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■限界勝負inドリーム■

ピコかめ
【8636】【フェイト・−】【IO2エージェント】
 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。
限界勝負inドリーム



 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。


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 この夢には見覚えがある。
 学生時代に何度か見た事のある夢だ。
 懐かしさすら覚えるその光景に、フェイトはこの後起こるであろう事象に気を張る。
 このアリーナでは、何の脈絡もなく戦闘が始まる。それを知っているのだ。
 だとすればどこかに敵がいるはず。
 そう思ってフェイトが首をめぐらせると、そこに人影が。
「……ははっ、マジかよ」
 無意識の内に声が漏れてしまった。
 目の前にいる人間には、見覚えがある。
 フェイト――いや、工藤勇太の恩人でもあるのだ。忘れるわけもない。
「まさか、こんな風に対峙するとはね」
「……これは訓練じゃねぇぞ?」
 フェイトの目の前に立ちふさがる人物が、タバコの煙を吐き出し、そう言う。
 ロングコート、サングラス、スーツ。
 フェイトと敵、二人の出で立ちはとても似通っていた。
「やるからには本気だ。わかってるな?」
 男はサングラスの奥からでもわかる眼光で、フェイトを射抜く。
 フェイトは自分のサングラスを取り、コートの内ポケットに入れた。
「わかってるよ。アンタ相手に手を抜けるわけもない」
「だったら、かまわん」
 男はタバコを吐き捨てる。
 煙がタバコの落ちる軌跡を描き、地面にぶつかった瞬間に、チラリと火の粉を舞った。

 次の瞬間には、アリーナの風景が一変していた。
 世界が再構築され、フェイトの四方を壁が囲む。
 気がつくと、そこはビルの一室となっていた。
 立方体の部屋に出口が一つ。家具やインテリアなどは一切置かれていない。
「夢だからって何でもアリかよ……」
 多少、面は食らったが、すぐに冷静さを取り戻す。
 まずは自分の装備の確認。
 手持ちの武器は.44のマグナムが二丁。実弾は装填済み。あわせて十二発。
 それに予備の弾がリローダー二つ分、十二発。装填済みの弾丸とあわせて、合計で二十四発。
「こりゃ派手な弾幕を張るのは無理だなぁ」
 その他にはナイフが一本。あとは武器と呼べそうなものはない。
 次に防具。スーツの下には防具は一切ない。着ているコートもIO2から支給されたものではない。
 恐らく相手も銃を持っているだろうし、普通のスーツやコートでは銃弾を防ぐ事はできまい。
 つまり、相手の銃弾を避け、こちらの銃弾をぶち込む。
「なんだ、いつも通りじゃないか」
 フェイトは口元を上げつつ、部屋の出口へと近寄った。

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 不思議な事に、このビルの間取りは頭に入っている。
 このフロアは全六部屋。東西の壁際に三部屋ずつ並び、その部屋を行き来できるように配置された廊下、そして中央にはエレベーターシャフト。
 廊下は正方形を描くように伸びている。一片は二十メートル弱ほどだろうか。北側と南側はエレベーターホールも兼ねており、乗降口はそこにある。
 今はエレベーターは動かない、などという付随情報まで頭に植え付けられているのだから、お膳立ては十分と言った所か。
 かいつまんだ話、このフロアだけであの男と戦う事。それがルールだ。
 敵の位置は、テレパシーを使えば簡単に把握できるし、新たに習得した超能力を使えば、簡単に状況を支配する事は可能だろう。
「でも、それじゃあフェアじゃない。俺は、あの人にガチで勝ちたいんだ」
 ピリピリとする緊張感の中に身を置きつつ、フェイトは普段ならばありえない状況に高揚していた。
 あの男と戦える機会など、そうそう巡ってこない。ならばこの状況を最大限楽しんだ方が得ではないか。
 フェイトは耳を澄まし、部屋の外に誰もいないか確認した後、ドアの隙間から廊下を覗く。
 左右に伸びる廊下には人影は見当たらない。
 相手もこちらを探っているはず。下手に物音を立てて位置を把握されるのは下策だ。
 とりあえず、息を殺し、足音を殺しながら、フェイトは廊下へ出た。

 フェイトがいたのは、東側にある三部屋のうち、中央の部屋だったらしい。
 両脇の部屋からは物音がせず、人の気配もない。
 敵は恐らく、西側にいるのだろう。
 距離は十分にある。それならば策を巡らせるだけの余裕もある。
 昔からあの男のすぐ近くで生活していたのだ。相手の行動予測ぐらい出来る。
「あの人……草間さんなら、どう動く……? こんな状況で、どうするのがベストだと判断する……!?」
 意識を敵にトレースする。
 これは超能力ではない。これまで培った経験と記憶に基づいた予測。
 まず、こんな状況からのスタートならば、相手の情報を収集する事を優先するだろう。
 相手の位置を知るだけでも十分に状況を好転させられる。
 ならば、敵もフェイトの位置を探るはず。
 しかし、索敵の途中で相手と鉢合わせになるのは避けたがるはずだ。
 確実な勝利を得たいのならば、出来るだけ自分に有利な状況を作り出し、そこに敵を追い込んでから攻めにはいるはず。
 それが出来ていない状況での鉢合わせは、出来るだけ避けたい。
 そんな時に出来る事といえば、相手が近づいてくるのを待つか、それとも相手に気付かれないように近づくか。
「草間さんなら、消極的な方法は取らない……動くはず」
 相手の行動に当たりをつける。
 完全な勘ではあるが、ほぼ予測どおりで間違いないだろう。それだけの自負がある。付き合いの長さが裏づけだ。
 相手の行動は大筋、読めた。ならばここからどう動くか、だ。
 もしかしたら敵は既に行動を始めているかもしれない。フェイトもぼやぼやしていられない。
 相手の策が読めたのなら、こちらの取るべき行動は一つ。相手の策を潰す事。
 索敵を目的に動いているのだとしたら、こちらは見つからないように行動すれば良い。
 とすれば、物音を立てずに移動するのが良いだろう。廊下のど真ん中にいてはすぐに見つかるし、部屋の中では逃げ場がない。
 装備が心許ないので、篭城もありえない。
 今は左右どちらかの廊下を移動するのが最善策のはず。
 そして出来る事ならば、相手に見つからずに背後を取れると良い。そうすれば相手を仕留める好機となる。
 左右どちらかの二択で、その好機を得られるかどうかが決まる。
 だが、これも予想は立てられる。
 敵は右利きだったはず。だとすれば反時計回りに移動するはずだ。
 何故ならば、右手で銃を構える場合、そちらの方が壁に隠れつつ射撃がしやすいからである。
「だったら、俺のやることは決まってる」
 行動方針は、敵の背後を取る事。つまり、フェイトも反時計回りに進む。
 行き止まりのない廊下でそんな事をすれば、延々と追いかけっこをするハメにもなりかねないが、その時はその時だ。
 まずは行動あるのみ。
 そう思って右手に伸びる廊下を歩き出す。

 一つ目の角にやって来た時の事だ。
 とりあえず、壁に隠れて通路の奥を覗く。
 北側と南側の通路は、エレベーターホールになっている。
 ビルの内側にある壁にはエレベーターのドアがあり、逆の壁には6の文字が貼り付けられている。
「地上六階、って事か」
 部屋にも廊下にも窓がなかったので確認できなかったが、どうやらここは六階らしい。
 これはどうにか壁をぶち破って建物の外へ逃げ出すと言う選択肢もなさそうだ。
 とりあえず、他に目を向ける。
 通路には他にモノがない。観葉植物の一つでも置いていそうな雰囲気の建物なのに装飾がなく、殺風景なのはいかがなものか。
「戦場としてはそれで十分って事か」
 人影はない事を確認し、フェイトは通路に入る。
 モノがないと言う事は隠れる場所、敵の弾を防ぐ場所がないという事。
 一直線の通路にいては、格好の的である。
 出来るだけ物音を立てないように、素早く走り抜ける。
 フェイトが廊下の中間くらいまで来た時だ。
「……うっ!?」
 向こうの廊下の角から、人の手が現れた。
 その手には銃が握られ、銃口はこちらを向いている。

 一瞬にして血の気が引く。
 視野が狭まり、心臓が痛いくらい高鳴る。
 世界がネガ反転したように、色がおかしくなったように錯覚した。

 こちらの動きが読まれていた。
 策を潰すつもりが、さらにその裏をかかれた。
 何故気付かなかった、と喉を鳴らす。
 こちらが相手の思考を読めるなら、向こうだってこっちの思考を読んでくる可能性だったあった。
 ……いや、反省は後だ。まずは対応。
 ここを誤れば、最悪死ぬ。集中しろ。

 乱れかけた呼吸を一瞬で引き戻し、慌てかけた精神を落ち着ける。
 刹那の時間の中で、精神をコントロールする術は既に身につけてある。
 落ち着けば対応できない問題じゃないはず。

 視野を広げろ。
 呼吸を落ち着けろ。
 集中して活路を見出せ。

 動転しかけた世界に、色が戻る。
 フェイトはすぐさま対応に移る。
 敵の姿が見えているのは手だけ。にも拘らず、その照準は確かにフェイトにピッタリと合っている。
 周りに遮蔽物はなし。隠れられそうな場所は後方数メートルにある曲がり角。そこにたどり着くよりも早く、敵の引き金が引かれてしまうだろう。
 ならば……っ!
 フェイトはエレベーターのドア側にある壁に跳ぶ。
 それとほぼ同時に敵の銃が吠えた。
 銃弾が飛び、今までフェイトのいた場所を音速で走った。
 間違いない、敵の顔は見えないが、こちらの位置は把握されている。
 フェイトはすぐに辺りを窺い、その仕掛けを探す。
 廊下の隅にチラリと光るものを発見する。
「鏡か……ッ!」
 廊下の壁に立てかけられるように小さな鏡がセットされていた。
 フェイトはすぐにそれを打ち抜く。.44が火を噴き、鏡は粉々に割れた。
「これでこっちの位置を把握するのは難しくなったろ!?」
「ちっ、目ざといヤツめ」
 フェイトは廊下の奥に向けて銃を構えつつ、エレベーター側の壁に寄り添う。
 この位置ならば、敵は攻撃しづらいはず。
 相手は壁に隠れながら、右手で銃を構えて射撃している。それはかなり無理な体勢だ。
 射撃可能な角度は限られている。その点、今、フェイトがいる場所は完全に死角になっている。
 つまり、こちらからも攻撃は出来ないが、相手からも攻撃は受けない。
 落ち着いて息を吐きつつ、廊下の向こうに声をかける。
「チラッと見た感じ、そっちはオートマの銃みたいで?」
「ああ、愛用のリボルバーでないのが残念だ」
 相手の発言を鵜呑みにするのは危険だ。
 フェイトだってマグナムを二丁持っているのだ。相手だって二丁持っていても不思議ではない。
 今のオートマの拳銃はサブウェポンだと言う事も考えられる。
「お前の持っているのは……音からするにマグナムか?」
「さて、どうかな」
「弾痕を見ると大口径……ロマン溢れる.44ってところか。良いチョイスだ」
「そりゃどうも」
 鏡を撃った時の弾痕が壁に残っている。そこから推察されたか。
 その観察力はさすがとしか言い様がない。
 さて、雑談はともかく、これからどうしたものか。
 策においてこちらの上を行かれた動揺はもうない。落ち着いて考えを巡らせられる。
 こちらから距離を詰めるか? いや、相手も気を張っている。不用意に近づけば迎撃される。
 ならば一度退くか? 物音を立てれば、背中を撃たれる危険性がある。
 だが現実的に考えれば、後退するのが良いだろうか。敵のいる方を警戒しつつ、最悪でも曲がり角までは後退したい。
 ……だとしたら相手に声をかけるのは失敗だったかもしれない。
 フェイトもよく知る敵ならば、声を聞いてこちらの位置を大体把握してくるはず。距離も測っているはずだ。
 今後、相手の言葉に返事をしなかったとしても、それはそれで怪しまれる。
「何から何まで、草間さんの掌の上ってか。気に食わないね」
 五年前に比べて、格段に成長した自信はあった。
 だが、未だにあの人には敵わないと言うのか?
 ……いや、そうじゃない。まだ気概が足りない。
 まだどこかで甘えている。あの人を超えるための気持ちを高めろ。
 相手の思考の上を行け。今の自分になら出来る。
 フェイトは再び、視線をめぐらせる。
 相手は何を考えている。
 この十メートルちょっとの距離を、どう活かす?

 フェイトが考えている間に、敵が先に動く。
 足音が聞こえた。それにドアの音も聞こえる。どうやら部屋の中へ逃げるらしい。
 ここで逃がすのは得策ではない。放っておけば何をされるかわかったものではない。
 すぐに追いかけるべく、フェイトも駆け出す。
 十メートルの距離を詰めるのはすぐだった。
 角を曲がると、長い廊下が目に入る。敵の姿は当然見当たらない。恐らく、手近な部屋に入ったのだろう。
 いや、それよりも……
 目の前に転がる、銀の筒。その形状がまたも、フェイトの背筋を凍らせる。
 それは手榴弾。
 既にピンが抜かれ、レバーも外れている。
「やばっ……!」
 完全に気を抜いていた。
 次の瞬間に、手榴弾は轟音を上げて爆ぜる。
 眩い閃光が辺りを埋め、甲高い音がフェイトの耳を侵蝕する。
 フラッシュバンである。
 それによって視界と聴覚を奪われたフェイトは、一気に劣勢へと追いやられる。
 周りの状況が全く読めない今、敵に接近されても感知する事が出来ない。
 敵が近くの部屋に隠れているのだとしたら、完全なピンチである。
「仕方……ないっ!」
 意識を集中させ、テレパシーの波を当たり一帯に広げる。
 それが視覚と聴覚の代わりを果たし、周りの様子をフェイトに教えてくれる。
 流石に壁の位置や距離などはわからないが、敵の位置は把握できた。
 ドアを開けるところだ。まずは後退して壁に身を隠して……
「いや、ダメだ。それじゃあ相手の思う壺だ」
 退く足を何とか止め、銃を構える。
 フラッシュバンの効果が切れるまで数秒。その時間を耐えてみせる。
 敵は恐らく、フラッシュバンを仕掛け、こちらがその罠にまんまと引っかかる所まで計算しているはず。
 当然、その後の行動まで幾つか候補を考えているはずだ。
 だとしたら、こちらも相手の読みの上を行くなら、ある程度の危険を冒さなければならない。
 相手が予測していない行動、いや最悪でも確率が低いと見積もっている行動を取り、相手の動揺を誘う。
 予測していない、確率が低いと見積もると言う事は、それは現実的ではないということ。
 そんな行動には当然、危険がついて回る。
 視覚、聴覚共に封じられた状況で敵を迎撃するなんて、うってつけの行動だろう。
 フェイトは敵がドアから出てくるタイミングを見計らって、そちらに銃を向け、引き金を引く。
 耳鳴りのするフェイトの耳には何も聞こえなかったが、轟音を上げて銃弾が放たれる。
 敵はその行動にどう思っただろうか? 少なくとも虚は突かれたはずだ。
 相手の予測するフェイトの行動は後退、もしくはフラッシュバンの効果で立ち往生と言った所だろう。
 ならば、フェイトがこれから距離を詰めようだなんて、考えもよらなかっただろう。
 視界は大分ハッキリしてきた。
 目の前には床を転がり、銃弾を回避していた敵。既にこちらに銃口を向けている。
 フェイトは姿勢を低くし、顔を左手でガードしつつ、右手ではマグナムを構える。
 二人の射線が交差する。
 刹那、銃声。
 両者共に相手の銃弾を避けようと、身を捻る。
 銃弾はフェイトのわき腹、敵の左肩を掠め、壁や床に穴を開けた。
 致命傷ではない。それを理解するや否や、次の行動に移る。
 敵は未だに立ち上がってはいない。その点、フェイトが有利である。
 横に走りこみながら、もう二発、敵に向けて銃を撃つ。
 敵は回避をする事が出来ず、左手で銃弾を防御した。
 至近距離でマグナム弾を受けた左手は、かなりの損傷であろう。恐らく、敵の左手は使い物になるまい。
 しかし、フェイトの持っているマグナムにはあと一発しか銃弾が残っていない。
 あと一発で仕留めるか、もしくはもう一丁のマグナムを取り出すか。
 一瞬の判断の遅れが、敵の行動を許してしまう。
 フェイトは敵の横を通り過ぎつつ、相手の背後を取ったが、相手はフェイトが銃口を向けるより先にドアが開きっぱなしだった部屋へと転がり込んだ。
 相手の逃げの姿勢を見て、仕留められる、と確信した。
 フラッシュバンの効果はほとんどなくなった。行動に支障はない。
 フェイトは二つ目のマグナムを取り出しつつ、追撃に移る。
 ドアに近づくと、部屋の中から迎撃を受けた。
 銃弾が三発ほど、廊下に向かって発射された。
 威嚇射撃だろう。狙いも何もなかった。足音に反応して発砲しただけに過ぎまい。
 追い詰めている。そう実感した。
 ここで追撃の手を緩めてはいけない。あと一手で詰みの状況で躊躇していれば、相手に状況を立て直す隙を与えてしまう。
 例えば、もし敵がもう一個、フラッシュバンを持っていたりしたら、廊下に放り込まれた瞬間にまたフェイトが慌てる番だ。
 ならばそれを回避するためにも、ここは行動しかない。
 意を決し、部屋へと踏み込むフェイト。
 ドアの正面には敵影なし。
 ならば敵はドアの左右、どちらかの壁際に姿を隠してるはず。
 敵はこちらが右利きである事を見越して、右手側に姿を隠している……と山を張る。
 右側に陣取られれば、構える腕によって多少なりと視界がふさがれる。その隙を狙って、敵は待ち伏せを仕掛けているはず。
 ……いや。
「こっちだッ!」
 部屋に押し入る寸前に、狙いを左手側に向ける。
 そこには敵の姿が。
 ここまで何度もフェイトの思考の上を行った敵。ならば今回もフェイトの思考の上を行くはず。そうやって裏の裏をかいた結果、それがドンピシャだった。
 自分に向かって銃を構えるフェイトに、敵は何を思っただろうか?
 再び交錯する二人の射線。そして、ほぼ同時の発砲音。

***********************************

 勝てはした。
 目を覚ましたフェイトは、夢の終盤を思い出す。
 確かに、フェイトの銃弾は敵を撃ち抜いた。敵の銃弾はフェイトの致命傷には至らず、フェイトは最後まで戦場に立っていた。
 だが、まだまだ地力では到底敵わないと実感する。
「あの人、能力者でもないのに、なんて戦闘力だよ、マジで」
 フラッシュバンを食らった時、テレパシーがなければやられていた。
 フェイトは敵の術中にはまりっぱなしだった。
「まだまだ、精進しなきゃな」
 朝日に照らされる町を見ながら、そんな風に零した。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8636 / フェイト・− (フェイト・ー) / 男性 / 22歳 / IO2エージェント】




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■         ライター通信          ■
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 フェイト様、ご依頼頂きありがとうございます! 『FPS脳!』ピコかめです。
 以前は肉弾戦が好きだった俺ですが、某FPSゲームをやってから銃撃戦も良いんじゃないかな、と思い始めました。

 今回は辛勝、と言う事で。
 怪我を負うわけではなく、相手に翻弄されて死地を何度も越えさせられると言うタイプの辛さでした。
 完璧な出藍の誉れを達成するにはもうちょっと時間が必要そう、ですかね?
 ではでは、また気が向きましたらどうぞ〜。