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■第9夜 最後の秘宝■

石田空
【1122】【工藤・勇太】【超能力高校生】
 午後11時30分。

「あっ……!!」

 オディールが手を伸ばした時、それは光になって、どこかに飛んで行ってしまった。
 オディールは伸ばした手を彷徨わせて、溜息をつく。
 明日は聖祭。
 1月以上もかけて皆が準備してきた、それ以上かけて練習してきた、大事な祭りである。
 その中に、「秘宝」は消えてしまったのだ。

「探さないと……」

 オディールの小さな呟きは、風にかき消された。
第9夜 最後の秘宝

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 午後9時5分。
 後夜祭は和やかな雰囲気が漂っていた。
 中庭には木が組まれ、火がくべられる。火の粉がパチパチと飛び散り、その音に合わせて、一組、また一組と火の周りで踊り始める。
 音楽科の生徒達も発表の時の重厚な音楽から一転、伸び伸びとダンスに合うような楽しげな音楽を奏で始め、昼に感じたピリッと引き締まった雰囲気とはまた違う雰囲気に彩を添える。
 でもなあ……。
 工藤勇太は屋台の苦い紅茶で喉を湿らせながら、ダンスの輪からギリギリ離れた場所で、この様子を見ていた。

「おーい、工藤君ー! 今一人?」

 と、自分を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、クラスメイトの女子達だった。

「んー、まあ今は一人かなあ」
「じゃあさ、あそこで踊らない? 一緒にさ」
「あー……」

 クラスメイトの女子の顔が気のせいか赤いのは、何も火の赤い灯りだけのせいではないらしい。
 でもなあ……。
 勇太は困ったように首を傾げた後、手をパンッと合わせた。

「ごめんっ、今から用事なんだっ」
「えー……後夜祭に用事って釣れないなあ」
「ほんっとうにごめんっ、記事書かないと駄目なんだ」
「あー……新聞部だもんねえ。怪盗騒動も大変そうだもんね、頑張って」
「うん、用事終わったら踊ろう!」
「あはは、待ってるねー」

 クラスメイトは割と分かってくれる子で助かった……。勇太は笑って手を振って去っていく彼女を拝むようにもう一度手を合わせた後、さてと気を取り直す。
 ちょうどゴミを捨てに行っていた海棠秋也が戻ってきた。

「……今女子から誘われてたのか?」
「あー、うん。嬉しいんだけどねえ……」
「そうだな」

 秋也が複雑そうに目を伏せつつ、「さっき耳に挟んだ」と話題を切り替える。

「自警団は特別塔に詰めているらしい」
「あー……立入禁止区域に指定されている?」
「ああ」

 確か特別塔は化学室や生物室、家庭科室など、移動授業用の教室が入っている塔である。
 そして、最上階には生徒会室がある。
 さしずめ、生徒会室に茜三波がいるのだろう。

「でもどうする? 立入禁止区域にされているのなら、自警団と鉢合わせると厄介だが……」
「まあ、これは得意分野かなあ」

 少なくとも、学園内ならテレパシー能力はあまり暴走したりはしないのは、何度も実験をして分かっている事だ。

「自警団の先回りは、俺の能力でできるからさ」
「ああ……」

 前に話をしていたせいか、秋也は納得したように頷いた。

「じゃあ、特別塔の方に行ってみよう!」
「ああ」

 こうして、勇太と秋也はひっそりとフォークダンスの輪から離れ、灯りの落ちた道へと走って行った。

/*/

 午後9時20分。
 勇太は足音を殺しつつも、階段を足早に駆け上がっていた。この時ばかりはテレパシーの偉大さを思い知っていた。少なくとも、自警団の裏をかけるのだから、走っていても鉢合わせる事がないのだ。
 最後の階段を昇り終えた時、聖祭が始まる直前に取材に入った生徒会室の重い扉が見えてきた。

『どうして』
  『どうして』
『脇役は嫌』
 『脇役は嫌』
   『見て欲しい』
『私だけを見て欲しい』
  『主役でなければ見てくれないの』

 扉の向こうからは、顔をしかめんばかりの思念の声が溢れ返っていた。そして、明らかに三波の声も混じっている。でも、三波と思念以外の声は聴こえないと言う事は、まだ怪盗は到着していないらしい。
 勇太はメールで秋也に報告を入れる。

『副会長は生徒会室にいる。でもまだ怪盗は到着していないみたい。怪盗は見つかった?』

 数分も経たずに、着信ランプが点滅し、思わず勇太は手でそれを隠す。これで自警団に見つかったら、何のためにここまで来たのか分からなくなってしまう。

『まだ見つからない。でも多分声が聞こえているのなら、そっちに向かうはずだ』

 それならいいんだ。
 勇太はズボンのポケットに携帯をねじ込むと、ノックもなしに扉を開け放った。
 灯りもついていない生徒会室には、自警団服に身を包む三波の姿があった。

「……ここは今日、立入禁止区域に指定しているはずですが」
「知っています。でも今日は俺は、あんたと話をするためにここまで来ました」
「……」

 三波に刻まれている表情は剣呑としたものだったが、それは不安げに揺れている。
 勇太は黙って扉を閉める。

「副会長は……最後の秘宝を持ってはいませんか?」
「え……?」

 棘のある返事。
 それでも勇太は屈しない。
 聞こえているのだ、これだけの思念を。それに当てられて色んな人達が嫉妬に駆られているのも。嫉妬し続けて苦しくない訳がない。

「あんたの気持ちは分かる。苦しいのは。会長の事を想って、会長に振り向いてもらえないって悩むのは。でもそれは間違ってる」
「……!」

 三波が目を見開くのに、勇太は尚も言い募る。

「……だからと言って、怪盗を傷付けていい道理なんかないはずだ」
「……さい」

『うるさい』
  『黙れ』
 『黙れ』
   『黙れ……!!』

 思念が泣き叫ぶ。
 ひりひりするような悲痛な声だ。
 それでも……やめる訳にはいかない。

「……信じてもらえないかもだけど、俺は人の心が読めてしまうから、だから、あんたの気持ちは分かる。だから……」
「黙れ……!」

 三波が椅子を思いっきり引っくり返す。でもそれは勇太まで届かない。……彼女自身もまた、分かっているのだ。本当は人を傷付けていい道理なんてないと言う事は。

「……怪盗を捕まえて、それで会長の気持ちを繋ぐって言う方法じゃなくって、真っ向勝負から言ってみた方がよくない? ほら、あの人、きっと言われるまで気付かないよ」
「……」

 声は静かになった。
 思念の声もまた、なりを潜めた。
 と……思念の声の出所に、勇太はようやく気が付いた。
 苦痛の表情を浮かべる三波の傍に寄ると、三波はビクリと肩をハネさせる。

「あー、ごめん。怖がらせるとか、そう言う事じゃなくって」
「え……?」
「んー……」

 取材に行った時、どうして気付かなかったんだ。
 勇太は三波の髪に触れると、三波は信じられないような物を見る目で見てきた。あー、本当に悪い事した。でもすぐ終わるから。
 彼が三波から抜き出したのは、前髪を留めていたヘアピンだった。
 触ると本当に普通のヘアピンにも関わらず、時折文句ったらしい思念の声が聞こえる。
 どうしてこれが秘宝になっちゃったんだろう。
 これは後で理事長にでも聞いてみればいいのかな。
 勇太は秋也の言葉を信じて、怪盗を待つ事にした。
 と、カーテンがなびく。
 振り返った先には、仮面越しにこちらを見る黒鳥の姿をした少女がいた。

「ああ、ちょうど渡したいものがあったんだ」

 そう勇太は笑顔でヘアピンを差し出した。

<第9夜・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122/工藤勇太/男/17歳/超能力高校生】
【NPC/海棠秋也/男/17歳/聖学園高等部音楽科2年】
【NPC/茜三波/女/16歳/聖学園副生徒会長】
【NPC/怪盗オディール/女/???歳/怪盗】

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■         ライター通信          ■
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工藤勇太様へ。

こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第9夜に参加して下さり、ありがとうございます。
お見事でございました。その一言に尽きます。これで三波の問題は解決できそうです。お付き合い下さり、本当にありがとうございます。

第10夜も公開中です。
一応物語終了条件は揃っているのですが、エンディングシナリオが出るか、継続として第11夜が出るかはまだ分かりません。
よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。