくてたまらんのだー!」
「たまらんのだー!」
「犬の本能なのだ、諦めろ!」
「あきらめろ!」
「って言っているし、弄られたくないなら元に戻れば良いんじゃね」
「く……そ、そうするにゃ!! えい!!」
「あ、この状態で戻るのか」


 ぽふんっと力を込めて勇太はチビ猫獣人の姿から元々の高校生姿へと戻った勇太はほっと一安心とばかりに息を吐き出す――が。


「……重い」
「え、あ、うわー!! ごめん、カガミー!! 少年姿のままだったー!」
「ったく、潰す気か。よっと」
「えええ!?」


 今度はカガミが肉体を青年へと変化させ、素早く勇太の腰へと両腕を回してがっちりと捉える。この事により、元に戻った勇太は青年カガミに抱きついているという状況が出来上がってしまい、それに気付いた当人はというと……。


「うわ、ちょ、ちょっと下ろせってカガミー!」
「はいはいはい、後でー」
「恥ずかしいってばー!」
「さっきまで抱いててやったのに?」
「五歳児と高校生を比べんなよ!」
「どっちも勇太だろうが」
「ぎゃー! 耳元で囁くな! 無理無理無理ー!!」


 羞恥心で心がいっぱいになった勇太は顔を一気に赤らめ、カガミの腕の中から抜け出そうとする。だがそれを許すほど甘いカガミではない。腕にしっかりと力を込め、それはもう暴れる勇太を離すまいとにやにやと意地悪く笑うばかり。


「なんだ、あの二人。やっぱり馬鹿じゃないか!」
「ばかばっか」
「二人とも、名前はちゃんと呼んであげないと駄目だよ」
「じゃあ、スガタも我らの事を名前で呼べ!」
「よべー!」
「ん? 羅意さんに留意さんかな」
「よ、呼び捨てでもいいぞ……!」
「いいんだぞ!」
「じゃあ、羅意に留意」
「うむ。呼び捨てを許す」
「ゆるす」


 カガミと勇太のやり取りを見ていた狛犬兄弟達は結局最後の最後まで勇太の事を名前では呼ばず、彼は変わらず「ずぶ濡れ馬鹿」のまま。
 しかしスガタに自分達の名を呼ばせる事に成功して満足した彼らは「次はどこに行けば良いかのう」、などと『案内人』である彼らに相談を持ちかけ始める。


「カガミー! ホントに勘弁してくれー!」
「まだ駄目ー」
「ぎゃー!!」
「――煩い馬鹿どもだ」
「ばかだ」
「にぎやかで平和ね。ね、そう思わない。ミラー」
「多少は騒がしすぎる気はするけれどね」
「ふふ」


 今日の訪問者は猫が一匹と犬が二匹。
 部屋の中で騒ぐ彼らのにぎやかさにミラーがほんの少しだけ困ったように肩を竦めた。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8630 / 羅意 (らい) / 男 / 5歳 / 神使】
【8631 / 留意 (るい) / 男 / 5歳 / 神使】


【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回は3PCでの発注有難う御座いました!
 例の後日談。そして例のお二人が参加という事でうきうきと書かせて頂きました^^

■工藤様
 弄られ役ということでどうでしょうか。
 最後はがっちりホールドしておきますので、頑張って抜け出してください(にっこり)